縁側に座る蓬萊に、以前胡蝶から渡された包帯やら何やらが入っている箱を差し出す。
胡座をかき右腕を前に出せば、蓬萊は恐る恐る包帯を取っていく。
滲んだ血が腕を赤く染めており、傷と共にそれを見た蓬萊は顔を顰める。
いつの間にか俺の手首にその手を添え、支えながら手当てをしている。
指が細く長いんだなと思った。
お互い無言のまま、静かだ。
俺の傷を見ている蓬萊の顔を見ている俺。
きっとこいつはそれには気付いていない。
「不死川さんの血は、鬼が酩酊状態になる稀血なんですよね?」
徐に口を開いたかと思えば、稀血の話しか。
「よく知ってんなァ。共同任務したことねェだろォ?」
蓬萊とはこれまで、一度も任務同じになったことはない。
下弦を二体倒したあの時が初対面だ。
自分の稀血はそれなりに有名になっているのか。
「何年か前に噂で聞いたんですよ。強いんだから、稀血を利用しなくても倒せるんじゃないですか?」
「うるせェ。それより来たんだから手合わせしろォ」
こいつにまで、匡近のようなことを言われるのはごめんだ。
蓬萊に木刀を渡し、構えた直後に打ち込んだ。
蓬萊は最初に手合わせした時、それはもう無様な呈を晒していた。
全く打ち返せず、自分が口を開く度に恐れおののき目に涙まで溜めていた。
あれには心底参った。
十二鬼月を二体倒した女が、木刀での手合わせをまともにできないなど有り得ない。
それでも二度目からはまともになったので、最初のあれは何だったのかと思う。
やけに低姿勢で自分を卑下し、おどおどと情けない姿だった。
そんなに自信がないなら、鬼殺隊をやめてしまえとまで思った。
下弦を二体同時に倒す力があるのは確かなのに、なぜだか手合わせすると弱い。
本来の力を出せていないのかなんなのか、それとも……
打ち返しては来るが、こいつの力はこんなものではないはずだ。
そう思った矢先、空気が変わる。
一旦攻撃を弾き、後方へ飛んだ蓬萊は技を撃つ。
木刀を、上から下に左右に何度も振り上げる。
土の粒子を纏った斬撃が幾筋も舞う。
視界は舞い上がる土煙により遮られた。
なるほど、風の呼吸に似ている技だ。
─風の呼吸 肆ノ型
俺は地上から空中に向けて、舞い上がる砂塵のような斬撃を連続で繰り出した。
蓬萊の技より、風圧も斬撃の威力も範囲も全て上回る。
するとまたもや技を撃った。
だが跳び上がり上半身を大きく捻った瞬間、蓬萊の顔が歪む。
腰、いや背中を痛めている?
それでも受け身は取ると思っていた。
しかしそのまま自分の背後に盛大に転がった。
「!」
どうした?
「すいません!」
「脇か背中、痛めてんだろォ?」
指摘すれば、みるみるあの情けない顔に変化する。
手合わせでそんな顔を二度もされるとは思わなかった。
一気に興を削がれた。
「情けねェ顔してんじゃねェ。茶ァ持ってくるから縁側で待ってろォ」
俯く蓬萊を横目で見ながら玄関へ入った。