九章・一話:余りある言葉
9階の雨景色―――
日曜日も既に終わろうとしている時間帯。神代雪菜は霧島壱哉の部屋より窓の外を見つ
めている。
既に寝静まる頃、外には僅かだけ明かりが灯る状況である。
バルコニーに溜まる水溜りに雨が降り落ちてくる。しとしとと音を奏でる様子を、雪菜
はそっと目を瞑って聴いた。
『今日、悠也の家に行ったんだったな』
『・・壱哉さん?』
雪菜の背後にそっと立つ壱哉が窓の雨景色を見つめる。そのきりりと引き締まった表情
を見上げる雪菜は、壱哉が見せる感情に戸惑いを覚える。
壱哉は、雪菜の視線を受けて、そっと微笑み返す余裕を見せると、今の感情を―――桐
生将星という兄への感情を心の奥底に沈め、雪菜を一心に見つめた。
『今日は帰さないぜ・・良いよな?』
『・・・・あ・・けど・・わたし・・――――』
雪菜は、壱哉の積極的な行動に対して動揺を覚える。それは御鏡神社の巫女としての責
任からであり、そして、それは自然と桐生将星へと繋がっていくのだ。
巫女―――亡者と呼ばれる存在より、封魔鏡を守る御鏡神社の要である。そして、巫女
を守る存在を衛士と名付け、代々の桐生家が衛士を受け継いできた。
今の衛士の代・桐生将星より、桐生家は崩壊していると言っても過言ではない。その真
実を知る雪菜である為に、悲しみと寂しさを募らせる。
『壱哉さん・・・』
『急に呼び出して悪いとは思ってるぜ・・・けどな・・―――――――』
『・・・・私・・』
目を伏せる雪菜の感情を悟る壱哉は、少しだけ苛立った様子の表情を垣間見せると、
『将星アニキだろう?―――ずっと気になってるって・・解ってるぜ』
『・・あ・・っ・・』
背後から雪菜を抱き締める壱哉。水滴が流れを作る窓ガラスに壱哉の落ち着いた表情が
映る。
雪菜は言葉にならない声で壱哉の名を呼んだ。そっと壱哉の手に自分の手を重ねると、
次第に心まで温まってくる。
深い闇が部屋内に木霊している。その中で雪菜を自分の方に振り向かせる壱哉は、目の
前に見える自分の姿を窓ガラス越しに見つめた。
『雪は・・・渡さない――――』
映る自分の姿に向かって決意を述べる強さで言った。それが誰に対して告げたものであ
るのかを、雪菜は当然に知っている。
『龍征さん・・』
思わず壱哉の本当の名を口にしてしまう。その雪菜の寂しげに満ちる声を聞いた瞬間、
壱哉は表情を陰らせて俯いた。
『その名前は捨てた・・――――俺は「霧島壱哉」だぜ』
『あ・・りゅ・・――――ぁ』
雪菜を軽々と抱き上げると、ベッドへと運んだ。
闇の中で互いの熱を強く感じ合う―――
『あ・・あ・・ぁ』
『好きだ。雪――――――――好きだぜ』
身悶えする雪菜を裸にし、自らも裸体を闇の中に晒す。同じ言葉を何度も雪菜の白い肌
に向かって投げ掛け、触れる箇所は全て手に入れていく。
感じる箇所を知りたい。苛めるほどに可愛がりたい。好きだ・・・愛おしく雪菜に感情
をぶつけながら、ベッドのシーツを乱していく。
『いち・・・ァ・・ぁ・・やめ、・・て・・・っぁ・・』
『雪・・・』
壱哉が己の全てを雪菜へ与える様に上から抱き締めてくる。強靭に引き締まった肉体が
肌に吸い付いて離さない。
擦れ合う肉体と肢体。特に壱哉の漢が下腹部で擦れ続けていた。
漢の様相が暴れる様を雪菜は肌で感じ取る。抱き締めてくる感触が肉の味を心地良く知
らせてくる。
乱雑に動く壱哉が、身体を押し曲げる様な動作で雪菜の首筋を噛む。
『ああっァ・・』
『ゆき・・雪・・―――雪・・』
甘噛された雪菜は、ぴくんっ・・と身体を捩らせる。その雪菜の肌へと言葉を残してい
く壱哉は、縦横無尽に貪っていった。
胸を揉みながら、その片方に唇を当てて吸う。強く甘く、切なく弱く、そうして壱哉な
りに度合を変えて雪菜を感じさせた。
身体が熱くなっていく。捩れ続ける筋肉に汗が染みていく。
雪菜は、壱哉の格闘技で鍛えた身体を目の当たりにする。綺麗に整いつつも強靭さがそ
の上に覆っている漢の様を見る。
『ああぁぁ・・っぁ・・ぁ』
『雪・・俺に掴まってくれ・・』
『・・え・・こう・・・です、か・・――――ッ!?―――え!?ァ――』
壱哉の指示に従って首の後ろへと両手を回した直後からだった。壱哉は雪菜の両脚を掴
んで豪快に持ち上げる。
驚く雪菜に対し、壱哉は真剣な表情の中に冷静な眼差しで見る。
『綺麗だな・・雪の・・・は―――』
『いち・・や・・さ――――そ、そんな・・』
壱哉の秘部の全てを見られて顔を赤くする。それから身体が徐々に熱を持って肌の表面
に汗を噴出させていく。
壱哉を見る。呼吸のやや荒い様子からして興奮している。また、野獣の様な肉の塊が目
立っている。
『雪・・』
膝を曲げさせ、更に股を広げさせると、その中央へと顔を沈めていった。
舌の温もりと滑らかな温もりを同時に感じた瞬間、身体の内側へと快感は満ちて、甘く
切ない声を出すが、それが壱哉の漢を擽る結果になる。
雪菜を愛する。徹底的に濡らしていった。そして、頃合を計って身体を前に倒して雪菜
の顔を覗く。
雪菜の呼吸は荒く、僅かな恐怖と強い動揺を抱く表情で頬を赤く染めている。壱哉の視
線に気付き、切ない瞳の輝きで見つめ返してくる。
雪菜の視界に壱哉の上半身の肉体が入る。強度を持って締まった肉体は汗に濡れて輝き
を増した感がある。その胸部へと手を伸ばすと、心臓が高鳴っていく様を知った。
『俺の為に巫女を捨てないか?――――雪・・』
『・・・壱哉・・――――さん・・?』
『俺は雪を・・雪の事は知っている―――つもりだぜ・・その上で考えてくれないか?』
『・・・・・・・・・壱哉・・さん―――、ン・・――――』
雪菜が迷う表情を見せた瞬間、壱哉はその表情を掻き消す様にして唇を吸った。舌を入
れて唾液を絡ませると、艶かしく口内を襲う。そして、身体を起こし、
『あいつが・・悠也を憎む理由・・を―――知ってるぜ・・』
『・・!?――――壱哉さん。まさか将星さんの力を・・!?』
『・・・・・・・・・・・・』
『あいつは、何もかも捨てたんだ―――俺も・・』
憎しみを籠めていっている様子であるが、瞳の輝きは弱く切ない。寂しささえ篭もって
いる気がしてならなかった。
壱哉の胸に触れている雪菜の手が感じ取る・・・ゆっくりと心臓の鼓動が静まっていく
のを。
『雪・・―――俺だけを見ろ・・頼む』
『龍征(壱哉)・・さ――――ッ!?―――ア!!アッァ!?』
壱哉の身体が倒れ込んだ直後、下腹部辺りに強烈な痛みを感じた。何かが突き破られる
感触が強烈に雪菜の体内で発生する。
『ゆ、き・・ぃ!!!』
精気を前に押し出す声で雪菜に全てをぶつけた。腰を前に突き出しながら、雪菜が逃げ
ない様に両肩に手を当てる。
雪菜の苦悶の表情が、壱哉を興奮させる。漲る性欲が身体を前に押し出す。
定期的に漏れ出す雪菜の声が愛おしい。乱れ身悶えする肢体。薄っすらと浮かぶ汗を吸
いながら舌を這わせた。
何度目かの唇を奪う。良く張った胸を吸う。そして、雪菜の内部へと入り込んだ証拠で
ある締め付けを味わい続ける。
『つ、痛・・――――ゆ、きっぃ・・』
雪菜は暫くすると壱哉にしがみ付いてくる。痛みで我を忘れている様子に見え、その中
でも甘く切なく声を出す。
腰を大きく振る。筋肉を普段の運動よりも激しく動かす。大量の汗が珠となってシーツ
へと落ちていった。
豪快に腰を前に押し出す。包皮が内壁で擦れて捲れる感触が肉棒には気持ち良すぎる。
亀頭が内部奥を激しく突く。その頂点に押し掛かる感触に上半身は身悶えして歪み、表情
さえも淡く緩んだ。
『きもち・・いい・・――――ゆ、き・・・おまえの・・なか・・は』
幸福だった。全てに打ち勝った気がした。頭の中で過ぎる将星の姿が淡く滲んでいく。
しかし・・
―――しょ、う・・・せ・・・さ・・―――――――
『将、星・・さ・・ァぁ・・ァァ・・ァ、ァ・・』
『・・・!?』
非常に強張った苦悶の表情の中、雪菜は壱哉に抱かれながらも必死に声を出していた。
その声は恐らくは無意識に出たものであると、壱哉だけがはっきりと悟ってしまう。
腰を大きく振る中で全身が高揚するほどの快感に満たされる中で、雪菜の必死に出す声
を聞けば聞くほど、思考だけは冷静へと戻り始める。
身悶えし続ける雪菜を見据える。雪菜が全身で快感に打ち震える度に、壱哉の前では言
ってはならない声で啼いた―――啼き続けた。
『ゆき・・(俺をアニキと・・・)』
今の自分の姿を将星と重ねていると知った瞬間、恐ろしく強烈な性欲が目覚める。急に
動きを速め、肉棒が弾ける瞬間さえも早めさせる。
雪菜が驚いて我に返る。壱哉に何度も止める様に叫ぶが、壱哉の耳には既に入らない。
雪菜が痛みと恐怖の声を上げる中、快感さえも通り越す壱哉の全てが注ぎ込まれる。
『ゆ、き・・・・・』
雪菜の中で射精した後で壱哉は我に返った。どくどくと濁流の様に流し込まれる“己”
を痛々しく思う。
ぐったりとする雪菜は、あまりの痛みと激しさで失神してしまっている。その雪菜へと
荒い息を吹き付け続けた。
雪菜の中に入れたまま、雪菜を抱き締める。一向に静まらない肉棒が再び強みを増す。
『雪・・――――――やっぱり、アニキのことを・・くっ・・――――!!』
動けない雪菜を再び徹底的に愛した。我を忘れたい一心で―――過去を捨てたい一心で、
全てをかなぐり捨てる勢いで雪菜へと己を何度も注いだ。
御鏡神社―――
『雨が上がったのか・・』
制服より滴が落ちる。見上げた空は、若干の雲の切れ目を見せて、そこから月の姿を垣
間見せる。
月の淡い輝きに照らされる将星は、神社の境内に独り佇み、雪菜が無事に帰ってくるの
をずっと待ち続ける。
雨が将星の心の熱さを沈静化させている様だ。目を瞑る雪菜の面影が蝋燭の炎の様にほ
んのりと心を占めていた。
目を瞑り、己が想うまま名を呼ぶ・・・「雪菜」―――と。