※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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九章・二話:守り

 夕日を望む廃墟ビルの屋上―――

 

 西の空に浮かぶ夕日を見つめる―――黒一色の装束が、今だけは鮮やかに染まって見え

ている。無言で佇んで既に数時間が経過している。

 鮮やかな光を運ぶ風が、身体を通り抜けていく。

『黒識・・―――』

『―――旭志様か、』

 旭志清十郎―――現在の霧生一族の中で、統一者たる御前と呼ばれる存在を除けば、最

高の権力を持つ筆頭長老である。

 12年前、各務悠也(霧生悠)の父・霧生宗真を討った実力者でもある。

『厄介な事が起きた・・』

『・・それは?』

 清十郎が右手を開くと、そこには一輪の花が乗っていた。鮮やかに花開くその花の名を

黒識は知らない。

『―――「朱音」の花・・』

『あかね・・?』

 その花の意味する理由も解らない。

 清十郎は、掌の上に乗る朱音の花を風に乗せて飛ばす。

『―――邪念とは時に、我が身、心さえも滅ぼす・・救ってやってくれ』

『・・・忍の「獣鬼(おに)」化・・――――――相澤志郎・・』

 各務悠也に敗北した相澤志郎は、この廃墟ビルにずっと潜んでいたが、既にその姿は消

えて現在は行方不明となっている。

『獣鬼化した志郎の行方を掴むのは難しい。が、志郎の性格から考えれば行動原理は容易

い筈だ。間違いなく女性(おんな)を狙うだろう』

『女性を・・・?』

『そうだ。男を知る女性・・待ち続ける意思の強さを持つ者を・・・』

『・・・・・・』

 無言の彼方に夕焼けの空を望む。

 梅雨に入ってよりこれほどの綺麗な夕日があっただろうか。黒識の瞳に映る夕日色が印

象的な輝きとなっている。

『―――今は悠輔殿の事がある。此方から悠様を刺激するのは得策ではない』

『・・・相葉悠輔。もう一人の神技継承者・・彼は何処に?』

『・・獣牙三忍衆が守護している。問題ない』

『・・・・承知』

『それと、御鏡神社の監視を緩めるな―――間も無く“動く”・・』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・承知』

 清十郎が黒識の隣に並んだ瞬間、既に黒識の姿は消えていた。その黒識が立っていた場

所を清十郎は見る。そして、夕日を見据えた。

『既に私の目にも見えぬ神速か―――』

『・・・旭志様・・』

 夕日色に染まるコンクリート地面の一箇所が黒く滲んだ。その黒色の姿は、跪いている

女性の様子を見せる。

『詩織殿か?』

『はい・・』

 長く艶やかな髪が夕日に映える。風に靡き、その髪の一本一本が煌いて流れて見えた。

 

 

 

 夜を見守る月―――

 

 煌く銀光が放つ一閃。闇の鋭さが深遠を切り裂く。

 自らの影を敵とし、刀―――星辰剣を振るう各務悠也の、夜に映える忍装束、マスクで

素顔を隠し、眼差しは闇を見据える。

 甚大高校の旧校舎のグラウンドの中央に立ち、その両端に二人の忍が控える。この二人

の忍が、呪力を悠也に向けて放っている。

 呪力が形作る―――二体の影を。

 悠也が、鋭い眼差しを影の一体へと向けた瞬間、その影の背後に突如として出現する。

 一瞬の銀光の閃きが影を切り裂く。影が二つに割れて、月の光を受けて分かれて数を増

やすと、悠也へと襲い掛かる。

 悠也は、飛び退いて迫り来る影を見据えた。久しぶりの戦いの高揚感に満たされて身体

が心底より熱くなってくる。

 多少の発汗が気持ち良い。影の攻撃を見極めて寸前まで動きを自制して紙一重で避ける。

 顔の真横を掠める影の攻撃で数本の髪の毛が空を舞う。月の光を受けて一瞬の輝きを見

せた瞬間、影は下から突き上げられた星辰剣により身体を引き裂かれて消失した。

 一体の影の消失で、グラウンドの両端の一方に立っていた忍が足を崩す。地面に手を付

いて荒い呼吸をしている。それを見て、もう片方に立つ忍が驚きながら呪力を強めた。

 残る二体の影が悠也へと同時に攻撃を仕掛け、鋭い風を伴わせる。

 二体の影の攻撃が、悠也の身体を突き刺した・・・かに見えた。しかし、逆に影が攻撃

を受けて消失する。

 その場にある悠也の残像が風で揺らめきながら次第に姿を消していく。月の光がグラウ

ンドを照らす中、一陣の風を伴って着地する悠也が顔を上げる。

 立ち尽くす忍が急に胸を押さえた。苦しげな表情で足を崩す。

 悠也は立ち上がり、口元を覆うマスクを下げると、素顔を夜空に晒した。その悠也へと

苦悶の表情で走り寄って来る二人。

『二人共、“怪我”は無いか?』

『はっ・・』

『いいえ、俺達なら平気です』

 両膝を砂地に付けて控えて項垂れる行動は、二人共がぴたりと一致している。

 二人は、悠也をサポートする忍集団「飛龍忍者」に所属する十二忍の内の二人である。

『隼斗。臣斗・・夜中に付き合わせてしまったな。帰っていいぞ』

 星辰剣を、背負う鞘に仕舞いながら二人に告げる。二人がお互いの顔を見合い、それか

ら首を横に振った。

『いいえ。ご無事に家に戻られるまで、俺達が護衛します』

『隼斗の言う通りです。体調が回復されたとはいえ、まだ呪力は・・・』

『オレに構うな、自分達の事を第一に考えてくれ』

 悠也としては、この十二忍「飛龍忍者」を仲間と考えているが、頂点に立つ「恭司」共

々、メンバー全員が悠也を主として慕っている。

『いいえ。リーダーよりの命令です』

『それに、今週は俺が“担当”ですから・・』

 悠也より一歳若い伊達臣斗と貴島隼斗の凛々しさが印象的に悠也の目に映る。二人共、

容姿は悪くない、むしろ甚大高校内では人気がある程なのだ。

『そうか・・悪かった。洗濯までさせているオレが言う台詞ではなかった』

 隼斗や臣斗だけではなく、メンバー全員が悠也の事になると熱くなる傾向にあるが、そ

の事を悠也は半ば知らない。意志が強く頼りとなる仲間として見ている面が強いからだ。

『更衣室でお着替え下さい。お待ちしております』

 隼斗が緊張交じりに言うと、悠也は一息吐いて言葉に従う頷きをした。それから臣斗に

付き従われながら旧校舎へと向かった。

 

 

 暫くして―――

 

 旧校舎より出てくる悠也と二人の生徒。悠也はラフな服装であり、両腕は逞しげに露出

している。ジーンズのポケットに片手を突っ込むと、隣を歩く臣斗へと視線を送る。

 臣斗は、大事そうに悠也が脱いだ忍装束とシノビ・ギアを両腕に抱えてじっと見つめて

いる。その臣斗の顔が上気している様子は闇の中では見えない。

『臣斗、汗臭いだろう?』

『い、いいえ!!――――これは俺達の役得です!!』

 悠也の問いに興奮してか、叫ぶ勢いで告げて忍装束を強く抱き締める。

『ば、ばか!―――悠様の前で!!!』

『あ!?―――』

 つい本音を言ってしまった臣斗を窘める隼斗だった。その隼斗の声を聴いてハッとする

驚きで臣人は悠也を見るが、

『・・・?』

 悠也は小首を傾げている。どうやら気付かれなかった様で、二人は安堵してホッと胸を

撫で下ろす。

『前から思っていたが、オレは感謝している。オレ一人では、恐らくはIFAOの忍とし

て活動する事もままならなかったはずだ』

『悠様・・痛み入ります(なんて純真な・・)』

『悠様・・痛み入ります(・・この悠様の汗の匂いが最高なんだよな)』

 悠也が二人に笑み(本音)を見せる。それは飛龍忍者のメンバーにしか見せない心に違

いなかった。

 臣斗と隼斗に守られて帰途に着く悠也であったが、その途中で―――旧校舎の敷地より

出た時だった。隼斗の携帯電話が急に鳴り響いた。

『・・・リーダーからだ。―――はい・・先程、終わった所です。今、悠様をお送りする

所で、・・え?――――はい・・はい・・』

『・・・・どうした?隼斗』

 電話で会話する隼斗の表情が次第に強張っていく。それに不安を覚えた臣斗が近寄って

尋ねると、隼斗は臣斗にだけ囁く。

 悠也は前を歩いており、あまり気にしていない様子である。メンバーに全幅の信頼を置

いている悠也には、もはや気にしない程の当たり前化しているのだ。

 ようやく悠也が立ち止まり、振り返ると、二人が同時に跪く。

『悠様。申し訳ございません―――緊急招集です』

『これで俺達は失礼致しますが、どうかお気をつけて』

 「緊急招集」と聞くと、悠也としては顔を顰めてしまう。「緊急招集」が何であるかを

知らないからだ。リーダーを務める恭司からは単なる会合としか聞かされておらず、その

中身を全く知らない。尋ねても飛龍忍者内の極秘事項だからと拒まれる。

『そうか・・・その「緊急招集」にオレも参加させてくれ。ぜひとも頼む』

『え・・?』

『え・・・!?』

 悠也が頼み込んでくる。その事に驚く二人であり、何故驚くかは悠也には謎である。そ

れ故に更に気にしてしまう。

『ゆゆ・・悠様が参加されると・・困るんです!―――じゃなくて・・』

『お、俺達は日夜、勉学に励んでます!―――な、な!隼斗!―――そうだよな!』

『あ、ああ!!そうです!!!』

 慌てた様子の二人であるが、そんな二人の気持ちに全く気付けない悠也は、残念そうな

顔をして二人を見る。

『そうか・・勉強ならオレはお断りだな・・・そうか、勉強か・・・そうか・・』

『ほっ・・』

『はぁ・・(た、助かった・・・)』

 二人はホッと胸を大きく撫で下ろすと、その場を慌てて立ち去っていった。

 悠也は、二人が去っていった方角を暫く見て、その後、早々と帰途に着いた。

 

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