※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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六章・二話:四人目の殺気

 月光が消え去る瞬間―――

 

 甚大中央公園に忍び寄る闇―――気配と共に膨れ上がる緊張感。悠也は風を真正面から

受け止める。

 前髪が風に弄ばれて戦ぐ。

 ジャケットを脱ぎ捨てる。敵の位置を把握するまでも無く銀河と共に飛び退くと、その

立っていた場所に三本の小型の剣―――苦無が地面に突き刺さる。

 草の上を滑り、左手で勢いを殺すと上空を見上げた。

 最後の月光が輝く中、三者の影が飛翔する姿が見えた。その影が悠也を取り囲む様に大

地に降り立つ。

 そして、悠也に向かって進む三者の動きは、まさに同時に微塵のずれも無い。

『・・・』

 三者を鋭く見渡す悠也であるが、一向に喋る気配を見せない。一人は長身、一人は小柄

な少年風。そして、もう一人が悠也と同じと思われる身長の持ち主であった。

 風だけが音を奏でる。長身の人物が苦無を取り、その取った瞬間に姿を消す。

 月光の輝きが消え、闇が公園内を覆い尽くす中で、悠也は顎を軽く上げて立ち尽くして

いた。

『・・・(――早い!?)』

『動かれれば・・お命を頂戴致します』

『っ・・―――――――――――』

 優男の様な声が、耳に風を吹き掛ける。その長身の男の忠告を無視し、悠也は後ろに向

かって右肘で肘内を食らわすと同時に前のめりで倒れて逃げる。

 同時に少年ともう一人が飛び掛ってくるが、それを倒立の態勢で避け、そのまま後方宙

返りで跳んで空中に逃れる。

 しかし、その悠也の行動を三者は予測していたかの様に、既に空中に姿を見せていた。

 苦無を持つ長身の男が悠也を切り付ける。寸前で避けるもウェアの一部が引き裂かれ、

更には両脇から二人の攻撃を受けて、大地へと突き落とされた。

『悠様!!』

 銀河が叫ぶ。その言葉が聞こえた悠也は、強張った眼差しで一瞬だけ銀河に対して向け

ると、目線で「逃げろ」と合図する。そして、三者の攻撃に対した。

『ゆ、悠様・・・』

 武器を持たない悠也に対し、敵は三人である。また、三者の実力はかなり高く、特に悠

也に似た身長の持ち主は、まさに悠也に匹敵する実力を持っていると思われる動きをする。

 三者の息の合った攻撃が悠也に襲い掛かる。特に空中戦に於いては遺憾無く実力を発揮

した。まさに悠也を空中へと誘う攻撃さえしてくる。

 執拗な三者の攻撃に、悠也のトレーニングウェアはボロボロにされていく。次第に悠也

の敗色が濃くなっていくのが銀河の目には映る。

『悠様・・・何故、神技を使わないんだ・・』

 神の如き力の象徴である「神技」―――意思を力に変えて物に宿し、攻撃とする。それ

を三者は知り尽くしているとすれば・・・

『神技は「モノ」に宿さなければ力にならないのか・・・そんな事を知ってる奴等は・・

――――ッ、やっぱり間違いない。あれが・・・・・・「獣牙三忍衆」――!?』

 悠也が空中で攻撃を真正面から受ける。体勢が崩れて落下する所へ、長身の男と少年が

追い討ちを仕掛ける。

 大地に激突し、そのまま二人に押さえ付けられる。

『くっ・・!?』

『分が悪いってンだよ・・てめぇは、オレ達に負けンだよ!』

 悠也が顔を上げる。目の前に立つ男を見て驚愕する。

『なっ!?』

 自分が目の前に立っていると錯覚してしまうほど、その人物は悠也に似ていた。

『その通りでぃ!―――ボクらに勝ってこないよ!』

『若様の事、何より、誰よりも我々だからこそ詳しく知るからこそ、若様はワタシ達には

敵わない。それが、ワタシ達―――霧生当主の防衛の要・・・』

 少年と長身の男が告げる。そして、その言葉に合わせる様に悠也似の青年が顔を勇まし

く悠也に向け、

『―――獣牙三忍衆ってンだよ!!』

『くっ・・!?』

 土を右手に握り取る。そして、そこから神技を発動しようとするが、それさえも三者は

予測し、手拭を悠也の口の中に入れ込む。

『がっ・・―――ぐっ!?』

『神技とは、神の力の招来。言の葉に含まれる力の具現化です。それさえ封じてしまえば

若様は赤子同然となりましょう』

『それを封じられちゃ・・・てめぇも終わりだな?』

『勇真ァ。若様に向かってぇ~!!酷いこと言うなぁ~』

『若様っか・・その“若様”がオレ達に何をしたってンだ・・・ただ現実から逃げただけ

だろうが!!―――オレ達を見捨てたこいつの所為で・・・』

『・・・っ・・』

『勇真。飛鳥。それ以上は控えなさい』

『ちっ・・・わあったよ!』

『はぁい』

 悠也似の青年と少年は、長身の男に諭されて素直に言う事を聴く。どうやらこの長身の

男がリーダー格の様だ。

 長身の男は、苦無を悠也に向ける。

『これには毒が塗り込んであります。傷を負えば死を逃れる事は不可能となります・・』

『・・・・』

 口に手拭を入れ込まれた状態で苦しげに三者を見る。地面の湿気を上半身の肌に直接感

じて、今はそれが気色悪い。

『こんなところで如何でしょうか?―――“悠輔”様』

 長身の男が後ろに向けて言葉を放った。その瞬間、暗い殺気が悠也に対して向けられて

きた。そして、悠也似の青年の背後に姿を見せる男の影が映った。

『裏切り者は、殺す・・―――――』

『―――ッ!?』

 容赦ない男の声。悠也よりも若さが感じられる声であるが、それも暗い漆黒で覆われる

様な喋り方である。

 三者が悠也を解放して退いた時だった。悠輔と呼ばれた人物が左手を掲げる。その左手

に篭もる光を見て悠也は驚愕する。

『・・っ!?―――(神技の光か!?―――あの時の!!)』

『神技・・・』

 言葉は重く悠也に向けられる殺意の氷が周囲の気温に影響を与えている。

 地面に這い蹲る悠也へと氷の左手が向けられていく・・・その時!?

 

『悠様ぁ!!!』

 

『何だってンだ!』

『わわっぁ!?』

『くっ!!』

 三者が驚く。背後から急に姿を見せて特攻してくる銀河に驚いていた。

 銀河は三者を突き飛ばして悠也へと向かって駆け出している。そして、悠也の目の前に

立つ瞬間、長身の男が苦無を思わず投げ放ってしまう。

『涼真兄ッ!?』

『涼兄ッ!!』

『しま―――ッ!?』

 

 ――――やめろぉぉぉぉぉぉお!!!!!!!!!!!

 

 悠輔と呼ばれる人物の神技の発動から悠也を庇い、そして、長身の男が放った苦無を右

太腿に受ける。まさに同時に命中し、悠也の目の前で銀河は立ち尽くす。

『ちっ・・しくじったか』

『ゆ、う・・・さ・・――――――――――ぁ・・』

『悠輔様・・・申し訳ありません』

『あいつ・・・やべぇぜ』

『死んじゃうのぉ?』

『―――――ッ、ッ!!!』

 悠也が口の中から手拭を吐き出すと、倒れゆく銀河を抱き止める。

『あっ・・ゆ・・う・・――――』

『銀河ッ!!銀河ッ!!!・・・しっかりしろ』

 身体の半分が冷たくなっている中で、右太腿に突き刺さる苦無より血が溢れ出、また、

その出血する色はどす黒く変色しており、明らかな猛毒であると悠也は悟った。

『銀河っ・・死ぬな』

『ゆ、う・・・にげ・・・て・・オレに、・・・ガはァッ』

『今度は外さん――――神技・・・』

『悠輔様ッ!!』

『悠輔サン!!!』

『輔様っぁ!!』

 三者が同時に叫び、銀河を強く抱き締めて俯く悠也へと神技の氷が放たれようと・・・

 

 その時―――――

 

『―――ッ!?』

『な、何だってンだ・・・この気配・・・』

『・・・・9、10・・・・11・・―――――11人も居るよ!』

 公園を包む様にして10人の気配が発生する。殺気立った気配は悠也ではなく、明らか

に三者と神技を放つもう一人に対して向けられている。

 そして、悠也の傍にそっと姿を見せる・・・

『悠様を傷付ける事は・・・我等「飛龍」が許さん――――』

 忍刀を右手で水平に構え、悠也を守る様にして立つ。若々しい容貌が闇を見据える。

 10人の殺気が公園内に侵入する。ゆっくりと威圧する如く近付いて来る。

『何だよぉ!!―――ボク達の邪魔をする気かぁ!』

『・・・・・・・貴方達は・・(その少年も合わせると十二忍、か・・)』

 10人が影を見せる。悠也を中心として佇み、三者と一人に殺気を見せる。

『我等、飛龍―――悠様を守る!』

 悠也の傍に居る人物が強い言葉を放った。

『悠輔様。ここは撤退します・・・数の上では不利です・・・それに・・・・』

 悠也が抱き締めている瀕死の銀河を見る。そして、両目を伏せる。

『・・・・・・・・・・・・・・・・解った。その男に免じてやる。今は・・』

 長身の男に従って、神技を使った悠輔はその場から引き下がって姿を消した。すると三

者も暫くして姿を忽然と消した。

 いつの間にか空に広がっていた雨雲より雨が深々と降り始める。そして、雨音が痛々し

く公園内に響いた。

 

 

 11忍が見守る中で・・・

 

『しっかりしろ。しっかりするンだ・・・くっ―――オレの所為で・・』

『ゆ、う・・・』

 吐血しながらも悠也に答えるが、その身体が次第に冷たくなっていく。

『大丈夫だ。すぐに桐子サンの所に連れて行ってやる!―――キョウジ!!』

『はい』

 悠也の傍に立つ人物が答えるが、その眼差しは暗く重い。

『すぐに連絡を取れ!!』

『・・・・・・』

 何も答える様子が無い。頷きもせずにただ銀河を見守っていた。

『キョウジ!!』

『・・・・悠様・・』

 ようやく言葉を発すると、持っていた忍刀をそっと悠也の前に差し出す。

『・・・・・何の真似だ・・』

 きつく睨む悠也の視線を真正面から受け止め、それでも忍刀を仕舞おうとはしない。

『・・・・せめて、悠様の手で・・・銀河を――――苦しまずに逝かせて下さい』

『ゆ、う・・・ぅ・・・さ・・・』

『バカ野郎ッ!!絶対に助ける!!!助けるってンだ!!!!』

 叫んですぐ、他の者達の悲しみの視線を受ける。悠也にも解り切った事実であるが、ど

うしても認めたくないという気持ちの方が強かった。

『その毒は既に全身に回っています。これから苦しむよりも、悠様の手に掛かれば楽に死

ねます。それが銀河の望みであり・・・・我等「飛龍」となり誓った・・おれ達の望みで

もあります・・・・どうか。悠様・・・』

『キョウジ・・・・』

 涙を溜めて切実に訴える気持ちを向けてくる事から、自分以上に悲しみを抱いている事

をはっきりと理解する。それは他の仲間達も同様だった。

『ゆ、う・・・はや・・・く・・・ぅ・・――――がはっ。ごぼっぉ!!』

『ぎ、銀河・・・』

『悠様・・・どうか』

 無理矢理、悠也に忍刀を握らせる。そして、その悠也の手に自分の手を添えて、銀河の

胸元まで移動させた。

『ゆ、う・・・・』

『頑張るって・・部活、楽しみにしてたンだろ・・・なのに、オレは・・・オレが・・』

 悠也の手が震えている。仲間の死を目の前にして恐怖が生まれる。

『悠様・・・どうか・・どうか、頼みます』

 悠也の手に添えていた手を退かすと、銀河の右太腿に突き刺さっていた苦無を引き抜い

て、その苦無を持って下がる。

 11忍が見守る中、悠也は・・・

 

 ―――オレは・・

 

『・・・・・』

 アスレチックジムの屋根の上にそっと影は降り立つ。この公園内に居る誰にも気付かれ

ずに、そっと悠也を見守っている。

 影が揺れる。静けさが増す中で、瞳だけは強さを保った。

 

 ―――オレは・・・

 

「各務奥義は、人の命の絆(結晶)だ・・忘れるな。悠也―――――――――」

 

『――――(に、兄さん・・)!?』

 漠然と脳裏を過ぎる声があった。悠也はハッとして気付く。脳裏を過ぎった声が、かつ

て兄と語り合った過去であると思い出す。

『悠様・・?』

『キョウジ・・・オレには出来ない・・・・・・これはオレのやり方じゃない』

 

「命(絆)を守れ――――――――――――悠也。お前の力を見せてみろ」

 

『悠様。しかし!!』

『黙れ!!オレは各務だ!!霧生じゃないッ!!―――もう戻らない。だったらオレは、

オレなりのやり方を突き通す!!』

 銀河の胸元に左手を、そして、右太腿に傷口には右手を添える。

 

「各務奥義――――――――――――――――・・」

 

 アスレチックジムに現れていた影が忽然と消えた。その瞬間、雨が止んだ。

『各務奥義ッ!!!(頼むッ)―――鏡世ッ・・八咫鏡!!(ってンだぁ!!)』

『ゆ、う―――!?――――こ、これは!?』

 悠也の周囲の大地が銀色に輝いた―――瞬間、銀の輝きが悠也に灯った。

『オレの力を注ぎ、命の絆にする!!――――くッっおぉぉ!!!!!!』

『ゆ、悠様ァ!?』

 あまりの眩しさに11忍は動揺する。銀の輝きが悠也から銀河へと次第に移って・・・

 

 

 公園内に立ち込める銀の輝き・・・それが静まる時―――

 

 悠也は立ち上がる。疲労感を露に振り返ると、力を失ったかの様子でその場に崩れ様と

するが、その悠也を支える・・・

『悠様・・・何が、一体・・・』

『暫く力は封じられるってンだ・・・・けどな・・・銀河は、助けた・・・早く、桐子サ

ンの所に・・・・』

『悠様・・・・』

『リーダー・・・ぎ、銀河が・・!!』

『なに・・・ッ!?』

 銀河の傷口が完全に塞がっている。そして、静かに呼吸する様も見えた。まるで何事も

無かったかの様子で銀河は眠っていた。

『す、凄い・・・悠様にこれほどの力があるなんて・・』

『そうか・・各務奥義の力か・・・力そのものを直接注ぎ込み“癒し”とする――――そ

の結果、暫くは力を封印する諸刃の技ということか・・』

 悠也が眠りに落ちようとする。その悠也をしっかりと抱き止める。

『力の封印とは・・・それじゃ霧生の技や神技も・・・?』

『そうなる。悠様、貴方という人は・・・』

『・・・へー、き・・ってンだ。明日から、補修・・・だし・・な・・・・・』

 言い終えると眠りに落ちる。疲れ切った表情の中にも満足そうな様子が窺える。

『・・・有難うございます』

 涙が雨と混じる。再び降り始める雨に・・・静かに闇は深まっていった。

 

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