※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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嫉妬

斗和は、男物の着流しと帯を風呂敷に包みながら考える。

 

(お礼はやっぱりおはぎかな)

 

 

 

いつぞやの雨の日、今までの詫びとして風柱邸におはぎを持参した。

 

だが斗和は、雨に濡れ着替えを借り、挙げ句寝てしまう失態を犯した。

穴があったら入りたかった。

這い上がれない程に埋めて欲しいくらいだ。

 

(結局、私は何をしに風柱邸に行ったんだろう)

 

自問するが、斗和はその答えが分かっていた。

本当は明確な理由などなく、ただ実弥に会いたかっただけだ。

 

だが、それを認めるのが怖かったのである。

 

斗和が鬼殺隊に入った目的は、杏寿郎を救う為だ。

これからが本番なのに、色恋にかまけている余裕などどこにもない。

 

そもそも斗和はこれまで、誰かを想うこと自体考えられなかった。

本来この世界にいるはずのない斗和は、分不相応だと思っていた。

傷のある醜い女が好いた惚れただの、何の冗談なのかと。

 

(目を覚ませ蓬萊斗和。お前の責務に向き合え)

 

今ならまだ間に合うはずだ。

だからこの気持ちには蓋をし、これ以上実弥に迷惑をかけてはいけない。

 

斗和は、風呂敷の結び目をギュッと握り締めた。

 

 

 

◇

「いらっしゃいませ」

 

「おはぎ二個と、あとは…栗羊羹をお願いします」

 

"かしこまりました"と言う店員は、慣れた手付きでおはぎと栗羊羹を包んでいく。

多種の甘味を揃えているこの店は、決めて来てもいざ購入する時に迷う。

斗和はいつもなら好物の芋羊羹なのだが、今日はこの店の看板商品・栗羊羹にした。

 

斗和は、前回も行った甘味屋でおはぎと栗羊羹を購入し風柱邸へ向かっている。

本人は頑なに認めはしないが、実弥が秘かに喜んでいると思えば礼はおはぎしかなかった。

 

あれだけのことをしておはぎだけというのも寂しく感じられ、焼きお握りと糠漬けも持った。

いつも焼きお握りでは芸が無いと思うも、実弥が美味しいと言った物をあげたかった。

 

そして訪ねるのもこれで最後にしようと、斗和はかたく誓う。

 

ふと上空を見るも、鴉の姿がない。

 

(令和は先に行ったのか…)

 

普段ならば見える位置にいる鴉の令和は、何度も行った風柱邸は案内すらせず先に飛んで行ってしまった。

令和は、任務伝令以外は全く喋らない鴉である。

それは斗和だからなのか、他の者ならば喋るのか分からなかった。

なので斗和は、今度自分以外の誰かに話し掛けて貰おうと思っていた。

 

(丁度いい。不死川さんにに頼もう)

 

 

 

───────

──────

角を曲がると、風柱邸の門前に隠と実弥の姿が見えた。

斗和は思わず歩みを止める。

 

毎日訪れている、家事を担っている隠だと思われる。

日々違う者が訪れているようだが、今日は女だ。

頭巾を被っておらず、小柄で背中まである長い髪が見えた。

 

斗和はこっそり見ていると、実弥が隠の頭巾を差し出しており、女は髪紐で髪を結んでいる。

そして頭巾を受け取る女の横顔は、柔らかに微笑んでいた。

 

斗和は胸がざわつく。

 

傷などない綺麗な横顔で、小柄で女らしい姿だ。

そして頭巾を渡す実弥の顔は、とても穏やかだった。

 

(あんな顔するんだ…)

 

ズキッ

 

斗和はいよいよ胸が締め付けられ、苦しくなる。

頭を下げて去る隠の後ろ姿を見つめていると、実弥が斗和に気付いた。

 

 

 

 

「これ、着流しと帯を洗いましたのでお返ししますね。ありがとうございます」

 

斗和は、玄関先で借りていた着流しと帯を返した。

 

「あァ…いいって言ってんのに、かえって悪かったなァ」

 

実弥は風呂敷に包まれたそれを受け取る。

 

「それからこれはおはぎです。休憩の時にでもどうぞ。あとこれは…以前作った焼きお握りと糠漬けです。美味しいと言って下さったのでまた作りました。よかったら食べて下さい」

 

続けて渡された風呂敷包みは、重みがある。

実弥は一瞬目を見開くも、気付かれない程度に表情を和らげた。

 

「…どうもなァ」

 

礼を言う声が穏やかに感じ、斗和も自然と笑顔になる。

杏寿郎のように喜びを全面に出す実弥ではないが、きっと悪い気はしていないのだろうと解釈した。

たったそれだけのやりとりだが、斗和は嬉しかった。

 

「…あの、今から手合わせをお願いできますか?」

 

「おゥ。すぐ行くから庭で待ってろォ」

 

実弥は庭で待っていろと告げ、玄関へ入って行った。

斗和はその姿を見て俯く。

嬉しかった気持ちが沈んでいくのを感じた。

実弥は初めてと言っていい程に穏やかだ。

これまでは途中で不機嫌になったりと、終始穏やかだったことはない。

 

何かいいことがあったのだと、斗和は直感で分かった。

頭をよぎるのは、先程の女の隠との光景だ。

 

(表情が穏やかなのは、あの隠に会ったから?あの人はよく来るの?あの人には笑いかけるの…?)

 

斗和は気付いた。

これは醜い嫉妬心だと。

実弥に笑いかけて貰える隠に嫉妬しているのだ。

 

平常心を保たなければ、まともな手合わせにならない。

それでも斗和は、普段通りにはできなかった。

 

(心を乱されるなんて…。こんな感情、何もかも消え去ればいいのに…)

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