※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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七章・五話:兄弟の絆

 図書室―――

 

 荒らされた室内。本棚は幾つも倒れ、本が乱雑に床に折り重なっている。その本の一つ

一つを雪菜が拾い上げて片付けている。

『―――雪菜ッ!』

 扉が勢い良く開かれて将星が雪崩れ込んで来る。叫びが室内に木霊すると、本の一つを

拾おうとしていた雪菜は、身体を起こして将星を笑顔で迎えた。

『将星さん』

『・・・雪菜、無事だったか』

 強張っていた表情のまま安堵してしまう為、中途半端に顔が引き攣ってしまう。そんな

将星を見て、雪菜は穏やかな笑いを見せる。

 雪菜が再び本を拾い始めるのを、将星が手伝う。身近に落ちている本を拾いながら雪菜

の姿を見る。

『雪菜。亡者は!?』

『・・・居りません。初めから―――』

『・・・・・』

 雪菜は手を止める。それから将星が手を止めた。

 静寂な時間が時を刻む。雨音だけが支配する中で、二人は止めていた手を動かす。

 暫く無言。本を拾う際に生じる最も小さな音が無数の雨音を掠める様に室内に聴こえる。

 周囲を見渡し、雪菜を確認しながら見る将星は、視線を拾う本へと落とす。

『――――――龍征だな?』

 将星には解る。亡者の匂いがこの室内に充満しているのを―――それが、次第に空気中

へと拡散して消えていくのを。

『・・・知りません』

『・・・・・・・雪菜』

 将星の問いを雪菜は無視する。亡者を倒したのは紛れも無く壱哉であるが、その壱哉か

ら口止めされては将星に告げるべき言葉を見出せない。また、真実を将星に告げたとして

も壱哉との間にある溝は埋まらない。

『雪菜。自分には嘘を付かないでくれ』

『いいえ。付いてません』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・信じて良いのか?』

『――――はい』

『・・・・そうか。解った』

 会話の最中、二人は何度も手を止めては動かす。そして、会話が終わると、片付けが終

わるまで無言が続いた。

 

 

 体育館プール場―――

 

 霧の様な状態の中、悠也は呻き声を発した。それは悠輔が頭上から覗き込む姿勢で首を

絞めてくる所為の苦しみの声だった。

 身体は疲労感が溜まって動き辛い。大道寺の凌辱により精気を吸われた所為であると、

朧気ながら感じ取っていた。

 首を絞められている最中で、他所事を考える余裕があるとは、自分でも驚きだった。息

苦しい苦痛が喉の奥を塞ぎながらも、目の前に顔を見せる悠輔を見つめた。

 天井が遠いが、聴こえてきた絆の声ははっきりと聞き取れた。

『きず・・・な・・・』

 呼吸困難になりながら、掠れても小さな声で確かに告げる。

『兄貴、ぃ・・――――――』

 力を益々籠める悠輔であるが・・・

 

『おに・・・ちゃ・・――――――――――――――――――』

 

 絆の声が再び聴こえた瞬間、悠輔の表情に浮かんでいた憎しみの感情が乱れ、精神的な

不安定さを見せた。

 悠也は目にする。動揺する悠輔が何度も絆の声が聴こえる方向へと顔を向けるのを。向

ける度に首を絞める両手より力が抜けるのを。

 絆の声は、悠也の耳に今もはっきりと聴こえたが、それ以上にはっきりと聴くのは悠輔

の苦悶の声だった。首を絞める側が苦悶の声を出すのは変だと、曖昧な思考で悠輔という

人物を考える。

 呼吸が乱れては思考も当然に乱れる。この目の前に居る悠輔が向ける憎しみが理解出来

ず、想像も出来なかった。

 

『おに・・・・・』

 

『各務・・俺は・・・・・・・・』

 手が完全に緩んだ。目を強く瞑って項垂れる。

 首の絞め付けより解放された悠也は、新鮮な空気を胸いっぱい肺に吸い込む。

 悠輔は、このプール場に来る前に絆と交わした会話を思い出していた。兄が怖いのかと

言われて否定出来なかった自分が何であるのかを迷っていた。

『まえ・・・―――お前・・は・・―――――――誰だ・・』

 悠也は、呼吸が落ち着いてから、悠輔にゆっくりと問い掛けた。

 悠輔は、悠也の声を聴いて驚く顔をする。悠也に声を掛けられた驚きと、問い掛けられ

た事への戸惑いが表情へと表れ出る。

『・・・・・・・・・』

『・・・・・オレは・・』

『・・お前は、各務、悠也だ・・』

『・・・・霧生が、オレの素性を・・・・・・』

 悠輔のたどたどしい言葉に対して何故か不快感を得ない。また、自分の正体を知られて

も後悔は無いと心が判断すらしている。

『怒るのか?』

『・・・・・・ふっ』

『何が可笑しい・・』

 軽く笑う悠也にムッとする悠輔は、それからすぐに表情を急にと惑わせて顔を横に逸ら

した。悠也の目には、悠輔の頬が赤らんでいるのが分かる。

『お前・・・変だぞ』

『・・・・・・・・』

 悠也が起き上がる。悠輔を見ている内に元気を貰った気がした。顔色すら良くなり、半

身を起こすと右足首に絡まっていた競泳水着をとりあえずは穿いた。

『殺すのか?―――それとも、助けられたのか。オレとしては判断に迷うな』

『・・・・・・・・お前が憎い・・・が・・各務の事を考えると・・』

 絆の声がした方向へと顔を向ける。瞳のさ迷わせ方からしてとても忍のものではない。

普通の高校生が恋をするかの様だった。

『絆か?』

『・・・ああ』

 悠輔の向く方向を一緒になって見る悠也は、何か悠輔との統一感を得た気がして、そこ

に喜びすら覚えていた。そう判断した心が嬉しいと思わせてくる。

 

 ―――変な奴だ・・・変なオレだ・・・

 

『絆はオレの妹だ』

『妹・・』

『惚れたのか?』

『―――ッ!?・・そ、そんな訳、ない!!』

『ふっ』

『・・・・・・』

 悠也は落ち着いて悠輔をからかった。それが楽しくて仕方ない。初心な反応を悠也の前

で見せてしまう悠輔も、内心ではまんざらでもない様子だった。

 悠也が再び悠輔という人物を確認する。鍛えられた身体を観察する内に、腰帯に引っ掛

けてある黒い鈴を発見する。

『その鈴・・・オレのと・・(似ている・・)』

『・・・・・俺のだ。父上の形見と“清十郎”から聞いた』

 ムスッとして答える悠輔は、少年の様な恥じらいを見せる。黒い鈴を掌の中に包み込ん

でそっと握り締める。

『・・父上?の・・・―――――――――――――お前・・』

 

 ―――まさか・・

 

 悠也の心の中で次第に悠輔という人物が見えてきた。はっきりと鮮明に正体が判明して

くるにつれて動揺は酷くなる。

 弟・・・であると、感じた瞬間がやがて到来した。悠輔の顔をじっと見つめ、そして、

声を掛けようとした瞬間、

 

『悠輔殿―――いつまで遊び呆けておりますか?』

 

 プール内に響く渋めの男の声がする。その声に悠輔は反応を示すと、ハッとして突然に

悠也の傍より退いた。

『そうか・・――――俺は今まで・・・・こいつの術中に・・くそっ!』

『――ま、待て!?』

 去ろうとする悠輔を止めたいが、悠輔に向けられた男の声がどうしても気になる。心の

奥底で強い衝動が引っ掛かってくる。

 

 ―――まさか・・・

 

『せい・・・』

 

『悠輔殿――――「花嫁」はこのままお連れ申し上げましょう』

 

『――ッ!?――――やめろ!!もういい!!』

 叫ぶほどの悠輔の声が遠い。霧の中に姿が霞んでいく中で、悠也は男の正体に気付いて

驚きを露に立ち上がった。

『清十郎かッ!?―――清十郎ッ!!!!!!お前なのか!!!!!!』

 怒りが喉の奥より堰を切って声となって叫んでいた。大声がプール場に響き渡るが、そ

の声も霧の中では霞んでしまう。

 憎しみが募る―――表情をするが、それをすぐに消すしかない。

『くっ・・・くっ!!!――――きず、な・・の身の安全の・・・くっ。確保だ・・』

 歯軋りをするほどに強く歯を噛み締めて、両拳は皮膚が切れるほどに強く握り締める。

 悠輔の気配が遠退いていく。それは悠也が憎しみを向ける相手―――父・霧生宗真を殺

した旭志清十郎の気配が遠退くのと呼応していた。

 悠也は、去って行く悠輔と清十郎を構わずに急いで絆の安全を確保する。

 周囲の気配を探るが、もはや悠輔も清十郎の気配は完全に消えていた。追っても無駄だ

ろうと、絆をこの場に残す事の危険さを考えて、そうして無理して諦めるしかなかった。

『うぅ・・・』

『いつもの発作か?―――大丈夫だ。・・大丈夫ってンだ・・・オレが傍に居る。へーき

だぞ・・傍に付いててやるってンだ』

 絆の額に掌をそっと乗せる。高い熱を発しているが伝わってくる。

 絆の無事を願いながらも、悠輔の事、そして、清十郎の事が気になって願いはいつまで

も集中出来なかった。

 

 

 

 校門辺り―――

 

 清十郎の姿は見えないが、確かに隣を歩いている―――そう感じながら悠輔は甚大高校

を出た。そして、立ち止まって振り返る。

『・・・・如何致しまたか?―――悠輔殿』

『いや、何でもない・・(兄貴か・・―――――)』

『・・・・・・』

 雨が静かに降り続ける今の時間帯は、既に夜の時刻を指し示していた。静寂な雨音が時

をゆっくりと刻んでいく中、悠輔と清十郎は姿を消した。

 

 

 

 

 

忍務「完了」

 

 

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