体育館屋根―――
月が雲に入っていく。淡い輝きに満ちた夜空に静寂の闇が押し寄せる。
黒識は、腕を組み、多目的ホールの建物を見据え続ける。僅かに眉を顰め、マスク越し
に口を動かした。
『あの呪力結界・・―――獣鬼と化した相澤の力を打ち破るつもりか?』
霧生の技の様だが、黒識も知らない技であるのは確かだ。多目的ホールの外周で輝く八
つの呪力の集まりが、次第に建物を包み込んでいく。
雲に隠れた月が顔を出そうとしている。徐々に淡い明るさを取り戻そうとする夜空が、
黒識の影を印象的に屋根に映し出していた。
多目的ホール―――
出入口である扉の前に立つのは、飛龍忍者のリーダーを務める恭司である。
恭司は、他の位置で展開する七忍の呪力を集める役を担っている。
「いつでも仕掛けて来い――――オレはいつでも相手になる」
「そうか・・・付いて来てくれるのか。このオレに・・」
「陸上部?・・恭司の好きな様にすればいい。オレは賛成する」
「――――――――――――――――――――――頑張れよ」
―――悠様・・
敵として出会った時も、味方になると決めた時も、陸上部を作ろうと思い立った時も、
悠也は見守ってくれていた―――恭司の印象に強く残る事である。
『必ずお助け致します――――おれの、おれ達の全力で・・!!』
ゆっくりと右腕を動かす。右手を扉の凹みに掛けると強く握り締める。
内部―――
『くすっ』
『・・・・・・・』
流血に濡れた髪で目元が隠れている。意識が朦朧とする様子の悠也を、嘲笑混じりに見
下ろす相澤。
逞しく勃起した肉棒の頂点より、どくどくと溢れてくる白濁液は、非常に粘着力があり
そうな柔らかな具合を感じさせる。
勃起する前に剥かれた包皮が痛々しく赤くなっている。白濁液がその部分へと流れ落ち
る瞬間に、悠也は傷に沁みた様子で身体を微弱に震わせた。
強靭に鍛え上げた肉体は、流血で彩られ、その上から無数の真紅の触手によって啄ばま
れている。
若い精の盛んさは、悠也にも当然に存在する。忍として覚悟を決める精神力の持ち主で
も若い身体であるが故の“弱さ”を持っている。それを相澤は徹底的に指摘し、見事に的
を射た訳である。
自分の思い通りに事が進む悦びに打ち震え、それが相澤を更なる獣鬼へと至らせる。も
はや元に戻りたいとも思わない。
『悠様―――せめて、女に責められましょう・・今のぼくになら・・可能です』
『・・・・・・・・・っ・・』
身体に群がっていた血の触手が退いて、相澤へと集結していく光景が見られた。
相澤の身体が崩れ去り、再び盛り上がる事で女性の姿となる。
『・・・・・あ、か・・ね・・』
瞳の輝きが消えたまま、呆然と相澤が変化した女性の姿を見つめた。言葉通りの姿を相
澤はしている。流血に塗れた顔でニッコリと笑う様子は、その流血を除けば間違いなく如
月朱音だった。
容姿可憐な女性として成熟しようとする過程の全裸の朱音が悠也の傍に立っていた。見
上げる位置の悠也よりは、朱音の秘部がはっきりと見えている。
『くっ・・』
『うふふ―――アタシの身体に欲情した?』
『・・・・卑怯な・・朱音を侮辱するのか、相澤・・!』
『うふふ・・』
姿形だけでなく声や喋り方まで朱音である。悠也の戸惑いは深くなる。しかし、女性的
な部分を見て、男として当然の反応が出てしまう―――強制的に導かれているとは、今の
悠也には判断が出来なかった。
『こんなにぶよぶよした男汁だしちゃって・・・悠様ったら・・うっふ』
『見るな・・朱音――――見ないでくれ・・』
悠也は目を逸らすが、朱音は堂々と自分の身体を見せ付けてくる。ふくよかな胸の先の
突起がはっきりと見てしまう―――無理矢理見させられて、欲情を引き剥かれる。
幼い頃の朱音の姿は、今の目の前には存在していない。しかし、懐かしい記憶は悠也の
中に存在する。それにより更なる動揺を深めていくしかなかった。
『アタシ・・悠様を貰っちゃいますから・・うふっふ』
『朱音・・・』
再び意識が朦朧とし出すのを止められない。これが相澤の術であると今更思い知らされ
ながらも、もはや何をしても―――呪力が消えている今では抵抗は無駄であると悟った。
『・・・・朱音・・―――――』
『悠様・・好き・・――――――好き・・』
流血の溜まりを絨毯に身体を横たえる悠也へと、朱音はゆっくりと近付いてくる。添い
寝するほどの身近で耳元で優しげに囁くと、悠也は子供が怖がる様な雰囲気で身震いした。
『怖い?・・アタシが?―――それとも、女を抱くのが?』
『・・・・・来るな・・来ないでくれ・・・・・』
『そんなに自分のお心を暴かれるのが嫌い?―――アタシが守って差し上げますから』
耳元で優しげに囁く朱音の言葉は、麗しく温もりが伴った。その声が悠也内で反響し、
心が熱くさせられていく。
―――相澤の術中に・・オレは・・・・・・嵌るのか・・・・・オレは・・・
『もう逃げられないのか・・・』
呆然と天井を見上げ、氷柱の様に垂れ下がる無数の流血を見つめた。
朱音は微笑みながら血に塗れた身体を悠也の身体に絡めてくる。首筋に頬を近付け、綺
麗に見える鎖骨に指を這わせる。そして、乳首を何度も指で弄った。
『くっ・・』
『うっふ・・可愛い。アタシの悠様』
相澤に扱かれた乳首はつんと立っている。それが可愛らしくもある。
乳首を弄り、それに飽きると胸を揉んだ。鍛え上げた筋肉は朱音の手には余りあるが、
確かな弾力と肌の艶やかさを印象的に感じていた。
『どうですか?―――女の胸を揉む様にして差し上げてますよ・・?』
『うあぁ・・・あか・・ね・・っ』
悠也の呻き声を最も近くで聞く。身体を僅かだけ起こし、絡めた足を動かして悠也の性
器を、膝を曲げてその内側で愛撫する。
ぬるっとした流血の感触が、くちゅくちゅと音を奏で立てる。卑猥に悠也の耳元まで届
くと、自身に感じる刺激も相俟って、再び性器が激しく昂っていった。
包皮が亀頭を包み込もうとする間際の事である。激しく剥けて、朱音の瞳に初心な男ら
しさを見せてしまう。
『可愛いピンク色・・けど、真っ赤に染まっちゃう・・・可愛い』
『うあぁ・・』
『うっふ。食べちゃおうかな』
ぱっくぅ
『うあぁ!?』
朱音の顔が間近より消えていると知った時だった。
強烈な滑りの感触が肉棒全体に襲い掛かる。悠也はお尻を上げて爪先で足を支えた。
体勢を移動させた朱音は、悠也に覆い被さって肉棒を咥えていた。そして、舌を使って
愛撫に愛撫を徹底的に重ねた。
『驚かないで、もっと凄い事しちゃうから・・』
咥えながら唾液が混じる声を出す朱音である。恐れ戦く悠也に優しく接し、自分の指を
悠也の口の中に入れて唾液を絡ませる。
『むふ・・くお・・――――ふあ・・』
くちゅくちゅと口の中で唾液が踊った。朱音の指が悠也の唾液で濡れている。暫く悠也
の口内を弄んだ後、ゆっくりと引き抜く。
唾液が指に絡むのを、肉棒を咥えながらの朱音はほくそ笑みながら見る。そして、その
指を移動させて行く。
そっと・・・指を悠也の大事な箇所へと這わせた。
『なっ・・!?』
『うふふ』
朱音は好意的に笑う。逆に悠也の顔は強張って驚愕を示す。濡れた指の感触が襞を絶え
間なく麗しい指使いで撫ぜ回す。
お尻を上げていた悠也は、床へと崩れ落ちた。股を閉じようと必死になるが、朱音の身
体が邪魔で行動が制限される。
両膝を立たされ、大股開きにまでされると・・・ついには刺激が悠也内に及んだ。
―――くっぁぁああ!!!
『あかっねっっ!!!!やめろっ。もう――――やめてくれっっ!!!』
『うっふ。だーめ・・絶対にお尻だけでイかせて上げちゃう』
温い感触が内壁を撫ぜる。恐ろしいほどに括約筋が引き締まる。
ビクッ・・びくっ・・ぴくん―――
『うっぁ・・・ハァ、はぁ。はぁ。はぁっぁ・・くぁぁ』
身体が反応を示し出す。今更、汗がどっと溢れ出た。
『ここ?―――それともここ?』
『うあぁ・・はぁ。はぁ・・・っ!?―――うぁぁ』
絶え間なく表情が変化する。内壁の何処かを探り当てようとする朱音の意図を悟るが、
今の悠也にはどうしようも出来ない。
無我夢中で内部の刺激を殺そうと躍起になり、全身の筋肉を引き締まらせた。
『くすっ・・みーつけた・・・・ここでしょ?―――ね?』
―――くっ!?・・・あっ、な、なんだ!?・・・こ、これは!!!!
『かはっ・・・やめ、―――――ろっぉ!!』
悠也が背中を浮かせた瞬間、身体が大いに弾ける“音”を全身で聴いた・・・
どっく・・ぅ・・どくっ。どくぅ・・・・びゅる・・ぅ
二度目の悠也の射精が始まった―――時、周囲の壁に淡い輝きが灯り、流血の流れが阻
止された。そして、それに呼応するかの様に出入口の扉が開かれた。
『悠様ッ!!!!!!!!!!』
恭司の声がホール内に轟く。そして、すぐさま驚愕する声へと変わっていた。
恭司の存在に気付く悠也は、相澤の呪力の毒気に汚染された瞳を恭司へと向けた。
『きょ・・じ・・――――――――――――――――』
悠也の瞳が瞼で隠れていく。疲労し切った表情は何よりも痛々しそうで、恭司は見てい
られなかった。
悠也内より指を引き抜く朱音は、立ち上がって右足を悠也の胸元に押し乗せると、恭司
を強い憎しみの眼差しで睨んだ。
『邪魔よ―――アタシの邪魔をしないで!!!――――若林恭司ッ!!』
声がホール内に木霊する。その声を耳にしながら恭司は怒りに身体を震わせて、暫くの
間だけ俯く。床をじっと見る・・・
『――――――許さない。お前を・・・・悠様をよくも・・・・・・・・』
飛龍忍者の仲間達より受けた呪力が集まっていく。そして、自身の呪力も怒りに任せて
膨れ上がった。
恭司の身体の輪郭に灯る呪力。漲るその輝きが放たれた瞬間、床に凄惨にばら撒かれて
いた流血が、まるで生物の様に蠢いて恭司より一瞬にして離れた。
『なに・・・いったい、何が・・』
『おれが誰であったのか・・・調べるべきだったな。おれは霧生一族・若林家に連なる者
――――その家名をお前なら・・知っているはずだ・・相澤志郎!』
『なっ―――!?・・ば、馬鹿な・・・・ぼくの変化が・・・解けた』
朱音が驚いた瞬間、一瞬にして血の気が肉体表面より引いた。そして、そこには朱音の
姿は既に無く、流血の姿をした相澤が立っていた。
相澤は、急激に覚える恐怖と共に右足を引く。そして、左足も引いてその場から逃げよ
うとする動作を見せた。
『お前は・・・吸血の―――!?』
『―――悠様に仕えてより全てを捨てた・・・吸血としての己・・この身に胎動する飽く
なき血の欲求すら・・全ては悠様の為・・―――今のおれの姿を見て、悠様が知れば・・
そう思ったからこそ、おれは・・』
『やめろ・・・来るな・・来るな!!!!!』
『相澤志郎―――無駄に足掻けば良い・・・・・・・・・・・・・死ね・・・』
『やめろ・・・嫌だァァァぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
相澤の悲鳴がホール内外に木霊する。
外で展開していた飛龍忍者の面々は、相澤の声が絶え間なく続くかと思われた相澤の悲
鳴が途切れたのを聞き、全てが終わったのだと知った。
血が薄れていく―――
『リーダー!!―――なっ!?』
飛龍忍者の七忍がホールに侵入してくる。舞台の下で身体を横たえる悠也であり、相澤
の首筋に噛み付いている恭司の光景が広がっていた。
『若林君・・・・・』
飛龍忍者の中で、最年長の相賀が他の仲間達の歩みを制止させる。
『先生・・・リーダーは・・一体・・あれは・・?』
『後で説明する必要があるね・・けど、今は悠様の身の安全の確保。それと服だよ』
『は、はい!』
相賀の指示で飛龍忍者が動く。悠也の無事を確保し、身体に付着していた相澤の血を拭
い去り、床に落ちていた血塗れの衣服をとりあえず着せた。
相賀が恭司の傍に近寄り、右肩にそっと手を置く。刹那、流血の流れが完全に止まって
全身が凝結している相澤の身体が崩れ出した。
血の結晶が床に転がって無残さを見せる中、それを眺める恭司は、
『先生・・悠様は・・・?』
『大丈夫だよ―――“仲間”達が居る。君は一人じゃない・・悠様も、―――悠様なら、
きっと解って下さる』
『はい・・』
恭司は項垂れ続け、悠也に背を向けると、孤独に歩き出して外に出て行った。
恭司の悲しげな背中を見届ける相賀は、切ない視線を向け続ける。
『先生。リーダーは・・』
『かつて・・・霧生の里で「獣鬼狩り」が行われた・・』
『獣鬼狩り・・?』
『そう・・霧生一族内でも特異の存在だった吸血の家名・若林家が獣鬼と断定された・・
その理由は定かじゃない・・けど、御前の名の下に、ほぼ全員が惨殺され、二人の兄弟の
みが残った。―――兄は一族に利用された挙句、各務に討たれる事を望み・・・弟は一族
に見捨てられた挙句、各務に仕える事を望んだ』
『吸血家の―――末路・・』
『きょ・・・じ・・』
掠れる悠也の声は・・・