『ちぃ・・・』
如月の声が闇に霞む。風が公園内に吹き荒び砂を舞い上げて行く。その砂が月光に照ら
されて輝いた。
公園内に大三角形を描く場所の頂点の一つに立つ勇真が、装備する火炎戟を地面に突き
刺し、火炎を地面に宿す事で自らの呪力を悠輔へと押し流す。
『悠輔サン。受け取ってくれ!!―――――――火翼陣ッ!!』
悠輔を中心として火炎の輝きが地面を走る。その輝きを受けて悠輔自身が赤く染まり始
める。
『あ、相葉さん!?―――きゃぁ!!』
あまりの地面に変化に驚く絆が叫ぶが、悠輔は敢えて無視する。絆を傷付ける為の力で
は無い事を知っているからだ。
自らの身体に勇真の呪力を取り込み、
『身結・・・』
ぐっと左拳を握り締める。そして、燃え盛る地面の上を駆け出す不気味な者一人を見定
め、自ら特攻を仕掛けた。
悠輔の突然の行動に、不気味な者達が馬鹿にする笑いを見せる。
悠輔が駆け出しながら左拳に力を集める。そして、大笑いする不気味な者へと拳を突き
出した。
『ギャッ!?』
一瞬の驚愕声が上がる。その不気味な者が自分の胸を恐る恐る見ると、悠輔の左拳が胸
を貫通している事に他人事の様に知った。
冷静沈着な輝きを瞳に灯す悠輔が、拳を引き抜いて豪快に振り上げて急降下で落とす。
『グギャ!?』
鈍い音が聞こえ、一瞬の絶命声を上げる不気味な者一人の頭が粉砕される。そして、そ
の者が倒れる間際に急に退く。刹那、特攻を仕掛けて来た別の者の攻撃が空を切った。
『―――――――ッ!』
火炎色に輝く左足を繰り出す。空を舞う身体を捻り、その回転速度を利用した足蹴りで
その者の身体を木っ端微塵に砕く。
その者の血を浴びる悠輔であるが、その血はすぐに消えていく。今では悠輔の身体より
赤い湯気が上がっている。
『脆い・・・これは人間か?』
あまりの脆さに悠輔は違和感を覚えた。勇真の属性である「火」を攻撃に宿したとはい
え、これほどに肉体が砕け散ろうとは思わない事だった。
不気味な者達は、確かに人の姿をしているが、間近で見れば生気が感じられない肌色を
している。
『輔様!!――――――――危ないッ!!!』
『――――ッ!?』
一斉に不気味な者三人が悠輔に飛び掛ってくる。
悠輔は、頭上を取られ雄叫びを上げて繰り出してくる三人に対し、冷静さを失う事無く
拳を突き上げた。
血飛沫が悠輔の頭上で舞う。不気味な者三人の肉体を拳で叩き壊す悠輔の力は圧倒的だ
った。まさに肉弾戦に特化した戦いと言えた。
『やっぱすげっぇ・・あの素手だけの戦いってよ。オレの火炎戟でも通じねぇしな!』
『やっりー!!輔様ぁ、いっけ!!』
『流石。相葉家直伝「身結」は、肉体を呪力そのもので強化する。尚且つ、我々・獣牙三
忍衆が持つ力を得て、攻撃に属性を付与する「霧生攻撃陣」。その戦い、まさに見事!』
『涼兄ってば、相変わらずどんな状況でも説明コーナーを忘れねぇよな』
『涼真兄ぃ!もっと解り易く言えェ~~』
『全く、二人共・・、悠輔様だけに戦わせておくつもりですか?―――そうじゃなかった
ら、悠輔様に呪力を流すのに集中しなさい!』
涼真の叱責で二人が焦って押し黙り、悠輔に呪力を流す事に専念する。
戦闘は明らかに悠輔の有利に進む。もはや不気味な者達は絆へ攻撃する余裕が無い。一
人一人確実に消えていく。
『ちぃ・・』
舌打ちする声が空気中に舞う。
悠輔により木っ端微塵に砕かれる度に専決が蒸発して悠輔に降り注ぐ。圧倒的なまでの
戦いは、もはや決着が付いていると言っても過言ではないだろう。
絆の視界に展開する悠輔の戦い方。明らかなほどの勝利は悠輔にあるはずであるが、絆
は何故か怪訝な表情をする。
『・・何だろう。何だか・・・不安・・』
人が木っ端微塵に砕かれていく事に悲しみは覚えるが、それで良いとも思えて恐怖感も
驚愕も抱く感情は少ない。それを何故かと考える前に悠輔の戦い方に不安を感じていた。
悠輔の強烈な拳の一撃が、最後の者を打ち倒す。その者は激しく転がって地面に大量の
血を残して消えた。
『すぅ・・・はぁ・・』
身体に付着した血生臭い自分を意識しながら、姿勢を整えて呪力を落ち着かせる。
三忍の呪力の影響が消えていく中、如月を電灯の上に見つける。
電灯の上に悠然と立つ如月は、仄かな黄色い輝きをゆっくりと放ち始めていた。
『俺と戦うか。如月』
『お強い・・・さすがはお父上に鍛えられた事だけある。呪力はあくまでも補助的な役割
として、敢えて拳で戦うその姿勢・・・見事です』
悠輔が睨み付けている。それを悠然とした声で返す如月であった。そして、その如月に
涼真が問う。
『如月京史郎・・貴方の目的を知りたい。何故、彼女を狙う?』
『・・・知りたいか?――――だが、知りたくば・・旭志清十郎様を倒す事だ・・さもな
くば永遠に彼女は狙われる事になる・・』
如月の身体に発光する仄かな光の影響を受けた電灯に急に輝きが灯る。電灯は燦々と明
るさを放ち、公園内を照らし出した。
『どういう事です!―――旭志が何を!』
『そして、常に旭志清十郎様の傍に控える黒識を倒す事だ・・殺せ。殺してしまえ・・』
『貴様・・』
まるで楽しむ様子に思える如月の声に、悠輔は怒りを覚えた。声に強みが篭もり、左拳
が淡い輝きへと満ち始める。
『そして、今・・貴方様も死ぬ事になる――――非常に残念でした・・』
『・・ッ、・・・・・・』
『てめっ!!―――何が言いたいンだ!!男だったらはっきり言えってンだよ!』
『兄貴ッ!?―――何だか変だよ・・輔様が!?』
『悠輔様!?』
飛鳥の声を受けて勇真と涼真が同時に悠輔へと視線を送る。三忍の視線の集中を受ける
悠輔は、何故か身体をふら付かせて疲労感を出していた。
『う・・くっ・・――――――これは・・』
戦いによる疲労ではない事は悠輔自身が知っていた。しかし、眩暈が止まらない。意識
が混濁へと向かおうとするのを止められない。
膝を屈する悠輔が地面に両手を付く。その時には既に呼吸が荒く、大量の汗が全身を覆
い尽くしていた。
『悠輔サン!!』
『輔様ぁ!!!』
『どういう事です・・・これは・・――――――ッ!?』
涼真が驚きを露にしている最中、勇真と飛鳥が悠輔の下へと駆け出した。その時、その
隙を突いて如月が電灯の中へと消えていく。
『・・あれは―――電界潜術・・・しかし、あの術は意識を電気内に忍ばせて機械を操る
だけのはず・・・身体すら電気の中に溶け込むのか・・・一体、如月の身に何が・・』
『さらばだ。相葉悠輔―――――“穢れ”を受けて死ぬが良い・・はっはっは!!!』
『う・・・くぅ・・か、身体が・・―――――』
もはや身体が自由に動かない。身体の奥までも燃える様に熱い。自分でも驚くほどの大
量の汗が地面に垂れて染み込んでいくのを見た。
勇真と飛鳥が近くで叫んでいるが、それも悠輔には聞こえていない。顔を上げようとし
た瞬間、自分が倒れていた事も既に知らなかった。
『悠輔サン!!!!』『輔様ぁ!!やだよぉ!!!!』
倒れた悠輔を勇真が抱き起こそうと両手を伸ばす。飛鳥が悠輔を起こそうと同じく両手
を伸ばした。
『駄目ッ!!!―――――――――――今、触っちゃ、駄目!!』
『え・・・?』
『な、・・!?』
絆が叫んでいた。勇真と飛鳥が手を止める。涼真が絆を観察する視線で視る。
『どういう事ですか?一体、悠輔様の身に何があったのです(―――彼女は・・)』
『駄目・・・解んないけど、駄目なんです。「穢れ」・・・・穢れなんです・・』
絆は悲痛な眼差しで悠輔を見つめていた。自分でも何を言っているのか解らないだけに
動揺が酷く震えていた。