最後の柱合会議
梅雨も終わり、暑い夏がやってきた。
この時期の任務は、非常に汗をかく。
斗和は暑いのが苦手だった。
いくら隊服が寒さ暑さに強いとはいえ、完璧ではない。
寒さは着込めばいいが、暑いのは脱ぐ限界がある。
襦袢で生活したいくらいだがそうもいかない。
斗和は極めて不快な日々を送っていた。
河原で槇寿郎に言いたいことを告げて以降、斗和は杏寿郎には会っていない。
会って何か言われるかもしれないと思うと、手合わせを頼むことができずにいた。
そうなると家で鍛錬するか、共同鍛錬場に行くしかない。
日替わりで往復している日々だった。
大抵何人か隊士がいるので、稽古を頼まれたりとそれなりに充実していた。
斗和は頻繁に鍛錬場に赴くが、柱は基本的に行くことはない。
そんな見かけないはずの柱がいるので、隊士らは稽古をつけて貰おうと躍起になっていた。
斗和は低姿勢なので、頼みやすいというのもある。
土柱様と呼ばれるのにも慣れた斗和だったが、そろそろ柱は退きたいと思っていた。
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──────
それから間もなくの任務明けのことだった。
「柱合会議!昼マデニ向カエッ!」
いなくなっていた鴉の令和が、戻って来て告げる。
(来た!ついに来た!)
前回から半年たっておらず、これは無一郎が柱になったに違いないと思った。
斗和は意気揚々と本部まで向かった。
◇
「よう芋柱!」
(あ!)
門を潜ると同時、斗和の頭上から声がした。
見れば、門の上に音柱の宇髄天元がいた。
斗和は呆れたように目を細める。
天元は門が開いているのに、毎回こうして上から入って来るからだ。
いくら屋根伝いに走って来たとしても、門くらい歩いて潜ればいいのにと思った。
そしてやはり芋柱と言ったなと、斗和は内心で舌打ちする。
「これはこれは派手柱様、こんにちは」
「あ!?派手柱?言うじゃねえか芋柱が!」
二人は無言で火花を散らしていると、天元が突然吹き出した。
「なあ、お前ちょっと前にひょっとこの面着けて任務に出てたろ?すげえ噂になってたぞ」
天元は斗和を見て思い出し笑いをしている。
斗和はもしかしたらと思っていた。
やはり噂になっていたのだと確信する。
面をしていたのは一週間かそこらだった。
共同任務は少なかったが、よりによって天元の耳に入ってしまったのは悔しい。
からかわれる話題を提供したのだ。
「何で面なんてしてたんだよ?」
「あの時は大きい吹き出物ができたんですよ。私は顔に傷もあるし、更に吹き出物があったら
本当は槇寿郎から殴られたわけだが、口が裂けても言えるわけがない。
斗和がそう言うと、天元は大きく息を吐いて首を左右に振る。
「お前はどんだけ自分を卑下してんだよ!蓬萊、よく聞けよ?そもそも
「宇髄!蓬萊殿!」
天元が言いかけた矢先、門から杏寿郎が現れた。
斗和は思わず心臓がどきりと跳ねる。
杏寿郎と会ってしまった。
河原で槇寿郎との一件があり、以来気まずいのだ。
「おう煉獄か、相変わらず声でけえな」
「うむ。二人で何の話しだ?」
「ああそれがよ。蓬萊が少し前にひょっとこの面着けて任務してたんだよ。吹き出物ができたのを隠してたんだと。その理由が
天元は呆れた表情で斗和を見て、やれやれと首を振る。
斗和は気が気でない。
「ちょっと宇髄さん!」
「何だよ。お前今そう言ったじゃねえか」
「それはそうですけど…」
斗和は、口パクで"いいから黙れ"と天元を睨む。
(派手柱!どうして煉獄さんに全部言ってしまうの!一番知られたくないのに。しかもどう思うって聞く?答え難いでしょ!)
何とかこの話題から逸らそうと、斗和は今日の会議のことを口にしようとした矢先だ。
「あのっ、きょ…」
「何を言ってるんだ!蓬萊殿は断じて
「!」
「!?」
杏寿郎が声を張り上げた。
(…え?…え…今…?聞き間違い?美しいと聞こえたような。えっ、え…えー!?)
斗和は、驚きに口に手を当て息を呑む。
顔が熱く火照り、真っ赤になっているのが分かった。
杏寿郎はいつも通りの表情で斗和を見ている。
天元は呆けており、しばし微妙な雰囲気がその場に漂う。
するとそこへ義勇が通りががり、斗和を見る。
「蓬萊、顔を赤らめると不死川が怒る」
そう言い先に行ってしまった。
(冨岡さん…いやもう何も言うまい)
斗和は、通り過ぎる義勇に白けた目を向けた。
冨岡義勇は言葉足らずに加え、空気も読めない男である。
その後天元は先に行くと言っていなくなり、斗和は杏寿郎と二人きりになった。
「冨岡は以前も同じことを言っていたな。蓬萊殿が顔を赤らめると不死川が怒ると。どういうことだ?」
杏寿郎は顎に手を遣り首を傾げる。
悩む姿も素敵だなと思う斗和は、真似をして同じく首を傾げた。
義勇の言っていることはよく分からない。
おそらく斗和が初めて参加した柱合会議前に、義勇と会話をして恥ずかしくなり顔が赤くなった。
ちょうどその時、実弥が現れそれを目撃した。
斗和が義勇に対し、頬を染めていると勘違いしたのだ。
あれは"最近は雪山での任務があったか?"と聞き、まだ秋だからない…そう返答された。
それに対し恥をかいたと顔が赤くなったのだ。
ただそれだけの些細なことである。
なぜか義勇は未だに引き合いに出すので、斗和も呆れていた。
「私にもよく分かりません…。あの、なんだかすみません。気を遣わせてしまいましたね」
斗和は居た堪れなくなり謝るも、杏寿郎はは不思議そうな顔をした。
「気を遣ってなどいないぞ。本当のことだ」
「え、煉獄さん、あの…」
杏寿郎は斗和を見つめ、はっきりと言った。
戸惑う斗和に、杏寿郎が近寄る。
「君はなぜ自分を卑下するんだ?」
「…本当のことだからです」
斗和は、俯きがちに小さな声で呟く。
十三歳で傷を負って七年、幾度となく好奇の目に晒されてきた。
鬼にさえ醜いと何度か言われた。
最初は気にならなかった傷だったが、時が経つにつれ変化していった。
斗和は、ある男と出会ってから自らを醜いと思うようになった。
「顔を上げてくれ」
その声に斗和は、そっと窺うように顔を上げた。
「その傷は鬼と戦いできたものだろう?俺はそれを醜いとは微塵も思わない。君がたくさんの人々を救ってきた証だ。蓬萊殿は強く美しい!」
杏寿郎は、しっかりと斗和を見つめた。
それは杏寿郎の本心だ。
斗和は顔に消えない傷を負い、それでも長年鬼を討伐してきた女だ。
本人は謙遜しているが、斗和は強い。
柱となり皆を率いてきたのだ。
同じ隊士としても柱としても、尊敬に値する。
そして杏寿郎は、斗和を異性としても見ていた。
仲間以上の感情を斗和に抱いている。
まだ告げるつもりはないが、いずれと思っていた。
呆けたままの斗和に、杏寿郎はフッと笑顔になる。
「それにしても面を着けて任務に行くとは!蓬萊殿は予想外のことをするんだな!」
ハッハッハと笑う杏寿郎を見て、斗和は安堵した。
やはり杏寿郎と会うと元気が出ることを実感する。
笑っている姿を見ると、斗和は心が温かくなるのだった。