※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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※前ページの実弥視点


握り飯

運んだ茶を一口飲んだ後、蓬萊はこちらを窺う。

 

「この前は佳成のこと、ありがとうございました。あの子はどうでしたか?」

 

「あァ…あいつは太刀筋と威力は悪くねェが、動きに隙が多すぎる。型は全部使えんのかァ?」

 

蓬萊の継子・館坂は、その恵まれた体躯と鍛錬の賜物なのだろう。

太刀筋も良く威力も申し分ない。

だが全体的な動きが遅く、そこかしこに隙ができている。

当然それは師であるこいつは百も承知のはずだ。

 

「はい。玖ノ型までは全部。やっぱり不死川さんに稽古をつけて貰えてよかったです。めちゃくちゃ厳しいけれど、すごく強いから説得力ありますしね」

 

微笑んだ蓬萊の顔に、思わず息を呑む。

きっとこいつは気付いていない。

無意識なのか?

 

「…そーかよォ。そういやおめェ、自分の嫌いな物を俺に寄こしたらしいじゃねェかァ。あのおはぎは嫌がらせかァ?」

 

忘れもしない。

館坂から土産だか礼だか渡されたあのおはぎを…!

自分の嫌いな物を寄こすなど、どういう了見だ。

 

「違いますよ!不死川さんおはぎ好きなんじゃないかと…夢!そう夢でみたんです。不死川さんがおはぎを美味しそうに食べるところを!」

 

「てめェ!おかしな夢みてんじゃねェ!」

 

よりによってこいつの夢で、俺がおはぎを美味そうに食ってるだと!?

なんて夢みやがる!

 

「き、嫌いでした?」

 

控えめに聞いてくるあたりが何とも言えなくなる。

実は好物だと、口が裂けても言えない。

こいつの嫌いな物が好物など…絶対に言えるか。

 

「…いや、食うけどよォ。あれはおめェが作ったのかァ?」

 

「いえ。私は握り飯と鰤大根くらいしかまともに作れなくてですね……佳成の恋人に頼みました」

 

僅かばかり期待したが、やはり嫌いな物を作るわけがなかった。

 

「…なら見廻りに持ってくから握り飯作れェ」

 

言ってから後悔する。

 

蓬萊に炊事をさせようなど、微塵も思っていない。 

仮にも同じ柱だ。

手合わせをして充分のはず。

なぜ握り飯を作れなどと言ってしまったのか。

 

これが仮に胡蝶しのぶならば、笑顔で一蹴される。

蓬萊はきっと断らないと、まるで決め付けている。

まずいと思い出た言葉は、更にまずかった。

 

「…飯作んのは面倒くさくならねェかァ?」

 

だから何だ、なぜ私が?

そう返されれば終わりだった。

拒否されると思ったが、蓬萊は大きく頷く。

 

「それは分かります。任務前と任務明けは特にご飯作りはしたくないですよね。私も上げ膳据え膳で食べたいって思いますよ。分かりました、作ります」

 

こちらが拍子抜けする程しみじみ言われ、悪いことをしているように感じられた。

 

 

 

 

◇

釜の飯を覗き込む蓬萊の姿を、廊下の段差に腰掛け眺める。

 

蓬萊はまず、七輪に炭を入れ火を起こした。

その後は、釜の飯を慣れた手つきで握っていく。

中にはおそらく梅干しを半分だろうか、ちぎって入れている。

できた握り飯は全部で六つあり、それを七輪に網を乗せその上に並べ焼いていく。

くるくると器用に返し皿に取る。

焼いた後は醤油やら何やよく分からないが、火にかけ即おろし握り飯を転がす。

ある程度冷ましたあと、竹皮に三個ずつ包んだ。

 

焼いた握り飯ってのはこうやって作るのか。

 

握り飯と鰤大根しかまともに作れないらしいが、手際がいいのでこれは本当にかなりの頻度で作っているのだろう。

俺は生まれてこの方、焼いた握り飯は食べたことがない。

ひたすらに握り飯を作るのを見ていると、蓬萊は手を止め顔をこちらに向けた。

 

「…あ、あの、不死川さん。その…今更ですが、いつぞやは藤の家まで運んでくれてありがとうございました」

 

蓬萊はそう言い頭を下げる。

藤の家に運んだというのは、まさかあの初めて会った時のことか。

懐かしく感じた。

蓬萊と出会ってから一年近くになるのか。

今更礼を言われるなど思わなかった。

随分と義理堅い奴だ。

 

「…当然のことをしたまでだァ。お前は意識なかったし、礼を言われるまでもねェ」

 

「だけど重かったでしょう?お礼が遅くなりましたが、感謝しています」

 

口端を持ち上げて俺を見つめる蓬萊の目は、揺らいでいた。

面と向かって感謝されると、柄にもなく照れてしまう。

蓬萊を直視できず、視線を彷徨わせる。

 

そこで俺も、野菜の礼をしていなかったことを思い出した。

 

「…野菜美味かった」

 

「え?あ、はあ、それはよかったです」

 

蓬萊は、なぜ今?と思ったのか反応がどもる。

 

「不死川さんも自分で詰めればよかったのに。冨岡さんなんて大根ばかり詰めていたんですよ。後で聞いたら鮭大根を作ったみたいで、余程好きなんですね」

 

いけ好かない冨岡の好物の話しなど、心底どうでもいい。

しかも少しばかり楽しそうな口調なのに苛立つ。

 

「奴の話は聞きたくねェ。それより一つ寄こせェ、食う」

 

先程から漂う香ばしさに負けた。

 

包んだばかりの竹皮の紐を外し"はいどうぞ"と差し出され、左手で掴み口に入れ咀嚼する。

 

…うまい。

かなり美味い。

 

醤油の香ばしさは元より、握り飯すべてに染み込んでおらず、中の梅干しがまたいい。

白飯部分と染み込んだ部分と梅干しが調和し、何とも言えぬ食欲を増進させる味になっていた。

 

美味すぎて夢中で食べてしまう。

 

「じっとしていて下さいよ」

 

その声に、咀嚼していた握り飯を飲み込む。

気付けば目の前に蓬萊の顔があった。

そっと手が近付き、口の横に付いていたらしい飯粒を取った。

 

「ほらここ、付いてまし…」

 

至近距離で目が合う。

 

見開かれたくっきりとした瞳。

それを縁取る睫毛、左頰を真横にはしる大きな傷跡。

筋の通った鼻、柔らかそうな幾分か小さな形のいい唇。

 

しばし互いに動きが止まっていたが、蓬萊の瞳が揺れじわりと涙が滲んだ。

 

「……、ごめんなさい!」

 

蓬萊は慌てて離れると、俺に背中を向けた。

 

どうした…?

 

「何詫びてんだァ。…おい」

 

右腕を掴みこちらを向かせる。

 

「お、お握り忘れずに持っていって下さいね!じゃあ私はこれで、ではまた!」

 

そう言い掴んだ腕を振り解き、蓬萊は足早に勝手口から出て行ってしまう。

 

まだ握り飯の礼もしていない。

美味いと伝えていないのに、なぜ逃げるようにいなくなる?

  

なぜ泣く?

 

 

『蓬萊の作った握り飯が食いたい』

 

 

そう素直に言えない自分を棚に上げ、答えのない問を投げかけた。

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