斗和は畑の前で仁王立ちしていた。
その顔にはうっすらと笑みが浮かべられ、上機嫌であることが伺える。
念願の畑を借りることができたのだ。
隊服に日輪刀に任務のこと、やるべきことをしたあと斗和は畑を借りることにした。
根っからの田舎育ちであるせいか、土を触っていると落ち着くのだ。
東根山にいた時も師と畑を作っており、生活の一部になっている。
鬼殺隊に入っても続けようと思うのは当然のことだった。近くに畑のある長屋を探したのはこのためである。
畑の持ち主を探し交渉し、一人で管理できる程の広さを借りることができた。
斗和は早速耕し、手始めにさつまいもとじゃがいもを植えることにした。
どちらも管理が非常に楽というのが理由で、基本的に植えっぱなしでいい。
秋に掘ればいいだけ、というとても育てやすい作物なのだ。
さつまいもは、何と言ってもあの煉獄杏寿郎の好物でもある。
是非お裾分けしたいとも考えており、斗和は俄然やる気が湧いていた。
何年先になるか分からなくとも、これを糧に畑仕事をするのは喜びだった。
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数日後。
畑作りも一通り終わった斗和は、鍛錬をして過ごしていた。
鍛錬に使用するのは木刀だが、これらも特注にしたいくらいだった。
しかしそれはさすがにできないので、斗和は考えた末に鍬を使ってみた。
畑を耕す道具を鍛錬で振り回すのはどうかと思ったが、重さといいしっくりくるのは鍬だった。
鬼殺隊には、隊士が共同で使える鍛錬場がある。
耀哉からは自由に使っていいと言われていた。
斗和は長屋を決めた後で行ってみたが、広い敷地に道場がいくつもある想像以上の場所だった。
外の鍛錬場もいつ誰が使ってもいいように整備されており、この先頻繁に足を運ぶことになりそうだと思った。
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斗和は焦っていた。
「はぁ……」
顔を流れる汗を拭うと、思わずため息が出た。
鍛錬をして何日たっただろうか。
長屋の裏もすっかり斗和専用の鍛錬場になってしまっていた。
最終選別を突破した同期らは、既に任務に赴いているのではないかと思い始めていた。
前田まさおに頼んでいた特注隊服は、おととい支給して貰った。
あとは日輪刀だけだ。
灼白銀(やしろがね)は必ず造ると約束してくれたので待つしかない。
だがやはりもどかしく、斗和は落ち着かない。
伝令の鎹鴉も手持ち無沙汰のように見えなくもない…と、令和と名付けた鴉を見遣る。
長屋の中までは入って来ないが、斗和が外に出ればどこからか現れ着いて来る。
だがこの令和、実は一度も喋っていない。
斗和が最初に挨拶をして名付けた時も、一言も喋らなかった。
(嫌われてるのかな…)
斗和は鍛錬をやめ、鍬にもたれかかり令和に視線を送ってみる。
するとふいっと首を背け飛び立ってしまった。
やはり嫌われているのか、と令和の姿を目で追った先に、ひょっとこの面が見えた。
「
斗和は思わず大声を出して駆け寄る。
「大分待たせてしまってすまぬ」
編み笠を外し頭を下げる
背負われた長い大きな木箱が目に入り、興奮した。
「頼まれていた日輪刀ができたので持参した。ここで渡してもよいか?」
灼白銀は、背負っていた木箱を下ろして差し出す。
斗和は二つ返事で頷き、さっそく木箱を開けてもらう。
「………!!」
中から出てきた刀を見て、斗和は心臓が高鳴り興奮も最高潮に達する。
「そなたの所望した物ができたかどうか、確かめて欲しい」
灼白銀は相変わらずの低音だが、些か緊張しているのか声が強張っている。
それは、鍬によく似た代物だった。
鍬本来の土に触れる部分は、平らでなく鋭利に。
本来の持ち手部分の三分の二は、刀を少し幅広くしたように。
あとの三分の一は、刀同様の柄となり鍔は四角い。
斗和は恐る恐る柄を持ちかざす。
一般的な日本刀よりも重く、柄が少し太いことに気付く。
「!?」
柄が熱くなった気がしたとたん、刀の色が変わった。
銀色に輝く刃が土のように茶色く変化したのだ。
茶より濃い焦茶色だ。
これが刀の色が変化するということなのかと、斗和は感慨深く頷いた。
(土の呼吸だからなのかな?何て言うか…)
「地味だな」
灼白銀が徐に口を開いた。
「はい、私もそう思いました」
苦笑いを返し、変化した刀を両手で持ち振るってみる。
「すごい…!」
みるみる掌になじんでいく柄の感覚と、適度な重みに斗和は興奮する。
今ここで呼吸を、技を出してみたい衝動に駆られる。
「灼白銀さん!ここで呼吸を使ってみてもいいですか!?危ないのであの塀の裏にいて下さいね」
斗和は灼白銀の返事を待たず、安全な場所へ促す。
「そんなに離れなくてはならぬのか?」
指された場所を見た灼白銀は、腑に落ちないようだ。
それでも、何かあっては危ないからと斗和がひと押しすると従ってくれた。
斗和は、改めて刀を持ち構える。
─土の呼吸 壱ノ型
斜めに振りかぶった刀が勢いよく下ろされる。
土の粒子を纏ったように見える刀が、宙を大きく斬り裂く。
力は抜いたつもりの斗和だが、実際は抜けておらず思いきり振っていた。
この力加減は今後の課題である。
(この刀…すごい!最終選別で師匠に借りた日輪刀よりもずっと馴染むし、しっくりくる!)
これだ、求めていたのはこれなのだと斗和は歓喜した。
いつの間にか隣に来ていた灼白銀に礼を述べる。
「素晴らしい出来です!私が求めていたのは、まさにこの刀なんです。私のような新米の我儘を聞いていただき、心から感謝しています!何度御礼をしても足りないくらいです!本当にありがとうございます!大切にします!」
斗和は刀を持ったまま深く頭を下げた。
顔を上げると同時、目の前に日本刀形状の刀を差し出された。
鍔は同じように四角い。
「これは?」
「こちらでも戦えると聞いたのでな、念のため造っておいた。万が一そちらに不具合が起きた時、予備としてあればよいかと思ってな。どちらの刀も使っていると、いずれ修繕することにはなるだろう。いつでも声を掛けてくれ」
灼白銀から受け取った刀は随分細く軽く感じたが、これが通常である。
斗和は、気の利く灼白銀に更に感激した。
「
一瞬固まった後、ゆっくりと編み笠を被った。
「そなたは不思議な娘だな。見たところまだ十四、十五歳だろう?だがなんというか随分と大人びた言動と表情をする。まるで同年代といるようだ」
(えっ?十四、十五歳…?まだ十三歳になったばかりなんだけどな…。そんなに老けて見えるのか…)
斗和は内心でガックリと項垂れた。
この年頃がどんな風だったかなど考えて行動していない。
しかし同年代に感じるとは、
「そうですか。まあ長女だからでしょうか。
「今年で三十歳だ」
斗和は驚いた。
前世の斗和は二十九歳である。
今の中身もこの時のままなので、同年代に感じるのも分かる気がした。
(もし前世の身体のままこの人と会っていたら、友達になれたかな…?)
斗和はここにきて、初めて寂しさというものを感じた。
記憶を戻してから、今まで感じなかったことだ。
「今度会うときは素顔を見せて下さいね」
斗和が面の下の両眼を見据えると、
「刀を受け取ってくれて感謝する。…武運を祈っている」
灼白銀はそう言い帰って行った。
次回もきっと面は外さないだろうと、斗和は確信した。
手にした二本の日輪刀に力を込める。