腫れた頬と噂
斗和は河原から一度共同鍛錬場へ戻り、荷物を纏める。
隊士が何人かいたので、殴られた頬を隠す為に手拭いを顔に巻いた。
煤払いをするかのような斗和の姿に、見かけた隊士らは首を傾げる。
掃除中の隠がいたので、数日間世話になったと頭を下げた。
「いやこちらは何もしていませんよ。蓬萊様は布団など自らで準備されてましたし、食事だって…あの、掃除はしてましたが、埃っぽいですか?」
隠は、斗和の顔に巻いた手拭いを見て詫びる。
室内が埃くさいのかと思ったのだ。
「あっ!違うんです!今少し口唇を怪我して腫れているんですよ。私、大きな傷もありますから、お目汚しなのでこうしてます。紛らわしくてすみません」
斗和は慌てて否定すると、隠は居た堪れず目を潤ませる。
「そんなこと言わないで下さい!蓬萊様はご自分を卑下しすぎですよ。傷は頑張ってきた結果じゃないですか!だから…目汚しなんてどうか言わないで下さい…」
目を伏せる隠に、斗和は言葉が出ない。
何も言えず、頭を下げて共同鍛錬場を後にした。
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数日ぶりに帰宅し、耀哉より借りていた鴉を返送する。
「令和、何日もお疲れ様。ありがとうね」
斗和は鴉の令和に労いの言葉をかけるが、やはり反応はない。
八年も共にいるが、相変わらず任務伝令以外は全くと言っていい程に喋らなかった。
斗和の指示を無視することはないが、とにかく喋らない。
待てと言えば待ち、文を届けろと言えば届ける。
約八年もこの状態なので慣れたが、斗和は納得いかなかった。
今まで考えもしなかったが、もしかしたら他の人間が話しかければ喋るのかもしれないと思った。
(今度誰かに聞いてみよう)
殴られた頰はすぐに冷やしたものの、やはり腫れた。
翌日鏡で見た時は、相当に落ち込んだ。
十三歳で顔に傷を負った時よりも衝撃を受け、斗和はしばらく鏡を見ないようにしたくらいだ。
顔を見られたくない一心で、数日間はひょっとこの面で任務に赴いた。
視界は悪く、相当驚かれ怪しまれ何もいいことはなかった。
そして運悪く、共同任務が数回あったのだ。
『…なあ、誰だよあれ?』
『あの野良着は土柱だろ』
『何でひょっとこの面被ってんだ?』
『俺が知るわけないだろ』
『刀鍛冶師にでもなるのかな?』
『土柱は寡婦って噂、本当かなあ?農婦だったけど、旦那が死んで隊士になったって噂があるよな。更に刀鍛冶師目指してんの?すげー…』
『俺が聞いたのは、元炎柱の後妻になるって話しだな』
『はあー?元炎柱の後妻になったら、炎柱が息子になるぞ』
『え?俺は水柱といい仲だって聞いたぞ』
『いつだったか、町で風柱と歩いてるところを見た』
斗和は鬼殺隊に六年もいるので、様々噂をされていた。
本人が知っているものもあるが、知らないものも多々ある。
今回面を被ったことで、刀鍛冶師になるのでは?と新たな噂が飛び交うこととなった。
居心地が悪いと思いながら任務を終え、腫れが引いてから気付いたことがあった。
目だけ出して、他は襟巻きで覆えばよかったのだと。
この先煉獄家に行くのはかなり気まずいと思いながらも、斗和は鍛錬に明け暮れる日々が過ぎる。