※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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偽装夫婦で潜入作戦

「わー!さすが温泉街だね」

 

「本当ですね。湯煙があちこちから…」

 

二人は降り立った駅から歩くと、あちこちから湯気が立ち昇るのが見える。

道の左右には旅館と土産屋の旗や看板が立ち並び、客で賑わいを見せている。

 

目的地の宿は、界隈で一番大きい旅館だった。

二人はすぐに宿へ入り、三日間滞在することを伝えると部屋へ案内される。

 

仲居が言うには、露天風呂の場所に合わせて各部屋を作ったとのことだ。

二人が案内されたのは、受付からかなり歩いた場所だった。

新婚がよく泊まるので、部屋は必ず離れと決まっているらしい。

艶めいた声が他の客に聞こえないようにとの配慮だ。

 

当たり前だが一部屋なので、着替えや睡眠は交代でとることにした。

 

斗和と佳成は、早速この宿を中心に温泉街を見廻る。

 

「二人で見廻ると効率が悪いよね?別々で聞き込みしたいな」

 

「そうしたいのは山々ですけど、新婚夫婦の設定なんだから怪しまれますよ。今日の夜に喧嘩したことにすれば、明日からは別々でも違和感は無いんじゃないですか?」

 

「なるほどね。じゃあ、今晩鬼が現れなければそうしよう」

 

斗和は頷き、二人は順番に土産屋に入って行く。

 

 

 

 

何軒目かの土産屋で、ちりめん細工の簪があり、その前で佳成がじっくりと見繕っていた。

斗和が小声で夏世への土産?と聞けば、照れくさそうに頷く。

ならば自分も何かと思い、斗和は色違いの揃いの手鏡を買うことした。

温泉饅頭は帰りにと決め、次々土産屋に入って行く。

 

店員から話しを聞いていると、有力な情報が得られた。

一週間と少し前も、斗和と佳成のような新婚夫婦が来て色々聞いてきたそうだ。

件(くだん)の隊士二人のことである。

 

「あら、あそこにお泊りで?ええ、あそこはね…」

 

泊まっている宿について聞けば、離れがいくつもある界隈で一番広い宿だと言う。

とにかく大小の露天風呂が数多くあり、それが名物で地方からも客がひっきりなしに来ると。

ここまでは、仲居が言っていたことと同じである。

 

「あそこは大きい宿だから、客も従業員も多いのよね。客はあなた達のように何日か滞在する人が多いわよ。きっと心置きなく熱い夜を過ごすのね…!」

 

中年の女性店員は、斗和と佳成を見てニヤニヤ笑う。

 

「ああ…でも半年くらい前から不思議なことが起きてるの」

 

店員は笑うのを止め、深刻そうに眉を顰める。

 

「不思議なこと、ですか?」

 

「うちの店、他と違って白あんの温泉饅頭でしょ?結構人気なのよ。あなたのように、帰りにまた買いに寄るって言う人がいるんだけどね…終ぞ寄らないままの客もいるのよ」

 

斗和と佳成は顔を見合わせ、目配せした。

 

「買うのを忘れて帰ったんじゃないですか?別のところで買ってしまったとか…」

 

佳成がそう言うと、店員は腑に落ちない表情だ。

 

「だけど、必ず寄るから取っておいてくれって予約までしたのによ?一度や二度なら忘れたのかって思うけど、五、六…いやもっとね。白あんのはうちでしか取り扱ってないの。珍しいから絶対土産にするって。なのに来ないんだもの」

 

おかしいわねとため息を吐いた店員は、二人は本当に買うのかと念押ししてきた。

 

「私達は必ず買いますから安心して下さい!」

 

斗和は店員の手を握り何度も頷く。

 

暗くなってきたので宿に戻り、二人は浴衣に着替え情報を纏める。

 

「やっぱり、白あん饅頭の店の話しが有力だね。いくら何でも、予約までしていて寄らないなんてあり得ない」

 

斗和は茶を一口飲み、おかきを食べた。

 

「そうですね。忘れたか寄るのをやめたにしても、半年で何度もなんて確実におかしいですからね。やはり鬼が潜んでいるのは決まりです」

 

同じく茶を啜る佳成は、室内を見回し思案した。

会話がなければ静寂が支配する空間だ。

 

「それにしてもここ…叫んでも気付かれないですよね?受付からかなり歩きましたから。他の部屋はどうなんでしょう?」

 

「確かにこれだけ離れてると、襲われても他の客や従業員には気付かれない。離れが多いらしいし、他の部屋も同じだと思う。朝にいなくなったことに気付いても、いつの間にか帰っていたってことで片付けられちゃうよね」

 

この宿は、露天風呂に合わせた部屋がいくつもある。

言わば離れが点在しているのだ。

それらを把握し、尚且自由に行き来できるのは従業員だ。

基本的に客は、宛てがわれた部屋以外に行こうとはまずしない。

 

「それができるのは従業員、つまり女将や仲居が鬼ってことで決まりですか?」

 

「おそらく…その可能性が高い。鬼はきっと自由に動ける仲居に化けているんだと思う。だけど一帯が硫黄の香りが充満してるから、鬼の匂いに気付き難くなってるんだよね」

 

斗和は、部屋にもほんのり漂う硫黄の香りに眉を潜めた。

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