※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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『神技一刀』 6章
六章・一話:共に在る


 雨が上がり、久しぶりの夜空が見える―――

 

 空気に水の香りが舞う。蒸し暑い熱帯夜の様な状態に包まれる甚大中央公園に、子供用

の遊具のアスレチックジムが静かに佇む。

 雲が僅かずつ広がりを見せる中で、夜空の月の輝きが草木へと降り立つ。水滴の付いた

草木が淡い輝きを反射して見せる。

 この中に各務悠也は居る。

 夜の時間は悠也が修行する時間帯。この場所が兄とよく修行した場所でもあり、悠也に

とっては懐かしい場所でもある。

『・・・・・・・・・・』

 湿った髪が下に向かって垂れている。その髪の毛の先から滴が何滴か落ちる。

 視界にアスレチックジムの屋根と自分の右腕が見える。右腕一本で全体重を支え、尚且

つ、親指と人差し指だけの倒立を続けている。

 月の明かりが公園内に影を作る。アスレチックジムの屋根に伸びる一直線の悠也の影が

美しく草木に映える。

 雨が降り、そして、止んでからも倒立する姿勢は微塵にも崩れていない。

 右腕の筋肉が強い引き締まりをする中、自分の平衡感覚だけを頼りにする。暗い闇の中

で、時間を忘れて瞑想する。

 上半身裸の肌に薄っすらと浮かぶ汗と水滴が流れ落ちる。首筋を逆方向に流れ、髪の毛

へと吸収される。

 月明かりに照らされる悠也の肉体は、その精悍さが綺麗である。

『・・・・・・・・(各務は、オレが・・)』

 

 ―――“霧生”という賊に殺されよって・・・しかしの、それはお主が居た所為じゃ

 

          ―――儂に逆らうなどと考えぬ事だ

 

 正路屋敷で出遭った妙源老師の言葉が過ぎる。それらの言葉は、闇の中で抱く悩みの様

にさ迷う。

 

                   ―――兄(征司)の事を知りたいそうじゃな?

 

『・・・・・・・(全てはオレの所為か・・兄さんを失った事も・・)』

 

 ―――雄司も、征司も・・・雄司の妻も・・・全てはお主が悪いのじゃよ

 

『・・・オレは何の為に在る。絆を守る為か・・・?』

 迷いの篭もる苛立った言葉が声になると、集中力が一気に欠けて平衡感覚さえも失って

倒立する姿勢が不安定になった。

 今更の様に右腕に疲労を感じた。両足が乱れ、倒立し続ける事を困難と考え、そのまま

屋根の上に落ちる様にして倒れた。

 屋根の上に仰向けで寝る。両腕を枕代わりに頭の下に置いて、次第に曇り始める夜空を

見上げる。

『雨か・・』

 乾いた汗で多少の汗臭さを感じる。兄と修行した時の汗の匂いを思い出す。共に流す汗

が何よりも嬉しかったと懐かしんだ。

『・・こんなオレが絆を守れるのか・・・絆を守り通す自身が無い・・・・・・・・・。

いや、そうじゃない。オレが守る事で絆を傷付けるのが・・・・』

 

 ―――怖いのか・・

 

 草木の熱気が空気中に舞う。水気を含む風が悠也の身体に触れる。

 半身を起こし風に身を任せる。髪の毛が少しずつ乾いていく中で、右手を自分の左胸へ

と当てた。

 鼓動する音を感じ取る。若々しい艶やかさを伴う肌、その温もりは、掌の内に湿り気と

共に伝わってくる。

『修行で身体を鍛えても、精神(こころ)は兄さんに遠く及ばない。・・オレは未熟だ』

 風に吹かれる髪を掻き上げて後ろに流す。冷たい水の感触が掌の皮膚に付くのをトレー

ニングパンツで拭う。

 暫く周囲を見渡し続ける。常に見る夜景は、今は違って見える。薄っすらと暗く沈むか

の様な景色は今の悠也の心を象徴していた。

 アスレチックジムより飛び降りる。草に付着していた水滴が空気中に舞い上がった。

 夜空を覆い広がる雲に月が隠れようとする瞬間、最後の月光が悠也の周辺に舞う水滴を

輝かす。その中で悠也は立ち尽くした。

『銀河・・付き合わせて悪かったな』

 虚空の闇を真っ直ぐに見つめながら言葉を放つ。すると気配が急に背後に現れる。

『・・・いえ、構いません。悠様が気にする必要はありません』

『・・・・』

 悠也は顔を動かさずに聞く。少年らしさが感じられる声の銀河よりトレーニングウェア

のジャケットを受け取って着る。

 ジャケットを前開きのまま振り返り、上半身の素肌を銀河に見せる。

『・・・・・ぁ・・』

『・・?―――どうかしたか?』

『い、いえ・・』

 銀河は頭を垂れる。ほんのりと頬が赤くなっているが、それも夜の闇では悠也には解ら

ない。

『明日は本格的に“部活”に励むつもりだろう?―――オレの事は気にせず、早く帰れ』

『い、いえ・・悠様こそ、明日より補修と聞いております。お、俺の身体より悠様のお身

体の方を、っ・・―――は・・・ハックション!!!』

 大きくクシャミをした後、ずるずると鼻水を啜る。そんな銀河の少年らしさを悠也は懐

かしむような視線で見つめ、微かな笑いを浮かべた。

『風邪を引くなよ。俺が“キョウジ”に叱られる・・ってンだ』

『は、はい・・・・申し訳ありません』

 銀河は恥ずかしくなって、淡い赤に染めていた頬を更に赤く染めて悠也の顔を直視出来

なかった。

『オレはもう少し居る。何かあれば連絡する。心配するな―――――ッ!?・・』

 「今日は帰れ」と言おうとした瞬間に口を閉じる。表情を急に険しくさせ、警戒感を表

してゆっくりと周囲を臨んだ。

 風が「何か」を運んでくる―――悠也だけでなく、それは銀河にも理解出来た。

『悠様・・この気配は一体・・・』

『・・・・・二つ、いや・・・三人だな』

『霧生でしょうか・・・(―――三人・・?)』

 銀河には気配が感じ取れるくらいで人数までは読み取れない。悠也の言葉を受けて、心

に引っ掛かり感を覚えた。

『下がっていろ―――奴等にはオレが対する』

『・・・悠様』

 銀河を庇う位置に立つ悠也は、真っ向から三人の気配を受け止めた。

 

 ―――オレを狙っているな・・

 

 公園を包むように気配は感じられる。その気配の中央に悠也と銀河は立っているのだ。

三方からの気配に完全に囲まれる位置で、悠也は両目を僅かに細めた。

 

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