それから二週間経った頃。
「柱合会議!至急向カエッ!」
鴉の令和が告げる。
斗和は警備区域で鬼を二体倒し、家に戻った矢先だった。
(今すぐ!?)
家に帰ってきたばかりで、最低でも風呂には入りたい。
だが遅刻するわけにいかず、急いで顔を洗い手拭いを外し一般隊服に着替え家を出た。
まだ前回の会議から半年は経過していない。
考えられるのは、甘露寺蜜璃が恋柱になったということだ。
蜜璃は杏寿郎の元継子であり、蛇柱・伊黒小芭内の想い人である。
今の時点ではまだ会っていないと思われるが、今後接近するのだろう。
斗和は、蜜璃とは任務で全く会わなかったので初対面になる。
だが正直、隣に並びたくないのである。
(可愛い顔、可愛い声、素晴らしい胸…。髪型も隊服も、何もかも可愛いもんね…片や私は…)
斗和はどんどん卑屈になっていく。
同じ女とは思えない程に雲泥の差があるのだ。
斗和は顔に傷まである。
以前はそこまで気にならなかった斬り裂かれた傷。
斗和は、このところやけに気になるようになった。
おそらく、あの温泉の任務で化粧をした時からだ。
(傷が無ければ、化粧をして着物を着ればあの人は…)
斗和は雑念を振り払うように走った。
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本部に着くと、斗和以外まだ誰も来ていなかった。
一番最初なんて初めてだなと、手持ち無沙汰になる。
辺りを見回した斗和は、隅で白い玉砂利を積み重ねられるか遊ぶことにした。
そこへ一つの影が近付く。
斗和が足音に気付き頭を上げると、実弥がいた。
ドクンと心臓が跳ねた気がしたが、斗和は何事もなく振る舞う。
「不死川さん、お疲れ様です。その節はお世話になりました」
「あァ…。前回の会議の後、先立って冨岡といなくなったが何かあったのかァ?」
実弥は前回の会議後のことが気になっていた。
斗和は物語が始まったのか確認するべく、義勇に尋ねた。
他の者に聞かれたくなかったので、義勇の屋敷まで行った。
普段会議後は、雑談をしたり耀哉の厚意で茶を飲んでから帰る。
それを耀哉が退出後、二人はすぐにその場から消えたのだ。
残された柱は何事かと思っていた。
宇髄天元が、"あの二人は怪しい"と言ったことで、実弥は気になって仕方がない。
だがそんな些細なことで、わざわざ斗和に確認するなどできるはずもない。
聞くに聞けずにいたが、臨時で柱合会議が開かれたことでやっと聞くことができたのだ。
実弥は、じっと斗和を見据える。
斗和は、あああれか…と口を開く。
「あれは…冨岡さんに用事があったので、屋敷にお邪魔したんです。そのあとせっかくだから、手合わせをして貰いました」
義勇には雪山での任務があったかを聞き、ついでに手合わせをしたので嘘ではない。
ただそれだけだ。
「…あの…?」
斗和は大いに戸惑う。
なぜか実弥は、傷ついた顔に変化したからだ。
(どうして…?)
「…冨岡と煉獄にはてめェの方から申し出るんだなァ…」
「え…?」
「よー!お前ら早いな!」
その時天元が現れ、実弥はいつもの場所に行ってしまった。
斗和は訳が分からず動揺する。
実弥の言った意味が分からないのだ。
義勇と杏寿郎に申し出るとは、手合わせのことだとは分かる。
問題はその後だ。
実弥はなぜあのような、怒ったような寂しそうな表情になるのか。
斗和は、実弥のあのような顔は初めて見た。
どうしていいか分からず呆けていると、義勇から早く並べと言われ、斗和は我に返る。
いつの間にか皆集まっていた。
斗和は先程の実弥の態度が気になるも、会議に集中した。
すると右端から、奇抜な髪色の女が前に出て挨拶し始める。
(あ!やっぱり甘露寺さんだ)
蜜璃が柱になったということは、後は最後の一人、時透無一郎を待つだけである。
その後はいつも通り任務や警備の報告をし、解散となった。
各々が蜜璃に挨拶をする中、輪の中に入れない男がいた。
蛇柱・伊黒小芭内である。
小芭内は蜜璃に一目惚れし、以来靴下を贈ったり文通したりと仲良くなる。
当然ながら今はまだ進展がない。
初見でその可憐さに照れて、挨拶できないのだろうと斗和は思っている。
だが実は二人はこの場が初対面ではない。
斗和は、今日は一番最初に来たと思っているが、実はそれより先に蜜璃と小芭内は到着している。
蜜璃は耀哉と話しが、小芭内はあまねからある調査を頼まれており、それぞれ屋敷内にいた。
そこで二人はバッタリ会っており、挨拶も交わしているのだ。
それを知らない斗和は、親の気持ちで二人を微笑ましく見守る。
斗和は蜜璃に憧れを抱いていた。
同じ女で背丈も同じだが、何もかもが違うと思っている。
蜜璃の隊服は縫製係の前田の力作だが、客観的に見るとやはり迫力があった。
(あの服、やっぱり私が着たらおかしいよね…。甘露寺さんと胡蝶さんは似合うと思うけど…)
すると、蜜璃から小芭内に話し掛けた。
「蓬萊、なぜまた隠れている?」
そこへ、たまたま斗和の前にいた義勇が振り返る。
「いや今回は隠れていませんよ。冨岡さんがちょうど私の前にいるから、そう見えるかもしれませんけど。それにしても甘露寺さんも胡蝶さんも、とても可愛いですよね。私、憧れてしまいます。冨岡さんもそう思うでしょう?」
「…俺は女になりたいとは思わない」
(は?)
義勇の返答に、斗和は思わず怪訝な顔を向ける。
そのような意味で聞いたのではないのに、義勇の素頓狂な返答にため息が出た。
そもそも、義勇に聞いたのが間違いだったなと思った。
すると、蜜璃が近付いて来た。
「あのう、冨岡さんに蓬萊さんですよね…?初めまして、甘露寺蜜璃と言います!炎の呼吸から派生した恋の呼吸を使っているんです。これからよろしくお願いしますね!」
豊満な胸が視界に入り、斗和は緊張と驚きで目が輝く。
甘くていい香りがし、これは何の…?と考える。
「水柱の冨岡義勇だ」
斗和がぼーっとしているうちに簡潔な挨拶をした義勇は、さっさといなくなってしまった。
(…ん?)
斗和は突如ただならぬ視線を感じる。
その方向を見れば、小芭内が睨んでいたのだ。
こうしてはいられないと、慌てて挨拶をし始める。
「初めまして、恋柱様。蓬萊斗和と申します。岩の呼吸から派生した土の呼吸を使っています。どうぞよろしくお願いします」
「まあっ!土の呼吸なんて初めて聞いたわぁ…あっ、私の恋の呼吸も初めてですよね?柱に二人も女性がいて、本当に心強いわっ!同じ柱なのだから名前で呼んで下さいね」
それから斗和は蜜璃の質問攻めに遭う。
年齢、好きな甘味、好きな料理、趣味など終始蜜璃に圧倒されていた。
しかし、そろそろ切り上げないと小芭内が恐ろしい。
他の皆も帰ってしまったので、斗和も帰ろうとする。
「あの甘露寺さん?伊黒さんが何かお話があるのか待っていますよ。では私はこれで失礼しますね」
矢継ぎ早に言うと、斗和は小芭内の恨みの籠もった視線を感じつつその場を後にした。