※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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四章・七話:動き出す静けさ

 宿直室に、静寂な風が吹き込む―――

 

『君は・・・一体・・』

『・・・・・』

 窓際に無言で佇む漢が居る。

 相澤は、驚愕以上の警戒感を表情に出す。照明が消えた闇の中で漢を見据える。

 絆とこれから楽しもうと思った矢先の出来事だった。急に照明が消えたかと思うと、急

に窓が開き、一人の漢が突入して来た。そして、対峙して今に至る。

 相澤は、目の前の漢より視線を外さずに、布団に寝かす絆より退く。ぼんやりとしたま

ま眠っているのかそれとも起きているのか判らない絆を見る。

『絆君を守りに来た・・そう言う事かい?』

『・・・・』

 慎重に告げる。夜の闇に見え難い漢の姿であるが、一つだけはっきりと見えるものがあ

る。風にはためく鉢巻の存在だ。

 漢は鉢巻を締めている。今時と思うが、漢には良く似合う気がすると、相澤は警戒感を

抱きながら観察した。

『―――――彼女には・・手を出すな』

『・・・(若いな・・)』

 漢が声をこの時になって初めて発した。吹き込む雨風が漢の背中を容赦なく打ち付ける。

風で衣服が大いに音を立てた。

 声からして精悍に聞こえるが、まだ若いとも判断出来る。

『君は・・・高校生かい?』

『・・・・』

『いけないなぁ。今時分に夜遊びとは?』

 風が一層、強く吹き付ける。室内が風に乱される中、漢は両足を僅かに開き、改めて相

澤と対峙する姿勢を見せる。

『・・・・・相澤志郎・・―――――――――――お前に問う・・』

 

 

 一階廊下―――

 

『壱哉、お前は脱出しろ。後はオレが行く』

『・・・悠也・・判った。だが、無理はするなよ』

『承知』

 今、壱哉の心友としての悠也の表情はない。マスクで口元を隠した時から、忍としての

覚悟を現していた。

 悠也が床を蹴る勢いで駆け出す。一瞬にして風に消え失せたと思うほど、悠也の速度は

尋常ではなかった。

『・・・あいつ、陸上部に入れば、若林が喜ぶと思うぜ・・』

 緊張感の無い言葉が吐けるのは、悠也を信じればこそである。悠也の正体は今の壱哉に

は判らないが、それでもとことん信じぬく事が出切る―――それが心友というものだった。

 そして、絆の無事を信じて壱哉は施設外へと退去した。

 

 廊下を駆け抜ける―――

 

 地下書庫室を脱出した時、既に鏡張りの部屋に絆も相澤の姿も無かった。しかも二人の

気配は曖昧に空気に乗って流れてくるだけで、二人が居る位置が掴めない。

 悠也は、突如として掛ける速度を急に落とす。そして、その場に立ち止まると、床の埃

が目立つ部分を見つけ、そこに右手を置いた。

『神技ッ!!――――――――――月読ッ!!』

 侵入した時に、床に付着する埃が気になっていた。その正体を見極める為に悠也は神技

を使う。

 右手を通して発動する神技「月読」の影響で、見えない物体が姿を見せる。埃が呪力を

含む結晶体となり淡い輝きを放ち。廊下が輝きに満ちた。

 悠也が顔を上げる。その視線の先の空間に歪みが生じた。更にはその歪みに映し出され

る様にして絆を抱いた相澤が歩いている。

 二人共、身体が透けている。

『幻による追跡とは、相澤も思わないだろう・・・前回の教訓だ』

 薄透明の相澤が絆を抱いて、廊下の先を歩いて行く。その道筋の床には強い光を帯びて

埃が輝いていた。

 悠也は、光る埃を踏まない様にして追跡する。

 埃を敵の侵入と探知効果として相澤が使っていた事を悠也は見抜いた。埃が術により形

成された物であるならば、それを逆に利用すれば良い。その力―――「月読」を持つ悠也

ならば可能だ。

 「月読」の効果で相澤の呪力を露にさせるだけではなく、更には過去に起こった幻影を

その場に作り出した。

 これにより相澤の居所を容易に把握出来る。

『あそこか・・』

 相澤の幻が、廊下の先の行き止まりの部屋の前で止まる。扉は閉まっているが、幻は消

え去る間際、その扉を開ける動作をする。

 ついに行方を突き止めた悠也が、足音無しに駆け出したその時だった。

 

 強烈な強風が吹き、扉が木っ端微塵に砕け散る―――

 

『くっぁぁぁ!!!!!』

『何ッ!?――――くっ、相澤ッ!』

 悠也が咄嗟に身を引かなければ、扉を破って飛ばされて来た相澤に巻き込まれていただ

ろう。風が扉のあった場所で逆巻いている。

 悠也が身を低くする。尻目で相澤を警戒しつつ、目の前へと注視した。

 何かの気配を強く感じる。それどころか気配を堂々と発する威圧感さえ覚えた。明らか

に敵対心を含ませる気配が流れて来る。

『・・・(誰だ・・?)』

『う・・・う・・』

 相澤が立ち上がる瞬間、悠也は鋭く動いた。左手の手刀を相澤の首筋に当てた瞬間、そ

の相澤の背後へと一瞬にして移動していた。

 首を左腕で締め上げる。

『くぁぁ・・』

『何が起きた・・―――――絆は?』

『・・・くぅ・・』

 悠也の返答に相澤は頷いた。そして、よろよろと右腕を上げて指を宿直室に向けて差す。

 相澤が強烈なダメージを負っているのは判ったが、その負った理由が解らない。先に脱

出した壱哉の仕業とは到底思えない。

 “敵”は明らかに能力を持つ人物であるのは間違いない。

 警戒心を更に強める悠也であったが、敵の気配が敵対心より殺気へと膨れ上がった瞬間、

その直後に急に消沈してしまう。

 静寂が急激に訪れる。雨音を今になって聞くくらいだ。

 苦痛の呻きを上げる相澤をその場に捨て置き、悠也は宿直室へと入った。

『・・・―――――――絆・・』

 窓が開いて風雨が入り込むこの宿直室。この部屋の中央に敷かれた布団に絆は寝かされ

ていた。

『絆・・』

 下着姿の絆を悠也は抱き上げる。確かな温もりと、そして、既に落ち着いた呼吸と共に

体温も正常になっている様子だ。

 下着の乱れは無い。脱がされた形跡も無いと判断出来れば、悠也は心の底から安堵感を

込み上げさせた。マスク越しに大きく息を吐く。

『う・・ぅん・・』

『絆・・』

 どうやら相澤の術の効果も解けている様で、絆はゆっくりと目を覚ましていく。それま

での過程を悠也は優しげな瞳で見守っていた。

『・・ここ、は・・・ど、こ・・?』

『・・・この場所は・・』

 悠也が絆に答える瞬間だった。絆が急に両目を大きく開いた。そして、その反応よりも

早く悠也は応じた。

 

『死ねぇぇ!!!!!―――――――ユウッ!!!!』

 

 絆を抱く悠也の背後で影が立った。急激に両腕を振り上げるのは、まさに相澤しか居ら

ず、しかも両手に握り締める大きなガラスの破片が闇夜に煌く。

 ガラスの破片を悠也の背中へと突き刺そうと、両腕を振り下ろす。

『―――ッ!』

『きゃぁぁ!!!!!』

 絆の悲鳴の中、悠也の両眼が鋭く輝く。その瞬間直後、相澤は畳の床にガラスの破片を

突き刺していた。

 悠也の忍装束の上衣も硝子に刺し貫かれて畳の上にある。

『これは!?――――空蝉!』

 相澤が驚愕する。悠也が霧生の技を一瞬にして使った事に対して、また、絶対に避けら

れない距離で攻撃を仕掛けたにも拘らず避けられてしまった事に対して。

 相澤が顔を上げて周囲を忙しく慌てて見渡すと、まさに背後に気配が立つのを感じ、

『・・・空蝉とは・・霧生の術を今も扱われますか?』

『・・相澤、先生・・・』

 悠也に抱かれている絆が悲痛な声を出す。

『絆君。すまないね・・君まで犠牲にしようとして・・・・』

『相澤・・朱音を―――人を貶めた罪。お前には解るはずだ』

『・・・だとすればどうなさる?』

『・・霧生の忍として全うしろ。それが、今のオレが唯一言えることだ』

 悠也は絆を気にした。後で記憶を奪うつもりではあるが、それでも今の言葉を聞かれる

のは勇気が必要だった。

『霧生ですか・・それも在りですね。ぼくとしては・・―――ッ!!』

 相澤が身体を前に押し出して、悠也の攻撃範囲より逃げる。窓際で体勢を整えて立ち上

がる。

 悠也が絆を降ろす。絆は、気が動転して何が起こっているのか解っていない様子で怯え

ている。

『絆・・・大丈夫だ。オレが付いている・・――――神技。思兼・・・』

『あっ・・!?――――っ・・・ぁ』

 右手の親指を絆の額に押し付けると、絆の中の記憶を操作する。これで今日起こった記

憶が絆の中で薄れ始めるはずだ。

 絆が尻餅を付く。天井に顔を向けて両目を瞑り、静かに呼吸している。

 悠也は、絆が無事に神技を受け入れた事を確認すると、改めて相澤と対峙した。

『死ぬ気か・・相澤志郎』

『星辰剣は布団の下に在ります・・・それでぼくを貫かれてはどうですか?』

 相澤の言葉を受けて悠也は、部屋の中央に敷かれた布団を見るが、敢えて動こうとはし

ない。それが罠である可能性を考えての事であり、また・・・

『・・・無駄な事だ。お前はオレの神技で葬る――――それが朱音への・・・』

 悠也は腰帯に身に付けてある銀色の鈴を握り締めた。

『手向けですか?』

『・・・・神技・・――――――迦具土・・』

 鈴の紐が腰帯より外れる。言下、鈴に炎が宿り、握り締める右手へと燃え移った。

 右手が真紅に輝いて見える。まるで夜の闇を照らす輝きの様に。

『炎の神技・・―――――――ですが!!』

 相澤が走り出し、布団に向かって飛ぶ。そして、捲り上げると同時に隠してあった刀を

取った。鞘から素早く引き抜き、悠也へと向かっていく。

『相澤ッ!!』

『死ねぇぇ!!!!!!』

 悠也の一撃が右手より炎を伴って繰り出され―――瞬間。

 

 振り上げた刀を落とす相澤―――

 

 風がふわりと室内を舞った。

『なっ・・』

『・・・・・』

 相澤が既に立ちながら気絶している。悠也の攻撃を受けたと思い、意識が死への確信へ

と至らせた所為だ。

 しかし、実際には悠也の右拳の炎は掻き消されている。そして、悠也の拳を握り締める

新たな忍の存在。

 相澤に集中するあまり、その人物の侵入に気付かなかった。迂闊ではあるが、今はそれ

を感じている余裕は無い。

 神技が自分以外の者に掻き消されるなど在り得ない。その驚きが悠也を包んでいた。

『・・・・・・』

『くっ・・』

 忍の手が急に冷たく感じられた。悠也は右手を引こうとするが、忍がそれを許さずに強

く握り締めてくる。

 そして、闇夜に映える忍の素顔を今更知った。

『・・・・お前は・・!?』

『・・・・・俺は・・お前の・・・・・・・・・・』

 まるで自分に見つめられる錯覚を覚えた。まさに自分が目の前に居るかの様だ。

 そして、向けてくる殺気も似ていると悠也が自覚した時、忍の左手に集まる力に対して

驚愕した。

『神技・・――――――――――――――――天之御影・・』

『!?―――なっ!?―――くっ・・・冷、気・・・くあぁ』

 強烈な冷気で悠也の右拳が凍り付いていく。冷たさが痛みを感じさせるまでに至る。

 目の前の忍が神技を発動している。間違いなく「天之御影」という神技であり、自分の

知らない神技でもあると思い知った。

『死ね・・・せめて俺の手で殺してやる』

 冷ややかに、そして、確実に殺気を籠める。

『くっ・・ぁ!!(くっ―――神技ッ!!)――――――――武甕槌ッ!!』

『・・・・!?』

 氷に雷を宿す。強烈な輝きが発せられて、駆け巡る雷が氷を砕く。一瞬の雷撃音がこの

宿直室を覆い、二人共、それぞれ後方へと吹き飛ばされる。

『かはっ・・・くっ・・』

『・・・やるな・・』

 忍が立ち上がる。そして、悠也も立ち上がった。

 睨み対峙する中、忍はゆっくりと位置を移動し、窓際へと寄る。そして悠也は、落ちて

いた刀を拾い上げて、忍へと向けて一閃した。

 刀の刃が空気を切り裂く。鈍い音が室内に木霊し、静寂は訪れる。

『逃がした・・・』

 忍が悠也の攻撃を寸前で避けて後方の窓へと逃れた。

 悠也は忍への追撃を止めて相澤の方を見るが、既に相澤の姿も消えていた。

『相澤救出が目的か・・・』

 右手を見る。握力が薄れ、手の皮膚の色が悪くなっている。その手をじっと見た。

『神技を使う敵か・・――――いや、在り得ない。オレ以外には』

 しかし、悠也を襲った忍は間違いなく神技を使った。神技継承者としての悠也以外に、

神技を使う忍とは・・・

 悠也の中で複雑な思いと拭い去れない焦燥感が駆け巡り、闇へと大きく息を吐いた。

 

 その時―――

 

 風を切り裂いて悠也の頬を掠めるものがあった。右頬に横一線に血が滲む。

『・・・矢文・・?』

 背後の壁に突き刺さっている矢がある。その矢に括り付けられている紙切れが見える。

 悠也は、右頬の傷口を指で拭い去りながら、矢を引き抜いて手紙をとった。

 紙切れを開き、そこに書かれてある文面を読む。

 静かに佇む時間が続き、そして、それを右手に握り締める。

『ふざけた事を・・―――――神技、迦具土・・』

 紙切れが燃える。その燃える炎が右手に負った凍傷を癒す。赤く輝く右手を見つめ、そ

して、その赤さが消え去る頃には、窓の外を静かに見据えていた。

 

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