※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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四章・二話:演出する者

 霧雨の中で―――

 

 壱哉は、甚大高校前のバス停に絆を連れて立っている。時刻表を眺め、

『ちっ、バスの時間に遅れた。こんな事だったらもう少し遅めに出て来ても良かったな』

『・・・・』

 ようやく立てる様子の絆である。傘の柄を右肩に乗せてぼんやりとしている。お昼に体

調不良で倒れた所為だ。

『各務。悪かったな・・大丈夫か?』

『・・・・』

 絆はぼんやりとしたまま頷く。

 これが初対面であるという認識がお互いに欠けている。絆は意識がはっきりとしない所

為であり、壱哉は心友の妹であるという意識からだ。

 絆を家まで送る壱哉だったが、上手い具合にバスの時刻と合致しなかった。後、25分

は待たなければならない。

 今は細かい雨粒が降り続け、まるで霧の様に遠くが霞んで見える。もうすぐ7月だと言

うのに雨の所為か肌寒さを感じる。

『これなら俺の家に行った方が早いな。それだったらタクシー代くらい訳無いしな』

 壱哉の自宅は、甚大高校より比較的近い。位置的には新校舎の裏にある旧校舎の更に後

ろ側の道路に面した高級マンションで「ディセンティブハイツ」という。

 絆の体調を考えると歩かせるのも酷であるが、こうして立たせて待たせるのも更に酷だ

ろう。

『いっその事、背負って行くか・・』

『・・・・』

 ぼそりと言った壱哉の言葉に絆は、苦しそうではあるが頭を左右に振る。それは背負わ

れるのが嫌という意思表示ではなく、壱哉に迷惑を掛けたくないと言う意味である。

『そうだよな。悪いな・・・勝手でよ』

『・・・・』

 ぼんやりとする絆。それからぼぉっとバスを待つ壱哉。

 霧雨が静寂を齎す。時折、通り過ぎる車の通行音だけが静寂を上回っている。刻一刻と

経過する時間の中で、絆は壱哉の方へと寄り掛かる。

『各務・・?』

『・・・・』

 僅かに口を開き、その口の動きで「ごめんなさい」と受け取る壱哉は、少しだけ頷いて

見せて、そして、少しだけ優しい笑みを浮かべた。

『雪が見たら怒るよな・・』

『・・・・』

 絆の顔が赤い。苦しそうだと思いながら別の事を―――雪菜の事を考えてしまう。

 恋人となって2ヶ月あまり経過している。雪菜の入学と同時に告白し、付き合う様にな

った。それから今まで何事も無く過ぎた訳ではないが、それが逆に雪菜への想いを強くさ

せる事にも繋がっている。

 誰にも渡したくないと、渡すものかと・・・強く心が意識する。

 霧雨が深い霧を生み、周囲を白く包み込んでいく。まるで二人だけの空間に居る気がし

て、絆に目を向ける。

 絆は壱哉の身体に凭れ掛かり、少しだけ荒くなっている呼吸を繰り返している。その絆

の額に掌をそっと乗せる。

『悠也の妹、か・・――――――――何だか変な感じだよな・・』

 心の何処かで雪菜とは違う別の感情が潜んでいる気がした。それを奇妙と思いながら、

周囲の変化に気付いた。

 数人が霧の中にある。霧に立つ影で気付いた。取り囲まれていると判断した。

『・・各務。どうやら狙われてるな・・・三崎数馬の件は、案外―――俺達の身近だった

って訳か?』

『・・・・・』

 絆が目を開ける。見上げる様にして壱哉の顔を見ると、壱哉はそっと絆の目元に掌を当

てて隠す。

『目を瞑ってじっとしてろ・・・今は俺が悠也の代わりに守るぜ』

『・・・・』

 自分でも頷いたのか、それとも何も応えなかったのか判らない絆だった。しかし、心で

は壱哉の事を頼もしいと感じていたのは事実だった。

 絆は、意識が次第に遠退くのを感じながら、壱哉の言葉に従って目を瞑る。

 

 ―――狙っているの俺か・・・それとも・・・

 

『迷惑だぜ!―――霧に紛れて卑怯な手か?』

 大声に近い声で周囲に放つ。烈声が霧の中に響くと、この壱哉の声を受け取った誰かが

声を返して叫んでくる。

『霧島壱哉・・てめぇには興味ねぇよ。各務の妹だろ?―――そいつ』

『・・・だったら?』

 何処から聞こえて来るのかを把握しながら相手の言葉を聞き続ける。威圧を掛けてくる

声に対しても決して怯まない。それどころか余裕な表情さえ見せる。

『情報は正確だったな・・・各務の妹さえ捕まえりゃ、俺達の勝ちって訳だ。あいつは妹

に弱いらしいからよ』

『そうそう。妹をダシに各務を腑抜け野郎にしてやんぜ!』

 嘲笑が響く。群がって言葉を放つ輩に対して壱哉も嘲笑で返す。

『そうか、お前等、悠也に負けた腑抜けた奴等か?―――だったら、弱い奴は徒党を組む

って言うのは正確な表現って訳だ』

『って、てめぇ・・・いい気になるなよ!』

『だぜ、格闘技部の部長様が俺達に喧嘩売れるって思ってんのか?―――試合、近いって

聞いてんぜ?』

『・・・・・』

『喧嘩沙汰で俺達がチクったらどうなるかな?―――即、出場停止って訳だ』

 更に嘲笑が響き渡る。その笑い声もいい加減聞き飽きたと感じていく壱哉だった。右拳

を強く握り締め、凭れ掛かる絆の身体をそっと左手で離す。

『・・・』

『大丈夫だ。あんな奴等に俺が負けるか?―――負ける訳ないぜ。少し待っててくれ』

『・・・・・』

 頷く絆であり、その頷いた瞬間、霧の中から男の―――腕が飛び出てくる。絆の手首を

掴もうとするのは明らかだった。

『―――おっと、』

『チィ・・・霧島ぁてめぇ・・!!』

 絆の手首を掴もうとした男の手を、まさに寸前で捕まえる壱哉の右手があった。強く握

り締め、男を霧の中から引き出す。すると瞬く間に別の男達が霧の中から姿を見せた。

 壱哉と絆を取り囲む不良達。制服から言って、甚聖学園の生徒に間違いない。

『お前等・・俺を誰だと思ってやがる―――』

『て、てめぇ・・!!』

 壱哉の堂々たる声が、不良達を萎縮させ、更にそれが壱哉の自信が高まらせて見えた。

『お前等は各務に“手を出した”―――これで正当防衛は成立だな』

『て、てめぇ・・ふざけやがって!!』

『ふざける?―――お前等。初めから勝ち負けの判断も出来ずに喧嘩を挑んでくる方

が・・・馬鹿―――――――――――・・ッ!!』

 壱哉が姿勢を低くした。一瞬、壱哉の傘がふわりと浮いた。

 言葉がまるでその場所に残る様な光景だった。

 壱哉の右拳による正拳突きが不良の腹部にヒットしていた。更に攻撃を続行する。左足

を軸にして別の不良へと左足で回し蹴りを決めていた。

『・・――――なんだよ。――――ハッァ・・覇ッ!!』

 呼吸を整え、二人の不良が倒れるまでに更なる攻撃を加える。気合を籠めた拳の二撃が

倒れる寸前の不良二人を吹き飛ばす。

『がはっ!?』

『つ、つえ――ッ!?』

 驚愕を露にした瞬間、二人の不良は、自分達が既に倒されて仰向けに霧雨を受けている

状態を知る。

『ふっぅ・・・―――――――さあ、次はどいつだよ?』

 呼吸を整え、得意の構えを見せる。

『つ、つぇぞ・・・こんなん聴いてねぇぞ・・・・・』

『ど、どうする・・・』

『い、今更、退けっかよ!!!』

 動揺が広がる不良達の中で、唯一勇気を振り絞る者が、絆を人質にしようと突っ込んで

くる。

 奇声を上げて絆へと目掛けて突っ込んでくる不良に、壱哉は鋭い冷静さで対処した。

 強く右足を前に踏み出す瞬間、全身を攻撃武器へと変える鋭さで不良を叩き伏せる。更

に動く。肘を前に押し出して鳩尾に当てる。

 壱哉の攻撃を受けた不良が、くぐもった声を上げて地面に崩れ落ちていく。

『来いよ・・・俺が強いって事、分からせてやるぜ』

 自信が漲る構えと共に右手の指を軽く動かし、残る不良達を招いた。

 不良達は、敗北を屈辱感で覆われる事で忘れてしまっている事すら忘れて、一斉に壱哉

へと駆け出していた。

 

 絆の前で展開する戦い―――

 

 それも終わる。

 ただ立ち尽くすだけの絆が倒れたのは、不良達全員が倒れた時だった。

『各務ッ!?』

 倒れて雨に打たれる絆に駆け寄る壱哉。すぐさま抱き上げて絆の容態を表情の苦しみか

ら把握した。

『各務・・・とりあえず俺のマンションに行こう』

『・・・・・』

 絆が微かに頷いて思えた。本当ならば学校に戻った方が早いはずなのだが、「帰る」と

いう意識の方が強かった所為で、戻るのを忘れていた。

 壱哉は絆を改めて抱き上げ、傘を差し直しそのまま自宅へと足早に帰って行った。

 

『あらら・・』

 

『う・・う・・』

『あ、あいざわ・・・せ・・』

『う、つ・・つぇお・・・いてぇお・・・』

 呻く不良達が雨に打たれる光景を、傘を差して悠然と姿を見せる相澤が眺める。

 倒れている不良の一人の傍に寄ると、華麗で繊細な容姿を爽やかに見せる。その爽やか

さで不良を見下した。

『ふふっ、やはり駄目でしたか。流石に格闘技部のエースともなれば実力は半端じゃあり

ませんね。お強い、お強い』

『せ、せんせ・・・あいざ、せんせ・・・・・・いてぇよ・・・・いてぇ・・・よ』

『まあ、それでもぼくの優位性は変わりませんが、確実に事を運んだ方が良さそうです

か・・・では・・』

『ぐやっっ!?』

『ぎゃぁぁ!!』

『あい、ああ!!!!』

 爽やかな笑みを崩さない相澤が、倒れている不良達を悠然と踏み乗り越えて行く。

 そして、最後の一人を踏み越えると、彼等の方へと振り返り、爽やかな笑みを決して崩

さない状態で、

『ぼくの手足にもならない君達に用はありません。さよならですね・・・では』

『あ、いあざ・・・うぁ・・・』

『うああっぁ!!!な、なんだよぉ!!こっこれぇ!!!!』

『やめぅ・・・や、やめ・・・!?』

『ぐやっぁぁ!!!!!やめ。そ、そんなとこ・・・・き、きたね・・・ぇ!!』

 無数の悲鳴をこの上なく楽しむ様な笑みを浮かべていた。そして、悲鳴を背中で聞きな

がら歩き去って行った。

 

 ―――霧島壱哉・・・格闘技部部長の彼ですか・・上手く使えそうですか

 

『これは楽しくなりそうだ・・・』

 霧の中に相澤の声は篭もって響いた。

 

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