※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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四章・三話:引き寄せられる運命

 霧雨が土砂降りの雨に変わる―――

 

 高級マンションとして知られるディセンティブハイツは、建てられてからまだ新しく、

比較的裕福層の家族が暮らしている。

 この建物を見上げる相澤。

『ここが壱哉君の住んでいる生活環境ですか。非常に良好ですね・・・』

 雨の中でも爽やかな笑みを絶やさない。敷地内で悠然と眺めて壁に手を付ける。

 傘を捨てる。一階のベランダより顔を出している少年を見つけると、ニッコリと笑って

その笑みのまま顔を再び上へと向けた。

 足を上げ、その足を建物の壁に付けるなり・・・

 相澤の行動の一部始終を目撃する子供は、ぽかんと口を開けている。その子供に対して

笑顔を向ける相澤は余裕さえ見せた。

 子供は、ハッと我に返り、中に駆け戻って行く。

『お、おかーさん!!!壁を歩いてるぅ!!にんじゃさんが居るヨォ!!!!』

『はいはい。アニメの時間ね。早く見て、その後で勉強するんですよ』

『違うヨオ!!!――――本当に居るんだヨォ~~~~~壁を歩いてるお兄ちゃんがぁ!

歩いてるんだヨォ~~!!』

『はいはい。分かりましたよ、アニメの忍者が持ってる忍者セットが欲しいんでしょう?

けど今度のお父さんのボーナスまで待ちなさい、ね?』

『あーう!!!――――違うヨォ~~~~』

 子供と母親のやり取りはいつまでも続けられる様だった。相澤は、その会話が遠退いて

聞こえなくなるまで聞き続けた。

『親子の会話ですね。ぼくには関係ないですが・・・さてと、霧島壱哉君の部屋は、確か

902号室でしたか?』

 壁に対して悠然とした姿勢で直立している相澤の姿が雨に濡れている。まさに立ち位置

からして有り得なかった。

 

 

 ぼんやりと窓の外を眺める・・―――

 

 この9階に霧島家はあり、4LDKもあって内部はかなり広く、空が天気ならば景色の

眺めも良い。

 壱哉に抱かれ連れて来られた絆は、今はバルコニーに面するリビングダイニングにある

ソファーに毛布に包まってぼんやりと外を眺めている。

 そこに私服姿の壱哉が現れる。右手には温かい紅茶の入ったカップを持って。

『一応、悠也には電話してみたが、やっぱり出なかった。あいつ・・・。悪いな、濡れた

制服は今、乾燥機で乾かしてるから、もう少しそのままの格好で居てくれ』

『・・・・』

 「すいません」と唇が動く。壱哉の優しい顔をぼんやりと見つめながら頷き、そして、

紅茶の入ったカップを受け取った。

『熱くしてあるから気を付けろよ』

『・・・』

 カップを口に付けてゆっくりと紅茶を啜る。そんな仕草が可愛らしいと壱哉は見てしま

う。実際に絆は校内の女子生徒等と比べても可愛いのは確かだ。しかし、兄の「不良」と

いう怖さの面が強調されている所為で、絆の可愛さに周囲が気付かない。

 壱哉は紅茶をゆっくりと啜る絆を眺める。絆は視線を動かし、家具の上に置かれてある

家族の写真を見つけた。

『ああ、あれか?―――俺がこの霧島家に来た時に写したやつだ。見るか?』

『・・・』

 壱哉の言葉に絆はコクンと頷く。ぼんやりとする様子は相変わらずのまま、壱哉から写

真立を受け取ると、それをじっと眺めた。

 かなり若い両親である。まだ20代だろう。それに父親がかなり格好良い漢で力強さを

漲らせ、母親は優しさのある美人だ。そして、二人の中央に幼げな壱哉がムスッとして顔

を横に向けている。

『俺の今の霧島の両親だ。二人共、自衛官と医者って仕事の関係で忙しいけどな』

『・・・・』

 写真を見て、壱哉へと顔を向け、写真の中の壱哉へと視線を落とした。

『ムスッとして小生意気な餓鬼だろ?―――俺』

『・・・・』

『別に良いぜ、その通りだしな・・・その時の俺は確かに荒れてたしな。まあ、この後、

その“公二さん”に殴られて修正されたけどな』

『・・・・』

 懐かしそうに語る壱哉に写真立を返す。壱哉は暫く写真を眺め、

『二人には感謝してる。俺を引き取ってくれた事、それに俺が名前を変える事にも・・・

二人が温めてた名前「壱哉」をくれた事も・・・俺は後悔してない。すれば二人に失礼だ

しな』

『・・・・』

『尊敬してるぜ。今は不自由なく暮らせる・・・って俺は何を言っているんだろうな。悪

いな、忘れてくれ』

『・・・・』

 絆はぼんやりとした様子のまま、両眼を細めた。その表情は優しげな微笑を浮かべてい

る様にも思える。

 絆の微笑に壱哉は見惚れ、温かい目で見つめ返した。

『各務と話していると・・・悪い、妙なことを言って』

『・・・・』

 絆が紅茶を飲み終える。そのカップを壱哉が受け取ると、

『制服が乾いたかどうかを確認してくる』

『・・・・』

 カップを持ってキッチンへと向かう。その足で洗面・脱衣所へと向かった。

 壱哉が去って、一人ポツンと残る絆が毛布に包み直して、毛布の柔らかさを地肌で直接

感じ、窓の外へと顔を向けた。

『あ・・・』

 窓の外は土砂降りの雨。窓の外のベランダに雨の流れに逆らって立つ青年が居た。その

青年は絆をじっと見ている。

 背広が雨に濡れて色が黒ずんで換わって見える。その人物が相澤であると絆が気付いた

時、相澤はそっと右手を絆にむけて上げ始めた。

『・・・・』

 ぼんやりと相澤を見つめる絆は、全く違和感ある様子も無くソファーより立ち上がり、

包まっていた毛布を捨てた。

 下着のみとなり、瑞々しい肌が紅潮している姿を見せる。

 

 ―――おいで・・

 

 窓が勝手に開く。そのゆっくりとした動きとは違って、雨が強く室内に降り込み、また

風によって室内は乱れに乱れた。

 風と雨を受けながらも絆の表情は変わらずぼんやりとしている。そして、相澤の手招き

に釣られ、ゆっくりと歩を進めていった。

『行くな!―――各務!!』

 そうして絆の名を呼び、右手首を掴んで歩みを止める人物が居る。そう壱哉だ。

 壱哉は、絆の制服をその場に捨て置くと、絆の前に立ち、相澤と対峙する。

『相澤先生・・・あんた一体・・』

 

 ―――そう・・君もだったね・・・・

 

『何だ・・・・頭の中に、くっ―――直接、響く声・・・?』

 軽く頭を抑えて強く振る。そして、改めて相澤と対峙した。その壱哉に相澤は驚く表情

をする。

 

 ―――ぼくの「誠心術」を拒む一般人が居るとは・・驚きだよ

 

『あいざわ・・・・・』

『・・・』

 絆が歩き出そうとする。それを壱哉は右手で制すると、姿勢を低くし、構えを取る。

 半身を前に押し出す形で右拳を突き出す様に身構え、敢えて左腕には力を籠めずにぶら

下げる状態とする。

 

 ―――ふふ・・・ぼくと戦うって?・・・いいよ・・・

 

 相澤の声は相変わらず脳内に直接響いてくる。心に突き刺さるかに思える声に壱哉は精

神を集中して耐え抜く。

『ふざけるな。―――各務は俺が守る。悠也の代わりに!!』

『・・・・・』

 壱哉の背中をじっと見つめる絆が居る。微笑を浮かべる相澤が雨に濡れてベランダに立

っている。そして、その相澤と対峙して身構える壱哉。

 風が室内を掻き乱す。家具の上に置かれた写真立が倒れた。

 

 ―――ふふ・・・ふふふ・・・

 

 

 

 夕刻の時間も雨空が広がっている―――

 

 ディセンティブハイツの建物を見上げる高校生の男子が居る。その男子を見つめる一階

のベランダに雨合羽を着て立つ子供が居る。

『壱哉の部屋は―――あそこか・・ッ!!!――――――――ッ!!』

『わお!?――――』

 男子が迷いも無く見定めた場所へ向けて、地面を蹴り上げて飛翔し、その勢いが止まろ

うとする箇所で建物の壁に足を付けて着地し、すぐさま飛翔して上がって行く。

 壁を蹴り上げて飛翔し、また着地して壁を蹴り上げて飛翔して、男子は上の階を目指し

て登って行く。その一部始終を少年が見つめ、驚きを露に口をパクパクとさせて、

『おかーさん!!――――今度は人がぁー、人が飛んでるヨォ!!!わあああ!!』

『馬鹿言ってないで、風邪引くわよ!!!』

『違うんだよぉ~~~飛んでビューンなんだよぉ!!!!早く来て見てよぉ!!!』

『はあぁ・・・この子ッたら、魔女っこアニメなんて見るの止めなさい!!!おねだりし

ても魔法ステッキまでは買えませんから、ね!!』

『違うヨォ~~!!!!おかーさん。信じてヨォ~~』

 その会話が何処かで男子に―――各務悠也に聞こえていたのかもしれない。飛翔する間

際で一階の少年を見た。そして、何も感じる事無く無視して、壱哉の居る902号室へと

向かって行った。

 

 902号室のベランダ―――

 

 一気に飛翔して着地する悠也。制服は雨でびしょ濡れである。髪が重く、前髪の先から

雨の滴が何度も零れ落ちる。

『・・・・遅かったか・・』

 右拳を握り締める。視界に見える様子―――窓は開け放たれ、風雨に部屋内が荒らされ

ているのを見渡した。

 土足で部屋内に入る。床に落ちて水を吸って重くなっている毛布に触れる。

『絆・・――――壱哉・・』

 身近に落ちていた写真立を拾い上げる。硝子が割れて写真が雨で汚れてしまっている。

それを眺め、そして、そっとソファーの上に置いた。

『相澤志郎――――霧生一族の・・やはり・・・・・朱音。仇は必ず』

 液晶テレビに張られてある置手紙を見る。そこには男性らしくない女性が書いた様な柔

らかい字で、

 

「当主殿へ告ぐ・・大切な妹君を帰して欲しくば“雪が白く学ぶ場所”へと来られたし」

 

『・・・オレへの挑戦か。面白い――――。相澤志郎・・・お前を必ず後悔させてやる。

名演が必ずしも名優ではないという事を知れ――――』

 瞬間、風雨が悠也を中心として逆巻いた。そして、それが収まった時には悠也の姿はす

でに無かった。

 液晶テレビ画面に張られていた置手紙が外れ、風に乗って外に出る。雨に打たれ、ボロ

ボロになって落ちて何処かに消えて行った。

 

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