※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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八章・三話:時間の清流

 部屋の扉が閉まる―――

 

 絆が出て行った後、悠也は頭を枕に沈ませる。天井をぼーっと見つめている。

 悠也の部屋は、兄・各務征司と一緒に使っているロフト付きの9.5畳の広さの洋室で

ある。征司が居た頃はロフト部で寝ていた。

 部屋の隅には、2年間全く起動していないパソコンが置いてある。これは征司が使って

いたものであるが、悠也には使いこなせない為、全く触っていない。

 部屋内は雑然としている。絆が定期的に掃除してくれるが、それでもすぐに物で溢れて

しまうのだ。

 枕の傍に置いてあるテレビのリモコンを手にして電源を入れる。ちょうど料理番組が放

送されており、肉料理を扱っているが、今は美味そうに見えない。

『はぁ・・・』

 見てもつまらない。面白みを感じないままテレビの電源を切った。リモコンを捨てるよ

うにフローリングの床に置いた時、枕の下に入れていた携帯電話より振動が発生した。

『だれだぁ・・・こんな時にぃ・・・』

 枕が携帯電話の振動で微かに揺れる。ぼーっとして眠く、汗で濡れたパジャマで気持ち

悪いと思いながら携帯電話を取る。

 

「もしもし。・・・・・」

 

 携帯電話を耳に当てた瞬間、良く知る男の声がする。ぼーっとしながら悠也は暫く黙る

と、向こう側も黙ってくる。

『・・・・・・・何か喋れってンだ』

「す、すいません」

 声の主は、篠崎銀河という甚大高校の一年の生徒である。そして、“ユウ・クサナギ”

に付き従う十二忍の一人でもある。

「あの・・悠様。お加減は如何ですか?」

『あ?・・ああ』

「す、すいません」

 緊張気味に悠也に話し掛けてくるが、風邪で調子の悪い声を出す悠也が苛立っていると

思ったのだろう。銀河は急に困った様子で謝ってくる。

『はぁ。すまん・・風邪の所為だ。調子が良くない』

 ぼーっと天井を見ながら銀河と会話する。少しは気分転換になると心では思っているが、

それが銀河と会話する口調には全く今の感情が表れていない。

「出来ればお見舞いか、お世話をさせて頂きたいのですが・・今週は俺の“当番”でした

から・・・ですが、リーダーに言われて・・」

『そうか。それよりも調子はどうだ。足の具合は?』

「いえ、俺の方はすっかり―――・・あの時の状況を伺ってます。本当にありがとうござ

いました」

『そうか。キョウジからは連絡を貰っていたが、その調子だと大丈夫そうだな』

 だんだん眠くなってくる。安堵が全身に満ちてくる。

 外から聞こえる雨音と時計の針が動く音を聴きながら、少しずつ瞼が自然と下りてくる

のを、度々開いて会話を続けた。

「俺、・・俺、また走れます!―――悠様の為に動けます。ありがとうございました!」

『いや・・それはオレの台詞だ。あの時、庇ってくれていなければ、どうなっていたか。

感謝している』

 甚大中央公園で襲われた時の事を鮮明に脳裏に浮かべる。「獣牙三忍衆」の事、そして、

プール場の事件を経て知った「相葉悠輔」という存在の事。

「悠様・・?」

『・・陸上、頑張れよ』

「は、はい・・はい!―――悠様、早く風邪を治してください。俺達、飛龍十二忍、心よ

り回復を願ってますから」

『・・・解った。キョウジやみんなによろしく伝えてくれ』

「はい。それじゃ失礼します」

 銀河の言葉の終わりで電話を切る。折り畳んで布団の上に落とすと、右手を上げて掌を

開いた。

 じっと右手を見つめる。意識を集中しようとして暫くするとやめる。それから何度も右

手を握り締めては開く動作を続け、

『あと少しだな・・・呪力が戻るのは』

 力が戻り体調が回復したら、本格的に活動するつもりだった。

 霧生一族内でも特異の存在であった当主を守る要「獣牙三忍衆」。そして、悠也が形見

として持つ「鈴」と同じ形の物を持つ「相葉悠輔」。そして、「旭志清十郎」

 ゆっくりと時が進む。霧生一族の姿が明確になってくるにつれて、戦いの意識へと悠也

を駆り立てていく。

 身体が熱い。右手を下ろして額に乗せると、疲れた息を大きく吐き出した。

『風邪って結構辛いンだな・・・って事は、絆の発作はこんなもンじゃねぇって事か』

 

「入るよー」

 

 絆の声がすると同時に扉が開かれる。悠也は顔を横に向けて絆の姿を見る。

『気持ち悪くない?―――さっき食べたお粥の量が多かったかなって』

『調子わりぃってンだ・・・気持ち悪くはねぇけどよ、汗がうぜぇって』

『うん。換えのパジャマを出すね』

『ああ、わりぃってンだ』

 絆が布団の傍にお盆を置くと、パジャマを取りに行った。

 絆が置いたお盆には、綺麗に折り畳まれたタオルと薬の箱、水を入れたコップの3つが

置いてあった。

 コップ内で液体が揺れている様を、悠也は暫く見つめる。

 ぼーっとしていると、突然、少し冷たい温もりが額に置かれる。コップを見ていた悠也

が一息吐きながら目を瞑る。

『頬っぺたもまだ赤いし、熱もまだ下がってないね・・』

 額に感じる温もりは絆の手である。手で悠也の熱を測っているのだ。

 絆が額から手を退ける。目を開ける悠也は名残惜しそうに息を吐き出す。

『別にへーきってンだ・・』

『へーきじゃないじゃない。夏風邪はほっとくと酷くなるの!』

 悠也が半身を起こそうとするのを、背中に手を置いて支えながら、いつもよりは弱い口

調で怒る。

 半身を起こした時、絆の髪が若干だけ濡れているのを知った。その悠也の視線に気付い

た絆は、買物から戻ってくる道中での事を語った。

『そうか・・かわいそうだな・・同情って好きじゃねぇけどな』

『うん・・』

『風邪、引くなってンだ』

『うん。後でお風呂に入るから、へーき』

 ぼーっとする視線を布団に向ける悠也は、絆が差し出してくる薬を飲み、それからゆっ

くりと水を飲んだ。

 水が身体に染み渡っていく気がして爽快感を得る。ほっとした様子の息を吐き出す。

『汗を拭くから、脱いで』

『は・・?』

『は・・?――じゃなくて、ほら脱いだ脱いだ!』

『って、自分で出来るってンだ!・・よ・・』

 顔が赤いのは風邪の所為だと、無理に自覚する悠也である。絆としては兄の看病である

から当然と思って自然な様子であるが、悠也としては落ち着かない。

 しかし、抵抗しても無駄である。無理に脱がされるならいっその事と諦めた。パジャマ

のボタンの一つに手を掛ける・・・

 

 突然、チャイム音が響き渡る―――

 

『誰だろ。―――ごめん、ちょっと見てくるね』

『ああ』

『その間に着替えちゃ駄目だからね』

 絆は立ち上がって部屋を出て行こうとする。その絆の後姿を見ながら溜息を吐く。

『ふつー逆だろ・・・ハァ・・やれやれってンだ、らしくねぇよな―――オレ』

 身体が疲れて何もやる気がしない。支えを失った身体が布団に倒れると、ぼーっと天井

を見つめながら、汗で濡れたパジャマが冷たいと感じながら眠気で瞼が下りてきた。

 

 

 二回目のチャイムが鳴る―――

 

 急いで靴を履く絆が、ドアノブに手を掛けて開く。開いた瞬間、雨質を含んだ風が入り

込んでくる。若干の乱れを見せる髪を軽く手で押さえながら、

『あ!?・・どうしたの?』

 佇む女性二人に向けて驚いた。ドアを完全に開けてその場に佇む。

 女性二人は、一人が赤い傘を、もう一人が白い傘を差している。絆の顔を見て、赤い傘

を差す方が微笑んで、白い傘を差す方がニッコリと笑った。

『きずな、大丈夫?』

『やっほー。迎えにきたよー!』

『ゆき、水瀬・・・っ、あ!?――――ごめん・・』

 神代雪菜と大倉水瀬に、申し訳無さそうに謝る絆だった。

『あー!その「ごめん・・」だと、三人でショッピングって約束、すっかり忘れてたんで

しょー?』

『う、うん・・ごめん』

『携帯に電話したけど繋がらなくて、それでお家の電話の方にもしてみたの。けど、誰も

出なかったから・・・』

『あ、ごめん――ちょっと携帯が雨に濡れちゃって・・音が出なかったんだ・・』

『ふーん。それじゃ家の電話に出なかったのは?』

 何度も謝る絆が、水瀬の問い掛けに答えようとして、突然に可愛らしいくしゃみをする。

『風邪?―――大丈夫、きずな?』

『風邪は万病の元!―――気を付けなきゃ!』

『う、うん―――単なるクシャミだから・・けど、お兄ちゃんが風邪を引いちゃって・・

――――クシュン!!』

 二人を家に招く。その間もくしゃみが出てしまう。

 雪菜と水瀬は「お邪魔します」と軽やかに声を合わせ、各務家に上がった。

 

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