それから三日後。
警備区域の見廻りを終えた斗和は、久方ぶりに共同鍛錬場に来ていた。
数年間足を運んでいなかったが、特に変化はなかった。
昨夜は助っ人で呼ばれ鬼を倒すと、その場にいた隊士二人から稽古をつけてくれと言われたのだ。
実は斗和は、柱になってから何度か頼まれていた。
しかし佳成の稽古と己の鍛錬で余裕がなく、全て断っていた。
今回は佳成も巣立ち、余裕も出来たので引き受けたのだ。
彼等は仮眠をとってから来るだろうが、斗和は見廻り後そのまま来たので寝ていない。
警備区域から家に戻る間に鍛錬場がある為、一度戻るのが億劫だったのだ。
斗和は二人が来るまで顔を洗い、茶でも飲もうと道場脇の炊事場へ向かう。
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「……さい、土柱様。起きて下さいってば…!蓬萊様!」
斗和は肩を叩かれ目を開ける。
「ん…」
「お休みのところすいませんが、ここ地べたですよ。寝るならご自宅に帰って下さい」
眠たそうな目の隠は、少々呆れたように告げる。
弾かれたように目を覚ました斗和は、自分が寝てしまったことに気付く。
茶を飲んだら眠くなり、壁にもたれかかったら寝てしまったのだ。
約束していた隊士達は、既に来ているのではなかろうか。
斗和は慌てて辺りを見回す。
「すみません!ご迷惑かけしました。隊士と稽古の約束をしていたんです。もう来ていたら…」
斗和は起き上がり、炊事場を出ようとした。
「道場も外も誰もいませんよ?掃除が終わってここに来たんですけど、誰も来ていません」
「そうなんですか!よかったぁ」
斗和は安堵し落ち着くと、この人どこかで…?と目の前の隠を見た。
「あ!あの時の!藤の家で…えっと、後藤さんですよね?その節は大変お世話になり、ありがとうございました」
それは下弦ノ弐と伍を倒した際に、目覚めるまで付き添っていた隠の後藤だった。
「いえいえ。あの時はなかなか目を覚まさないので、かなり冷や冷やしましたよ。でも本当によかったです。風柱様も心配されていましたよ」
「え、不死川さんが?」
「はい。蓬萊様が目覚めたら連絡しろと、だから俺は残っていたんです」
斗和は唖然とする。
あの実弥が自分を心配してくれていたなど、思いもしなかった。
初対面で挨拶すらしたことの無かった時にだ。
斗和は妙な気持ちになり、何と言っていいか分からなかった。
その時隊士が二人、戸口に顔を出す。
「いたいた!蓬萊さん、先に来ていたんですね」
「待たせましたか?すいません!稽古よろしくお願いします!」
後藤に、ではこれでと頭を下げると、先立って駆けて行く二人に斗和も続いた。
稽古中、実弥が心配していたという言葉が何度も頭をよぎり、斗和は身が入らなかった。
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佳成はこの日、共同任務だった。
後輩隊士と共に、大きな滝がある場所へ来ていた。
観光地にもなっており、辺りはそれなりに整備されている。
木々が生い茂り、夏場は滝から出る霧がひんやりとし気持ちがいい。
「ここで間違いないんですよね?」
「ああ。報告によるとそうなんだけど、鬼の気配がしない。俺は滝の裏側を廻るから、この辺りをもう一度見てくれ」
佳成はそう言い、草木が生い茂る脇道から裏へ回った。
滝の音が遠ざかる中、拓けた場所に出た。
そこだけ草木が無く、ぽっかりと穴が開いたような不思議な景色が広がる。
(何だ?ここ…)
一通り見るも、特に何もない。
一旦戻ろうとしたその時だ。
ゾッ──
背後に圧を感じ振り返る。
「!」
ドク、ドクと心臓が早鐘を打つ。
動くことができずにいると、それは徐々に全容を現す。
一見すると武士だが、人間ではない。
闇に光る六つ目が佳成を射抜き、それだけで気圧されてしまう。
(足が、動かない…!)
佳成はすぐに背中の特殊日輪刀に手を掛け、構えた。
碇(いかり)の形をしたその刀を見た武士───鬼は僅かに目を細める。
「その刀…僅かに似ている」
「…お前は刀を使うのか…?これ以上人間を食わせるわけにいかない!覚悟しろ…!」
佳成は鬼へと向かっていく。
鬼─黒死牟は珍しいと思った。
上弦ノ壱である自分を見て、怯えなかった者は初めてだった。
「気概のある若者だ…」
目の前に佳成が迫る中、黒死牟は刀に手を掛ける。
刀がぶつかり合う音が辺りに響いた。
夏世………師範…………