会議が始まる前、斗和は定位置の義勇の隣に並び耀哉を待つ。
今日でこの柱合会議に参加するのも最後だと思うと、感慨深かった。
(こうやって柱の皆に会うこともなくなるんだな…)
「お館様のお成りにございます」
息女達に手を引かれ、産屋敷耀哉が現れた。
斗和は何度聞いたか分からないが、またもや実弥が挨拶をする。
実弥は誰より耀哉を尊敬し心酔しているだけあり、この挨拶は今のところ誰にも譲らない。
だがそのうち、蜜璃から「私も挨拶したかった」と思われるのだ。
実弥が挨拶し終わると、皆の前に髪の長い少年が出てきた。
霞柱・時透無一郎である。
記憶を失っている無一郎は、ぼんやりした話し方をする。
それでも刀を握り二ヶ月で柱になったのだ。
さすがあの継国縁壱の子孫だと思った。
斗和は、当然ながら無一郎の過去も知っている。
記憶を取り戻すのは刀鍛冶の里でだ。
ともかくこれで九人揃った。
横に柱九人が勢揃いしているのだ。
斗和は感動した。
そして今日で柱を退き、今後に備える。
準備は着々と整っていた。
無一郎が元の位置に戻ると、耀哉は皆を見て静かに口を開く。
「皆も知っての通り、柱はその画数から定員は九名だ。鬼殺隊の長い歴史の中で九名が揃うことは稀だったけれど、この度無一郎の加入により十名となった。…そして実は、今日で斗和は柱を退く」
周囲がどよめき、斗和は右側からの視線をひしひしと感じる。
(ううっ…視線が痛い)
「知っている者もいるけれど、斗和には以前二度も柱になるよう告げたけど断られてね。三度目でやっと引き受けて貰えたんだ。九人揃うまでという条件付きでね。だから今回で斗和は柱から一般隊士に戻ることになる。異存はないかな?」
耀哉が皆に問うと、すかさずしのぶが口を開く。
「ですが、蓬萊さん程の実力者が柱でないというのは納得しかねます。今まで担っていた警備や任務はどうなるのですか?」
「そうだね。実力も申し分ないし、私も斗和にはこのまま続けて貰いたい。だけどこれは斗和本人の強い希望なんだ。警備と任務は引き続き柱同様に行って貰うことにするよ。斗和、それでどうかな?」
これは予め、斗和と耀哉が取り決めていたことだ。
「はい。皆さんのお役に立てるよう、これまで以上に精進します。お館様、柱の皆様には大変よくしていただき光栄にございます。この先は一般隊士として、またよろしくお願いします」
斗和は右に体を向け、頭を下げた。
正面を向くと耀哉と目が合い、互いに微笑んだ。
◇
その後、恒例の任務報告と警備の報告などをし解散となった。
斗和は無一郎に挨拶をしてから帰ろうと思い、皆と言葉を交わすのを待っていた。
すると小芭内が話し掛けてきた。
「蓬萊、お前はお館様に条件を提示して柱になったのか?しかも二度も断るなどどういうつもりなんだ?甚だ疑問だ。それから、前にひょっとこの面を着け任務に行っていたらしいな?隠の中で相当噂になっていた。土柱は刀鍛冶にでもなったのか、気でも触れたのかと俺も甘露寺も聞かれて反応に困った。おかしなことをして甘露寺を困らせるんじゃない」
小芭内の話しは相変わらず長い。
長い上に、蜜璃を困らせるなと言っている。
そして面の話しをされるのは、天元に続き二度目だ。
共同任務はそれ程なかったが、事後処理の隠に見られていたのを忘れていた。
(もーどうしてこんなに噂になってるの?そんなにおかしかったかな?)
「そんなに噂になっていたんですか?一週間くらいしか着けていなかったんですけどね。お面は確かに私の刀鍛冶職人から貰いましたけど、ちょっと事情があったんですよ。…それより伊黒さん、この前は甘露寺さんと楽しそうでしたね。とてもお似合いでしたよ」
「…そうか?そう見えたか?」
小芭内が目を輝かせる。
「はい。誰かと並んで歩くっていいですよね。私も甘露寺さんみたいに魅力的な女性に憧れます」
斗和は、輪の中にいる蜜璃を見ながらしみじみと言った。
すると小芭内は、じいっと斗和を見てくる。
「甘露寺は誰より素晴らしく魅力的だ、間違いない。だが蓬萊、お前も少しは自信を持て。町で会った時は本当に驚いたのだから。…ひょっとこの面はもう着けるなよ。またあらぬ噂を立てられたら迷惑だからな」
小芭内はそう言うと、蜜璃のいる方に行ってしまった。
ネチネチしてはいるが、小芭内は気遣いのできる人間だと斗和は思う。
できることなら決戦を生き抜き、蜜璃と二人幸せになって欲しいと願った。
皆が挨拶を終えちらほらと帰る頃、斗和は無一郎に話し掛けた。
「初めまして、霞柱様。蓬萊斗和と申します。この度柱から一般隊士に戻りました。会議への参加はこれで最後ですが、今後もよろしくお願いします」
「お館様はああ言ってたけど、僕が加入しなければずっと柱のままでいられたんじゃない?」
「そのようなことはおっしゃらないで下さい。お館様の言葉通りです。私は当初から、柱になるつもりはありませんでした。自分のできることならと、九人揃うまで引き受けたのです」
無一郎は理解できないと思ったが、まあいいかと頷いた。
「そう…蓬萊さんて変わった人だね。柱だった人から霞柱様って呼ばれるの変だから、名前で呼んでよ」
無一郎はじゃあと告げ帰って行った。
柱は九人。
ついに歴代最強の布陣が揃った。
始まりは刻一刻と迫っていた。