推しなのにひどい目に遭っているって? いいえ、推しだけどひどい目にあうことに何の矛盾があるというのですか
その日、システムホワイトエグマの少女──レティシアは行き詰まっていた。
レティシアはアンドロイドの開発者になるために、ずっと努力を重ねてきた。
偉大なる先駆者達に追い付くために、可能な限りの時間を勉強と研究に費やしてきた。
────だが。
「…………」
どうしても超えられない壁。
凡才である自分と、天才たるものの絶対的な差。
それは幾ら努力しようとも、絶対に埋まることのない
泣きたくなる。
投げ出したくなる。
いっそ全てを諦めてしまう事ができたのなら、どれだけ楽だったのだろう。
「────」
奥歯を噛み締め、レティシアは前を向く。
たとえその道の先に何もないと分かっていても、自分には他に行く先など無いのだから────。
脇に置いたドリンクを喉に流し込んで、何度目かも分からない溜息をつく。
どうして自分には、才能が与えられなかったのだろう。
最近行き詰まった先に迷い込む、思考の迷路。
本当に嫌気が差す──ここの所、そんな事を考えてしまう自分に。
「…………ん?」
レティシアはふと、現在の状況に違和感を覚えた。
さっきから、妙に暑苦しい。
エアコンの故障だろうか──確認をしてみても、どうやらそういうわけではないらしい。
「…………?」
だとしたら何だろう。
そして異変はそれだけに止まらない。
額に、尋常ではないくらいに汗が浮いている。
知らないうちに、風邪でもひいていただろうか。
頭の中は、まるで靄がかかっているかのように重く──思考がうまく働かない。
「はぁっ……はぁっ……」
息が荒くなっている。
汗はいつの間にか全身から生じていて、濡れて素肌に張り付く衣類がいつになく気持ち悪い。
熱い暑いあついアツイ。
まるで何かに操られるかのように、レティシアはその白衣を脱ぎ捨てる。
「あぁ…………はぁ……ぁぁ……」
まだ足りない。
脱ぎ捨てる、全部──なにもかも。
熱くて熱くて、仕方ない、から。
「あ────」
生まれたままの姿になっても、レティシアの熱は静まらない。
レティシアは無意識のうちに、ひどく熱を持ち──疼き続ける秘部へとその指を伸ばしていた。
「ひっ────」
僅かに触れただけで、全身に電撃が走るかのよう。
とてつもない衝撃に、震えが止まらなくなる。
どくん、どくん。
心臓の音がうるさく響く。
明らかにおかしい。
どうにかしている。
判断力の消えかけた思考が、引き返せと叫んでいる。
そうだ、まだ引き返せる。
これで服を着直して、今日はもう帰って──それで終わり。
それだけで終わる。
そうするだけで、全部。
なのに────。
「……どうして?」
身体が動かない。
服を掴もうと伸ばす腕は、服に届いてすらいない。
まるで見えない壁に押し止められるかのように、レティシアの腕は空しく宙を漂っている。
「…………え?」
レティシアが注視していたのは、服を掴もうとしていた自らの右腕──ならばもう片方、左腕は何を?
それに気付いた時にはもう遅く。
レティシアの左腕は既に、己が秘部へと侵食を開始していた。
「なんで……嘘っ……い、嫌ぁっ!」
籠る熱を掻き出すかのように、レティシアの指が激しく蠢く。
「きっ……ひっ、ぃ──」
視界が点滅を繰り返す。
全身が甘い痺れに蹂躙され、塗り潰されていくかのようで。
「あ、あぁ……あぁぁ……」
足りない足りない足りない。
脳が叫ぶ。
もっともっともっともっと。
宙を漂っていた右腕は、いつの間にか乳首を触り始めていた。
身体の主導権が、違う誰かにそっくりと渡されてしまったかのように。
止まらない。
止まらない。
止められ、ない。
犯されている──自分の、指に。
そう形容するしかないこの状況が、ますますレティシアの快感を高めさせる。
ぞくりと。
高まっていく──身体の芯から発する熱が、確かな形を帯びて。
「いっ……いいいっ……」
意識さえ曖昧なまま、レティシアは一心不乱に両の手を動かし続け────。
「あ──ああああっ!」
絶叫と共に、果てる。
身体中の力が抜け、レティシアはがくりと項垂れた。
「ふーん、楽しそうな事をしてるのね。レティシア」
「────」
レティシアを急速に現実へと引き戻す、甘い声。
顔を上げれば毒夜の闇薔薇と異名を取る──魔女、リゼリッタが不適な笑みを浮かべながら立っていた。
「あ……ぁ……」
理解が追い付かない。
身体に力も入らない。
まるで蛇に睨まれた蛙のように、レティシアは小さく震える事しかできなかった。
「でもここまで効果があるなんてね。どうだったかしら──
リゼリッタの口から、恐るべき事実が告げられる。
「は……? え……? び、媚薬……?」
混乱するレティシアを見て、満足げに頷くリゼリッタ。
「あなたが飲んでたドリンクね、私の作った媚薬を入れといたのよ。あなたがここで作業を始めてから一度、トイレに立った時に忍び込んでこっそりとね」
「な……なんで……」
そんな事をと言い切る前に、リゼリッタが背後へ密着した。
「なんで? 決まってるじゃない──面白そうだから、よ」
リゼリッタの指が、レティシアの乳房へ伸ばされる。
「あなた肌が白くて綺麗ね。それにすべすべしてて──凄くいいわ」
「や、やめっ……」
レティシアの制止などおかまいなしに、リゼリッタはレティシアの乳房を揉みしだく。
ゆっくりと慈しむように──そうかと思えば少し強く。
乳首には一切触れぬまま、焦らすように──それだけでレティシアを悶えさせている。
「いっ……いや、嫌っ……」
「口では嫌がってるけど、身体はそう言っていないみたいよ?ほら、見てごらんなさいな。自分の身体がどうなってるか」
レティシアが視線を落とすと、そこには新たな蜜でしとどに濡れた己の秘部。
先程のものだけではない──リゼリッタに触れられ秘部が愛液を溢れさせているのだ。
「お堅いヤツかと思ってたけど、もしかして淫乱なのかしらあなたって」
耳元で囁かれ、レティシアの身体が震える。
静まっていた熱はあっという間に全身に灯り、その息づかいは先程よりも更に荒くなっていた。
「おねがい……やめて……リゼ……リッタ……!」
絞り出すようなレティシアの懇願を。
「だーめ」
嘲笑いながら、リゼリッタはレティシアの乳首をつまむ。
「あ……! あああっ……!」
絶頂に身体をのけ反らせるレティシア。
それを見て、リゼリッタはより一層の笑みを浮かべる。
「いいものを見せてあげるわ、レティシア」
リゼリッタはそう言うと、懐から小瓶を取り出した。
「ま……まさ……か、それ……」
何かを察したかのように震えるレティシアと。
「そう。あなたの飲み物に混ぜた──媚薬の原液よ」
文字通り、悪魔のような笑みを浮かべるリゼリッタ。
「選ばせてあげるわ。今この場でそれを飲んでブッ飛ぶか、ここで一切合切を終わらせて日常に戻るか」
手渡された小瓶を見つめるレティシア。
考えるまでもない。
こんなものすぐにでも投げ捨てて。
日常に、帰──。
思考が判断を下す前に、レティシアの身体は行動を起こしていた。
小瓶の蓋を開け、躊躇することなく──その中身を全てを飲み干して。
こくり、と喉が鳴るのと同時に。
自分の全てを溶かし飲み込むような、圧倒的な快感がが己の全てを塗り潰していく。
「あ……あ……」
自分の中に渦巻くものが、音もなく消えていく。
あらゆるものが溶けてなくなり、残ったものは──より快感を求める浅ましい情欲。
「……ちょうだい……リゼ……リッタ……もっと、わたしに……」
譫言を呟きながら、リゼリッタにすがりつくレティシア。
そんなレティシアの頭を、リゼリッタは慈しむように優しく撫でる。
「そうこなくっちゃ。何もかも──全部忘れるくらい、溺れされてあげるわ」
リゼリッタのその言葉を最後に、レティシアの記憶はぶつりと途切れた。
「……ぅ……ん」
重い瞼をゆっくりと開け、レティシアがその身体を起こす。
「リゼ……リッタ……?」
周囲を見渡しても、その名を持つ魔女は見当たらない。
自分の服装もきっちりと全て身に付けており、まるで記憶にある出来事が──全て悪い夢だったかのよう。
「本当に夢だったのかしら……?」
だとしたら、どれ程欲求不満だというのか。
レティシアは苦笑し、椅子へとその腰を下ろす。
眼前に広がるのは、行き詰まりを感じていた研究。
あれだけ苦しみ、苛立ち、焦燥の原因と化していたそれを見ても、レティシアの心はまるでさざ波一つ立たない水面のように落ち着いていた。
頭の中はすっきりと晴れ渡り、どことなく余分な力さえ抜けた気がする。
「さて──もうひと頑張りするとしますか」
レティシアは大きく伸びをして、誰にともなく呟く。
まるでその呟きに呼応するかのように──床に転がる小瓶が陽の光を浴びて、小さく輝きを発したのだった。