夕日色が広がる空の下・甚大中央公園―――
各務絆は、買物の帰りの途中で足を止める。視線を向ける先は夕焼け色に染まる公園が
見える。
『あ・・』
少しだけ驚く様な表情をするのは、公園内で佇んでいる男子を見掛けたからだ。後姿が
何処か悠也に似ている気がするが、絆には彼の事が記憶に刻まれている。
じっと動かない彼を暫く見つめ、そっと行き先を変更し公園内へと入って行った。
公園内は夕方の時間でもあって子供達は居ない。
彼は遊具の一つ・ブランコの傍に立ち、じっと地面を見つめている。
『あの・・・ひょっとして相葉さん・・ですか?』
暗めの色の半袖Tシャツ姿の彼が、絆の言葉を受けて振り返ってくる。
適当に刈り込んだ黒髪が朱色に染まって見える。夕日に引き締まった容貌が映える。
『・・・・・・・・』
『・・・・あ、あの・・』
『・・・・』
『・・・・・・え、っと・・』
彼は―――相葉悠輔は何も答えない。表情の一切を変えずに、ただ絆の瞳をじっと見つ
めるだけだ。
少しずつ日が暮れていく。風が闇を運ぶ時間がゆっくりと迫って来ていた・・・
若林の部屋―――
『ハァハァ・・・』
『へーきか?』
薄暗い中、恭司が悠也にしがみ付いている。
恭司は、悠也のタンクトップの襟ぐりを掴んで右肩を露出させる。
『・・・ゆ、う・・』
『恭司。オレをもっと頼れ。オレはお前を信じている』
悠也の力強い言葉を受ける恭司は、胸の奥に熱い何かが込み上げるのを感じながら、同
時に競り上がってくる欲望に次第に慣れていく。
今、最も傍に悠也が居る。伝わってくる温もりが熱いのは、閉め切った室内の暑さの所
為もあるだろう。
既に伸びてしまったタンクトップの襟ぐりが、肩口まで垂れ下がってしまっている。鍛
え上げた肉体だからこそ美しいと言える首筋より鎖骨、肩に掛けて。
はっきりと浮き出る鎖骨を覆う肌の艶やかさが、闇の中での僅かな光明で輝きを放つか
に見える。
悠也は恭司の全体重を軽々と支えている。立ち尽くし、少しでも恭司が楽な様にと努め
ていた。その悠也に甘える恭司は、右肩に、鎖骨辺りに顔を埋めた。
唇が皮膚に触れる。そっと舌を出して舐めてみると、多少の塩気を感じた。よく見ると
首筋に流れる汗が見える。
『恭司・・・もうへーきだな?』
『・・・・・・・』
恭司の呼吸が落ち着いてきたのを悠也は知り、そっと離れようとする。
しかし、恭司が急に抱き付いてくる。
『悠様・・!』
『わわっ―――うあ!?』
ドスン――という畳を叩く音が響いた。
悠也が恭司に押し倒されている。
一階―――
木材の丸テーブルに広げられた教科書と参考書の類い。そして、ノートに数式を書き込
んでいた甚大高校生が顔を上に向ける。
『・・・・』
ドスン――という音が天井を揺らす様を、五月蝿げに見上げている。
天井から降ってくる細かな木屑がノートの上に乗ると、手で払う。そして、勉強に再び
集中し始めた。
押し倒された悠也―――
『恭、司・・何を・・』
『悠様』
悠也の右肩が恭司の瞳に美味そうに映っている。その瞳の輝きは悠也には獰猛な獣が獲
物を今まさに捕らえた様子に見えていた。
恭司が霧生一族の中でも特殊な吸血の一族であると知っている。恭司の兄の事、その兄
を倒したのは誰であるのか・・・そして、遡る二年前の光景が二人の間で過ぎり去る。
『恭司・・まさか、お前―――オレを・・!?』
『一度で良い・・良いから、悠様を――――』
悠也の首筋に唇を当てる。その唇の奥深くでくすぐったい感覚が沸き起こる。その感覚
が思考回路を乱していく。
『・・・なっ。くっ―――やめろ!・・!?――――かはっ・・』
悠也が言葉を放つ最後に衝撃が身に起こる。首筋の右側に二筋の痛みが走る。そして、
恭司の唇の感触に混じって濡れていくのもはっきりと得ていた。
くちゅ・・くちゅ・・くぅちゅぅ・・
『かはっ・・はっ!?――は・・くっぁ・・っぁ、っぁ』
悠也の声が次第に霞んでくるのにも気付かず、無我夢中で血を啜る。肌を傷付けた二本
の牙が血を溢れさせ、溢れた血を残らず唇で防いで吸い上げる。
甘く切ない香りが漂ってくる。恭司だからこそ解る香りであり、悠也の血を美味そうに
舌で転がしてゆっくりと喉の奥に流し込む。
『っぁ・・っぁ・・っぁ』
ずちゅぅ・・・くちゅう・・ずちゅ・・
音が大きくなるに連れて悠也の頬は赤く染まっていく。両目さえ強く瞑る様子は、あた
かも快感を得ている様にも見える。
『はぁ、はぁ・・はぁ・・っぁ・・ぁぁ』
恭司は、悠也の頭を片手で押さえ、もう片方の手で右肩を押さえて悠也の行動力を制限
する。まるで獣が小動物を食する動作の様だ。
血が流れ出る感触を味わう悠也は、次第に抵抗力を抜かれていった。意識が朦朧としつ
つも身体の一部が強烈に痛みを得る。
恭司が血を強く吸い上げる度に悠也は呻き声を上げた。その度に首筋を中心としてぞく
ぞくと興奮の度合を強めていく。
『うっぁ・・ぁぁ・・・・きょ・・じ・・・・・・』
これが吸血一族の特色の一つである。血を吸われる者に対しての代償行為として、己の
唾液を流し込む事で快感を与える事が出来る。
この場合での快感とは、まさに射精する感触と一致する。
今の悠也は、全身を突き抜ける様な刺激を得ながら、肉棒を扱く様に、また、射精の余
韻に似た感触を同時に得ていた。
しかし、実際の射精は無い。その為に体内では快感が堂々巡りをする。感度が最高潮ま
でに達するが射精が出来ない状況ならば、男としては苦痛に違いない。
『うぁぁ・・ぁあ。ぁ・・っぁあ・・・も、やめ・・』
荒くなる声。乱れる呼吸の中で出る声に掠れを伴わせる。両脚をばたつかせるがそれも
次第に動きが収まっていく。
恭司より与えられる感触が意識を奪っていく。この状況下、恭司は悠也の首筋から牙を
静かに抜いた。
牙より血の滴が落ちる。それを手に取った瞬間、我に返って悠也を見た。
『ゆう・・・様・・――――――――』
顔を真っ赤にし、呼吸を乱す悠也を見る。
首筋に付いた二つの小さな傷口よりの出血はもう止まっている。
悠也のタンクトップは血で汚れていない。恭司が上手く血を啜ったからだ。
『きょ・・・・・』
か細い声がかなり掠れて聞き取り辛い。その中で恭司は、静かに悠也を見下ろし、落ち
着いた自分を恥じながらも、
『悠様。おれはもう血を吸いません・・だから、今だけ・・・悠様を食します事、お許し
下さい』
恭司の手が悠也のタンクトップの裾を掴み、ゆっくりと引き上げていく・・・