斗和は水柱邸を後にし、蝶屋敷へ向かう。
荷車を引いての移動はやはり時間が掛かり、既に夕刻に差し掛かっている。
今日は警備区域の見廻りだけだが、急がないと暗くなってしまう。
◇
かなり急いで辿り着いた蝶屋敷の玄関で、しのぶを呼ぶ。
出てきたのは、髪を耳の横で二つ結びにした少女だった。
神崎アオイである。
アオイはあの時十七歳だったはずで、今は十五歳と思われる。
斗和の記憶が間違っていなければ、アオイは任務に一度も出ていない。
最終選別には合格したものの、恐くなり任務に行けなくなったのだ。
斗和は、この前血鬼術に掛かった時に来た。
だがアオイの姿はなかった。
たまたま不在だったのか、それともあの後で最終選別があり、まだいなかったのか。
そのどちらかだと思われる。
「初めまして。蓬萊斗和と申します。胡蝶様にはお世話になっております」
「土柱様ですね、お話しは窺っております!しのぶ様は既に任務に行かれましたが、何か御用でしょうか?」
アオイはハキハキと清々しく答えるので、思わず斗和も背筋が伸びる。
(何だか私とは正反対だな)
斗和は若干顔が引き攣りながらも、笑顔を作る。
収穫した野菜を持参したので、台所に運ぶから案内してくれと告げた。
アオイは柱にそんなことはさせられないと遠慮するが、斗和は重いからと強引に入って行く。
荷車を空にしたくて詰められるだけ詰めた二つの麻袋は、斗和でなければ運べない重さだ。
アオイには入りきらなかった野菜を抱えて貰い、台所に全て運んだ。
「土柱様はとても力持ちなんですね!驚きました」
「はは…まあそれしか取り柄がないんですよ」
驚愕するアオイに苦笑いを返し、斗和は蝶屋敷を後にした。
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翌朝。
斗和は仮眠もそこそこに、前日収穫した野菜を再び荷車に詰む。
今日は煉獄家、風柱邸、岩柱邸の三軒だ。
岩柱邸は山奥なので、荷車を置いて背負って行かなければならない。
一番時間が掛かるので、昼までには二軒に渡してしまわないといけない。
煉獄家に行くのは何度目になるのか。
斗和は、前回も行っていいか聞かずに突然訪ねたが、今回はどうだろうか。
杏寿郎に会うと元気が出るので、居ればいいなと願う。
なんと言っても今日は、杏寿郎の為にさつまいもをたくさん持って来た。
荷車の三分の一はさつまいもである。
まるで野菜売りの行商さながらの斗和は、勢いよく荷車を引く。
◇
煉獄家に到着すると、千寿郎が出迎えた。
杏寿郎は任務明けで就寝中とのことだ。
起こさなくていいと言えば、千寿郎は申し訳なさそうに謝る。
野菜を二人で麻袋に詰めて台所へ運ぶと、例によって力持ちですねと驚かれた。
千寿郎から、そういえば…と、数年前からあげていたさつまいもや昨年の野菜の礼を言われる。
ひとえに杏寿郎に食べて欲しくて続けてきたが、柱となった今はもう畑に手を掛ける時間はない。
今回もやっと収穫ができたくらいだ。
なんとかさつまいもだけは来年も植えたいと思うも、どうなるか分からない。
斗和は、畑のことを考えると気落ちした。
どうしても夏世と佳成を思い出すのだ。
二人と過ごした数年間は、斗和にとってかけがえのない宝だった。
千寿郎からお茶をと言われる。
だが、まだ行く場所があるからと丁重に断り、斗和は煉獄家を後にした。
杏寿郎は就寝中だった。
顔を見られなかったのは残念だが、考えてみれば隊士は午前中は大抵休んでいる。
大体明け方に帰宅するのだから、今起きていたらいつ寝るんだという話しになるのだ。
昨日、天元は出て来なかった。
不在なのか寝ていたのか知らないが、嫁達の美しさと芋柱と呼ばれていた怒りでそのことをすっかり忘れていた。
(さて次は…風柱邸か…)
斗和はそう思ったとたん、足取りは一気に重くなる。
前回おかしなことになり逃げ帰ってしまい、気まずい。
口端に付いた米粒を取ろうとして、顔を近付けてしまったのだ。
(何であんなことしたんだろ…)
その後、化粧をした姿で他人のふりをし一度会った。
だがあれは実弥は気付いていないので、結局気まずいままである。
それでも、行かなければならない理由がある。
佳成のことだ。
実弥には、以前佳成が稽古で世話になった。
死んだことは伝えるべきだと思った。
伝えなくとも、いずれは分かるかもしれない。
だが、その時の方がもっとつらくなる。
言うならば今この機会しかないのだ。
とはいえ、穏やかに話せる内容ではない。
斗和は気分も足取りも非常に重くなり、項垂れる。
しかし、もたもたしてはいられない。
日暮れまでに岩柱邸に行かねばならないのだ。
斗和は荷車を引き、走り出した。
◇
そして到着した風柱邸の前で、斗和は躊躇う。
野菜を入れた麻袋を抱えたまま、しばらく悩んでいた。
(気まずい、会いたくない…)
しばらく門の前で立ち尽くしていたが、突然扉が開き隠が出てきた。
お互い驚き会釈をする。
「不死川様なら中にいらっしゃいますよ。どうぞ」
そう言われたので、斗和は促されるがまま中へ入った。
玄関先で動けないでいると、庭の方から気配がした。
視線を向ければ、そこには実弥がいた。
「蓬萊…どうしたァ?」
「あ、…いきなりすみません。あの、これ、うちで穫れた野菜です。柱の皆さんに配っていて、このあと岩柱様の所で最後です。よかったら食べて下さい」
斗和は実弥の目を見ることができず、矢継ぎ早に言う。
そして麻袋を渡した。
(言わなきゃ…佳成のことを言わなきゃ)
「あの、それから…お話しがあります。少しだけいいですか…?」
実弥は何かを察したのか、その大きな目を伏せた。
そして、置いてくるから庭で待っていろと告げる。
斗和は震えそうな手を握り締め、庭へと歩いた。