今回のタイトルに使ったフリージアの花言葉は色によって異なりますが、黄色のフリージアは「無邪気」です。そして狂瀾。つまりそういうことです。そういうことなんです。
「…………」
一人の少女が、眼前を見据えながら固まっている。
那月琉花──水質変化の異能を持つその少女の視線の先には、水の入ったグラスが置かれていた。
だがその水は、ただの水ではない。
つい今しがた自らの能力によって変化させた、とてつもなく強力な媚薬である。
事の始まりは、先日図書館の奥でひっそりと鎮座していた本。
明らかに図書館のものではない、その漫画を開いてしまったことに起因する。
そこに描かれていたのは、様々な手練手管を用いて女性が犯されていく話の数々。
一際目を引いたのは、媚薬の存在だった。
ページを見比べてみても、使われる前と後とで描かれ方が全く違うのだ。
勿論漫画の中の話なのだから、大袈裟に描かれているだけなのだろうが──それでも、琉花の興味を引くには十分だった。
だが、いくら調べても出てくるのは、はっきり言って嘘臭さの漂う代物ばかり。
そんなものに使える程、金銭に余裕はない。
どうしたものかと思案する琉花の脳裏に、ある発想が浮かび上がった。
自分のエクシードは水質変化──それを上手く応用すれば、漫画の効果をそのままに持つ媚薬を作り出す事ができるのではないか。
その日から琉花は、そういった漫画をひたすらに読み漁り媚薬というものの確固たるイメージを己の中で強く固め続けた。
そして幾度となく試行錯誤を重ねに重ね──今、琉花の前にはイメージ通りの媚薬が鎮座しているのである。
「…………」
どくん、どくん、どくん。
見ているだけで、心臓が高鳴っている。
目を閉じて深呼吸を繰り返し、平静を取り戻す。
「…………ふー…………」
肩の力を抜いていく。
熱に浮かされて先走る思考を落ち着かせてから、ゆっくりと目を開く。
「…………よし」
意を決して、服を一枚ずつ脱いでいく。
全てを脱ぎ去り生まれたままの姿になって、確めるように眼前のグラスを睥睨する。
それを数秒──僅かに残った躊躇いを振り切るようにしてグラスを取り、そのまま一気に中身を呷った。
「────」
グラスの中身が空になる。
もう戻る事はできない、例えそれがどんな事態を招く事になろうとも。
「…………っ!」
ぼう、と身体の芯へ淫らな炎が灯った。
体温が少しずつ上がっていく、心臓がその鼓動を早めていく。
「はっ…………はっ…………」
気分が高揚し、落ち着かない。
じわじわと何かに蝕まれていくように、思考に靄がかかり始めた。
「ひっ……ぁ、は、ははっ……」
たまらなく可笑しくなる。
爪先から何かが這い上がってくるような感覚。
気持ち悪いのに気持ちいい──そんな、矛盾した錯覚が侵食している。
「あ……ぁ……はっ……あぁ……」
身体の疼きは急速に、咆哮をあげ始める。
見えない何かに急かされるようにして、その繊手を秘部へとやり──僅かに陰核へ触れかけただけで快感の奔流が暴発を起こした。
「ぁ……! ぁぁっ……!」
指が、全身が震えている。
熱いのか寒いのかさえ分からない身体は酷く不安定で、自分という存在を希薄にしていく。
怖くてたまらないのに求めずにはいられない、そんな破滅願望にも似た衝動。
琉花の指が更なる快感を求め、己の秘部を犯し始める。
「あうぅ! あッ、はっ! あぁぁッ!」
獣じみた叫び声をあげ、琉花はひたすらにその絶頂を享受する。
何もかもが弾けとんで砕けていくような感覚。
まるで脳髄を焼けた鉄の棒で叩き潰されていくような、狂おしい程の痛みを伴う快感。
目を剥き腰を無意識に動かしながら、琉花はひたすら淫靡に舞う。
ぐちゅ、ぐちゅと厭らしい水音を立てながら、己の秘部で指を蠢かす琉花にはもはや一片の正気すら残ってはいなかった。
頭と身体はより強い快感を際限なく求め続け、宙を彷徨っていた左腕が乳首へ伸びる。
「いッ、ひぁっ! はっ、あ、あぁっ!」
既に固く尖っていた乳首をつまみ、指の腹でしごく。
視界には忙しなく火花が飛び散り、もはや自分が何をしているのかさえ分からない。
「あっ……あぁっ! うあぁっ!」
絶頂する、絶頂する。絶頂する。
数十──百から先は数えることを止めた。
芯から燃え上がり、貪欲に快感を欲する身体はもう鎮まらない。
「あぁっ……はぁっ……はぁっ……ぁ……」
息も絶え絶えに、肩で辛うじて呼吸をする琉花。
そこでようやく、現在の異常性を理解する。
「……能力が……暴走している……?」
先程から全身を流れている汗──否、それは汗だったものが能力の暴走により媚薬と化したもの。
つまり、琉花は現在──内と外の両方から媚薬によって全てを狂わされているのだ。
「そんな……あっ! あうぅっ! あぁっ!」
自覚をしてしまえば、尚更止まる事はない。
砕かれる、溶かされる、呑まれていく。
早鐘を打つ心臓が。
肌を伝い、流れ落ちていく媚薬が。
全てが意思を持ち、牙を剥いているかのよう。
「ああっ……! う、あ、あああっ……!」
何度絶頂しようとも、満たされることはない。
飢えて狂い満腹を忘れた獣──否、それ以上に浅ましく淫らに、琉花は果て続け踊り狂う。
「あ……ぁ……は、ぁ……」
著しい酸欠と疲労で、倒れるように座り込む。
それでも尚全身が小刻みに震え、未だに快感を欲しているのが見て分かる。
「はぁ……はぁ……あ……」
深く息を吸い込んで、新鮮な空気を肺一杯に取り込んだ。
喉の渇きも著しいが、水分は取れない。
現状、新たに水分など取ってしまえば、もうどうなるか分かったものではない。
何しろ今この時、疲労困憊でどうにかなりそうなこの状況でさえ──もはや全身を支配している媚薬が、絶えず新たな快感を求めているのだから。
右腕が無意識に秘部へ進もうとするのを、左腕で強く掴み押し止める。
「あっ……く、うぅ……!」
止めなければ、抑えなければならない。
残されている理性を総動員する。
まだ引き返せる──ここが分水嶺。
ここを越えてしまえば、もう後はないのだと。
「は──あ──」
そうだ。
引き返せる。
まだここで。
もうここまでで。
……欲シイ。
心臓が、一際高く不穏な鼓動をあげた。
まだ、あたしは。
引き返せ──。
……欲シイ。
全身から、血の気が引いていく。
遠くなっていく世界。
呆然とどこかに、浮いていくような感覚。
不穏な鼓動を繰り返す心臓だけが、けたたましく存在を主張している。
「あ……ぁ……?」
思考が荒れ狂う
何をしていて、何を考えていたのか。
ほんの数秒間がまるで、遠い過去の事のよう。
何だろう、何を堪えていたのだっけ。
分からない、思い出せない。
確かなものは、未だに鎮まらない──快感を求めて疼き続けるこの身体だけ。
右腕が秘部へと伸びる。
一方で、脳髄が止まれと叫び続けている。
なぜ脳は、こんなに必死にも──それを押し止めているのか。
意味が分からない、理解もできない。
全ての思考を放棄して、指が秘部へと沈み──その全てが瓦解した。
あれから何時間が経ったのだろう。
自らの思考に、肉体に裏切られ琉花はひたすら快感の濁流に呑まれ果てていた。
理性の振り切れた肉体は止まるところを知らず、その絶頂は優に千を越え──尚気絶する事さえ許されずに琉花は快感に突き動かされている。
「あ……は……あ、ぁ」
もはや指の、いや全身の感覚が薄れている。
限界などとうに振り切って、それでも今こうして立っているのは、まだ体内の媚薬が排出されきっていないためだった。
「…………ぁ……ぁ……」
取り憑かれたように秘部をかき回して、絶頂を促す。
行く先に確かに存在するはずの終点、それが果てしなく遠く──存在するのかどうかさえ疑わしくなる。
「あ、あうぅ……!」
絶頂し、排出される。
それを繰り返す、何かに追いたてられるかのように。
一刻も早く、終わりが来ることを願って。
「…………あ」
もう何度絶頂を迎えたか分からない、そんな無限にも思える時の中で。
唐突にそれは訪れる。
肉体が実感を告げた──体内の媚薬は全て排出されて流れたのだと。
途端に。
視界が揺れる。
足場が酷く不安定になり、立っている事ができなくなった。
「ああ…………」
床に倒れ込み、そのまま天井を見上げる。
まるで糸の切れた人形のよう──もう自分の意思では、指一本動かすことさえできなくて。
琉花の意識はそのままゆっくりと、優しい闇に呑まれて果てた。
優しい闇に呑まれて果てたのは気絶しただけで、別に死んではいません。
能力は使い方次第だけど、一歩間違えるととんでもない事態を招くと言う教訓めいたお話でした。