※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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準備万端

斗和は畑の前で仁王立ちしていた。

その顔にはうっすらと笑みが浮かべられ、上機嫌であることが伺える。

念願の畑を借りることができたのだ。

 

 

隊服に日輪刀に任務のこと、やるべきことをしたあと斗和は畑を借りることにした。

根っからの田舎育ちであるせいか、土を触っていると落ち着くのだ。

東根山にいた時も師と畑を作っており、生活の一部になっている。

鬼殺隊に入っても続けようと思うのは当然のことだった。近くに畑のある長屋を探したのはこのためである。

畑の持ち主を探し交渉し、一人で管理できる程の広さを借りることができた。

 

斗和は早速耕し、手始めにさつまいもとじゃがいもを植えることにした。

どちらも管理が非常に楽というのが理由で、基本的に植えっぱなしでいい。

秋に掘ればいいだけ、というとても育てやすい作物なのだ。

さつまいもは、何と言ってもあの煉獄杏寿郎の好物でもある。

是非お裾分けしたいとも考えており、斗和は俄然やる気が湧いていた。

 

何年先になるか分からなくとも、これを糧に畑仕事をするのは喜びだった。

 

 

 

───────

──────

数日後。

 

畑作りも一通り終わった斗和は、鍛錬をして過ごしていた。

鍛錬に使用するのは木刀だが、これらも特注にしたいくらいだった。

しかしそれはさすがにできないので、斗和は考えた末に鍬を使ってみた。

畑を耕す道具を鍛錬で振り回すのはどうかと思ったが、重さといいしっくりくるのは鍬だった。

 

 

鬼殺隊には、隊士が共同で使える鍛錬場がある。

耀哉からは自由に使っていいと言われていた。

斗和は長屋を決めた後で行ってみたが、広い敷地に道場がいくつもある想像以上の場所だった。

 

外の鍛錬場もいつ誰が使ってもいいように整備されており、この先頻繁に足を運ぶことになりそうだと思った。

 

 

 

 

───────

──────

斗和は焦っていた。

 

「はぁ……」

 

顔を流れる汗を拭うと、思わずため息が出た。

 

鍛錬をして何日たっただろうか。

長屋の裏もすっかり斗和専用の鍛錬場になってしまっていた。

 

最終選別を突破した同期らは、既に任務に赴いているのではないかと思い始めていた。

 

前田まさおに頼んでいた特注隊服は、おととい支給して貰った。

あとは日輪刀だけだ。

灼白銀(やしろがね)は必ず造ると約束してくれたので待つしかない。

だがやはりもどかしく、斗和は落ち着かない。

 

伝令の鎹鴉も手持ち無沙汰のように見えなくもない…と、令和と名付けた鴉を見遣る。

長屋の中までは入って来ないが、斗和が外に出ればどこからか現れ着いて来る。

 

だがこの令和、実は一度も喋っていない。

斗和が最初に挨拶をして名付けた時も、一言も喋らなかった。

 

(嫌われてるのかな…)

 

斗和は鍛錬をやめ、鍬にもたれかかり令和に視線を送ってみる。

するとふいっと首を背け飛び立ってしまった。

 

やはり嫌われているのか、と令和の姿を目で追った先に、ひょっとこの面が見えた。

 

「灼白銀(やしろがね)さん!」

 

斗和は思わず大声を出して駆け寄る。

 

「大分待たせてしまってすまぬ」

 

編み笠を外し頭を下げる灼白銀(やしろがね)に対し、斗和も頭を下げる。

背負われた長い大きな木箱が目に入り、興奮した。

 

「頼まれていた日輪刀ができたので持参した。ここで渡してもよいか?」

 

灼白銀は、背負っていた木箱を下ろして差し出す。

斗和は二つ返事で頷き、さっそく木箱を開けてもらう。

 

「………!!」

 

中から出てきた刀を見て、斗和は心臓が高鳴り興奮も最高潮に達する。

 

「そなたの所望した物ができたかどうか、確かめて欲しい」

 

灼白銀は相変わらずの低音だが、些か緊張しているのか声が強張っている。

 

それは、鍬によく似た代物だった。

鍬本来の土に触れる部分は、平らでなく鋭利に。

本来の持ち手部分の三分の二は、刀を少し幅広くしたように。

あとの三分の一は、刀同様の柄となり鍔は四角い。

 

斗和は恐る恐る柄を持ちかざす。

 

一般的な日本刀よりも重く、柄が少し太いことに気付く。

 

「!?」

 

柄が熱くなった気がしたとたん、刀の色が変わった。

銀色に輝く刃が土のように茶色く変化したのだ。

茶より濃い焦茶色だ。

これが刀の色が変化するということなのかと、斗和は感慨深く頷いた。

 

(土の呼吸だからなのかな?何て言うか…)

 

「地味だな」

 

灼白銀が徐に口を開いた。

 

「はい、私もそう思いました」

 

苦笑いを返し、変化した刀を両手で持ち振るってみる。

 

「すごい…!」

 

みるみる掌になじんでいく柄の感覚と、適度な重みに斗和は興奮する。

今ここで呼吸を、技を出してみたい衝動に駆られる。

 

「灼白銀さん!ここで呼吸を使ってみてもいいですか!?危ないのであの塀の裏にいて下さいね」

 

斗和は灼白銀の返事を待たず、安全な場所へ促す。

 

「そんなに離れなくてはならぬのか?」

 

指された場所を見た灼白銀は、腑に落ちないようだ。

それでも、何かあっては危ないからと斗和がひと押しすると従ってくれた。

 

 

斗和は、改めて刀を持ち構える。

 

 

─土の呼吸 壱ノ型 土龍爪(どりゅうそう)

 

 

斜めに振りかぶった刀が勢いよく下ろされる。

土の粒子を纏ったように見える刀が、宙を大きく斬り裂く。

 

力は抜いたつもりの斗和だが、実際は抜けておらず思いきり振っていた。

この力加減は今後の課題である。

(この刀…すごい!最終選別で師匠に借りた日輪刀よりもずっと馴染むし、しっくりくる!)

 

これだ、求めていたのはこれなのだと斗和は歓喜した。

いつの間にか隣に来ていた灼白銀に礼を述べる。

 

「素晴らしい出来です!私が求めていたのは、まさにこの刀なんです。私のような新米の我儘を聞いていただき、心から感謝しています!何度御礼をしても足りないくらいです!本当にありがとうございます!大切にします!」

 

斗和は刀を持ったまま深く頭を下げた。

 

顔を上げると同時、目の前に日本刀形状の刀を差し出された。

鍔は同じように四角い。

 

「これは?」

 

「こちらでも戦えると聞いたのでな、念のため造っておいた。万が一そちらに不具合が起きた時、予備としてあればよいかと思ってな。どちらの刀も使っていると、いずれ修繕することにはなるだろう。いつでも声を掛けてくれ」

 

灼白銀から受け取った刀は随分細く軽く感じたが、これが通常である。

斗和は、気の利く灼白銀に更に感激した。

 

「灼白銀(やしろがね)さん…!何から何までありがとうございます。修繕の時は、今度は私が会いに行きますね」

 

灼白銀(やしろがね)は驚いたのだろう。

一瞬固まった後、ゆっくりと編み笠を被った。

 

「そなたは不思議な娘だな。見たところまだ十四、十五歳だろう?だがなんというか随分と大人びた言動と表情をする。まるで同年代といるようだ」

 

(えっ?十四、十五歳…?まだ十三歳になったばかりなんだけどな…。そんなに老けて見えるのか…)

 

斗和は内心でガックリと項垂れた。

 

この年頃がどんな風だったかなど考えて行動していない。

しかし同年代に感じるとは、灼白銀(やしろがね)は何歳なのだろうか。

 

「そうですか。まあ長女だからでしょうか。灼白銀(やしろがね)さんは何歳なんですか?」

 

「今年で三十歳だ」

 

斗和は驚いた。

灼白銀(やしろがね)がかなりの低音なので、もっと上だと思っていたのだ。

前世の斗和は二十九歳である。

今の中身もこの時のままなので、同年代に感じるのも分かる気がした。

 

(もし前世の身体のままこの人と会っていたら、友達になれたかな…?)

 

斗和はここにきて、初めて寂しさというものを感じた。

記憶を戻してから、今まで感じなかったことだ。

 

「今度会うときは素顔を見せて下さいね」

 

斗和が面の下の両眼を見据えると、灼白銀(やしろがね)はおそらく笑った。

 

「刀を受け取ってくれて感謝する。…武運を祈っている」

 

灼白銀はそう言い帰って行った。

 

次回もきっと面は外さないだろうと、斗和は確信した。

 

手にした二本の日輪刀に力を込める。

 

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