※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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三章・四話:愛無常

 雷鳴が轟く中―――

 

 廃墟ビルの屋上で雨に打たれ続ける人物が立つ。腕を組み、稲光が走る空を見上げ、

『過去をやり直す事は出来ない。未来へとただ突き進むのみ。その為の・・―――――』

 次に稲光が空を走り、雷鳴が轟いた。そして、雷鳴は何度も轟き続け、稲光がまるで空

を割るかの如く・・・

『各務奥義・・・・・・・・・・・――――――――――――――』

 

 

 

 廃墟内―――

 

『朱音・・・朱音っ!!』

『きゃぁ。あぁ・・・・ゆ、さ、あ・・・・・・』

 朱音の意識が途切れた瞬間、その肢体が膨れ上がり、肌を突き破って肉があふれ出して

別の形を作っていく。悠也の身長を遥かに超える肉の塊が動き出す。

『肉体が呪力限界を超える!!―――くっ。まさか朱音ッ、お前も「鬼」に!!――――

これは、オレの神技を受ける事を予め想定した・・罠か!?』

 朱音が悠也目掛けて発狂しながら襲い掛かる。右腕らしき太い肉の塊を振り上げて、悠

也の頭上へと振り落とした。

 悠也がその場から飛び退いた瞬間、肉が四方に飛び散る。肉に赤みがあるのは紛れも無

く血の赤さだった。

『朱音ッ!!』

 神技の力を媒介に朱音の呪力が暴走する様に仕組んだ者が居る。神技の力を利用する者

など有り得無いと強く思いたいが、現実は悠也の思いを否定する。

 苦しみもがく朱音が、悠也を求めてさ迷う。悠也は更に退いて体勢を整えるが、成す術

が思い浮かばず、どうする事も出来なかった。

『どうすれば朱音を救える。どうすれば!!』

 焦る気持ちが思考を鈍らせる。どうしようもない現実を目の前に突き付けられる中で、

『せめて、兄さんのような奥義を使えれば・・・っ!?―――そうか!!』

 ふとして出た諦めた言葉だったが、それが悠也に状況を覆すヒントを気付かせる。

 朱音が悠也を捜し求めて迫る中、悠也は目を瞑り、呼吸音に耳を済ませて立ち尽くした。

『兄さん。オレに力を貸してくれ・・』

 迫る朱音に逃げもせず、ただ立ち尽くす悠也。目の前の現実を見据え、そして、振り上

げた朱音の左手の攻撃を真っ向から受け、肉の中に取り込まれる。

 

 ―――各務奥義・・ッ、「鏡世」・・

 

 悠也が心の中で呟いた瞬間だった。朱音の中で銀色の発光現象が起こる。しかし、それ

もすぐに消え去る。

 

 ―――くっ!?・・・オレにはまだ・・・くぁぁ!!

 

 「鏡世」とは、各務奥義の中でも高い技術力を有する奥義中の奥義である。周囲の風景

そのものを鏡へと変えてしまう。この「鏡世」の力で朱音の肉の進行を食い止められると

思い付いた悠也であったが、まだ使いこなせる実力を持たない。

 

 ―――くあっぁ!!

 

 朱音の肉に押し潰され始める。骨が軋む音を上げ、呼吸が封じられる―――まさに、そ

の時だった。

 天井から滴として落ちていた雨が急に銀の輝きを持ち、その雨の滴が朱音の身体に触れ

た瞬間、朱音の身体が銀色の輝きへと包まれていった。

 朱音の肉の動きがぴたりと止まる。次の瞬間には、銀に包まれた肉体が静かな崩壊を迎

え始めていた。所々で亀裂が走り、まるで鏡が割れていく様子を見せる。

 鏡が割れる音が甲高く響き渡った瞬間、悠也が弾き飛ばされる。

『がはっ!!―――ごほっ!!!ごほっ!!』

 呼吸が回復し、一気に咳が出た。そして、荒い呼吸のまま身体を起こして顔を上げる。

 肉体が崩壊した朱音であり、元の姿に戻って見える身体は薄く透き通っており、その身

体を銀光が覆っていた。静かに弱々しく呼吸し、命の灯火を消そうとしている。

『朱音!!!――――――――ッ!!』

 駆け寄り、その朽ち落ちようとする朱音を抱き上げ様とするが、その朱音の身体に触れ

る事が出来ない。透き通っていく朱音が更に薄くなっていく。

『ゆ、さま・・アタ、シ・・・』

『朱音。しっかりしろ』

『涙・・悠、様・・・・アタ、シの為、に・・・・泣いて、くださ・・・』

『―――朱音、しっかりしろ。してくれ―――』

 俯いて前髪が垂れる。影が覆う目元に微かに涙が光る。自分の悲しみに気付かず、ただ

朱音の名を呼び続ける。それしか出来ない自分を激しく責め立てながら、それでも朱音の

無事を祈りたかった。

 一粒。流れ落ちた涙の滴が、朱音を通り抜けてコンクリート床に落ちた。その直後、朱

音の身体を包む銀光が消え始める。

『アタシ・・・・逝けるの・・苦しみは、無いの・・・?』

『朱音・・・逝くな、・・昔の様に一緒に・・』

 涙が喉の奥を痛くする様な気がした。嗚咽を漏らしながら必死に朱音に告げるが、朱音

はそれを受け入れなかった。むしろ嬉しいとだけ感じ、そっと悠也へと手を伸ばし、抱き

締める動作を見せる。

 悠也の唇へと唇を重ねると、暫く動かず、そして、離れる。

『悠様・・・』

『何だ・・』

『悠様の・・・お慕いする人の名前を・・・・教えて・・』

『オレの・・・?』

『・・・・・はい・・逝く前に聴きたい・・・・・アタ、シだけ、に・・・教えて・・』

 その微笑む姿は、懐かしい朱音の表情だった。懐かしい思い出が蘇ってくる中で、朱音

の姿は更に薄れていった。

 悠也は表情を強張らせる。朱音の前で男らしくも無い悩みを見せるが、それでも最後に

は決断して頷いた。

『絆だ。オレの大切な―――「きずな」・・』

『キズナ・・――――それがアタ、シとゆ、さま・・を繋ぐ・・・・・“絆”―――』

 悠也が流す涙が、今だけは自分のものであると信じられた。幸せな気持ちに包まれる自

分を見せる様な表情を悠也に見せる。

『ゆ、さま・・―――最後に、・・・ショウキの言った、こと・・・忘れない、で・・』

『ああ。分かった』

『それと・・・相澤家の名を・・・――――――志郎・・・相澤志郎は、悠、さ・・・の

お近くに居る・・・はず・・・ゆ、さまの・・・・着てた服・・で、気付き・・・』

『分かった。もう喋るな・・』

 肩から下が完全に消えている。そして、消える速度が次第に速まり、

『重ね、・・しょ、女を・・失われ、・・りん・・ね・・くり・・―――力を、蘇ら・・

ため・・・雪の、・・穢れ、を、知らな、い・・強、き・・きずな・・の、・・に、ユウ

さ・・・まに・・・お伝、を・・・』

『もういい・・もういい。朱音』

『か・・、き・・―――――――――ゆ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 言い残して朱音は消えた。悠也は朱音が今まで居た場所に両手を付く。

『朱音・・・――――――――――すまない・・』

 

 ―――すまない・・・・朱音・・あか、ね・・・・・・・・

 

『あかね・・―――ッ、朱音ェェッ!!!!!!!!!!くあああぁぁぁぁ!!!!』

 悠也の慟哭が廃墟ビル内に木霊する。大声で叫び、何度も何度も叩き付ける音が鳴り響

いていた。

 

 

 夕刻―――

 

 降り続ける雨が酷くなる。

 廃墟ビルを出た悠也は、俯いて暗い表情で歩き続け、暫くして交差点で止まる。誰も居

ない場所の交差点で信号が青になるのを雨に打たれながら待つ。

 誰も居ないはずであるが、悠也の傍で語り掛ける存在がある。男の声がする。

『悠様・・・』

『・・・・・・・』

『・・・お気を確かに・・今はまだ・・―――――』

『何だ・・』

 表情も感情にも暗さを覆せない悠也は、雨に打たれ続けながら、まるでその雨を自分へ

の非難の様に受け止めながら、声の主に対して苛立つ。

『各務絆が狙われました・・・』

『絆が・・!?』

 暗い表情が一気に吹き飛んだ。驚く表情で顔を上げた瞬間、髪が大きく乱れて水飛沫が

周囲に飛ぶ。

『ご安心を。無事です。攫おうとしましたが、それを霧島壱哉が助けました』

『壱哉が・・』

『はい。ディセンティブハイツ―――902号です。お急ぎを・・また、各務絆を狙った

者の正体ですが・・・・』

『相澤・・―――――甚大高校・生物学教師・相澤志郎だな?』

『はい・・』

『分かった・・・・ぜってぇ許せねぇ・・ってンだ』

 口調が明らかに変わった瞬間が今だった。激しいまでの烈火に漲る瞳を降り続ける雨に

見据え、そして、その雨の中を勇ましく駆け出して行った。

 

 

 

 

忍務「完了」

 

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