※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

96 / 190
※斗和視点


心の臓

思えば少し前からおかしかった。

 

たまに喉がつかえたような妙な感覚になり、すぐに元に戻るので気に留めていなかった。

だが気のせい、もしくは何でもないと思えなくなってきた。

 

 

心臓がおかしい。

 

 

鬼殺隊の隊士は、全集中の呼吸で飛躍的に身体能力を上昇させている。

体中の血の巡りと、心臓の鼓動を速くする呼吸法だ。

体温も上がり、血液中に酸素を沢山取り入れ心肺を大きくすることで、骨と筋肉が熱くなる。

 

当然私も常時使用しているわけだが、これがたまに乱れるのだ。

意識して乱すなどするわけがない為、勝手にである。

感情の問題で、驚いて心臓が跳ね上がるのかと思ったこともある。

 

だが、そんな誤魔化しはきかないくらいそれは起きていた。

 

 

 

 

 

"何でもない、気の所為だ"

 

必ずそう言われると信じ、私は町医者に行くことにした。

 

最初は蝶屋敷と思ったが、余計な波風は立てたくない。

隊士や隠など、関係者に見つかってはならないからだ。

継子だった亡き佳成との温泉任務以来の着物を着て、顔に化粧を施すと町へ出た。

 

 

傷のある左半分を襟巻きで斜めに隠し、急ぐ。

歩き難い着物に慣れるはずもなく、予想以上に時間がかかる。

 

すると、前方から見知った男女二人が並んでこちらに向かってきた。

 

まずい…!

 

目立つ桜餅のような髪色と、胸元が開いた奇抜な隊服の女性。

そしておかっぱざんばら頭で白黒の縞模様の羽織に、首に白蛇を巻いた男性。

いつの間に町を並んで歩く仲になったのか。

 

あ、あの黄緑の靴下は確か伊黒さんが甘露寺さんに贈ったとかいう…

 

なんでもいいけれど、頼むから気付きませんように。

 

さり気なく二人とは反対側の、斜め下を見るように歩き通り過ぎようとした。

 

「あらぁっ!?偶然ですね!お買い物ですか?」

 

気付かれた…!

 

甘露寺さんが話しかけてきた為、やむなく立ち止まる。

 

「え、あっ、どうもこんにちは。まあそうですね…」

 

気付く人は気付くんだな。

不死川さんみたいに全く気付かない人もいるのに。

 

「甘露寺、こちらは知り合いか?」

 

おかっぱざんばら頭の、もとい伊黒さんがこちらを見ながら甘露寺さんに尋ねる。

 

「いやだわ伊黒さんたら!蓬萊さんよ」

 

「こんにちは…」

 

とりあえず会釈をすると、伊黒さんは目を何度もぱちくりさせ私を見た。

 

「!?…蓬萊?…蓬萊なのか!?…信じられん、どこの女人かと思ったぞ」

 

「はあ、そうですか。お二人は逢い引きですか?」

 

「あらあっ!私達そう見えるのかしら?ねえ伊黒さん!」

 

「…そ、そうだな」

 

二人とも顔を赤らめ恥ずかしがる。

伊黒さんは俯いて汗をだらだらかいているし、なかなか珍しいものを見た。

 

「すみません、先を急ぎますのでこれで失礼しますね」

 

私は早々に切り上げ、医者へ向かった。

 

 

 

 

◇

一通り検査し、医者から告げられた言葉に頭が真っ白になる。

 

【脈が乱れて不整脈になっている。心機能も二十歳の若者にしては低い。おそらく先天的に心臓が常人より弱いのだろう。心臓に負担をかけることはしてはならない】

 

幼少期から農作業をしてきた私の心臓が、常人より弱い?

まさかそんなことはありえない。

不整脈?

ありえない、たまたまだ。

少し疲れているだけだ。

 

医者の話す内容を聞き流し、金を払うとさっさと帰宅する。

 

医者の言うことなんて信じてたまるもんですか!

 

少し疲れているだけ、それを大袈裟に……!

 

腹が立ち着物を乱暴に脱ぎ捨て、野良着隊服に着替えた。

焦燥感が襲うのを振り払うように、何も考えないようにがむしゃらに刀を振るった。

 

 

夕刻になり警備区域の見廻りをし、朝方帰宅するとすぐに床についた。

 

 

何も考えたくない、何も。

 

 

 

 

 

 

 

───────

──────

夢を見た。

 

いつもみる映画館から始まるそれは、今日は全く違うものだった。

 

白い部屋。

難しい顔をした白衣の医者が告げる言葉。

それはまるで、日中にあの町医者が言ったことと酷似している。

聞き慣れない専門用語が、つらつらと医者の口から出る。

 

以前の私は心臓が悪かったのか。

ならば今おかしいのはその名残だとでもいうのだろうか?

 

だけど、以前の私は二十九歳。

心疾患はまず考えられない年齢だ。

生まれつき悪かったのか、何なのか。

 

なぜ悪くしたんだろう…?

 

とりあえず記憶がそこまでしかないことを考えると、死んだのも同じ二十九歳だと思われる。

 

なぜ死んだの?

どれだけ悪かったの?

 

当たり前の疑問が浮かんだところで場面は映画館に移動した。

煉獄さんの凛々しい顔が視界に入る。

 

そこで今までにない頭痛が起こり、目の前が暗くなった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。