柱を訪ねて①
秋も大分深まった頃、斗和は真新しい荷車を引いて自宅へ向かっていた。
そろそろ野菜の収穫時期なので、荷車を購入してきたのだ。
以前買った荷車は、鍛錬中に技が当たり破壊してしまった。
今年収穫するのはさつまいも、じゃがいも、人参、牛蒡、葱、大根の六種類だ。
畑を管理していた夏世も去り、大した手入れはできなかった。
それでもまず形にはなった。
昨年はちょうど柱合会議があり持って行けたが、今のところ柱と顔を合わせる予定がない。
昨年同様に量も多いので、斗和はどうしようか悩む。
耀哉には隠に頼んで届けて貰うことにする。
他の柱にも、同じ様に隠に頼めるかだ。
だが忙しいのは知っているので、頼むのは気が引けた。
となれば、荷車を引いて柱の屋敷を一軒ずつ周り置いてくるしかない。
しかし斗和が家を知っているのは、杏寿郎と実弥としのぶの蝶屋敷だけだ。
「令和。宇髄さん、悲鳴嶼さん、冨岡さん、伊黒さんの屋敷分がるべが?」
「……」
駄目元で鴉の令和に尋ねるも、やはり何も答えない。
しかし令和は、煉獄家を知っていた。
斗和が、何年も前に煉獄家を探し歩いていた時だ。
見つからず途方に暮れていたら教えたのだが、なぜ知っていたのか。
鴉の令和は謎めいている。
斗和に支給される前は何をしていたのか。
槇寿郎付きの鴉だった可能性もある。
斗和はじーっと見つめていると、ふいっと顔を逸らされた。
いつものことである。
やはり、知っている者に聞いてから行こうと思った。
────────
───────
それから数日後。
斗和は任務後に隠達から聞き回り、柱全員の屋敷が判明した。
早速収穫した作物を荷車に乗せ、家を出る。
どうやら行冥の屋敷は相当山の奥にあるようだ。
到底荷車では行けないので、途中からは歩くしかないと言われた。
大変なので一番最後にしようと決める。
佳成が亡くなったことも報告しなければならなかった。
佳成は斗和の継子になる前は、行冥の継子だった。
礼儀として、きちんと報告しなければならない。
一日で全て回れはしないが、まずは一番遠い蛇柱邸へ行くことにした。
───────
──────
小芭内は斗和を見て驚いたが、荷車を見れば更に驚き言葉を失った。
「こんな所まで荷車を引きわざわざ来るなど、物好きにも程が……」
相変わらずネチネチと言ってきた。
それでも、小芭内は申し訳ないとは思っている。
最後は「ありがたく頂戴しよう」と礼を言われたのだった。
斗和は思った。
これが甘露寺蜜璃ならば、全然対応が違うのだろうと。
◇
次は音柱邸だ。
斗和は天元と同期であるが、特に親しくないので屋敷に行くのは初めてだった。
門を叩き声を掛けると、美しく胸の大きな三人の女性が出迎えた。
天元の嫁達だ。
(えっと確か雛鶴さん、まきをさん、すみさんだったかな?いやそれは蝶屋敷の娘の名前で…す、すえさん?)
斗和は挨拶しながら名前を思い出そうとする。
だが最後の一人がしっくりこないのだ。
まあいいかと思っていると、その中の一人が大声を出した。
「あー!芋柱様!」
(…いも、ばしら?芋柱!?)
斗和が聞き間違いかと呆けていると、前髪が金色をした嫁が発言した嫁を叩いた。
「こら須磨!」
「あいたっ!」
(ん?すま…?すまさん?)
斗和が、おや?と首を傾げる。
今確かに"すま"と言ったのを聞いた。
「少し黙ってな!すみません、土柱の蓬萊様ですよね?私達は音柱の妻で雛鶴、須磨、まきをと申します」
「天元様よりお話しを窺っております。同期だそうですね。昨年はたくさんの野菜をありがとうございました。今年も頂けるなんて嬉しいです。味が濃くてとてもおいしかったです」
一人ずつ口を開いてくる三人の嫁だが、聞き捨てならない言葉を聞いた気がした。
斗和は至極穏やかに笑う。
「それはよかったです。改めまして、蓬萊斗和と申します。宇髄様にはお世話になっております。…あの、ところで芋柱と言うのは…?」
「天元様がそう呼んでいたんです!野良着姿で手拭いをした隊士がいて、地味だから芋娘って呼んでるって。柱になったから芋柱だなって」
「須磨ー!失礼だよっ!本当にすいません!」
まきをが須磨を叩き、「まきをさんが叩いたー!」と喚く須磨。
斗和はここで、"すえ"でなく須磨だと確信する。
(すま、須磨さんか。いやそれよりも!やっぱり…!)
斗和は予想していた。
芋娘と呼ぶからには、柱になれば芋柱と呼ぶに決まっていると。
半分冗談のつもりだったが、本当にそう呼んでいた。
斗和はむかっ腹が立ったが、ここで怒っても仕方がない。
嫁たちに非はないのだ。
(派手柱め!今度会ったら絶対に派手柱って呼んでやる!)
斗和はそう決意すると、雛鶴が真剣な眼差しを向けてくる。
「十二鬼月を三体も倒していると聞き、尊敬しています。天元様の為に、私達も蓬萊様のように強い女になりたいと思っております」
「あ、そんな、私のような者が…お、恐れ入ります」
斗和はこそばゆくなり、もじもじと顔を赤くする。
大分怒りが和らぎ、それでは失礼致しますと頭を下げ音柱邸を後にした。
斗和は、荷車を引きながら小さくため息が出る。
三人とも大層美しかった。
天元はいつも綺麗な嫁に囲まれているのだ。
それに比べると、斗和は確かに地味で芋娘である。
(それにしても、芋柱だったら芋の呼吸になるよね。芋の呼吸…蒸かし芋、焼き芋、大学芋、天ぷら…)
芋の呼吸を想像するも、調理法しか浮かばない斗和であった。
次は水柱邸だ。
柱稽古では、実弥が義勇の屋敷に来て手合わせをしていた。
斗和はふと疑問に思う。
あの二人は、なぜあんなにも折り合いが悪いのか。
義勇が言葉足らず過ぎて、という理由が一番かもしれない。
だが、実弥が短気だからというのもある。
杏寿郎にも殴り掛かっていたのを、斗和はこの目で見たからだ。
それでもいつか、実弥が義勇に「今から鮭大根食いに行かねェかァ?」と言う日が訪れる。
相当仕方なくだが、義勇は「行かない。鮭大根ならさっき食べてきた」と断るのだ。
斗和はその時には柱を退いている予定なので、実際目にすることはない。
◇
水柱邸に着き、大声で義勇を呼ぶ。
「冨岡さーん!蓬萊です!いらっしゃいますかー?」
しばらく待つも、返事がない。
不在の可能性もあるので、置いて行くことにした。
斗和は持参した麻袋に、野菜を詰め始める。
そして大根九割、他一割という大根だらけの麻袋が完成した。
置いて行こうと思った矢先、門を開け義勇が出てきた。
(寝ていたのかな?鍛錬中だったのかな?)
「お久しぶりです。また野菜が穫れたのでお持ちしました」
そう言い荷車を指差すと、義勇は僅かにその深い藍の瞳を輝かせた。
「大根を貰いたい」
「はい。そう言われると思ってもう詰めました。これでどうですか?」
斗和が麻袋の中身を見せれば、頷き礼を言われる。
これから蝶屋敷に行くんですよと告げると、「そうか」とだけ言われた。
斗和は反応が薄いなと思った。
義勇はしのぶのことが気にならないのだろうか。
斗和は勝手ながら、二人はお似合いだと思っている。
知る限り二度、同じ任務に就いている。
だが考えてみれば、あれらは今後の出来事だ。
今の時点では同僚以外の気持ちはないのだろう。
斗和はそう思い一人納得する。