アラームが鳴って、起床する。
主の部屋は特別、ということなのか、この離れの部屋は二間続きになっている。その寝室のローベッドで目を覚ますと、隣に長谷部はもういなかった。
あれから、彼は何度か私の部屋に通って来ている。だが、私よりも先に起きて部屋を出て行く。仕事の都合で仕方がないのだが、少し寂しい。
最早着付けるのもお手の物になった巫女服に袖を通して、長谷部のくれた猫柄のシュシュで髪を纏める。そうして朝の支度を済ますと、居間へと向かった。
厨に入って朝餉のお膳を受け取りに行き、居間の好きな席で食べる。そして食べ終わったら厨に下げる、というのがこの本丸の朝食の流れだ。
「やあ、おはよう」
居間で空いている机に膳を置くと、大般若が私の隣に座った。
「あれ、大般若。おはよう」
挨拶を返しながら少し驚く。
食事時、私の隣には短刀たちが座ることが多い。
明確な順番の取り決めなどはないが、どうも前日に隣を取った者は譲っているように見受けられる。
大きな刀が隣を取ることは、まずなかった。
「あんた、最近かなり勉強熱心なようだが」
大般若が柔らかく微笑んで、首を傾げる。
「俺にも聞いてくれていいんだよ? この本丸の状況による所も、戦術には大きく影響するだろう?」
ああ、その話がしたくて隣に座ったのか、と納得する。
「ありがとう。一通り基礎がわかったら、教えて貰おうかなって思ってたよ」
「よかったら、政府の資料室を見に行かないか」
「資料室?」
「主な合戦場の模型なんかもある。本で学ぶよりわかり易いんじゃあないかな」
「へえ、そんな施設があるんだ」
「今日は暇があるかい? 俺は非番なんだが」
大般若はジャージを羽織っていない、白いシャツとベスト姿だった。よく見ればアームガーターもしていない。内番で袖を汚す心配がないからだろう。
「非番なのに、審神者の勉強に付き合って休日を消費していいの?」
「真面目な俺にぴったりの休日じゃあないかい」
眉を上げる彼に笑ってしまう。
「ちょっと長谷部と相談してみる」
執務室で事情を話すと、長谷部は眉をひそめた。
「それならば、近侍である俺と行くのが良いのでは」
「でも、大般若が折角誘ってくれたし……」
「戦術に関しては俺と話し合う方が多いだろう? 俺が適任だと思うが」
声と同時に、開け放たれた執務室の鴨居を、長身を軽く屈めて大般若がくぐった。
長谷部が彼を睨む。
彼は私以外の、男士たちへの態度が荒いところがある、とは気付いていたが。その中でも大般若には一際冷たいように思える。
一方の大般若は、それに応じるということもない。いつも通りに微笑みながら長谷部を見ていた。
これはどう見ても長谷部が悪い。
「長谷部。もっと友好的な態度で接して。仲間なんだから」
「は……」
窘めると、睨むのはやめて視線を逸らした。しかしその表情は険しい。
「急ぎの仕事はなかったと思うから、今日は留守をよろしくね」
「……かしこまりました」
不服そうな長谷部を置いて、執務室を出る。
相手が大般若ではなければ、もう少しスムーズに了承を得られたのではないか。姉の代に何かあったのかもしれない。事情を知らない私がとやかく言うことではないのかもしれないが、二人の関係性がいまいち掴めないでいた。
執務室から歩きながら、隣の男に問いかけた。
「あの……二人は仲が悪いの?」
「ええ? いやあ俺はそんな風には思っていないが」
大般若は口を開けて笑った。
「まあ、そうだな。長谷部くんは誰に対してもぶっきらぼうなところがあるが、俺に特にアタリが強い感はあるねえ」
「やっぱりそう思う? なんでかな……」
第一部隊の隊長である大般若と近侍の長谷部。三人で話すこともあるが、なんとなくぴりぴりとした空気を感じていた。この口ぶりでは、大きな衝突があったとか、そういった心当たりはないようだが。
「長谷部くんは近侍だからなあ。第一部隊の隊長である俺と、張り合う部分はあるかもしれないな」
「ああ、なるほど……」
それはあるかもしれない。
他の面々には司令塔として指示をする立場だが、戦のことならば逆に大般若が指示を出す役職だ。近侍と隊長のどちらが上ということもないが、意識しているのかもしれない。
「長谷部がもっと、みんなと仲良くしてくれると良いんだけど」
「長谷部くんが心配かい」
「そりゃあ……」
公私混同と言われるかもしれないが、長谷部の交友関係が上手くいっていなければ、やはり気になるに決まっている。
「俺のことももっと気に掛けてほしいが」
「大般若はみんなと仲良くできてるでしょ」
彼は誰とでも上手くやれる刀の筆頭候補だろう。相談されたり調整役になる立場であって、誰かとトラブルを起こすとは全く思えない。
「あんたが長谷部くんの話ばかりするから、妬いちまったんだよ」
「んえ」
不意に顔を寄せてそう言ってくるものだから、面食らった。
だが、この刀にはそういう冗談を言う性質がある、ということは知っている。うちの大般若からそういう種類のからかいを受けたのは、初めてだが。
「俺みたいのは好みじゃあないかい」
「そんなことはないけど。刀剣男士はみんなかっこいいからね。大般若も」
笑って差し障りのない返事をした。
「ひ、広い……」
訪れた施設を前に、私は立ち尽くした。
政府支部ならば転送ゲートでひとっ飛びであるため、万屋街を歩くのに比べてアクセスは抜群に良い。その上資料室には、その場で来訪者記録に登録をするだけで簡単に入れた。
足を踏み入れて唖然とした。
もっとこぢんまりした場所を思い浮かべていたのだが。
大規模な博物館や美術館レベルの広さ、天井の高さ。そんなに展示と展示の間を開ける必要があるの? と首を捻りたくなるような広大な余白の絨毯。
「そうだろう。俺は以前来たときから、この施設の維持費が気になって仕方がない」
大般若が隣でうんうんと頷く。
こんなにも立派な施設なのに、訪れている人は少ない。政府職員が管理と見回りに出入りするくらいで、たまに人影があるとびくっとしてしまうレベルだ。
「私も知らなかったし、もっと審神者に周知させた方がいいんじゃないかな」
「そこら辺、流石は政府ってかんじだよなあ。PRが足りないんだよなあ」
「そういえば大般若はなんでここを知ったの」
「則宗が行った方が良いって教えたんだよ。税金の元を取って来いってさ」
確かに。ここの維持費は税金だ。
「そう言われると……しっかり見ておこうって気になるね」
「血税でできていると思えば、勉強にも身が入るなあ」
各合戦場の模型、戦況の変化と陣形の流れ、その解説は見応えがある。
それを追いながら、ときには大般若に補足説明をしてもらって歩いた。
「以前ここに来たときに、あの子がイヤリングを片方落としてね」
「こんな広大な場所で」
「大きな花のモチーフで、赤いやつだったんだが、探すのにかなり苦労したよ。あれが一粒石のものだったりしたらどうなっていたか」
「うわあ」
考えただけで絶望的な気分になる。
「名前が書けるものなら誰か拾ってくれて帰ってくるかもしれないけど、イヤリングじゃあね」
「そうだな」
薄く笑って、大般若は同意した。
「なくしたくないものには、名前を書いておくのが一番だ」
その日は併設のカフェで休憩をして、本丸に帰った。長谷部の様子が気になったので早く帰りたかったが、折角来たのだからという大般若の誘いに乗って、少し長居をした形だ。カフェのメニューも意外にも美味しく、今度は長谷部を連れて来てあげようと考えつつ、施設を後にした。
翌日、大般若の部屋の納戸に向かった。
資料室で落とした赤い花のイヤリングというのが、どれだか気になって。
部屋の外から声をかけて返事がないので、襖を開けてそのままお邪魔する。遺品のある納戸には勝手に入って良いと言われている。
大般若が姉に贈ったものを私が自由に使うというのは、最初は気が引ける部分が大きかった。でも、彼が使ってやった方がいいんだと言うから。
言われてみれば、用途がなくなった物たちがただ収納されているのは物悲しい気がして、今では代わる代わる色々な品を身につけている。
「おや、ここに居たのかい」
座り込んでアクセサリー類を見ていると、扉が開いている納戸を覗き込んで、大般若が私を見つけた。
「昨日言ってた、資料室で落としたやつってどれだろうと思って」
「ああ。折角無事に見つけ出したからね。よかったら付けてくれよ」
笑って、彼も隣に座り込むと、一緒にアクセサリーボックスを探し始める。
それらしい大きさの箱をいくつか開けて、数個目で大般若がそれを引き当てた。
「お、これだ」
その小さな箱を覗き込む。
大ぶりな花の意匠だが、思ったより派手ではない。
「付けて見せておくれよ」
赤とは言っても黒みがかった、落ち着いた色合いの花弁だった。彼が今ベストの下に着ている、赤いシャツの色と似ている。それを手にとって、ひとつ、ふたつと耳に付けた。
「鏡がないから。ちゃんとできてる?」
「ああ。とてもよく似合う」
黒い手袋がそのイヤリングに触れて、そのまま、頬を撫でた。見つめる瞳が優しく、顔に触れる手がくすぐったい。
距離感の近さに少し焦るが、大般若はそういうところがある。
ふと、その視線が、私の髪に止まった。
「なあ、あんた。最近ずっとその髪留めを使っているが」
「このシュシュ? かわいいでしょ。猫柄なの」
「よほど気に入っているのかい」
疑問に思うのもわかる。だってここに、こんなに沢山ヘアアクセサリーがあるんだから。
それなのに、ここ一週間ほど、これをずっと付けている。前は色々な物を毎日変えて使っていたのに。
「髪留めなら、あるだろう。簪も櫛もバレッタも、たくさん」
言われて、変な汗が出る。
「そうなんだよね。それも素敵なんだけど……でも……これは特別だから……」
「特別?」
顔が熱くなる。
なぜこれなのか、上手くはぐらかして説明できない。
彼との交際をまだ誰にも話していなかった。
「何が特別なんだい。何かの記念の品なのかい」
「それは……」
秘密にしているわけではない。みんなの前で発表なんてわざわざしないだけで。
特に大般若は、男士たちの中でも私と親しい。これを機に話してしまってもいいかもしれない。
「これは……長谷部が、くれたから」
大般若が口を開くまで、少しの間があった。
「あんたは、長谷部くんのことが……好きなのかい」
「……そうだよ」
頬が赤いかもしれない。その顔を見られるのが恥ずかしく、少し俯いた。
「付き合ってるんだ。長谷部と」
驚かせただろうか。大般若が黙り込んで何も言わないので、落としていた視線を戻す。
そうして、戸惑った。
彼の美貌に浮かんだのは、口元を歪ませて、その涼やかな切れ長の目を、片方だけ細める表情。
まるで、不快感、のような。
ゆっくりとした瞬きの後、その表情を消して、彼が私に手を伸ばした。
私の髪に。それを纏めているシュシュに。
髪が解けて、肩に落ちる。
「な、に」
彼の意図が、思考が掴めない。
張り詰めた空気に心当たりがなくて、ただ、様子の変わった彼に動揺した。
「俺の方が」
掠れた言葉を発した唇が近づく。視界から消える。私に、触れる。
一拍置いて、キスをされたのだと理解する。
「あんたに似合いの刀だと思うが」
僅かに離れた互いの顔の間で、言葉が紡がれた。
目を見開く。
大般若は私と姉を重ねたりはしない。ずっとそうだったじゃないか。
「私は姉じゃないって、わかってるよね?」
「わかってるよ。……ちゃんとわかってる」
赤い瞳がすぐ目の前にある。
窓もない納屋の中。棚と衣装掛けの間に座り込んで、狭い壁を背に、胸同士が触れそうな距離で見下ろされている。捕食されかかっている動物のように、背筋が竦み上がった。座ったまま後退って、背中が壁に当たる。
そこに彼が覆い被さるように屈み込んで、顔が近づく。
「ちゃんとあんたを、愛しているよ」
「っ、ん」
うそ、と言いかけた唇を塞がれる。そのベストを着た胸を押し返すが、びくともしない。
首筋に同じくキスが落ちる。長谷部よりも薄い唇の感触。
「般若、お、落ち着い、て」
腰を抱いて身体を密着させられると、長谷部よりも骨格は大きく、厚みは薄い身体がよくわかる。そして、体温と香水のにおい。
「放して……っ」
巫女服の帯に手をかけられて、心臓が跳ねた。胸の下にある緋袴のリボン結びが掴まれ、そのまま彼が長い腕を伸ばすと、それは簡単に解けてしまう。
「私は、長谷部のことが、ん、む」
唇が再び塞がれて、言葉が途切れる。濡れた舌が唇を這う。
口内に舌が入ってくることに抵抗している内に腰を抱く腕で、袴の後ろの結び目も解かれて、床に落ちる。
「ん、う」
歯列をなぞってその間を滑り、上あごを舐める舌の動きに、背筋が痺れる。長谷部はこういう風にしない。気持ち良さと気持ち悪さで鳥肌が立った。
押し返そうとした舌先が絡め取られて、唾液が唇を伝う。
あわせの間に滑り込む大きな掌が下着の上から膨らみを撫でて、扇情的な動きをする。
「んむ、う」
呼吸が苦しい。合わさる唇の間から時折息継ぎをすることを許されながら、徐々に意識が朦朧とする。胸を押し返すことや胸をまさぐる腕を止めることを試みるが、そんな抵抗も絶対的な力の差の前では虚しい。腰を抱いていた方の腕が、白衣の上からブラジャーのホックを外した。彼我を隔てる装備が剥げていく焦燥感で、更に鼓動が速まる。
「は、あ」
胸の先を指の間接で挟んで軽く力を込められ、高い吐息が漏れた。合わさった唇の間でその吐息を彼が飲み込んで、喉を鳴らす。
座り込んだ膝の間に、彼が身体を割り入れる。そのまま一番触れられたくない足の付け根に、指先が這う。
「や、ああ」
どんな抵抗をしたところで敵うわけがないと酸素の足りない頭の片隅で理解しながら、それには全力で抗おうとした。
振り回した腕がラックに当たって痛みが走る。その手を取られて、撫でられた。
「ほら、暴れちゃあ危ないよ」
「……っ、は、放して」
「放したら、逃げるだろう」
大般若がその腕ごと私の背中を抱いて、押さえ込む。そうしながら、下着越しに中心をさする動きは止まらなくて、意に沿わぬ痺れが広がる。
つるつると下着の上から指が滑って、貼り付く生地が粘膜に食い込む。つ、と爪を立てられて軽く撫で上げられると、せり上がる快感に身を捩った。
「う、うう」
涙が零れて、嗚咽が漏れる。
壁と彼の身体に挟まれて折りたたまれた足の間、下着が濡れて貼り付いてしまっている。それを赤い瞳が見つめるのを意識して、息が詰まった。
「見ないで、やだ、ちがう」
「大丈夫だよ。よくなっちゃいな」
彼が足の間に屈み込む。
「や、だ……あっ」
懲りずに押しのけようと伸ばした両手を、彼の私より二回りは大きい、黒手袋の両掌が捕らえる。そうして両手の指同士を絡められて、恋人つなぎのようにして制された。
視線が低い。抵抗するうちに身体が壁からずり下がって、背中がほとんど床に付いていた。
肩から上を壁に預けた姿勢で、彼の舌が、薄い布地の上からそこに触れるのがよく見える。
「だめ、だめ……!」
一番敏感な部分に、濡れた舌の先が押し当てられた。
「あ、ああ」
鋭い痺れが走って、つま先に力が入る。
滑らかな布地越しの、生暖かいざらつく質感。腫れ上がった弱い突起を絡め取るように蠢いて、急速に追い詰められる。
「ひゃ、や、それ、や!」
逃げようと身を捩ったのが更に刺激を生んでしまい、どうにもできずに硬直した。腰の横で私の両手を封じている彼の指が、とんとんと宥めるように手の甲を叩く。
どろどろに蕩けたものが、舌を這わされる度に溢れて、布地からじわじわと染み出ている。
「あっ、あ、たすけ、て、だめ……っ!」
嬲るような舌の動きに限界を感じて、泣きながら懇願する。
「っ、やだ、やあ、いきたくないよお」
彼の深い吐息が、責め立てられている部分にかかった。唇に挟んで強くついばまれて、頭が真っ白になる。同時に、私の訴えは逆効果でしかなかったことを悟る。
吸い付かれる刺激に、大きく身体が跳ねた。
「ひっ……い」
ずっと耐えていたものが、はじける。
ぎゅっと内股が閉じて、びくびくと痙攣する。恋人同士のように絡めた指を強く握りしめてしまうと、それを返された。
目の前で大般若が手袋を、ネクタイとボタンのひとつふたつを外す。その後ベルトに手を掛けるのをぼんやりとした視界で追って、我に返った。
のろのろと、重たい手足で床に投げ出した身体を起こす。
「良い子にしてな」
ベルトを外す音に怯えて逃げようとするが、狭い納戸の中、出入り口は彼の後ろにある。
「おっと」
そこを目指して身体を投げ出したのを抱き留められる。その大きな身体に恐怖を感じて、竦み上がった。
「……っ、やだ、こないで」
彼の腕から逃げようと胸を押し返し、反射的に背を向けて、そのまま。背中から抱き締められて、膝立ちになったまま、追い詰められた壁に手を付いた。
「そんなに怯えなくても、やさしくするよ」
イヤリングをした耳許に、吐息と銀髪がかかる。
「だめ、やだ、だめ……っ」
ぐっしょりと濡れて貼り付いた下着を横にずらして、手袋を取った素手が直にそこをなぞる。指で、肉の割れ目を開かれる。続いて押し当てられたものに、身を竦めた。
「あ、あ、あ」
押し広げられる生々しい感触が、せり上がってくる。へその下まで届いて、好きな男にしか許したことのない身体の奥が一杯になる。その、喪失感。
一方で意思に反して、彼の形に開かれた場所から、もどかしいような疼きが広がる。
それがじんじんと脳にまで響いて、麻薬のように思考を鈍らせる。
「ん……、気持ちいいね」
切ない囁きが耳にかかって、その刺激に背筋が震えた。
「やだ、や、きもちよくない……っ」
「んん?」
ゆっくり腰を回されて、蕩けるような痺れを覚える。
ぎゅっと締め付けてしまうのを、どうやっても止めることができない。繋がった場所から全部伝わってしまって、この快感が筒抜けになっている居たたまれなさ。逃げ場なんてないのに、必死に壁に縋った。
「ひっ、い」
角度をつけて腹側の弱い部分を抉るように、彼の腰が動く。頭が真っ白になって、全身が粟立つ。汗が噴き出る。
「ここ、好きなんだ?」
腰を回して突き上げる動きが、敏感な場所を捉える。ぬちゅぬちゅと粘着質な水音がして、内ももに体液が伝った。
「すきじゃ、ない、あ、あ、それ、そこ、やめて……っ」
ぼろぼろと涙が零れた。
ああ、これは好きな人とするから気持ちいいのではないのか、という理解が、心の奥にどす黒く溢れる。
胸の膨らみが両手にすっぽりと覆われる。その先端を指の関節に挟まれて圧迫される。中を擦られる痺れと合わさって、堪らない快感を生んだ。
「胸も、感じるね。長谷部くんに教えてもらった?」
言いながら、長谷部とは違う風に愛撫される。
指の間に押し潰すように擦られて、圧迫される鈍い痛みが広がった。
「は、うあ」
その微かな痛みがもどかしい疼きになって、甘く吐息が溢れる。
「かわいいねえ」
翻弄されるままに身を捩ると、大般若が満足げな笑いを浮かべた。
「長谷部くんより、よくしてあげようね」
「や、っひゃ、あ」
ゆっくりと強く、押しつける動きで腰を回されて、中が噛みしめるように彼のものを締め付ける。そのまま抜き差しされる動きが混ざって、眩暈がするような強烈な酩酊感に溺れさせられる。
「ああ、ぎゅうってなるねえ」
「や、や、うああ」
言葉にされる辱めに煽られて、身体が更に熱くなる。
いつもは仄かにしかわからない彼のフレグランスの香りが、体温が上がって汗をかいているために、納戸の中で香り立つ。荒い呼吸がそれを思い切り吸い込んで、酸素と一緒に体中に彼の香りが行き渡るようだ。
やがて目の前がチカチカして、必死で両手を付いた壁に縋った。
「あ、ああ!」
中が強く震える。
意識が飛びそうな、高いところから落ちるのにも似た強い強い衝撃。
膝が崩れて、背後の大般若にもたれかかった。
「ん……よしよし。良い子だ」
その身体を抱き留められて、頭を撫でられる。口を閉じられずに、魚のように上を向いて酸素を取り込みながら、覗き込む彼の顔を見上げた。
「知ってるかな。一回イクと、痛みを感じにくくなるんだよ」
思考力が鈍って、その言葉の意味が上手く下りてこない。その、絶頂を迎えた後の漂うような感覚が、次の瞬間、一気に吹き飛んだ。
「ほら」
突き入れられて、一番奥が押し潰される。
「っひ、……っ!」
火花が散るような酷い快感に、背筋が反り上がった。膝が震えて自分の体重を支えられずに、彼の上で身体が跳ねる。その反射によってまた奥に思い切り当たってしまって、声にならない声で叫んだ。
「ね? 痛く、ないだろう」
もう一度、同じように奥を抉られて、ぎゅっと引き絞るように内臓が捩れる。
「……っい! ひっ、ぎ、っ」
「っ、奥んとこ、俺ので覚えちゃおうな……っ」
掠れて上擦った声色が、律動に合わせて途切れ途切れに耳打つ。
そのむせ返るような艶めかしい音にも煽られて、追い立てられる。
粘着質な水音と、汗ばんだ肌の当たる質感、いやらしいお互いの吐息。
あんまりにも生々しい。長谷部と触れあっているときの、恋愛感情で覆われた甘やかな快感とは全く違う。
どろどろになって擦れ合っている深いところから、何度目かの限界が内蔵を駆け上がってくる。血の沸くような感覚に泣き叫んで、ぎゅっと身体の内側が引き結ばれた。
「あ、ああ、や!」
「っ、ん、う」
奥に溢れる。
同時に彼の悩ましい声が、薄い唇が耳殻に触れる。
収縮して搾り取ろうとする動き。それに逆らわないでびくびくと震えて、奥に注がれる欲望。
体重を預けた彼の身体が深い呼吸によって、私を乗せたまま大きく、ゆりかごのように上下する。
浮遊感は残酷にも多幸感を伴っていて、身を預ければ心地良い。
そのまま意識が遠のいた。