※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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十一章・二話:夜の敵

 空が夕日に満ちる前・・・警察病院―――

 

 甚大市の東に流れる二井川を越え、雪白砂山に程近い場所に甚大東警察病院はある。

 ここは主に警察関係者やその家族が利用し、また一般にも公開されている公共の施設で

あるが、場所が都市の中心部より外れている事もあって、また「警察病院」と言うだけあ

って市民の馴染みは薄い。

 この病院には、悠也へ挑み敗北した如月京史郎が入院しているはずであるが、今は病院

内が慌しい。

 廊下で医師二人が囁き合う。

『おい。あの302号室の入院患者、じゃなかった―――性犯罪者がどうやら逃げたらし

いな・・・知ってたか?』

『ホントか?―――おいおい・・大丈夫かよ』

『警察官が見張っていたらしいが、その警察官を殴り倒しての逃走って事らしい』

『おいおい。ホントかよ・・・だがよ、あの全身大火傷でか?―――院長の見立てでは、

もう・・って聴いてたがな・・』

『そうだよ。だが現実に・・・ッ。やばい、警察だ!?』

 数人の警察官が近付いて来る。医師二人を尻目にして歩き去って行く。

 看護師、入院患者等、誰もが警察官の慌てる行動が理解出来ずに小首を傾げて何事かと

囁き合う程度だった。

 警察官が去ると、医師二人はホッとする様子で再び逃亡者の事を会話し合った。

 

『ふふ・・』

 

 警察官が何度も往来する廊下の隅を、静かな足取りで歩く少年が居る。

 その少年―――甚大高校の制服(夏服)を着ている生徒は、そっと薄気味笑いを浮かべ

るが、まるで存在感を感じさせない様子で医師二人の目の前を通り過ぎても、彼等は気付

きもせずに会話に専念している。

 少年は何事も無かったかの様に病院を出て行く。

 

 

 

 日は暮れて、夜の甚大中央公園―――

 

 時間が経つのが早いと絆は腕時計で時間を確認した時だった。急に悠輔が背を向けて両

足を踏み締める体勢を取る。まるで全身に力を漲らせる姿勢だ。

『どうか・・したんですか?』

『・・各務。もう一つ訊く。狙われた事はあるか?』

『え・・・?』

 言葉を強める悠輔が、絆に背を向けたまま歩を下がらせて傍に寄る。左手を少しだけ上

げて絆に動くなと無言で告げると、

『俺から離れるな』

『は、はい』

 公園の、藍色に満ちる夜の中では不気味さはある。

 この公園には電灯が一つあるが、電球が切れている為に明かりが点いていない。その分

だけ夜の闇は一層に強まって思えてくる。

 悠輔との会話が弾んでいた所為もあって、絆は今になってようやく恐怖感を込み上げさ

せ始めた。

 悠輔の背中に寄り添い、シャツを右手でギュッと握り締める。

『悪いが、掴まないでくれ』

『!?―――す、すいません。私・・』

『そうじゃない。戦えない』

 絆が謝った直後に、悠輔が告げる。その声の強みは冷静さの中にも力強さが感じられて

くる。そして、その声の冷静な強みを絆は何処かで聞いた気がしていた。

 シャツを離す絆。悠輔は周囲を見渡している。静かなる視線が闇の深遠を見据えていた。

 

『ボクはぁ、知るぅ・・・16歳ぃ・・―――契りをぉ・・交わすぅ・・花嫁はぁ・・』

 

『この声は・・』

『誰!?』

 絆が怯えるのも無理は無い。闇の中へと広がりをみせる様な男の声が深々と公園内に響

き渡ってくるからだ。

 その声に悠輔は反応する。そして、声のする位置を探ろうとした瞬間、公園内に無数の

気配を感じて改めて周囲を警戒した。

『・・・・何?―――何なの・・』

『殺気か?―――いや違う。これは・・』

 「憎悪」とは敢えて絆の前では言わなかった。悠輔なりの気遣いであるが、怯え切って

いる絆には通じていない。

 

『何て、開放的な気分だ・・・・これほどの気分、いまだかつて味わった事がない』

 

『いや・・・何処から聞こえるの?』

 声の正体が解らないだけに恐怖は一入である。周囲を忙しく見渡し始める。

『落ち着け、―――呑まれるな』

『け、けど・・・この声、何だか、嫌で・・・』

 尻目で絆を見ると、絆の額に汗がびっしりと浮かんでいるのが見えた。また四肢が震え

ているのも良く解る。

 

『子猫ちゃんをぉ・・渡して貰おうか・・―――――』

 

 不気味な声に強みが灯った。明らかに絆を狙っていると判断する悠輔は、再び絆を見る

と、すぐに声のする方へ睨みを利かせる。

『その声―――如月か。どういう事だ。俺が誰であるか知らない訳じゃ無いはずだ』

『あ、相葉・・さ・・』

 絆の涙声を背中で聞く。その声が途中で止まった様に思えた。あまりの恐怖で声が出な

かったのだろうと推測出来る。

 

『無論。―――――次期当主と噂名高い・・相葉悠輔さまぁ~』

 

『如月。妹は既に死んだ。それを彼女に求めても仕方ない事だ』

 声を強めて言う悠輔は、声の主―――如月京史郎の妹の事を考えていた。相澤志郎に利

用された挙句、悠也に討たれるしかなかった事を悠輔なりに考えていた。

 

『妹ぉ・・?―――ですか?』

 

『違うのか(・・―――多いな。守り通せるか)』

 如月との会話を続けながら、周囲に発生していく無数の気配を読み取る。如月と同じく

絆を狙っている事を悟る。

 

『ボクは・・・いえ、デク人形の貴方様には解りますまい・・』

 

『如月・・・』

 無数の気配が次第に近付いて来る。悠輔は力をすぐに発揮できる体勢へと移行する。

 絆は、あまりの恐怖心により金縛りに遭ったかの様に動けない。

 そして、風が強く吹き付けてきた瞬間、夜空に木の葉が舞った直後―――!?

 

ガァァァァァ!!!!

 

『きゃぁっぁあ!!!』

『――ッ!?』

 公園内の木々が一斉に大きく轟いた。そのざわめきが一気に響いた所為で不気味さが寄

り一層に増して公園内を支配しようとしてきた。

 絆の叫びを皮切りに、暗闇に満ちる者達が出現して夜の闇の中を掛け出して来る。

『守る―――!』

 急に腰を落とす。左拳を強く握り締めて強烈な瞳の輝きを見せる。まるで夜の闇を照ら

す月光を宿す様だった。

『ギャァァアァア!!!!!!!!!!』

『ギャアァ!!!!!!!!』

 奇声を上げて絆と悠輔へと迫ってくる不気味な者達。その者達へ向かって攻撃姿勢を取

る悠輔が動こうとした―――まさにその瞬間!?

 

『そうはさせねぇーってンだ!!!!――――――――火炎ッ戟!!!!!』

 

 悠輔の前へと飛び出る青年が、火炎色を漲らせる長大な槍を手に、向かって来る者達へ

と豪快に振るった。

 炎が周囲に飛び散り、焼ける音が豪快に鳴り響く中、数名の者が火炎に巻き込まれる。

 地面に悶え苦しむ者達へと強気な眼差しを向け、前髪を勇ましく掻き上げると、

『てめぇ等!!―――悠輔サンに指一本ッ、触れさせねぇってンだよ!!!!!』

『勇真!』

 青年―――獣牙三忍衆の一人・牙崎勇真が、不気味な者達に威圧感を見せ、今まさに飛

び掛る寸前だったその者達を尻込みさせる。

 火炎に染まる槍を平然と持つ勇真は、悠輔の方へと振り返り、その背後に居る絆へと視

線を送った。

 震えていた絆がハッとして顔を上げる。悠輔の前に立つ勇真を見て恐怖感の中にも安堵

差を垣間見せる。

『お兄ちゃん・・―――お兄ちゃん・・』

『へ?―――お、おい・・お前、間違って・・っ?』

 絆の言葉を訂正しようと口を開いた時、悠輔がそっと右手を勇真へと向ける。そして、

首を横に静かに振った。

 勇真が悠輔の無言の指示を理解して頷く。そして、ニカッと絆へと笑みを見せる。

『―――も、もうへーきってンだよ。オレが居るからな!!よく見とけッ、うぜぇ奴らは

片っ端から片してやる!』

『うん・・うん!』

『任せろ・・ッ!!―――悠輔サン。後ろッ!!』

『―――ッ!?』

 勇真の声と同時に悠輔は後背より飛び掛ってくる不気味な者二人に気付いた。絆を守ろ

うと自分の方へと引き寄せるが、まさにこの瞬間に。

 

『無双華ッ!!!いっけぇぇ!!!!!』

 

 紫色に輝く無数の蓮型の手裏剣が飛ぶ。勇真、悠輔、絆を通り越して不気味な者二人の

身体を引き裂いていた。

 そして、絆の背後を守る様に少年が―――獣牙三忍衆の一人・牙邑飛鳥が立つ。

 飛鳥は振り返り、絆を見てから勇真へと視線をニヤニヤと送る。

『ゆ、―――まあ、兄貴の好きな様にさせてやってもいいけどなぁー』

『!?――てめっ。ガキの癖にませてンじゃねぇ!!』

『あ、あの・・』

 急に表れた不気味な者達以外にも、唐突に現れた感が否めない少年・飛鳥と、そして、

兄と見間違っても仕方の無い容姿の持ち主・勇真に対して、絆はどぎまぎとし続ける。

 悠輔が絆をしっかりと見つめる。肩に手を置いて、

『大丈夫だ。俺が―――俺達が守る』

『あ、相葉さん・・貴方って・・・一体。お兄ちゃん・・?』

 悠輔の顔を間近で見ながら、視線をずらして勇真を見る。勇真は強気に頷くだけで絆を

説得すると、それを受けた絆が暫く考え込んだ後で頷いた。

 

『二人共、悠輔様。敵の行動パターンが読めません。ここは一気に叩くのが上策です』

 

 右側の闇より現れる男―――獣牙三忍衆の中で年長者たる牙嶋涼真が優しげな笑みの中

にも冷静さを忘れずに保つ。

 涼真の言葉に勇真が真っ先に頷き、それに合わせて飛鳥が頷いた。そして、最後に悠輔

が強く頷きを返した。

『行くぞ。獣牙三忍衆―――――霧生攻撃陣ッ!』

『承知しました』

『おう!』『やっりぃ!!』

 悠輔の言葉に三忍が同時に応じる。そして、その場から飛び退いて、悠輔を中心に大き

な三角形を描く頂点の位置に立った。

 

『獣牙三忍衆か・・・くそっ・・』

 

 闇の中で如月が舌打ちするのが、絆には不気味に聞こえたが、悠輔や三忍が居ると思う

と、前の様な恐怖感はもはや無かった。

 悠輔の背中が頼り甲斐がある様に感じながら、じっとその背中を見つめていた。

 

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