※この作品はR-18です。

折れた審神者の二振り目   作:あさ子

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5.疑心

 意識を失ってしまった妹御の身体を拭いて、巫女服を着付け直した。

 座布団を枕にして横たえて、目を閉じたままのその寝顔を見つめる。

 あの子とよく似ているが、今ではその容姿だけであってもすっかり見分けがつくようになっていた。顔立ちは一緒でも、顔つきが違う。それが寝顔であってもどこかに違いが出るのは興味深いことだ。

 目を覚ました彼女が、二度三度と瞬きをする。

 そうして少しの間を持って、身体を起こした。俺に対して怯えるというようなことはなく、ただ困惑した表情が浮かぶ。

「……どうして」

 取り乱すかもしれない、泣いて罵倒されるだろうか、などと想像していたが、彼女の反応は予想外のものだった。

「こんなこと……」

 動揺はしている。視線の動きや握りしめた両掌からもそれはわかる。だが、冷静でいようとしている。

「……正気ではなかった、一時の気の迷いだった。そうだよね……?」

 張り詰めた声でそう言う彼女の、その心の内を推察する。

「元に、戻れるよね……?」

 何事もなかったかのように収めようというのは現実逃避かもしれないが、更なる被害が一番少ない方法であるのも事実。

 まずはそれを試みようという判断は妥当なところかもしれない。

 ただ、感情が許せば、だが。

 俺が彼女に、最悪の方法で被害を与えたのは事実。それを糾弾する権利も地位も十二分にある。

 怒りに任せて刀解するでも折檻するでも、自由だ。

 その上で、彼女は元のように関係を修復したいと考えている。それはあまりにも寛大な措置だった。

 ああ、でも。主君たる彼女の、そのあまりある慈悲と理性には頭が下がるが、俺の方にはそうする気はなかった。

「主人」

 その呼びかけに妹御は顔を上げて俺の目を見た。

 彼女をそう呼んだのは初めてだったから、驚いたのだろう。

 今まであの子以外を、主人と呼びたくなかったのだ。

 それが今は、彼女が俺の主人であるという事実が何ら反発なく受け入れられた。

「あんたに愛していると言ったのは、本心だ」

 その優しい提案に背く返答に、彼女が不安げな表情を更に曇らせる。

「勘違いだよ……! 私と姉を、重ねているだけだよ」

「丸っきりそうじゃないとは言わないさ。だが俺も、すっかりあんたとあの子の見分けは付くんだ。それでもあんたが愛おしい」

 俺とあの子の間に子どもがいたら愛しただろうが、それは錯覚だろうか。あの子を幻視しているだけの、偽りの愛情なのだろうか。

 そうだと言うのなら、妹御に向けた感情もきっと愛情とは呼ばないのだ。

 だが、それならば彼だって。

 彼女の愛する男もまた、正しく彼女を愛しているとは認められないのではないか。

「俺のを勘違いだってあんたは言うが、じゃあ、長谷部くんはどうなんだい」

「え?」

「長谷部くんは」

 このカードを切ることを一瞬躊躇ったが、手段は選んでいられない。

「たぶん、あの子のことも好きだったよ」

 瞳が揺れる。

 ああ、俺は今ひどいことを言っているな、と、耳に届く自らの発言に眉をひそめた。

「長谷部くんは自分の持ち主に対する執着心が……いや、言い方が悪いな。忠誠心が強い。それを恋愛感情と錯覚しているんじゃあないかな」

「そんな、こと」

 記憶を反芻するように、彼女の視線が遠くなる。

 心当たりがあるのだろう。

 彼女の目線の先。生成色の襖には何が映し出されているのか俺にはわからないが、それが付け入る隙であることは明白だ。

「なあ、もしそうだったら」

 猜疑心を優しく撫でて、ゆっくりと低く囁く。

「長谷部くんがあんたに向けているのが恋愛感情じゃあなく忠誠心だったら」

 気遣うように。哀れむように。

「あんたどうするんだい」

 

 

 

 

 

「主、朝餉をお持ちしましたが」

 長谷部が部屋の外から声をかけた。

 昨日はあれから体調が悪いと言って部屋に籠もっていた。考えを整理するために、一人になりたかった。

 長谷部はそんな私を心配して甲斐甲斐しく世話をしてくれるが、それがつらい。

 正直、大般若よりも、長谷部と顔を合わせている方が負担だった。

 共犯ではなく私は被害者だと言うのに、隠し事が臓腑にずしりと重たい。そして、長谷部の私への感情について……どうしても考えてしまう。

「ありがとう。でも、もう大丈夫だと思う」

 顔が見られない。

 長谷部が私を想ってくれるのは、それは、どういう理由なのだろう。

 忠誠心を私への恋心と勘違いして?

 長谷部は後任の審神者が私ではなくても、好きになっていたのかもしれない。

 ……それとも。

 そもそも、彼は私を恋愛対象として好きではない? 主である私が告白したから、断れなかった?

 私があんなことを言わなければ、彼の忠誠心は忠誠心として、私たちは良い主従のままでいたのだろうか。

 大般若の気持ちを勘違いだと言ったけれど、勘違いは、勘違いをしているのは、誰?

 長谷部の優しさや良き部下としての振る舞いに、個人的な好意を持たれているかのように舞い上がって。

 勘違いをしたのは、私?

「主?」

 長谷部が心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「顔色が悪いです」

 私を気遣ってくれるその瞳。それが主を見ているのか私を見ているのか、判断しようと勘ぐってしまう自分が怖くて、目を逸らす。

「やはりまだ部屋でお休みになられていてください」

「あ……」

 朝餉を置いて、今日自分がやっておく仕事を簡単に説明してから、長谷部は出て行った。

 

 ベッドで布団にくるまりながら、考える。

 問題が、問題が生じている。

 ここでこうしていてはいけないのではないか、という謎の焦燥感で胸が苦しい。

 だが、何ができるというのか。

 大般若に何かしらの処分を下すというのならば、その理由は公表されなければならない。そうなれば、本丸内の混乱は計り知れないだろう。そしてなにより、長谷部は大般若を斬り付けるかもしれない。

 長谷部が大般若を折る。

 彼だってただでやられはしないだろうから、逆になることもあり得る。どちらにせよ、それが目下のところ一番の懸念事項だった。

 大般若に対して怒りはある。しかしそれよりも困惑と憐憫が強いかも知れない。そして、間違っても“折れてしまえ”というような憎悪ではない。

 ……いや、こうしてその言葉を使ってみるが、やはり違和感がある。審神者になって数ヶ月は経つが、まだ慣れない。折る、という馴染みのない表現には重みがない。それは戦場に彼らを送る上で精神を消耗しないよう、わざとそう表現しているのかもしれない。

 殺す。死ぬ。と表現した方が、私の感覚には合っている。

 そう考えて、寒気がした。

 事が露見すればそうなるのではないかと、繰り返し想像して。

 棺に入った姉のことを思い出す。

 それと同じように、目を閉じた、大切な彼らの死に顔が……。

「あるじさん!」

 部屋の手前から大声で呼ばれて、気が付いた。

 目を開いて、枕元の時計を見る。

 消耗していたのだろう。何時間か眠ってしまっていた。

「あるじさん! 大般若さんが怪我をしちゃった!」

 襖を開けて寝室から出る。気怠いまま羽織ものをすると、縁側に続く障子を開けた。

 円らな瞳に眉を寄せた、乱が立っている。

「……今日は出陣はないはずだけど」

「喧嘩だよ! 長谷部が大般若さんを殴った!」

 それを聞いて、一気に血の気が引いた。

 

 

 

 

 納戸に落ちたままになっている猫柄のシュシュに気付いたのは、昼頃だった。

 それを手に、庭に面した縁側を通って、彼女の自室へ。

 部屋に籠もっているのは俺と会いたくないからかもしれないが、こちらとしてはこのまま距離を置こうなんて更々思っていない。長谷部から自分に心を移してもらうのには時間がかかるだろうが、それとは別に……訊きたいこともある。

 これを渡しに行って接触できるのは丁度良い口実だ。

「おい」

 それを見咎めたのは長谷部だった。

 タイミングは悪かったが、まるっきり偶然ということでもない。

 彼女の私室から出てきたのでろう彼が、渡り廊下を目指して歩いている俺とかち合うのは当然だ。

「何故それをお前が持っている」

 目敏くも、握っているシュシュを指さす。

「ああ、俺の部屋に忘れて行ったから」

 妹御がアクセサリーや衣服を取りに俺の部屋の納戸に来ることは、彼も知っている。それを以て不審に思うことはないだろう。

 ただ、それを彼が快く思っていないのもわかっていた。

 案の定、長谷部は不快感を露わにした。

「俺が渡しておく」

「いやあ、わざわざ預かってもらうほどのことじゃあない。俺が渡しに行くよ」

 大人げなくも、それに応戦する。

「主は体調が悪く、臥せっている。お前には来て欲しくないだろう」

「おや。近侍なら歓迎されるのかい」

「俺は主と付き合っている」

 不意打ちのその発言に、口元が引きつった。

 それを彼が言葉にするとは、思っていなかった。

「恋人が部屋に出入りすることは、主も他の者が来るよりは良いとお考えになるだろう」

 妹御の前では絶対にしない、不敵な笑み。

 正直、彼のことは嫌いではない。その誠実さも不器用さもわかっている。

 ただ、状況からして邪魔なことは事実だった。

「長谷部くんは……」

 彼女を手に入れるにあたって、彼は大きな障害だ。連れ出すにしろ、こうして接触するにしろ、逐一邪魔をしてくる。

 一時的にでも、遠ざける必要がある。

「本当に妹御を愛しているのかい」

「……何が言いたい」

「あんた、俺と順位争いしたいだけだろう」

 長谷部のこめかみがぴくりと動く。

 白い手袋が俺の胸ぐらを掴んだ。

「大般若……」

「あの子のときは俺が第一部隊隊長で恋仲だったからなあ」

 唇を噛む表情。胸元のタイを握り締める拳には力が入って、わなわなと震える。

 もう少し、煽ってやれ。

「妹御に迫ったのは、近侍だけでは俺にまた負けると思ったからかな」

「……貴様っ!」

 衝撃。

 頬を思い切り殴られ、よろめいて縁側の、急須や茶碗の置いてあった辺りに倒れた。陶器が割れ散らばる音に周囲が注目する。

「うわ!」

「なにやってるんだ!」

 追いかけて馬乗りになった長谷部からもう一発入りそうになったのを、後ろから引っ掴んで他の刀たちが止めた。

 

 

 陶器の破片で何カ所も切った上に、予想以上の力で殴られた頬は腫れて、歯が欠けていた。

 そんな状態で、手入れ部屋で真っ青になっている妹御とご対面する。

「けんかって……」

 声が震えている。

 それはそうだ。

 昨日の今日でこの騒動なんだから。

「違うよ。バレてない」

 笑顔を受かべると傷が引き吊れて、殴られた頬と口の中が痛い。

「それはわかってる。そうだったら大般若は死んでる」

「おや。俺だって簡単にやられはしないが」

「……どっちが死ぬのも勘弁して」

 俯いて拳を胸元で握る妹御がいじらしい。

 俺にされたことを長谷部にでも他の連中にでも言って、俺を刀解なり何なりすれば良いものを。姉への義理立てなのか俺への慈悲なのか、そうはできないのだ。

「俺が長谷部くんの気に障ることを言ってしまったんだよ。反省している」

「……長谷部に何か処分を言い渡さないといけない」

 手入れをしながら、沈痛な面持ちで彼女は言った。

 一方的に他の刀を殴ったとなれば、そうなるだろう。主人としてそこにけじめを付けなければならないと、責任感の強い彼女は項垂れていた。

「出陣部隊を外して、近侍もしばらくは別の人に」

「それには及ばないよ。ただの喧嘩なんだ」

 思い詰めた顔をする主人に、軽く言い放つ。殴られた被害者がそう言うのならば、それに従っても罪悪感はないだろう。

「見ていた刀は大勢いるから聞かれるだろうが、みんなには二人が喧嘩をして怪我をしたと言ってくれ。喧嘩両成敗だ。あんたには、罰として両方に草むしりでも命じてもらって」

「本当に……それでいいの?」

「ああ」

 彼女は安堵したように息を吐いた。

「だが、部隊はしばらくわけよう。長谷部くんも第一部隊のメンバーだが、お互いにやりづらいだろうからね」

 

 

 

 

 

 大般若の代わりに則宗が入った第一部隊が出撃した。

 長谷部を第二部隊に編入する形になるだろうと思っていたから、逆だったのには驚いた。第一部隊の隊長が長谷部になって、第二の則宗と大般若が交代。

 とても変則的な編成だが、別に隊長であることに拘るつもりはないし、構わないのだという。

 復帰当初よりはかなりこの本丸の評価も上がって、向かう戦場のレベルも高くなっている。だが、今は遡行軍の目立った動きもなく、今回も部隊のレベルと照らし合わせて別段難易度の高い作戦ではない。

 そのはずだったのだが。

「遅い……」

 思わず、そう呟く。

 何かあったに違いない。

 帰還の予定時刻を、三時間も過ぎていた。

 時間はあくまで目安であって、全くあてになるものではない。だが、これは確実に何らかのトラブルに見舞われている。

 うろうろと執務室と玄関を行き来して、落ち着かない様子を何振りかの刀に窘められた。

 だが、不安でいてもたってもいられない。

 文机の隣に置いてあるモニターに通知がないか執拗に確認して、そして何気なく、長谷部が使っている方の文机と座布団を見やる。

 長谷部が出陣していると、いつも二人で使っている執務室には一人きりだ。同じ部屋で作業をするのが普通になって、隣の近侍控に書類や荷物を詰め込んだこの執務室が、今はとても広く感じる。

 もう数時間は前に帰って来ていても良い作戦だというのに……。

 繋がらない通信画面を再度開こうとしたとき、呼び出し音が鳴った。

「長谷部!」

 音声通話だけでなく、モニターに映像が出る。つまりは映像通信ができるくらいの余裕がある場所、状況なのだと知り、胸をなで下ろした。

 案の定、焦った様子の長谷部だが、怪我をしている風には見えない。

「連絡が遅くなり申し訳ありません。通信機器類の使用可能エリアがいつもより限られているようです」

「みんな無事?」

「はい。特に損傷はありません。ですが……」

 長谷部が眉を寄せる。

「帰還に少し、いえ、かなりの時間がかかるかと」

「どういうこと?」

 話している背景は、どうやら屋内。政府の地下施設内だろう。そこには転送装置があるはずだ。

「ゲートの不具合らしいです」

「復旧に少し時間がかかるようだよ」

 モニターの向こうで長谷部が深刻そうな顔で答える。その後ろから、則宗が顔を出した。

「少しってどれくらいなんでしょう」

「一週間程度、という話ですが」

「そんなに!?」

 転送ゲートはどこからでも、どこへでも使えるわけではない。例えばこの本丸や近隣には結界が張ってあるために、遡行軍がいきなり時空を超えて現れる、なんてことは不可能だ。また、そういった結界による妨害がないエリアであっても、現れる場所と時間を予測されて集中砲火を浴びることは十分に考えられる。安全性を考え、最低でも政府勢力が完全制圧している地域。常時使用のルートであれば、支援が整っている施設内の決められた場所のみを使用するものとされている。

 今回使用したのも、政府の常設ゲートであった。

「ゲートのメンテナンスで飛べない時代地域が出ることはあるけど、こんな不具合なんて……」

 則宗が笑いながら、長谷部の隣で答える。

「まあ、ない話じゃないらしいぞ」

「そうなの?」

「ああ。稀にだがな。なに、心配しなくても安全は確保されているしメシもある」

 ひらひらと画面越しに手を振る。

 それを見ながら、不穏な予想がこみ上げた。

「……則宗」

「どうした?」

 だめだ。ここで疑惑を投げかけたところで何の論拠もない話だ。

「しばらく大変だろうけど、よろしくね」

「ああ」

 通信が切れる。

「連絡がついたのかい」

 それと、後ろから声をかけられるのは同時だった。

 おそるおそる、振り返る。

「大般若……」

 戸口に立つ彼は、きっと通信を聞いていたのだろう。

 造形だけならば怜悧な印象を抱くであろう吊り目は緩やかに曲線を描き、柔和な表情を作っている。その変わらぬ笑顔を前に、緊張が走る。

「……長谷部たちが帰って来ないのは、大般若がなにかしたの」

 率直な疑問をぶつける。

 それで彼の態度が豹変するかもしれないと身構えながら。

「俺が?」

 聞き返す彼は、穏やかな口調を崩さない。

 もしかすると何事もないように振る舞いながら、この場を切り抜けようとした方が良かったのかもしれない。

 ただ、この緊張感の中で、彼と話術で渡り合える自信もなかった。

「それしか……考えられない」

 長谷部を私から遠ざけようというのか。

 精鋭部隊が一週間に渡って帰って来られない、それによってこの本丸が被る不利益は大きい。とばっちりで帰って来られなくなった他の部隊員だっている。

 私情のためにそこまで大それたことをするなんて、正気の沙汰とは思えない。人間の倫理観や常識が通じないのではないか、というような浮き世離れした刀はいくらか思いつくが、大般若は社交的で、社会性が高くて、人間に非常に近い存在であると思っていた。

 彼は、何もわからずに、無邪気にそれをする刀ではない。

 その損害と天秤にかけてまで、長谷部を遠ざけて、どうしようというのか。

「あなたは、この本丸と仲間に、故意に損害を与えたことになる」

「俺にそんなことができるかな」

「それは……」

 則宗だ。彼が協力したに違いない。

 だが、大般若と仲が良く政府のシステムに詳しいというだけで、具体的な名前を挙げることは憚られた。

「出陣中の刀に協力したひとが、いるんじゃない」

「それは誰だい。政府刀だった則宗かな。俺と刀派が同じ、小竜? それとも俺と一緒に第一部隊が長い青江かな。短刀は俺とあんたをくっつけようとしていたから、厚が怪しいかい? 蛍丸も短刀サイドかもしれないな」

 彼は則宗に続いて、今出撃している者全ての名前を挙げた。

 流暢で挑発的な物言いに怯む。

 そして、言われてみれば、本当に協力者は一人だろうか? 誰も彼も、大般若の味方に見えてくる。出陣部隊にもここに残っている刀にも、きっと彼の味方はいる。

 逡巡して汗を浮かべる私に、彼は表情を崩した。

「ああ……ごめんな。いじわるをするつもりじゃあなかったんだ」

 笑顔。

 優しい表情と優しい声色。

 あんなに親しみやすいと思って接していたこの刀の所作から、今は何も読み取れない。

「あんたに用事があるんだよ」

「なに……を……」

 彼は低い文机を挟んで私の正面まで来て、畳に膝をついた。

 照明の光が彼によって遮られて、その影が私の上に落ちる。逆光で見上げる彼の顔が影になる中、その薄紅色の瞳が際立って鮮やかだった。

「名前を、教えてくれないか」

「っ!」

 がたんと音を立てて、文机から後ろへ後退る。その手首を掴まれて、逃げることを許されない。距離が近くなると微かにあの香りが漂って、納戸でのことが脳裏を駆けた。

「は、はなして」

「ああ、違うよ。今すぐ隠そうってんじゃあないんだ。安心してくれ」

 穏やかな口調。私を安心させようというのか、落ち着いた笑顔。こんな風に慌てている私の方が場違いに感じられるほど、普段通りの彼。

「あんたが死んだ後だよ。そうしたら、俺のところへ来てくれないか」

 ああ、そうか。

 大般若は、姉のように私がいなくなることを強く恐れているのだ。

 だからそうやって、私の魂を縛ろうと。

 仮に私が死んでしまっても、その行き先を自分の元に出来るように。

「なに、悪い話じゃあない。俺と長谷部くんが斬り合いになることを恐れているんだろう? あんたが俺のものになってしまえば、長谷部くんは俺を破壊できないよ。俺が折れたら、あんたも一蓮托生だからね」

 以前訊いたとき、彼は名前が知られれば主従が入れ替わると言っていた。具体的なことは教えられなかったが、私の魂が大般若の付属品になるということなのだろうか。

 私が死んでも彼の神域に行くだけ。彼が死んだときは私も一緒に。それは、全く対等ではない契約だ。

 神様と人間の力関係だ。

「……それは」

「うん?」

 大般若は小首を傾げて、ちいさい子どもに対するように発言の先を促す。

「生け贄、じゃないの」

 浮かんだのは、苦笑い、という表情なのだろうか。

「このシステムを、そう呼ぶやつもいるよ」

 生け贄は昔から、嫁取りでもある。

 きっと望んでそうなる者もいるんだろう。ただ、私は望まないが。

「なに、退屈はさせないつもりだし、俺の屋敷もきっと気に入るよ。気に入らなければあんたの好きなように直すさ。もちろん寂しい思いもさせないよ」

 その薄い唇から、プロポーズのような台詞が紡がれる。

「ほら。他に何か問題があるかい?」

 手首を掴んでいた黒手袋は、いつの間にかその位置を上げて、手を繋ぐように指を絡められている。顔を寄せられて、熱っぽい視線を注がれる。何かの錯覚を起こしそうになる中、震える声を絞り出した。

「私は、大般若を、好きじゃない」

「好きになる」

 言うか早いか、不意に唇が合わさる。

 文机から今度こそ飛び退こうとするが、彼はそれ以上追ってこなかった。

「第一部隊から連絡が来たなら、みんなに報告して安心させてやるといい」

 部屋を出て行く彼を見送って、呼吸を整えた。

 

 広間にみんなを集合させて、第一部隊が一週間ほど帰らないことと、その間の出陣はない旨を伝えた。その反応から、誰がそれを知っていて、誰がそれを知らなかったのか、などと推察してしまう自分がいる。

 仲間たちを、敵と味方に分けるような視線を向けて、神経を無駄にすり減らして。

 大般若はきっと、今夜私の部屋に来る。

 誰かに助けを求めたい。信頼できる誰かに。それは誰?

 誰も彼もが怪しく見えて、それが定まらないまま時間だけが過ぎて行く。

 

 

 

 見てわかるほど彼女は動揺していたが、第一部隊が帰って来ないというイレギュラーからそれを心配しているのだと、刀たちは受け取っていた。

 そんなに心配しなくても大丈夫だと、主人に代わる代わる声をかけている。

 実際。

 俺が協力を仰いだのは則宗だけなのだが。

 短刀たちだって、きっと彼女が頼ればその味方になっただろう。そうなれば厄介だ。猜疑心を植え付けて孤立させるのはかわいそうだが、この際仕方がない。

 夜半、酒盛りの連中も部屋に引き上げた頃、彼女を訪ねた。

 案の定彼女は自室にはいなくて、執務室、近侍控、物置と、候補を見て回る。

「ここだったか」

 長谷部の部屋だった。物がほとんどない部屋の、その隅っこに、膝を抱えている。

「あ……」

「かくれんぼは俺の勝ちだな」

 近づくほどにその瞳が怯えて、膝を抱えた身体が更に萎縮する。妹御はあの子と比べて気丈で勝ち気な性格だが、こんな風に追い詰められては無理もない。

 傍らに膝を付いて、その頬を撫でた。

「そんなに怖がらないでくれ」

 頬を撫でた掌を滑らせ、髪を耳に掛ける。そのまま輪郭を指先で愛おしくなぞった。

「っ、それなら、私を怖がらせるようなことをしないで……」

「名前を教えてくれるなら、考えようかな」

「そんなこと、できるわけ」

「じゃあ聞けないな」

 輪郭に添えられた指で顎を持ち上げて、唇を奪う。

「……っん!」

 それを合図に、縮こまっていた彼女が抵抗をする。

 ただ、数日前のような必死さは見受けられない。諦めが確かにそこにある。力で抵抗して勝てないことは、あのときにわかってしまっているから。

 寝支度をして浴衣姿のこちらと違って、彼女は昼間のまま巫女服を着ている。

 一人になるのが怖くて部屋に戻れず、みんな寝静まってからはこうして息を潜めて隠れていたのだろう。かわいそうに。

「なあ、怖がらせたいわけじゃあないんだ」

 覆い被さるように、強ばる身体を抱き締める。

 その巫女服の帯を解いて白衣をはだけさせ、口づけを首すじに、鎖骨の上に、胸元に。

「好きだよ」

 何も彼女を拷問にかけようというのではない。話す気にさせれば良いのだ。たくさん愛でて、理性を溶かして。

 襦袢が落ちて現れた薄い身体をかき抱く。

 その頼りない柔らかさに胸が締め付けられる。

「ああ……こんなに細い」

 か弱い存在だ。ちょっとのことで失われてしまう儚い器だ。その中身がこぼれ落ちてしまう前に保護しておきたいと考えるのは、当然のことだろう。

「なあ、人間の器は弱いだろう。あんたのそれが失われても、俺は一緒にいたいんだよ」

「大般若……、でも……、それは……っ」

 感傷を帯びた声に絆されてか、明瞭な言葉を紡げないまま、彼女の抵抗と身体の硬直が和らぐ。

 畳の上に組み敷いて、不安定に彷徨う瞳を見つめながら、もう一度唇を重ねた。

 彼女の上に自らの浴衣の袖や束ねた髪が落ちる光景が、侵食してゆくような心地よさを感じさせる。

 幾度も口づけながら、ちいさな唇に少しずつ舌を這わせていく。そのむず痒い刺激にやがて呼吸が荒くなって唇を開くのは、次の段階に進める頃合いのサインだ。

 舌の先が口内に触れて、息を飲むように一瞬緊張するのがわかる。無駄だとわかっていながらも藻掻く身体を抱き締めて、押さえつけた。

 舌で歯列をなぞって、そのまま間を割って入ろうとする。

「ん、……やっ!」

「っ」

 鋭い痛みに口を離す。

 疼痛と血の味が広がって、舌を噛まれたことを理解した。

「悪い子だなあ」

 じんじんと痛むのだが、それが何故か性的な昂揚を煽る。

「ほら、血が出ちゃったよ」

 彼女の目の前で口を開けて、舌をんべっと出して見せる。

 自分でやったのに、妹御がその傷を見て怯える表情をすることに苦笑した。

「お返しだよ」

 歯を立てずに、耳殻を唇で食む。そのまま抱き締める腕がスライドして、胸元に掌が触れても、先ほどまでより格段に大人しい。自分の付けた傷に動揺しているのかもしれない。

 下着の中に潜り込んで、胸の膨らみを掌が包む。

 耳の輪郭を舌先でなぞりながら、手の中でその先端を刺激するように、緩やかにさすってやる。

「う、あ」

 堪えきれない泣き声のような吐息。すぐに手の甲を自らの口に当てて、それ以上漏れないように耐えようとする姿が健気で可愛らしい。

 その抵抗を挫こうと、先端にぎりぎり触れない周辺を爪の先で滑る。声を我慢するのが苦しいのか、胸が大きく上下してしまっている。

「ん、ん」

 それによって掠めてしまう刺激に悶えて、時折ちいさく漏れ出る高い声がこちらの熱を煽る。

 いじらしい媚態に思わず、こちらの呼吸も荒くなる。耳許で熱い吐息を吹きかけてしまうと、彼女はそれにも感じ入ってか、内股を擦り合わせるような動きをした。

 拒んでいるつもりなのだろうが、その所作のひとつひとつが扇情的で、参ってしまう。

「ん、ふっ、う!」

 避けていた胸の先をぎゅっと指の間に挟んでやると、畳と白衣の上で、その薄い身体を反らした。胸を弄りながら耳の裏や溝に舌を這わすのにも良い反応が返ってきて、嬉しくなる。

 背中のホックを外して下着をずらすと、すでにうっすらと汗をかいている鎖骨と薄いデコルテに唇を這わせた。束ねた銀髪が彼女の上に広がる。

 帯を解かれて乱れた白衣や襦袢をかき分けて、掌がさわり心地の良い柔肌を滑る。

「うう……」

 へそを、下腹部を、腰骨の感触を確かめて。そのまま下着の中に指先を潜り込ませると、嫌がって嗚咽のような憐れみを誘う泣き声を漏らした。

 すっかり厚ぼったく開いている花弁をなぞると、指の先に温かく粘度のある潤いが纏わり付く。その感触を確かめられて、彼女がまた、息の詰まったような嗚咽を零す。快感を得ていることを知られるのが恥ずかしく、屈辱なのだろう。

「よしよし。大丈夫だから」

 むずがるのをあやすように宥めて、肌に汗と愛液でくっついた薄布を、両手で丁寧に剥がす。

 彼女は糸を引くほどになっている下着が足を離れるのには抵抗せず、ただ顔を覆った。

 視線に晒されるのを嫌がって、露わになった秘所を隠すように腰を捻る。

「大丈夫……、そう。力を抜いて」

 その腰からふとももの辺りを撫でて、緊張を解こうと囁くように声をかける。

 ぎゅっと閉じてしまった内股を開かせるように、撫でる腕で身体をゆっくりとこちらに向かせ、足の間に膝を入れ込む。乱暴で性急な動きをしないように、注意を払いながら。野生の動物を追い込んで、そのまま捕獲しようとするような緊張感を覚える。

「良い子だ。……そのままじっとしてな」

 やわらかく愛らしい腹部にキスをすると、弾力のある肌に、唇と鼻先が僅かに沈み込む。女性に特有の悩ましく甘い香りと、火照る体温が心地良い。

 そうしながら、掌は内ももの薄い肌を撫でて、その両方が、徐々に肝心の部分に近づく。

「う、あ」

 秘裂の付け根を唇が彷徨う。胸の先と同じように、敏感な部分の周辺に舌を這わすと、待ちきれない刺激に身を捩った。そうしてから焦れた突起に、唇で掠める軽いキスを贈ると、びくんと腰が跳ねた。

 そのまま唇に挟んで、舌の先で、舌の腹で。時折表情を窺いながら、彼女の好きなやり方を探す。敏感な部分を口内で可愛がってやれば、その度に悶えて、赤く充血した粘膜がひくつく。

「ん、気持ちいいね」

 すっかり蕩けて、てらてらと光る窪みを伝い落ちようとする液体を指先ですくう。その中指の爪の先が、入り口を突いた。

「ああ、っ、ア」

 溢れている中心をつつくのに合わせて、顔を覆った両手の間から上擦った声が零れ出る。そのまま指を少しずつ埋め込んでは引き抜いて、段々と深く。指の腹で内側のひだの形をなぞりながら、良いところを確かめて。

 指が抜き差しされる度に熱い愛液と嗚咽が零れて、腰が揺れる。その可愛らしい動きに、彼女自身はきっと気付いてはいない。

「や、だめ、届いちゃう、よお」

 中指の先が、ひだ状になっていない、つるんとした奥に当たる。

 その瞬間に切ない悲鳴が上がった。

「ん、奥の良いところ、覚えてるね。良い子だ」

「あ、あ、だめ、そこ、さわっちゃ」

 ももの裏に添えた手で足を上げさせて、屈曲した内部に指の先をより深く埋め込む。そのまま指を曲げて、掻くように指先を擦った。

「ひ」

 充血して張り詰める粘膜が指を銜え込んで、限界が近いことを感じる。

「それ、したら、だめ、だめになる……!」

 泣いて訴える上擦った声が可愛い。こんなふうに彼女を翻弄していることに、強い麻薬的な陶酔感が広がる。

「いいよ、イッちゃって」

「や、っん、あ、はあ」

 腰が浮いて、背筋が仰け反る。熱くふやけた指を食いちぎるように中が引き結ばれる。口を大きく開けて息をしながら、畳の上につうっと涙を落とした。

 脱力した身体から指を引き抜いて、自らも帯を解く。まだ余韻の中にいる彼女の足を抱えて、ひくつく熟れた入り口に宛がった。

「今挿れたら、どんなふうになっちゃうと思う?」

「……っ、……、まって」

 先端が触れているそこが、想像に疼いて飲み込む動きをする。その誘惑に、こちらも張り詰めるのを感じた。

「やってみようか」

 腰を押しつける。

「や、ああ!」

 体重をかけると先端がめり込んで、彼女の感じている快感がこちらへと流れ込む。その心地良い痺れを味わいながら、ゆっくりと押し広げて、段々と奥まで蹂躙する。

「だめ、だめ、だめになる、から、あ」

 深くなるほどに濡れたひだが絡みついて、その快感を伝えてくる。

「いいよ、だめになっちゃって」

「うあ、あ!」

 指で愛撫されていた奥に先端が触れて、悲鳴が上がる。

 普段は空間のない状態になっているこの狭い器官は、伸縮性がとても高い。奥まで受け入れても、その粘膜を引き伸ばして更に深くへ侵入することができる。

「全部、挿れるからね」

「やあ、もう、きちゃやだあ」

 そのまま腰を進めると、すでに届いている奥が震える。内臓を押し上げて侵入するそれが、弱いところを容赦なく抉る。膝ががくがくと揺れて、彼女の状態を伝えていた。

「あ、ああ、あ! ……っ」

 目を見開いて、ずしりと受け止めた衝撃に、限界を迎える。

「……ん、また、イッたね。よしよし。たくさん気持ち良くなって、偉いねえ」

 労いながら太ももを撫でて、呼吸が整うのを少し待つ。

 そうして様子を見ながら少しずつ、腰を使い始める。 

「や、まって、もう……っ」

 身を捩って逃げようとする身体の、反って浮いた腰骨の辺りを掴んだ。膝の上に身体を乗り上げさせて、腰を思い切り反らせる。結合部が丸見えになる体勢に、視界からも昂揚した。

「やだ、やだ、見ないで」

 見下ろして息を荒げる様子に気付いて、隠そうというのか手を伸ばす。その手を取って、導いた。

「ほら、さわってごらん」

 手の甲を重ねて、繋がっている場所をなぞるように指を這わせる。

「……やっ」

 腕を引っ込めようとするのを許さずに、薄く引き延ばされた入り口に埋め込まれた、怒張して張り詰めた根元を確かめさせる。彼女の細い指がねっとりと、中から溢れたものでまみれた。

「ここ、繋がってるんだよ」

「だめ、ゆるして、やだあ」

 泣いて否定の言葉を繰り返しながら、吸い付くように中が噛みしめる動きをする。

 感情と身体の反応がまるであっていなくて、彼女の中身がぐちゃぐちゃに乱されてゆく。そのまま敏感になっている奥が太い先端で擦られると、堪らずにぎゅっと収縮する。

「そ、こ……っ、も、やだ、やめて……っ!」

「奥はいや? じゃあ、奥に当たらないようにしてやろうな」

 結合部に這わさせていた指を解放すると、そのちいさな手が下腹部の辺りでぎゅっと耐えるような拳を作る。

 宥めるように両方に添えた掌で腰を撫でながら、浅いところで揺り動かした。入り口にくびれを引っかけて抜けきるぎりぎりを責めると、肉壁が絡みついて逃すまいと引き留める。太い部分がそこを通る度に掻き出された体液が溢れて、乗り上げさせている自らの足に温かく伝ってくるのがわかる。

「あ、や、あっ」

「これも気持ちいい?」

「っ、よくない、きもちよくな……いっ」

 反射的に否定する言葉を紡ぐ、全く成り立っていない反抗が可愛い。

「素直じゃないなあ」

 徐々に腰が揺れて、誘い込むような動きをする。その動きに応えて中程まで侵入すると、身を捩る動きが大きくなる。

「ほら、もっとたくさん動いていいんだよ」

「な、に……」

 言われてその行いに気がついたのか、真っ赤になった彼女の顔に、動揺と焦りが浮かぶ。

 ぎこちなく身体を強ばらせて、自らの身体のコントロールを取ろうとするが、それが上手くできずに惑っているのがわかる。

「可愛いねえ」

 ゆっくりとした抜き差しをして誘うと、それに合わせて悶えるように腰を回して、擦り付ける動きをしてしまう。

「あ、あ、だめ、なんで、とまんらい」

 ぐすぐす泣いて、我慢できない強い疼きに逆らおうと両の拳をぎゅっと握る。

「あ、はあ、だめ、だめ」

 だめ、と何度も唱えるそれとは裏腹に、吸い付いて離れない熱い胎内の締め付けに、眩暈がする。

 翻弄されて快感に溺れる姿が愛おしくて、覆い被さるように体勢を変えると、唇を重ねた。吐き腫らした瞼に優しく唇を這わせて、こめかみの涙跡を舐め取る。

 そうして、背を屈めて唇を肩に寄せた。

「噛むのはな、こうやってするんだよ」

 首すじの柔らかい肌に、弱く歯を立てる。

 残った理性を噛み砕くように。

「ひ!」

 その刺激に、生理的な反射によって全身が緊張する。

 痛みにぎゅっと窄まって強ばる胎内を、強引に動く。摩擦がひどくなって、噛み付きながらこちらも熱い息を吐いた。

「っ、ん、う」

 様子を窺いながら、もう少し力を加えて。続いて肩にも歯形を付ける。沈み込む犬歯と、前歯の跡が落ち窪んで残る。火照った肌に唾液で濡れて、楕円型に刻まれる。同時に、浅く律動する腰の動きを交えて。

「や、ああ、あ、だめ」

 悶える姿にはもう、抵抗しようという気配はなく。

 噛み跡が増える。その強弱に合わせて彼女の切ない吐息が漏れて、腰がくねって回る。

「くるし、やだ、あ」

 飢える身体の奥に銜え込もうと俺の背中に手を伸ばして、もっと密着するようにぎゅと抱き締められる。着乱れた浴衣から覗く肌の部分が、互いの汗で吸い付くように合わさる。

「おく、ほしい、ちょうだい」

 必死の可愛いおねだりに、身体の芯が熱くなる。

「っ、ん、良い子だ」

 一気に奥を穿たれて、同時に、腰が浮いて大きく跳ねる。

「あ、ああ、あ、あ!」

 2、3度それを繰り返すと、一際大きく身体が痙攣した。

 その締め付けに搾り取られるように吐精して、たくさん可愛がった奥を満たす。それがどくどくと吐き出されるのを受け止めて、腕の中でのぼせて蕩けきった身体が何度も震えた。

 

 

 意識を失ってしまった身体を抱き締めて、余韻に息をつく。

 汗で顔に貼り付いた髪を払ってやりながら、寝顔を見つめた。

 名前を聞き出そうと思っていたのに、失神させてしまっては仕方が無い。自身の余裕のなさを自覚して呆れるが……、まあ、まだ時間に余裕はある。

「また明日、お話しようか」

 意識のない耳許に話しかけて、額にキスをする。

 そうして、寝支度をさせてやろうと抱き上げ、彼女の部屋へと向かった。

 

 

 

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