俺らしくないとは思っていた。
まさか…と。
そんなことで心がざわつくなど、今までの俺ならば到底有り得ないことだった。
柱合会議で会った煉獄から、蓬萊と手合わせをしていると告げられた。
自己紹介をした時に申し込まれたらしい。
手合わせは充実したものだったのだろう。
煉獄は至極楽しそうに話す。
二人共さつまいもが好物で、蓬萊が芋羊羹を作ってきただとか。
焼いた握り飯と糠漬けを持ってきただとか。
煉獄の口から飛び出る言葉に、酷く苛立ちを覚えた。
それは聞きたくないとさえ思う程だ。
俺との手合わせは、いつもこっちから強引に告げてやっている。
あいつは自分が嫌いなおはぎを土産に持って来る。
焼いた握り飯も、俺が作れと言い作らせた。
俺は蓬萊から手合わせをしようなど、ただの一度も言われたことはない。
おはぎも握り飯も…何だこの差は。
煉獄にはすすんで自分から頼むのか。
好物の甘味なら作るのか。
あの握り飯を土産にするのか…!
どうしようもなく苛々したが、時が経てばそんなものはどうでもよくなると思っていた。
しかしその後にあった柱合会議で、隣同士並んでいた冨岡と蓬萊が会議後即座にいなくなった。
なぜ同時に?と訝しめば、宇髄が「あいつらは怪しい」と笑うので、気になってしょうがなかった。
考えてみれば、蓬萊は初参加の会議で、冨岡を見て顔を赤らめていた。
煉獄が柱になった会議の時も、あいつは奴を見て顔を赤くしていた。
冨岡の野郎は蓬萊が顔を赤らめると俺が怒ると、そう言ったが、的を射ており尚更腹立たしい。
こんなことは、以前なら気にも留めないどうでもいいことだった。
蓬萊が顔を赤らめようが、誰と手合わせしようが関係なかった。
だが気になって仕方がない。
くすぶったままの日々が続いた。
その後の柱合会議で、一人早く来ていた蓬萊に聞いた。
なぜ冨岡といなくなったのか。
俺は蓬萊に何と答えて欲しかったのだろう。
"急な共同任務が入って打ち合わせをした"
そう答えたのなら安堵したはずだ。
だが、そうではなかった。
斗和は、用事と手合わせだと答える。
また自分から手合わせを頼むのか。
俺には一度たりともないのに。
腹の中で何かが蠢くような、言い様のない感情が支配する。
今まで生きていて感じたことのない気持ちだった。
これが嫉妬だと認めたくなかった。
そんなものは鬼を狩ることに不要だ。
虫の居所が悪かっただけだと、無理矢理に言い聞かせていた。
その後の梅雨時期のことだ。
任務が終わったとたん、即また呼ばれ、東にある山に向かっていた。
山に入るあたりで雨が降り出す。
大雨ではないが、ただでさえ暗い山道。
視界も悪くなり、足元も泥濘(ぬかる)んで移動も遅くなる。
小さく舌打ちし目的地を目指していると、突然真横に誰かが現れた。
気配も無く真横に並ばれるなど不覚。
鬼かと思い、刀に手を掛けた瞬間発せられた声に驚く。
「不死川さん!お疲れ様です。もしかしてこの先に呼ばれました?」
「蓬萊!?まさかお前ェもかァ?」
そこにいたのは、まさかの蓬萊斗和だった。
「はい。となると厄介な鬼のようですね。私、先に行きますね」
早口でそう告げると、目を見張る速さで先に行ってしまう。
呆気にとられたのは言うまでもない。
この足元の悪さで、あんなにも速く山道を走る奴は見たことがない。
蓬萊は以前、本部から走った時は遅かったはずだ。
なぜ道も視界も遥かに悪い山道を、あんなに速く走れる?
不思議な奴だ。
目的地に着けば鬼がいて、真後ろから頸を斬り落とした。
鬼は分身し二体出たようだが、なんてことはない。
こんなのに柱を二人呼んだのは、伝令に手違いがあったとしか考えられない。
蓬萊から言われ、血鬼術で地面に埋まっていた隊士四人を手分けして救出する。
すると一人の隊士のところで、蓬萊が何やら騒いでいる。
引き上げられないのかと思ったが、力のあるこいつに限ってそれはないだろう。
何だ?と近付けば、どうやら知り合いのようだ。
足を折ったか挫いたか立てずにいるそいつを、蝶屋敷まで背負うと肩に手を回しているではないか。
体は密着しているし、顔も近い。
いいから大丈夫と拒否するそいつに対し、遠慮するなだとか泥塗れは皆同じだから気にするなと言っている。
そいつが気にしてんのは泥じゃねェだろォ…
隠が来るのに、男を背負って山を下りようとする女。
知り合いだからか?
それともいつもこうなのか?
またもや言い知れぬ感情が込み上げ、それ以上見ていたくなくてさっさと山を下りた。
下らねェ、らしくねェ。
盛大な舌打ちが出た。
こんなどうでもいいことに心をかき乱されるなど、頭が沸いているのではないか。
鬼を殲滅する以外のことは不要だ。
しっかりしろ!