※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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『神技一刀』 5章
五章・一話:従属の鎖


「各務征司の行方を知りたくば、霜喜多山の麓にある正路屋敷に来い・・・」

 

 甚大市の北に位置する山の名を霜喜多山と呼ぶ。その麓付近に200年以上前に建てら

れた屋敷があり、各務悠也はその場所に呼び出される。

 矢文は「鏡閑」で用いられる事がある。古い手段ではあるが、インターネットや携帯電

話より機密性を高く維持して相手に直接伝える事が出来る利便性がある。

 

 深夜、降り続ける雨の中―――

 

 正路屋敷の門構えを見上げ、そして、開かれた門前に立つ黒スーツ姿の男を見据える。

闇の中に灯る照明だけが今という時間を垣間見せる。

 悠也の記憶の中に男の顔が刻まれている。間違いが無ければ名は「阿坂荘司」という男

で、壮年の域に達しているはずである。

 阿坂は悠也の忍装束の乱れた姿を見て、馬鹿にした様子で含み笑いを見せる。

 雨に打たれ、片や阿坂は濡れていない。

『各務悠也だな?貴様は』

『そうだ。矢文はお前か?』

 問い返す悠也の言葉はきつい。戦闘での疲労も衰弱も全く感じさせない。

 忍装束の上衣を着ず、上半身はシノビ・ギアのみである。肉体に雨粒が弾け、ギアの表

面を伝っていく。

 夜の闇の中、深々と降り続ける雨の中、薄暗い表情で阿坂に対応する。

『老師がお呼びだ・・中へ入れ』

『・・・・老師・・(――――――あの・・“妙源老師”か)』

 各務家とは深い縁で繋がっているといっても過言ではない。しかし、過去に何があった

のかは悠也には知る由も無い。今となっては・・・

『付いて来い』

『・・・』

 悠也に軽蔑な眼差しと対応で背中を向ける阿坂は、門内へと入っていく。その際に自分

だけ傘を差す。

 悠也は今更濡れるのも気にせず、阿坂に付いて行く。これは悠也にとっては良い機会な

のだ。

 妙源老師といえば、IFAOを含む各諜報機関の頂点に立つ「鏡閑」の中で、実質的な

支配者と言える存在である。悠也の様な末端組織に属する忍が、願っても決して会えない

雲よりも高い地位にある人物なのだ。

 表門を抜けると前庭が広がっている。屋敷へと続く石畳の下に人口で作られた川が流れ、

周囲は適切に刈り込まれた木々がある。

 正路屋敷は、旧家で知られ、甚大市の現存する中では特に古い部類の建物に属し、市指

定の文化財に登録されている。

 現在、人は生活していないが、重要な会談や商談には金さえ出せば使える事が出来る。

 そして、前庭を越えた先に建物の玄関がある。阿坂は敢えてそこへは行こうとせず、進

路を東に変える。

 前庭と南庭とを隔てる中門へと向かう阿坂に、悠也は不審に思うが、今は付いて行くし

かない。ここで不審な行動はしたくない。

 悠也のそんな心が象徴してか、口元を覆うマスクを上げ直す動作をする。そして、鬱陶

しく熱の篭もったマスク内部を、布地の一部を指で引っ掛けて熱を逃がした。

 雨脚が強まる。本来は整然とした南庭の美しさがあるだろうが、今は雨で薄汚れて見え

る。雨音だけが響き渡る中、悠也は阿坂に付き従い奥庭に出て離れに入った。

 離れに上がり、脱衣所と思える場所で阿坂はようやく立ち止まる。振り返り、悠也の雨

と汗で汚れた忍装束を見る。

 無感情にまでに値踏みされる視線が、悠也には鬱陶しく思える。忍がそんなに珍しいか

と嫌味の一つも言いたくなるが、それをぐっと心の奥底で堪えた。

『脱げ』

『・・?』

『脱げ、全部な』

『・・!?』

 容赦なく告げられる阿坂の言葉に衝撃を覚えた。まだ、言葉の意味が理解出来ない。そ

んな悠也の心情を察してか、阿坂は含み笑いをする。

『老師に対し、その薄汚い身なりでは困る、という意味だ。汚れを落とし、身を清め、整

然と応じる事だ』

『・・・風呂に入れ?・・・オレがそんな命令、聞くと思うか』

 からかわれている気分だった。この場で身の全てを捨てて裸になれというのだ。敵地に

も等しいこの場所では屈辱の何者でもなかった。

『お前には妹がいるな・・・確か、「きずな」という名前だったか』

『!?―――くっ!!』

 「絆」と聞いた瞬間、悠也が一瞬にして動いた。阿坂には突風が吹いたと勘違いするほ

どの動きであり、自身の首筋に手刀が当てられているのを遅まきに気付く有様だった。

 阿坂は殺気を感じ取って冷や汗を掻く。悠也の視線が刀の刃の様に突き刺さってくる。

『分かっているはず、だ・・・これからお前が会われるお方は、雲の上よりも遥かな彼方

にある。お前の様な下賎の者には遠きお方よ。ならば、各務家の命運もお前次第というこ

とだ。忘れぬ事だ・・お前がどう足掻こうとも、全ては老師の手の中・・・にあるという

事を心得ておけ』

『・・・・くっ・・』

『さっさと脱げ、汚れを落とせ』

 上擦った阿坂の言葉であるが、今の悠也には痛烈に聞こえてくる。

 絆を守る為に今出来る事をしなければならない。忍の実力だけでは駄目な事は当然に知

っている。各務の両親を殺された時より・・・

 阿坂の首筋に当てていた手刀を退けた。そして、数歩下がって項垂れる。その仕草は阿

坂の言葉を受け入れた証だった。

『髭も剃っておけ。子供で生えも少ないと思うがな・・・それと、ケツの汚れ、ペニスの

包皮のカスもな・・』

『・・・・・』

 容赦なく悠也を責める。子供であると馬鹿にしているのだ。それでも言い返せない自分

に腹が立った。

『風呂から出たら、着替えはこちらで用意する。その汚い身なりなど老師の前で着られる

と思うな』

『・・・・ッ、・・くっ』

 右拳を握り締め、強く更に強く力を入れる事で耐える。耐えるしかなかった。

 阿坂が出て行く。残された悠也は命じられるまま、忍装束を脱ぎ捨てていった。

 全てを脱ぎ捨てて全裸となる。愛用の刀すら置いていかねばならない事に不安は当然に

生じてくる。しかし、今は・・・

 

 

 悠也が風呂へと入る光景―――

 

 檜風呂の映像が屋敷・二階奥室のテレビ画面に映し出されている。その光景を、部屋の

薄暗さも気にせずに見入っている老人がいる。

 顎に手を当てて、この上ない悦び顔をする。

『ふむ・・・良き若き肉体じゃな』

『老師・・・ただいま戻りました』

『うむ。ご苦労じゃな』

『いいえ』

 阿坂が現れる。妙源老師の前で恭しく頭を下げる。そして、顔を上げて、老師が見てい

る光景を見つめた。

『あの忍(者)は気付きますまい。忍なら・・科学とはそう言うものでございましょう』

『それもあるが、ただこやつは若すぎる。実力も経験も浅い―――各務雄司、そして・・

各務征司もこのような後継者を持ちし事、この上なく“あの世”で後悔していよう』

『・・・・・各務征司。本当に死んだのでしょうか?―――私にはそうは思えません』

『ほう・・』

 興味を示す雰囲気での頷きは、盗撮されている悠也に対してなのか、それとも阿坂の鋭

い指摘に対してなのか、老師の顔からは判断出来ない。

 悠也は衣服の全てを脱ぎ去り、濡れ切った肉体をまるで見せ付けるように立つ。

 命令に対し、戸惑う肉体に満ちる肌の質感。若々しく生気のある肉体には確かな強みが

感じられ、忍としての修練が並大抵のものではないと思わせるに十分である。

『良き肉棒じゃな、可愛らしいの~』

『・・・・』

 老師はリモコンを動かして、悠也の“漢”の揺れ具合をズームで拡大して観察する。

 生え具合は流石にまだ高校生といえる。若干の薄さはどうしても否めない。また、亀頭

を半分だけ覆う包皮の存在も老師から見れば「可愛い」らしい。

『おぉ・・形は綺麗じゃの・・・雄司、征司以上じゃな』

『老師・・』

 テレビ画面に食い入っている老師に、何を言っても無駄であろうと判断した阿坂は一礼

して踵を返した。それから部屋を出る際にもう一礼しようと頭を下げた時に、老師は急に

呼び止める。

 老師は、テレビ画面から目を離さずに阿坂に言った。

『一階の奥室に布団を敷いておけ・・・今宵は朝まで愉しむでな』

『はっ・・・承知致しました』

 中途半端に下げていた頭を上げて、改めて一礼するとそのまま下がった。

『使えぬ男よ・・・この様に麗しい男子を見ても欲情せぬとはな・・』

 風呂場に入った悠也は、腰掛に座って頭から洗い始める。そして、複雑な面持ちを拭い

去れない表情と拙い扱い方で髭剃りし始める。

『おぅおぅ。危なっかしいのお~・・・これなら儂が剃ってやっても良かったの・・じゃ

が、剃る必要も無い髭を剃る辺り・・・初心じゃの』

 阿坂に言われた通りに行動する悠也だった。髪も身体も洗い終えると、今度は包皮を捲

り、優しく泡を付けて洗い出す。

 泡が身体より伝い落ちる。艶やかな肌を覆う筋肉に、湯熱の汗も伝う。若々しき肉体に

更なる精気が宿らされる様だった。

『どんなに肩肘を張っても所詮は子供よ・・・儂に掛かればそれも判ろうて・・最も可愛

らしく甚振ってやろうかの・・・・ふぉっふぉっふぉ・・』

 生気の薄い白髪が小刻みに揺れる。悠也の全てはそれからも観察し続けられ、老師の愉

悦の餌にされた。

 

 脱衣所で―――

 

『和服か・・』

 身の汚れの全てを落とし、さっぱりしたはずが、気分がどうも優れない。誰かに監視さ

れる感覚が風呂に入っている最中も拭い去れなかったのだ。

 下着であるらしい小さなサポーターを穿き、和服を着る。帯を締めて和服を調え、鏡に

映る自分を見る。

『兄さん・・』

 不安が募る。鏡に映る自分が警戒感を訴えてくる気がしてならない。その中でも逃げ出

す事ができない。それが忍としての覚悟なのか・・・

 

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