※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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想いと巣立ち

二人は再び駅に降り立つと、藤の家で待機させていた夏世に連絡する。

佳成の鎹鴉は、主と似て真面目で従順である。

一言二言で理解し、飛び立った。

それを見た斗和は、己の鴉・令和と比べてしまう。

 

「佳成の鴉ってすごくいい子だよね。ちゃんと返事するし、話し掛けてもすぐ答えるし…」

 

不満気に口を尖らせる斗和に、佳成は苦笑いするしかない。

鴉・令和は、全くと言っていい程喋らないのだ。

基本的に返事もせず、斗和は張り合いのなさを感じていた。

今更仕方がないなと思うものの、本音は寂しさも感じている。

 

 

 

 

何日かかるか分からないと言ってあった任務だが、僅か一晩で終わった。

あまり日数が経てば夏世も不安でならないだろう。

一刻も早く任務を終わらせたかった。

なので僅か一日で帰宅できたことに、斗和は安堵したのだった。

 

先に屋敷に着いていた夏世に、土産の揃いの手鏡と温泉饅頭を渡す。

佳成と二人で町に遊びに行った後、泊まって行けと告げる。

 

驚き、嬉しそうに顔をほころばせる夏世と佳成を眺め、斗和は自らも笑顔になるのだった。

 

幸せを全面に出しお互いを想い合う二人を見て、斗和は佳成に言われたことを思い出す。

 

炎柱が好きなら、気持ちを伝えないのかと問われた。

 

(煉獄さんに気持ちを…?)

 

斗和には目的があり、杏寿郎を助ける為にやらなくてはならないことがある。

杏寿郎はとても強く、尊敬できる素晴らしい人だと思っている。

斗和は、杏寿郎に生きて欲しい一心だった。

ずっと笑っていてくれれば、それだけで充分である。

 

 

 

 

──────

─────

それから数日後。

 

鴉の令和が告げた言葉に、斗和は天を仰ぎ見る。

 

佳成は乙から甲に昇格した。

ついに来たるべき日が来たのだ。

斗和は複雑な想いを抱え、任務上がりの佳成に声を掛ける。

 

「仮眠を取ったら道場に来て。手合わせするから」

 

「はい!」

 

数刻後。

 

激しい打ち合いをしながら、斗和は二年前を思い出していた。

佳成は行冥の継子にも関わらず、岩の呼吸が壱ノ型しか使えず藻掻いていた。

岩の呼吸の派生である土の呼吸を伝授して貰う為、斗和を訪ねて来た。

悩み藻掻き抜け出し、あっという間に甲まで上がってきた。

技の威力も越し、本当に強くなった。

 

(次で終わりだ…!)

 

 

─土の呼吸 参ノ型 土竜叩(もぐらたたき)

 

 

─土の呼吸 参ノ型 土竜叩

 

 

同じ技がぶつかり合う。

佳成の放った土竜叩の威力は木刀を破壊し、斗和の腕を叩き後方に吹っ飛ばした。

 

斗和は一回転し受け身を取ると、折れた木刀を見つめその場に正座する。

 

「どうもありがとうございました」

 

手を着き頭を下げた後、斗和は戸惑っている佳成を見据えた。

 

「師範…」

 

歩み寄り同じく正座した佳成は、背筋をまっすぐ伸ばした。

 

「佳成。あなたはこの前の任務で、私の撃った土嚢城壁(どのうじょうへき)を突き破り、土石流で鬼の頸を斬ったでしょう?佳成の技の威力は、既に私を上回っています。…これ以上私が教えることはありません。後は自らで鍛錬し、更なる向上を目指して下さい」

 

斗和は普段遣わない敬語で、噛み締めるように言葉を発した。

 

「師範!俺はまだまだ足りません!もっと師範から学びたいです!」

 

突然のことに、佳成は嫌だと訴える。

 

「甘えるな!もう教えることはない。自分を信じて先に進みなさい」

 

「!」

 

斗和の強い口調は、何よりも真剣であることを示している。

佳成とて、いつかはこうなると分かっていた。

 

岩の派生であるが故、土の技は使用者の持つ力に左右される。

いくら斗和が男並に力があると言っても、それはあくまで一般人の男性と比べてだ。

鍛え上げられた鬼殺隊の男には敵わない。

ましてや元岩の呼吸の使い手である筋骨隆々の佳成は、大分前から斗和の威力を上回っていた。

技同士の真っ向勝負では、最早負けていたのだ。

それを、俊敏さと攻撃の繋ぎで斗和は躱していた。

 

それも甲に上がり、同等にまでなっていた。

間もなく斗和を完全に越し、次の土柱になることは確実である。

師を越えた弟子に教えることはもうない。

 

「鬼殺隊 甲 館坂佳成。あなたは今を持って土柱・蓬萊斗和の継子を卒業です。今後もご武運をお祈りします」

 

斗和は再び頭を下げると、佳成から視線を逸らし立ち上がる。

 

「…それから、今後について話しがあるから私の部屋に来て」

 

道場を後にした斗和は、下唇を噛み締め自室に向かった。

 

残された佳成は、木刀を見つめ奥歯を噛んだ。

これまでの様々な鍛錬が、走馬灯のように駆け巡る

岩柱の継子になったにも関わらず、岩の呼吸を壱ノ型しか撃てずに悩んでいた。

その時初めて見た土の呼吸。

噴煙と共に、広範囲の技が豪快に鬼の頸を見事に斬る。

率直に羨ましかった。

特殊形状の日輪刀を振り回す、野良着の女隊士。

控え目でありながら、目の当たりにした強さ。

 

岩の派生と聞き、閉ざされていた道が拓けたように思えた。

運命的な二度の共同任務。

蓬萊斗和の元で、新たな呼吸を会得しようと決心した。

叱咤激励し、根気強く指導した斗和。

感謝してもしきれない。

 

ずっと共に鍛錬し続けたい。

階級が上がれば終わることが分かっていても、佳成は今の状態でいたかった。

 

だがそれはできない。

巣立つ時が来た。

 

 

 

◇

「師範、失礼します」

 

襖を開け入って来た佳成に、斗和は用意していた茶を差し出す。

何を言われるのかと、佳成の瞳が不安気に揺れている。

 

「今後の住まいは、この近くに家を借りて暮らせばいいと思う。夏世ちゃんに鴉を付けるから、今後は鴉で連絡を取って会えばいいよ。夏世ちゃんには佳成から伝えてね…」

 

斗和は迷っていた。

本当はこんなことが言いたいのではない。

真に言いたいことは他にあるが、答えは分かりきっていた。

それでも言わずにはいられなかった。

 

「…佳成、鬼殺隊を辞めて遠くへ行ってちょうだい。夏世と所帯を持って幸せに暮らして。お願い…どうかお願い!」

 

それは斗和の切願だった。

佳成が夏世と恋仲になってから、ずっと思っていたことだ。

 

階級が上がれば上がる程、強い鬼と対峙する。

柱でさえ簡単に屠(ほふ)られる。

そんな中にいさせたくなかった。

守るべき大切な人がいるなら尚更、隊を辞めて欲しかった。

 

斗和にとって、初めてできた継子である。

優しく思いやりがある佳成には、幸せになって貰いたかったのだ。

 

「大切なの、佳成も夏世も!二人を守りたい、幸せになって欲しい。頼むからここを離れて、二度と戻って来ないで…!お願いっ…」

 

泣かずに言わなければと思うも、斗和は次から次へと涙が流れる。

 

「…師範の気持ちは分かりました。…夏世は俺が初めて好きになった人で、初めて守りたいと思った人です。夏世を心から愛しています。あの笑顔を守りたいから、俺は刀を振るっているんです」

 

そうはっきりと告げた佳成の顔は、二年前継子にしてくれと訪ねて来た時と全く同じだった。

斗和を見据える眼差しは更に強く、迷いは一切ない。

 

「明日にでも住む家を見つけて来ますね。二年間大変お世話になりました!これからも同じ鬼殺隊としてよろしくお願いします、蓬萊さん!」

 

「佳成…」

 

斗和は、差し出された大きな手を握ることができずにいた。

 

だが佳成が寂しそうな顔をした為、戸惑いながらもそっと握り返した。

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