※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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※前ページの実弥視点



通る道

それは突然もたらされた訃報だった。

 

蓬萊の継子・館坂佳成が死んだ。

 

鬼殺隊に入れば、死とは隣り合わせで生きることになる。

隊士ならば百も承知で、昨日笑い合った者が翌日物言わぬ屍になるのも日常茶飯事だった。

 

蓬萊の鴉が、わざわざ俺に告げに来た理由は分からない。

たった一度稽古をつけただけの間柄だが、まだまだ強くなる素質があった。

男らしく、それでいて優しさも兼ね備えた奴だった。

 

気になるのは、その師である蓬萊だった。

初めての継子だ。

誠心誠意向き合い成長させたのは知っている。

かけた期待も大きいだろう。

それだけに衝撃も大きいはずだ。

 

ましてや遺体は戻らない。

それは鬼に喰われたことを示している。

 

鬼…醜い鬼共はこの俺が殲滅してやる…!

 

 

 

◇

それから二週間程経ったあたりだ。

 

いつものように屋敷の家事を担っている隠が帰ってすぐ、人の気配がした。

柱ともなれば、人や物の気配には敏感に反応する。

庭で鍛錬していると、玄関先の気配は瞬時に察知できる。

 

刀を持ったまま足を向ければ、そこにいたのは蓬萊だった。

久方ぶりに見たその姿は、酷く憔悴しきっていた。

おそらくあまり眠れていないのだろう。

顔色は悪く青白い。

こんな姿は初めてだ。

 

「…蓬萊…どうしたァ?」

 

何も知らないふりで近寄り声を掛けると、弾かれたように口を開く。

 

「あ、…いきなりすみません。あのこれ、うちで穫れた野菜です。柱の皆さんに配っていて、このあと岩柱様のところで最後です。よかったら食べて下さい」

 

抱えていた麻袋を受け取ると、ずしりと重い。

女が持つような重さではないのに、軽々持っていたように見えたので驚く。

 

「あの、それから…お話しがあります。少しだけいいですか…?」

 

察した俺は、蓬萊を庭へ促し麻袋を台所に運んだ。

 

少し距離を置き、向き合ったまま蓬萊は何も言わない。

声に出せないのを、何とか出そうとしているようだ。

 

「この前任務で…佳成が…継子の館坂佳成が死にました。…十二鬼月の、上弦ノ壱と遭遇して…っ…」

 

握りしめた拳が、体が震えている。

蓬萊は泣くのを必死で堪えていた。

 

「その少し前に…甲に昇格して、最後に手合わせをして継子を卒業したんです。家も出て、っ…一人で暮らすようになって…だからっ、それ以来会っていなくて…!不死川さんには稽古をつけていただき、本当に…本当にありがとうございました…!」

 

蓬萊は俺に頭を下げた。

 

「っ…私、だめですね…弱くて。泣いたって…泣いたって佳成は生き返らないのにっ…」

 

下げられたままの頭から、地面に雫がいくつも落ちる。

 

どんなに嘆いて泣いても戻らない命だ。

鬼殺隊にいれば必ず経験する。

慰めるつもりなどない。

ただ「そうか」とだけ答えるつもりだった。

 

だが、立っていられず泣き崩れる蓬萊を見たら、俺は体が勝手に動いた。

 

顔を覆う腕を取り引き寄せ、己の体に密着させる。

 

「いいから泣けェ」

 

「うっ、うう…わぁぁぁ…!」

 

泣いて泣いて吹っ切れ。

 

戻らない過去を悔やんでもどうにもならない。

死んだ者は戻らない。

これが現実だ。

残された者は先に進むしかない。

 

己の腕の中で子供のように泣きじゃくる蓬萊を、ただ抱き締めた。

 

 

 

 

どのくらい経ったのか静かになり、今までとは違う重みが掛かる。

そっと体を離すと、蓬萊は泣き疲れ眠っていた。

体勢を変え背に担ぎ、屋敷の中へ運ぶ。

 

以前より軽く感じられたのは、気のせいではないだろう。

 

 

 

 

◇

奥の客間に寝せると、蓬萊は静かに寝息を立てている。

 

「ん…」

 

手拭いで涙に濡れた顔を拭き取ってやれば、僅かに身じろいだ。

青白い顔を真横にはしる傷をなぞり、頰に手を添える。

 

なぜだか蓬萊が消えてしまいそうな気がした。

 

蓬萊が目覚めるまで、鍛錬の続きをしようと玄関を出た。

 

すると、門前の荷車が目に入る。

確かこの後、悲鳴嶼さんの所に行くと言っていたか…

岩柱邸は山の奥にある為、荷車では行けない。

そうなると、手で持ち運ぶしかない。

まさかさっきみたいに、大量に詰めて山を登る気なのだろうか。

蓬萊ならやりかねない。

それにしても、柱邸を周り歩き野菜を渡すというこの誠実さには感服する。

 

 

 

 

◇

鍛錬中、縁側から視線を感じ、振るっていた刀を止める。

 

「…目ェ覚めたのかァ?」

 

「あっ、はい!すいません。寝てしまうなんてあの、本当にご迷惑おかけしました!ありがとうございます」

 

正座し、頭を下げる蓬萊の姿は土下座である。

いつも思うが、なぜこいつはこんなにも腰が低いのか。

俺と蓬萊は同じ柱であり、歳も同じだ。

知り合って二年経つが、未だに敬語は抜けていない。

 

いやそんなことよりまずは飯だ。

 

「ちゃんと食って寝てんのかァ?…悲鳴嶼さんとこ行く前に飯食ってけェ」

 

「えっ!でも、そんな悪いです!もうお暇しますから…」

 

案の定断るが、このまま行かせるわけにはいかない。

 

「いいから黙って従いやがれェ!そこで待ってろォ!」

 

俺は蓬萊を一喝し、玄関へ向かう。

鍛錬前に、あらかじめ下拵えをしていた物に手を掛ける。

するとバタバタと蓬萊が姿を現し、味噌汁を作ると申し出る。

 

「なら人参と大根切れェ」

 

麻袋を指せば、蓬萊は野菜を切り始めた。

 

下拵えが功を奏し、さほど時間もかからず出来上がった。

味噌汁、目刺し、白ごまと人参の白和え、豆腐の揚げ浸し大根おろし添えだ。

 

居間に運び、膳を前に向かい合って手を合わせる。

まずは蓬萊の作った味噌汁からと思い、口を付けた。

 

…出汁とってねェなァ。

 

「これ出汁とったのかァ?」

 

「あ!…忘れました、すいません」

 

しまった、と口を開ける蓬萊は、自分でも味噌汁を飲み首を傾げた。

この反応からするに、焼いた握り飯と鰤大根しかまともに作れないと言うのは、本当かもしれない。

 

そこで、焼いた握り飯を作って貰ったことを思い出す。

一つはその場で食い、五つは任務に持参した。

共同任務だったので他二人にも分け与えた。

俺が握ったのかと驚いていたが、蓬萊だと教えれば更に驚いた。

 

『これ土柱が作ったんですか!めちゃくちゃ美味いですね』

 

『土柱ってやっぱり料理上手いんだなあ。噂じゃ糠漬けも美味いって。いつだったか隠が話してました』

 

口々に美味いと笑顔になる隊士らを見て、俺は気分が上がった。

蓬萊が作る過程まで全て見たのだ。

しばし優越感に浸ったのは確かだ。

 

 

 

 

◇

食べ終わり荷車に手を掛けた蓬萊は、来た時よりかなり顔色が良くなっていた。

俺は安堵した。

 

「昼餉から何から何まで、本当にありがとうございます」

 

「野菜、どうもなァ。…握り飯、すげェ美味かった。…また作れェ」

 

やっと言えた握り飯の礼。

その後に続けて言ってしまった俺の一言に、蓬萊は満面の笑みを向けた。

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