※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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八章・五話:恋のつぼみ

『ゆ、悠也さんって・・呼んじゃいますよ』

 見つめてくる悠也の眼差しを受けて、水瀬は顔を赤らめる。

 悠也へ想いを打ち明け様と決意し、身体を前に傾けるほどに悠也を見つめる。

『待て・・』

『え・・?』

 顔を真っ赤に染めたまま動きを止める水瀬は、目の前にある悠也の手を見つめた。

 不安と恐怖が木霊する時間が経っていく。周囲の穏やかさに比べて水瀬の鼓動は速く高

鳴っている。

 悠也は一瞬の笑みを動揺の水瀬に見せると、手を移動させて水瀬の肩に置いた。

『それは男の台詞ってンだ・・』

『あ・・』

『ふっ。可愛らしい声で啼けってンだ・・もっと啼かせてぇな』

『・・・ゆ、う・・や・・・・・さん』

『水瀬・・オレはな・・・・お前を・・』

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『・・・・・ハァ・・』

 

 

 見つめ合う二人は、

『水瀬、オレはな・・・』

『あ・・はい・・あたし、いつでも受け入れOKですから・・・悠也さんの為なら・・』

 

 

『誰か止めろ・・・止めてくれってンだ』

『・・・・は、はぁ・・』

 

 

『悠也は、ゆっくりと目を瞑り、暫くして何かを決意する様な表情で眼を開いた。悠也に

見つめられる水瀬は、緊張感を次第に抑え切れなくなっていく。穏やかな時の中で、二人

は・・・「水瀬、オレは・・・」「・・ゆ、悠也さん・・・・」―――そして、二人の距

離が無くなった。互いの間にあった輝きはなくなったのだ・・』

 

 

『・・・・すっげ、妄想爆裂ってンだ・・・・オ、オレがネタってンだ・・・・』

『う、嬉しいですか?』

『・・・・う、嬉しい?―――馬鹿言ってンじゃ、ねぇ・・ってンだ・・・・・』

『はぁ。・・すいません』

『・・・・もういい加減にしろって・・』

『水瀬!』

 

 悠也の部屋、壁をタオルで拭き拭きしていた水瀬が振り返る―――

 

『え、何?』

 あまりにも明るい調子での問い返しである。悠也も雪菜も呆れてしまう。

『ハァ』

『はぁ』

『え・・?――!?や、やだっ、あたしったらっ!各務先輩の身体を拭くつもりだったの

にぃ~~!!』

 「思わず壁を拭いちゃった!」などとは、冗談でも言って欲しくないと悠也は本気で考

えてしまった。

 雪菜も悠也も何回目かの溜息が漏れる。それでも恥ずかしがっている水瀬を憎めないの

は、彼女に悪気が無いからだろう・・・が。

 

 

 脱衣所に居る絆―――

 

 身体を拭きながら鏡に映る自分を見る。見つめ返す絆は多少の愁いを見せる。

 濡れた髪で目元が若干だけ隠れている。しっとりと濡れている肌は瑞々しく綺麗だ。

『・・“私”、だよね・・・』

 バスタオルで拭く動きを止める。自分の身体を見て不安に思うのは今に始まった事では

ない。それは悠也にも話していない。

『イーだ!負けんじゃねぇってンだ。絆!』

 悠也なら絶対にそう言ってくれる。そう信じて勇気を籠めた。鏡を見返すと振り返り、

身体を拭き始めた。

 その絆が鏡に背を向けた時、絆と同じ動作をするはずの鏡に映る絆は、背中を向ける絆

へと憂いを籠めた寂しげな感情で見つめ続けていた。

 鏡に映る絆はそっと頬に涙を伝わす。その直後、絆が振り返って鏡を見るが、

『・・・?』

 鏡に映る絆は、同じ自分を映し出して何の変化も見せていなかった。

『早く着替えよ。何だかとてつもなく不安が・・・・』

 天井を見る。そして、不安が込み上げていた。

 

 

 絆の不安は的中する―――

 

『いいってンだよ!!オレにぃ、構うなぁ!!』

『やぁー!!!やぁーです!!!はやくっ!!えいー、えっい!!』

『ちょ、ちょっと水瀬!―――各務先輩も!』

 悠也のパジャマを引っ張る水瀬。

 脱がされようとするのを必死に阻止する悠也。

 悠也と水瀬の“格闘”を慌てふためいて見続ける雪菜。

『ゆっきー!そっち持って!!!いっせーの!で引っ張るんだから!!』

『おい!てめぇ!!―――そんな事するとな!後で拳骨だからな!!!―――って、てめ

ぇはマジでやめろってンだ!!!!!くっそぉっぉーーー!!!』

 まるで一進一退の綱引きである。悠也に負けてない水瀬であり、そんな水瀬の豪快さに

飲み込まれていると言って過言ではない悠也だった。

『身体拭かないとっー、濡れちゃってるんですぅ!―――フキフキするのって当然じゃな

いですか!!―――風邪引いちゃいますってばー!』

『あ。・・あの~~』

『もう引いてンだ。あっち行け!!シッシ!!!』

『もうー、照れちゃってぇ!!―――もーやだぁ~可愛いんだからぁ~』

『だぁ~~人の言う事、聴けってンだぁ!!!―――だ、誰か助けろぉ~~!!』

『・・・あ、あの・・・私、何をしたら・・・・』

『あたしがぁー助けちゃいますっ!ってば!!』

『却下ってンだぁ~~~!!!う、うぜぇ~~~!!近付くなっぁ~、来るなっぁ~、触

ンなっっぁ~~~!!!』

『はぁ・・』

 

『お兄ちゃん。具合どう?―――何だか賑やかだけどー』

 

『あ、きずな・・』

 雪菜が振り返ると、絆が部屋に入ってきた。

 絆は、お風呂に入ってさっぱりした様子であるが、水瀬と悠也のとんでもないやり取り

を見て、すぐに呆れてしまう。

 動揺する雪菜の傍に寄り、水瀬と悠也のパジャマの引っ張り合いを半眼で見る。

『・・ハァ。ゆき・・ごめんね、迷惑掛けたでしょ?』

『う、うん・・じゃなくて・・そんなこと無いけど・・・水瀬ってこういうキャラクター

だったんだ・・って改めて思ったかも』

『うん。水瀬ってパワー特攻系キャラだよね。まさかお兄ちゃんに負けてないなんて。あ

る意味、凄いよね・・』

『ふふっ・・』

『ゆき?』

 雪菜は面白そうに笑う。そんな笑いも清楚さがある。

『けど、今の水瀬って充実してるね』

『・・・うん。そうだね』

 絆が答えた時、その声を聴いて絆の存在に気付いた悠也は、必死に絆へと近付く。

『き、きずぅ!!助けろぉ~~~!!!うぎゃぁ~~!!』

『きっずー、早く脱がすよ!!!風邪を引いちゃうから!!』

『もう引いてンだっぁってンだろ!!!て、てめぇっは!!!』

『はぁ・・・ほんと、楽しそう・・・けど―――、二人共!!!!!!!!』

 雪菜が隣で驚いている。それほどの大声で叫んだ絆であり、その声に悠也と水瀬はぴた

りと動きを止めて絆を見る。

 絆は堂々と二人に向かって指差すと、

『いい加減にしろってンだ!!!!お兄ちゃんも水瀬も!!!!』

『むぅ・・どうしてオレが・・・』

『あたしだってぇ・・』

 怒られてムスッとする二人であるが、その理由を互いの所為にしている為に自信が悪い

とは微塵にも思っていない。

 絆は表情をきつくし、大きく息を吸い込むと、

『反省する!!―――もう!!』

『――!?・・わ、わりぃ・・ってンだ・・・・』

『ご、ごめん・・・きっずー』

 ペコリと二人は同時に頭を下げた。絆は両手を腰に当てて胸を張り、

『一件落着ッ!―――じゃあ、お兄ちゃん、身体を拭くから脱いで!』

『・・・・ハァ・・やっぱりそうなンだな・・』

『やっりー!』

 絆に言われれば大人しく従うしかないと、落ち込む様子の悠也だった。そんな二人を取

りまとめた絆を見る雪菜は、いつまでも笑い続ける様子だった。

 

 乱れた布団を直し、改めて入る悠也―――

 

 半身を起こす状態でパジャマの上着を脱いだ。水瀬がドキドキと緊張しながら見つめて

いる。

『すご・・』

 初めて見る悠也の筋肉だった。「凄い」としか思えない。それ以上の言葉が見つからな

いのだ。それほど悠也の肉体は凄く美しく締まっていた。

『はぁ・・さみぃンだからな。さっさと拭けよな!』

『うん。―――それよりもへーき?・・熱が上がってるんじゃない?』

『別に・・』

 否定しようとする悠也の額に絆は手を添える。その手の邪魔をしないようにじっとする

悠也だった。

『あ・・(―――各務先輩・・)・・』

『水瀬。反省ね』

『う、うん・・・・』

 自分が暴れてしまった原因で、悠也の体調が悪くなっていると今になって気付いた。雪

菜に言われるまでも無いが、反省する切欠になったのは事実だ。

 悠也の顔は真っ赤に染まり、表情も苦しげに呼吸も荒い。逞しげな胸が強めに上下する

のを見る水瀬は、いたたまれない気持ちに駆られていった。

 水瀬は落ち込む雰囲気で部屋を出て行こうとする。その水瀬の服を掴んで止めるのが雪

菜だった。

『ゆっきー・・・・』

『私じゃないでしょ、ね?』

 水瀬を見つめる雪菜は、絆と悠也へと視線を動かす。それに合わせて水瀬も二人の光景

を見つめた。

『―――先輩、きっずー・・・ごめんなさい・・・』

 反省が涙を込み上げさせる。両目に溜まる涙が零れ落ちそうになると、

『拭くンだろ・・・ったく、早くしろってンだ。サービスで拭かせてやるよ』

『って訳だよ。水瀬、早く拭き終わっちゃおうよ』

 絆の声に合わせて雪菜がもう一枚のタオルを手渡してくる。タオルを受け取った水瀬は、

「うん」と嬉しそうに頷くと、悠也と絆の傍に駆け寄った。

 背中を向ける悠也に、絆と水瀬は並んで拭き始める。その途中途中で見合って笑い合っ

たりしていた。

『ふふっ。私、下で昼食の準備をしてくるね』

『ゆき、』

 悠也の背中を拭きながら、絆は雪菜の方を見る。絆の声にふわりと振り返る雪菜。

『なに?』

『ありがと』

『――うん』

 二人はお互いに似た微笑を浮かべている。その絆の方を横目でチラリと見る悠也は、口

元に僅かな笑みを浮かべていた。

『あ・・(各務先輩・・・って・・)』

『あ・・っとか言いながら、指で突っつくなよ・・・』

 悠也はすぐに半眼になる。水瀬が悠也の事を考えながらも、筋肉を触るのが嬉しくて仕

方ないという手の動きと指の突き方を続けていた。

 悠也の背中の筋肉は、漢らしく締まっており逆三角形の上半身の美しさを見せる。

 背骨を中心として流れ添う筋肉は見事である。「凛々しく逞しい男性の彫像の様な」と

表現して過言ではない肉体をしている。

 触れれば硬そうに思えて、実際には弾力がある柔らかさであるのが気持ち良い。

 拭けば磨きが増すかの様な肌の木目細かさ、しかし、相反する日焼け具合である。それ

が互いに調和へと満たしている感じにも思える。

『カッコいい・・―――あ、すいません・・』

『別に・・もういいだろ?』

『あ、はい』

 タオルを退けると、そのまま後ろに下がった。

 雪菜と話していた絆が、悠也の新しいパジャマを取って渡す。まるで夫婦間の行動の様

な連帯感が二人には見られる。

 水瀬は二人の様子を見ながら立ち上がり、部屋を出て行く雪菜に付いて行った。

 

 階段を降りる―――

 

 無言の水瀬を雪菜は横目で見る。暫く黙り、水瀬が足を止めるのに合わせて振り返って

問い掛ける。

『どうしたの?』

『うん・・きっずーが・・―――羨ましいなって・・各務先輩、あんなに穏やかって顔し

て・・・風邪を引いて苦しいはずなのに・・・』

『・・・そうね。けど、水瀬・・』

 俯く水瀬の顔を雪菜は覗き込む。泣きそうな表情の水瀬を見て微笑みを向けた。

『羨ましいとか、素敵とか・・カッコいいとか・・』

『・・?』

『そんな言葉で表現するのって・・きっといけないよね。―――あたしはあたしなりに、

各務先輩を好きで居たいから・・だから、きっずーに負けないんだからね!』

 顔を上げて、雪菜の顔を強い眼差しで見つめ、強い笑いを見せた。

『・・・うん』

 

 ―――そうね・・わたしも、水瀬やきずなを見習わなきゃ・・

 

 水瀬に頷いた後、そっと階段を下りていく雪菜だった。

 

 

 食事を終え・・その後の事―――

 

 悠也の部屋。ようやく眠りについた悠也の寝顔を見て、水瀬は我を忘れる嬉しさに身を

震わせて、心をときめかせる。

『すてきぃ~~!!!やぁーん、カッコいいぃー人の寝顔ってぇ~~~、もーーー可愛い

ぃ~んだからぁー!!』

『そうかなー?―――どれどれ』

『やんっー。きっずーってば大胆に上から覗いちゃって!―――あたしもしちゃうしぃっ

ー!!』

『って・・何処が?―――ま、まあ・・お兄ちゃんって普通の人よりいいけど・・』

『良いじゃなくてぇー、段違いなのっ!――見ってよぉー。この漢らしい顔ッ!!やぁー

ん。なんてカッコいいぃのぉ!こんなに身近で見られるんだったら、カメラで撮っちゃお

うかなっぁ!』

『え~~・・』

『う~~んっ!――カッコいい!』

 水瀬の嬉しそうな笑顔を見る雪菜は、溜息を大きく吐く。

『さっきの言葉はどうしたのよ、水瀬ってば・・・もう―――・・やれやれね』

『え?―――水瀬、何か言ったの?』

『うん?・・べっつにぃ!――きっずーッに負けないんだからね!――うんうん!!』

『な、なに?藪から棒みたいに・・・』

『えっへん!―――ファイトぉー、おー!!!!』

『って、訳解んないまま、私を巻き込まないでよぉ!』

 右腕を上げる水瀬。上げさせられる絆だった。そんな二人を見て雪菜は嬉しそうに笑っ

ていた。

『・・・う、うるせぇ~ってンだぁ・・眠れねぇ~~~~・・――――ふあぁぁ~~』

 あまりの五月蝿さに起きてしまった悠也は、目を開けると強く二人を睨んだ。

 

 ―――きっと各務先輩なら・・答えてくれる・・・・・羨ましいかな・・

 

 少しだけ翳る笑みを一瞬だけ垣間見せた雪菜だった。

 

 

 

 

 

忍務「完了」

 

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