※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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『神技一刀』 8章
八章・一話:雨の出会い


 深々と降る雨が霧を作る7月上旬の日曜日―――

 

 買物袋を右手に持つ各務絆は、傘を左手に持ち、考え事をしながら歩道を歩いている。

『えっと・・・解熱剤は買ったし、スポーツドリンクもまだ冷蔵庫に入ってたはずだし。

それと今日はお粥にしなきゃ』

 歩いている最中で、自転車が猛スピードで駆け抜けてくる。その自転車を避けて道端に

寄りながら足を止める。

 

『くぅ・・』

 

 足元付近より聴こえてくる細い声。とても切なそうに聴こえてくる。

『・・・・?』

『くぅぅ・・ン』

『あ・・・』

 絆の足元の傍にダンボールが置いてある。その中に小さな仔犬が雨に濡れて寂しそうに

していた。か細い声の正体は、この仔犬の啼き声だったらしい。

 傘の柄を肩に乗せ、買物袋を肘に掛けて仔犬を見ながら座り込む。

『くぅぅ・・』

『どうしたの?―――捨てられちゃったの?』

 黒と白の毛並みが雨に濡れて重くなって辛そうだ。それに寒そうに全身を震わせて、ナ

チュラルアイの瞳を潤ませる。

『・・かわいそう』

『くぅぅン、くぅぅン』

 「ぼくを助けて」と言わんばかりの啼き声と潤む瞳をする仔犬であると、絆は思ってし

まう。そう思わせる可愛さを仔犬が備えているといった方が正しいのか。

 顔を少しだけ横に向けて上目遣いに絆を見つめる仔犬。

『ごめんね。飼ってあげたいけど・・お兄ちゃんが嫌がると思うし・・・』

『くぅ、くぅ・・』

 頭を撫ぜると、可愛らしい毛並みが相当に雨に濡れていると知る。ハンカチを取り出し

て仔犬を覆う様にして掛けた。

『あ、そうだ・・・ソーセージって食べるかな・・・って、ミルクの方がいいかな?』

 買物袋にはソーセージも牛乳も両方ある。しかし、ソーセージは食べられるだろうかと

考えると悩むが、とりあえずはミルクを上げようと決めた。

『ちょうど買ってたお茶碗・・・ちょっと勿体無いけど、良いかな。私のだし』

『くぅー。くぅー』

 買物袋より茶碗を取り出して、仔犬の傍に添える。その時、絆の指に仔犬が擦り寄って

くる。

『ふふっ。待っててね、今、ミルクを上げるよ』

 肩に傘の柄を乗せて、買物袋を肘より提げる状態で、その買物袋の中から牛乳パックを

取り出すと、片手で器用に口をあけて牛乳を茶碗に注いだ。

『くぅー、くぅーン』

『ごめんね。飲み辛いと思うけど我慢して・・』

 絆が喋る間、じっと顔を見続け、見終わると茶碗内に口と鼻を突っ込む様にして舌でペ

ロペロと牛乳を舐め始めた。

 尻尾を軽く振る動作を見せながら、牛乳を舐める。そんな一生懸命な仔犬の姿を見て、

絆は嬉しそうに笑った。

『濡れると、お兄ちゃんみたいに風邪を引くから、傘を上げるね』

 自分が濡れるのを気にせず、傘を仔犬が入っているダンボールを覆う様に地面に置く。

 傘で影が出来るのを仔犬が気付いて顔を上げる。鼻に牛乳を付けて、円らな瞳を不思議

そうな様子で向けてくる。

『いい飼い主に会えると良いね・・じゃあね』

『くぅぅン。くぅぅン』

 絆は立ち上がると、買物袋を持ち直して駆け出して去って行った。

 絆の後姿を仔犬がじっと見つめ、何度も恋しそうに啼き続ける。絆の姿が見えなくなっ

た後、絆が置いていったハンカチに包まる様にして匂いを嗅いでいた。

 

 

 

 電話のベルが鳴り響く、各務家内―――

 

 二階の洋室のフローリングの床に布団を強いて横になっている悠也が、一階より聞こえ

てくる五月蝿さに我慢で着ず布団を頭まで被ってしまう。

『うるせぇ~~ってンだぁ・・ハァハァ・・ち゛くしょぉ~・・きずぅ。まだかぁ~』

 布団内で呻くが、汗を掻いている所為もありすぐに暑くなり、結局、布団を捲って顔を

出す。そうしている内に電話のベルは止まる。

 呼吸が荒く、顔が赤い。疲労した眼差しには常の強みが感じられない。ぼーっと天井を

見てしまう。

『オレが風邪とはな・・ぁ。はぁ、情けねぇってンだ・・・』

 夏風邪が流行っているらしいとはテレビのニュースで報道されていたが、“仲間”から

もIFAOの佐伯隆一郎よりも何度も注意を喚起されたが、自分は大丈夫だと言う絶対的

な自信が油断を誘ったのか、風邪を引いてしまった。

『オレって、そういえば・・・・前は、いつ風邪を引いたンだ』

 子供の頃は病気一つした事の無い健康児だったと、そんな記憶を思い起こす。そうして

考えている内にぼーっとしてしまう。

『あぁー疲れたァってンだ。アッちぃってンだぁ・・きずぅー、早く帰って来いぃ~』

 薬を買いに出掛けた絆が帰ってくるのが、とてつもなく待ち遠しい悠也だった。近くに

ある置時計を何度も見ては、時間が全然経ってないと喚く有様である。こういう時は、時

間を気にすれば気にするほど時間が経つのが遅く感じるものだ・・・とは、今の悠也の思

考能力では理解出来ない。

 6月下旬の事件より力を失ってから今に至るまで、力はいまだ回復していない。それと

関係あるのかは解らないが、こうも体調が悪いと、どうしても悪い方向へと思考が傾いて

しまうのは事実だ。

『やっぱ・・・力を失ってる所為かぁ~?・・・ハァ・・らしくねぇってンだ・・・』

 

『ただいまっー!』

 

 遠くで響く絆の声。ようやく帰って来たようだ。すると悠也は、両目を大きく開けて、

扉の方へと顔を向ける。

『はうぅ・・・きずぅ。早くぅ・・・ってンだぁ~~~~』

 布団でジタバタともがく悠也は、まさに絆に甘えている様子だった。

 

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