※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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20歳①【やるべきこと】
話すべき時


(成人か…)

 

斗和は暦を見てそっとため息を吐く。

一人で迎える誕生日が当たり前だったはずだが、二度も祝って貰った後だとかなり寂しく感じられた。

 

二十歳。

斗和が鬼殺隊に入り八年目だ。

 

斗和は、まさか自分が柱にまでなるとは思っていなかった。

二度断り、三度目で受けて早二年経つ。

九人揃うまでの仮とし、柱としてできる限り努力してきた。

だがそれも今年で終わりだ。

 

来年はついに、炭治郎が最終選別を受け鬼殺隊に入る。

今年中に甘露寺蜜璃と時透無一郎が柱になるはずなので、斗和は退き一般隊士に戻る。

 

無限列車で杏寿郎を助ける為に、斗和は更に力をつけなければならなかった。

そして、斗和があの列車に乗り込み立ち回るには、このままというわけにいかない。

 

鬼殺隊当主・産屋敷耀哉にだけは伝えておかねばならなかった。

 

斗和が以前の記憶があること。

そして、この世界を知っていることを話す必要がある。

 

だが、どう伝えるか斗和は悩んでいた。

この世界は、確かに"ここ"では現実だ。

しかしそれは、"本の中に存在している"。

その中に、"未来を知っている斗和が存在している"。

 

これらを上手く伝えるにはどうしたらいいのだろう。

斗和は幾度も考えた。

 

そもそも斗和は、なぜこの世界に転生したのかが分からなかった。

転生なのか何なのかすら不明だ。

斗和が令和の時代を生きていたのは事実である。

だが、以前の年齢以外の記憶がなかった。

名前、どこでどんな生活をしていたのか、転生する要素は何だったか、何一つ分からない。

転生するくらいなので、死んだのは確かである。

そうでなければ転生はしない。

何かがきっかけとなり、斗和の魂がこの世界に入ったのだ。

整理すると、確実に分かるのは三つだけだ。

 

以前の年齢。

死んだこと。

ここは鬼滅の刃の世界であること。

そして、たまにみる夢。

おそらく以前の記憶だと斗和は思っていた。

映画、何かを記入する白い紙を指す手。

暗闇から向けられる嫌悪の目。

毎回胸が苦しくなり目が覚める。

 

そして最後によぎるある人物の顔。

 

斗和は、なぜだろうと考える。

 

だがとにもかくにも、まずは耀哉への説明だ。

明らかに怪しいので、頭がおかしくなったと思われる可能性がある。

むしろすんなり信じる方がおかしい。

 

悪くすれば斬首。

良くて切腹。

最高に良くて一生牢屋。

 

斗和の脳裏にそれぞれ想像が浮かび、小さく震えた。

 

だが、役に立つのならそれでもよかった。

杏寿郎を救えるならば、それでも構わない。

 

斗和は静かに筆を取る。

 

 

 

 

◇

その翌日、本部・産屋敷邸の畳に正座する斗和の姿があった。

屋敷には何度か来ているが、室内に入るのは初めてだった。

 

「待たせたかな?文を貰って驚いたよ。重要な話しがあるそうだね」

 

斗和は現れた耀哉に手を付き、頭を下げる。

病が進行しているのは分かるが、まだかろうじて目は見えていると思われる。

斗和をしっかり見据えているからだ。

 

「お時間をいただきありがとうございます。…私が今からお話しすることは、奇々怪々なことばかりかと思います。すべて話し終わった後、私の処分はお任せします。…斬首になる覚悟はできております」

 

一瞬で空気が変化した。

 

「斬首とは穏やかでないね…。それ程の内容ならば、こちらも心して聞かねばならないようだ」

 

耀哉の声に緊張が高まる。

斗和は手のひらに汗が滲み、心臓が忙しなく動く。

 

「説明下手なので、纏まりがないと思いますがご容赦下さい。…私、蓬萊斗和には、おそらく前世の記憶がございます。それを思い出したのは十二歳の頃、実家近くで熊に襲われたという一家を目撃した時です。本来前世と言うならば、明治より更に前の時代を生きたことを指すのだと思います。ですが私が思い出したのは、この時代より百十年先の令和という時代の記憶です」

 

ドクドクと心臓の音が斗和の脳内に響く。

手汗も酷くなり、震えまで起きてしまう。

落ち着いて言葉を紡がなければと、斗和は大きく息を吸い込む。

 

「斗和は今こうして生きている前は、先の時代を生きていたと…?」

 

「はい、それは確かです。私の以前の名前、容姿、暮らし、死因も分かりませんが、年齢は二十九歳でした。そしてその時、国民の大半は鬼殺隊のことは知っていました。それは大正という過去の時代を知っていたのではなく、この世界を知っていたのです」

 

耀哉の表情が変化した。

 

「はっきり申し上げます。今皆が生きるこの時代、この世界は、百十年後では書物…本になっております」

 

「…本…?」

 

訝しむように、耀哉は目を細めた。

 

「その書物は大変な人気で、老若男女が虜になり社会現象になりました。おそらく冬あたりから書物の内容は始まっていますが、まだ序盤です。私はその内容を把握してはいますが、細かいことまでは覚えておりません。また、記憶違いもあるかと思います」

 

「…そうは言っても、斗和が知っているという内容は捏造ということも考えられる。ましてやこれからのことなど、誰にも知り得ない。私が納得できる証拠は…?」

 

耀哉は少なからず混乱していた。

斗和から衝撃的なことを告げられたのだ。

すんなり信じられるわけもない。

ただ、耀哉は知っている。

斗和が、わざわざこのような嘘を述べる人間ではないことを。

そして僅かにある期待が芽生える。

まずは納得できる証拠が欲しかった。

 

一方で斗和は、耀哉の自分に対する猜疑心を感じ取った。

それは戸惑いが大部分を占めており、明確に納得したい気持ちが強いのだと思った。

 

(全部話したら、やっぱり斬首かな?牢屋かな?怖い…けどここまで来て逃げも隠れもしない…!)

 

「お館様はあまね様と婚姻の際、十三歳でしたね。あまね様は四歳上の十七歳です。…貴女が嫌なら私からこの結婚は断ります…という言葉で、あまね様は結婚を決めたのではないでしょうか?」

 

耀哉の表情が一瞬で驚きに変化する。

婚姻当時の年齢は、一部の隠と音柱・宇髄天元は知っている。

斗和が、同期である天元から聞いた可能性はある。

だが、結婚の決め手となった言葉は、耀哉本人とあまねしか知らない事だ。

誰一人聞いていた者はいない。

にも関わらず斗和は、一言一句漏らさず耀哉の言葉を口にした。

これには耀哉も驚くしかなかった。

 

「…驚いた…!それはあまねと二人きりで会った際に私が言った言葉だ。まさかそれを知っているとは…分かった。斗和を信じよう。続けて」

 

「…ありがとうございます。おそらく来年、本格的に書物の内容が始まります。水柱が、妹を鬼にされた竈門炭治郎という少年と相まみえた時が始まりです。現時点で、既に二人は会っています。書物は竈門少年を中心に進んで行きます」

 

斗和はそこまで言うと、一旦切り息を吸った。

 

「最終選別では彼の他四人合格し、その中に風柱様の弟もいます。その後、竈門少年他二人と水柱と蟲柱を、下弦ノ伍が巣喰う山へ討伐に向かわせます。そして鬼を連れた隊士・竈門炭治郎を裁判にかける為、柱合会議を開きます。そこには今まだおりませんが、恋柱、霞柱がおり、柱は九人揃っています。もしかしたら霞柱には、既にあまね様が何度か会われているかもしれません。曖昧ですが、彼と双子の兄は始まりの呼吸の剣士の子孫のはずです」

 

斗和は、このあたりの記憶は曖昧だった。

登場人物の成り立ち全ては把握していないのだ。

特に細かなところは忘れてしまっている。

だが、大まかな流れは分かる。

だからこそ、知っている重要な事を伝えなければならない。

 

「その会議では、風柱の稀血により、妹が人を喰わないことが証明されます。その後も竈門少年は、妹を連れて任務に向かいます。そしてこの時、無惨により下弦の鬼が解体されます。残ったのは壱のみ。その鬼は無惨の血により強化され、ある列車に巣喰い民間人や隊士を次々葬ります。そこで竈門少年他二人と、炎柱を討伐に向かわせます。下弦ノ壱は倒されますが、この時上弦ノ参が現れます。その鬼と炎柱は一対一で戦い、鬼は逃走し…炎柱は亡くなります」

 

「杏寿郎が…?」

 

斗和は僅かに頷くと先を続ける。

 

「その後、またもや竈門少年他二人と妹、そして音柱が遊郭にて上弦ノ陸を討伐します。この戦いで音柱は片目と片腕を失い、柱を引退します。その後、刀鍛冶の里が上弦ノ肆と伍に襲撃されます。竈門少年と風柱の弟、そして恋柱と霞柱で討伐します。そこから鬼の出没が極端になくなり、隊士達は柱が行う稽古で力をつけます」

 

耀哉は、斗和から片時も目を離さず真剣に聞いている。

 

「上弦の鬼…そんなにも現れるのか…。十二鬼月の存在が明らかになってから、上弦については情報が少なかった。それが次々…」

 

鬼殺隊の長い歴史の中で、上弦の鬼の存在は不明瞭であった。

柱は数え切れない程上弦に屠(ほふ)られていたが、その明確な情報は極端に少なかった。

それは、周囲の隊士や鴉共々全滅だったからだ。

 

「その頃にはお館様は病が進行し、起き上がることさえできません。…お館様。あなた様は様々な協力を得てご自分を囮にし、この屋敷に無惨をおびき出します。そして屋敷ごと爆弾で吹っ飛ばします。共にいたあまね様、ひなき様、にちか様も亡くなります」

 

「!!」

 

耀哉は驚愕に目を見開く。

斗和とて、このことを話すのはつらかった。

愛する妻と、十歳にも満たない子供達と共に消える。

耀哉はいつからそう考えていたのか。

その描写もあったのか、斗和は思い出せない。

だが、遊郭で上弦ノ陸を討伐してから一気に変化する。

耀哉はこの時しかないと思ったのだろう。

使役できるものは全て集め、自らの命を利用した。

どれだけの覚悟があったのか。

斗和には想像もつかなかった。

 

「本当に酷なことですが、無惨は当然のように復活します。ただお館様は爆破の際に無惨に毒を…それで弱体化はします。その後、無惨のいる異空間と思われる場所に全ての柱と隊士が集められ、そこで最終決戦となります。輝利哉様の指揮の元、隊士たちは戦います。そして…竈門少年他二名と、蟲柱の継子以外の隊士は多数亡くなります。また風柱、水柱以外の柱も亡くなります。その数多(あまた)の犠牲を払い、無惨は倒され平和な世が訪れるのです。…これが私が知っている今後の全てです」

 

斗和は言いながら思い出し、涙が出てきた。

耀哉は顔を上げ前を見据えている。

下を向いていられないと、斗和は涙を拭う。

 

「ついに無惨が倒される…それが来年だとは…!本当に無惨はこの世から消えるのか…?」

 

「はい、誓って。必ず消え去ります!」

 

斗和は目を逸らさなかった。

今までで一番強い口調ではっきりと告げた。

その姿に、耀哉は穏やかに口を開く。

 

「…斗和はどうして鬼殺隊に入ったの?全て知っているなら、尚更恐ろしいとは思わなかった?」

 

(えっ?)

 

斗和は目を見開き、思考が停止した。

 

 

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