※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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報告

程なくして庭に来た実弥は、何も言わず斗和を見ている。

 

(言わなきゃ、ちゃんと目を見て。それが礼儀だ。頑張って言え!口に出せ、斗和!)

 

己を奮い立たせると、斗和は意を決して口を開く。

 

「この前任務で…佳成が…継子の館坂佳成が死にました。…十二鬼月の、上弦ノ壱と遭遇して…っ…」

 

握り締めた拳が震える。

見据えたはずの実弥の顔がぼやけていく。

 

「その少し前に…甲に昇格して、最後に手合わせをして継子を卒業したんです。家も出て、っ…一人で暮らすようになって…だからっ、それ以来会っていなくて…。不死川さんには稽古をつけていただき、本当に…本当にありがとうございました…!」

 

斗和はそのまま頭を下げた。

しばらくそのままだった。

 

「…っ、私、だめですね…弱くて。泣いたって…泣いたって佳成は生き返らないのに…!」

 

斗和は涙と嗚咽で声にならず、やっと言葉を絞り出す。

下げたままの頭は上げられず、地面が涙で濡れていく。

斗和は立っていることができずに、膝から崩れ落ちた。

 

「!」

 

その時、腕を引かれ抱き竦められる。

一瞬涙が止まり、斗和は何が起きているのか分からなかった。

 

「いいから泣けェ」

 

実弥の言葉に、斗和は堰を切り止めどなくなく涙が溢れ出る。

 

「うっ、うう…わぁぁぁ…!」

 

堪えてきたものが全て爆発するかのように、斗和は声を出し泣いた。

何も考えられず、ただひたすらに。

 

その間も、実弥はずっと斗和を抱き締めたまま、何も言わなかった。

 

 

 

 

◇

どのくらい経ったのか。

 

今までとは違う重みが体に掛かり、実弥はそっと斗和を自分から離す。

泣き疲れた斗和は眠っていた。

 

実弥はぐったりした斗和を背に担ぐと、玄関へと入って行った。

 

 

 

それは懐かしい温もりでいつかも同じだったと、斗和は夢の中でぼんやりと思う。

 

どうしようもなく寂しくて悲しくてつらい時、思い浮かぶのは誰なのか。

 

斗和は、以前の記憶を戻してから見る夢は、以前の記憶だけだった。

一度たりとも、今生きているこの世界の夢を見たことはない。

 

断片的でよく分からない。

だけど嫌な気持ちになる。

どうしていつも同じ場面なのか。

 

(なぜ今日はあの人の顔が浮かぶんだろう…)

 

 

 

 

◇

「………」

 

目を開ければ見慣れない天井があり、任務後に藤の家に来たんだったか?とぼんやり考える。

 

(昨日の任務は…警備?…いや違う!)

 

斗和は飛び起きると、辺りを見回す。

 

(どこ?ここは?…そうだ!柱の皆に野菜を届けていて、佳成が死んだことを報告して泣いて…)

 

斗和はそこではっきり思い出した。

実弥に抱き締められたことを。

そのまま大泣きし、そこから記憶がない。

 

(嘘!?私、不死川さんの肩で大泣きした?ここに運んでくれたのも不死川さんだよね!?)

 

斗和は脳内が混乱している。

抱き締められた感触は未だに残っており、なぜか胸が熱くなる。

いつもならば、情けない姿を見せると叱咤する実弥。

なぜ抱き締めたのか。

斗和は分からなかった。

 

しばしぼーっとしていると、はっと気付く。

これから行冥の屋敷まで行かなくてはならない。

急いで布団をたたむと、身だしなみを整え部屋を後にした。

 

(広い屋敷だな…不死川さんどこにいるんだろう?)

 

斗和は廊下をうろうろしていると、どこからか風を斬る音がする。

音の方に向かうと、庭で実弥が鍛錬していた。

 

「…………」

 

斗和はその姿に釘付けになった。

洗練された動作から繰り出される斬撃は鋭く、そして華麗に見えた。

 

(すごい…)

 

思わず口に出そうになった言葉を、斗和は寸出で飲み込んだ。

 

「…目ェ覚めたのかァ?」

 

視線に気付いた実弥が、手を止め縁側に来る。

 

「あっ、はい!すいません、寝てしまうなんて。あの、本当にご迷惑おかけしました!ありがとうございます」

 

斗和は正座し、頭を下げる。

 

「ちゃんと食って寝てんのかァ?…悲鳴嶼さんとこ行く前に飯食ってけェ」

 

「えっ!でも、そんな悪いです!もうお暇しますから…」

 

実弥からの思わぬ言葉に、斗和は慌てる。

とにかく申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。

 

「いいから黙って従いやがれェ!」

 

実弥は、有無を言わさない恐ろしい顔でそう言うと、待ってろと告げ玄関へ行ってしまう。

 

「待って下さい、手伝います!」

 

斗和は慌てて縁側から台所に向かう。

 

果たして実弥が作るのだろうか。

作れるのだろうか。

斗和は疑問に思いながら走る。

 

 

 

 

台所では既に何やら作っており、斗和はどうしたものかと考える。

とりあえず味噌汁を作ります、と申し出た。

実弥から人参と大根を入れろと言われ、斗和は持参した麻袋から取り出す。

 

(大根も人参も銀杏切りでいいかな?…あ!)

 

そこで気付く。

斗和は、自分がまともに料理をできないことを思い出した。

申し出ておいてできないなど言えず、なんとか作り椀に盛る。

実弥は非常に手際が良く、斗和がもたついているうちに何品か作ってしまった。

 

白米、大根人参の味噌汁、目刺し、白ごまと人参の白和え、豆腐の揚げ浸し大根おろし添えが出来上がった。

 

膳を前に、向かい合って手を合わせる。

斗和は、目の前の料理に目を輝かせた。

どれも美味そうに見え、これをあの実弥が作ったとは思えなかった。

実弥は、まず斗和の作った味噌汁に口を付けた。

 

斗和は、味はどうか…と、緊張しながら見守る。

 

「…これ出汁とったのかァ?」

 

「あ!…忘れました、すいません」

 

斗和は、見事に出汁を取り忘れた。

そして他は美味だったが、やはり味噌汁だけが残念な味であった。

 

 

 

 

◇

片付けを申し出たが、いいから行けと言われ斗和は玄関を出る。

 

「昼餉から何から何まで、本当にありがとうございます」

 

「野菜、どうもなァ…。…握り飯、すげェ美味かった」

 

実弥はその後、少し言い難そうに小さな声で「また作れェ」と言った。

 

「っ…はい!」

 

斗和は、その時自分がどんな顔をしていたかは分からなかった。

だが、胸が高鳴ったのだけははっきり自覚した。

 

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