雨期に入り傘が手放せなくなった頃だ。
斗和は、助っ人で東にある山に向かっていた。
警備区域の巡回中に呼ばれたのだが、降り始めた雨に気分も重くなる。
斗和は山道を走るのが得意で、大雨ではないので苦にならない。
だが、視界が悪くなるのが困るのだ。
ただでさえ夜なので、こんな日はいつも以上に注意しなければならなかった。
山に入ると、間もなく前方を走る人影に気付く。
よく見えず、大分近付いてから判明したその人物は不死川実弥だった。
背中の【殺】の字と白銀髪は実弥に他ならない。
同じ場所に向かっているようにも感じ、斗和は聞いてみようかと思った。
もし柱が二人呼ばれたとなると、十二鬼月の可能性がある。
だが斗和は話し掛けようと思うも、勇気が出ない。
(どうしよう…気まずい。話し掛けるの嫌だな…)
実弥とは、蜜璃がいた前回の柱合会議以降会っていなかった。
更にその前の会議後に、義勇といち早く帰ったことを聞かれておかしくなったからだ。
「冨岡と煉獄には、てめェから手合わせを申し込むんだな」と言われた。
斗和はどういう意味なのか分からない。
手合わせを申し込むのがだめだったのだろうか。
そして、なぜ怒ったような悲しいような、よく分からない顔をしたのかも気になっていた。
斗和はため息が出る。
なぜ実弥とはいつも気まずくなるのか。
こうも毎回だと、余程相容れない存在なのかと思った。
だがそう思えば、どこか寂しさも感じて妙な気持ちになる。
結局、とにかく気まずくてしょうがない。
しかし今は任務中である。
斗和は意を決し、横に並び併走する。
「不死川さん!お疲れ様です。もしかしてこの先に呼ばれました?」
「蓬萊!?まさかお前ェもかァ?」
実弥は、突如現れた斗和に驚く。
「はい。となると厄介な鬼のようですね。私、先に行きますね」
斗和は早口でそう告げ、全速力で走って行った。
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「無事でよかった村田さん!蝶屋敷まで背負うよ。肩を貸すから掴まって、ほら!」
「いや大丈夫!隠も来るだろうし、蓬萊さんは先に帰ってよ!」
斗和は、泥塗れの村田を引き上げようと声を掛ける。
斗和が目的地に着くと、隊士四人全員が血鬼術で底なし沼と化した地面に引きずり込まれていた。
藻掻けば藻掻く程に早く埋まる仕組みで、既に二人は地中にほぼ埋まってしまった。
先に鬼を倒さねば血鬼術は解けない為、斗和は刀を構えた。
遠くから跳び上がり土の呼吸 玖ノ型
鬼の頸は斬ることができたが、その後方から更にもう一体同じ鬼が出てきた。
すると一足遅れて来た実弥が、鬼の真後ろから一瞬で頸を斬ってしまった。
血鬼術は解け、埋められた隊士達は地面にめり込んでかろうじて息をしていた。
手分けして隊士四人を引き上げると、その中に村田がいたのだった。
「立てないのに遠慮してる場合じゃないでしょう!泥だらけなのは皆同じなんだから気にしないで、ほら早く!」
這い出したのはいいが、足を挫いていた村田は立てないでいる。
斗和は、背負って蝶屋敷に連れて行こうとしているのだ。
捻挫なのか骨が折れているのか分からないが、処置は早い方がいいに決まっている。
だが村田は頑なに動こうとしないので、説得していた。
「歩けないのは村田さんだけだし、
斗和は腕を引っ張りどうにか背負うとすると、村田は小声で必死の形相で訴える。
「風柱が!殺気立ってこっちを睨んでるんだよ!柱に、しかも女の人に背負われるわけにいかないの!俺は大丈夫だから先に帰って、頼む!」
最後には手を合わせ懇願までされてしまい、斗和は呆気にとられた。
「ええー?体裁なんて気にしないでよ…しょうがないな。本当に大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だからさ」
やむなく帰ることにするも、睨んでいる?と振り返れば既に実弥はいなかった。
斗和は、実弥は村田でなく自分を睨んでいたのではと思った。
先程追い越して先に行ってしまったので、怒った可能性がある。
「はぁ…」
ため息ばかりが出た。
斗和はものすごく憂鬱だった。
やはり実弥と会うと、どうにもおかしくなる。
いつもいざこざが起き、円満に平和に終わらない。
(何もかも私が悪いのかな…)
斗和は気落ちし、山を降りて行った。