※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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十二章・二話:牙の願い

 各務家前―――

 

 パジャマ姿の各務絆の姿に、牙崎勇真は戸惑いを覚えて眼鏡を外して掛け直す。

『眼鏡・・してるんですか?』

 最初の第一声がこれである。何故、自分が呼び出されたのかを尋ねる前の事であった為

に、勇真としては拍子抜けしてしまう。

『強ぇンだな。絆サン・・』

『え・・?』

 勇真の言葉に絆は小首を傾げる。自分の置かれた立場を理解していないといった雰囲気

を見せる絆に、勇真は軽く笑って見せる。

 勇真の微笑みが悠也の笑みに重なって絆には見えるが、眼鏡を掛けている分、真面目な

雰囲気を纏っている様にも見える。

『ちょっと話せねぇかな、って思ってよ』

『話・・?』

『ああ・・』

 勇真の言葉を聞いている内に、どうしてこうも緊張感が抱けないのだろうという疑問に

ようやく至った。そして、疑問と同時に答えを知る。

『少し待てって、着替えるから―――家の中じゃ、お兄ちゃんにばれちゃうし』

『だな・・わりぃ』

 勇真の頷きに絆は笑って応えた。そして、家の中へと入って行く。その後姿を勇真は見

続ける。

 

 屋根の上に闇が忍ぶ―――

 

 闇―――悠也は、勇真と絆のやり取りを見守っていた。

 月明かり悠也の姿を隠す。上半身は裸の肌に闇を含む風が触れて流れ去っていく。

『獣牙・・どういうつもりだ。何故、絆に接触する・・・。それに、絆は奴等の事を知っ

ている。何故だ・・』

 悠也は、動揺を風に晒すが、勇真に気付かせない実力を身に付けている。

『オレの知らない絆・・か。まるで嫉妬だな』

 心の中が違和感で掻き乱される気分である。気持ち悪いとは思わないが不快に近い事は

間違いない。絆が霧生一族と少なからず接触している事も意外であるが、自分以外の男と

仲良く話している場面を見れば、それが自分の知らない絆の一面であるだけに心は余計に

掻き乱された。

 勇真が顔を上げてくる。それと共に絆が部屋に戻って来る足音を微かに聴くと、そっと

屋根上より移動して自分の部屋に戻った。

 

 悠也の部屋をそっと覗く絆―――

 

『よし・・寝てる。寝てる。ふふっ・・』

 これから悪戯をする気分である。悠也が床で大の字に寝ている。また、ロフトにあるベ

ッドで寝なかったのかと呆れたが。

『行ってきまぁす・・』

 そっと小さな声で悠也に告げると、音を立てない様に慎重に扉を閉めた。そして、忍び

足で一階へと降りて行った。

 絆が一階に下りたのを知る悠也は、急に目を開けて半身を起こした。前髪を掻き上げて

乱れた髪を直す。その間も不機嫌さは表情から消えていない。

 立ち上がり、絆が閉めた扉を暫く見つめると、軽く飛んでロフト部の壁に手を掛け、懸

垂をするかの様な動作で身体を悠々と上げてロフト部に入る。

 ロフト内はゴミが散らかっている。絆には散々に片付けろと言われているが、悠也にし

てみれば面倒だと放っている。

 絆はロフトに上がるのが好きではないらしく、滅多な事では上がって来ない。だからこ

そ屋根裏部屋に続く隠し扉の存在を全く知らない。

 ロフトの天井の一部をやや強めの力で押すと、その一部が外れた。外れた天井の一部を

退けて屋根裏部屋へと入る。

 真っ暗闇に包まれる室内に静寂な空気が漂っている。屋根裏部屋に悠也が立つところか

らして高さは十分に確保されている。また、闇の広がりから見ても広さも問題ない。

 闇の中、悠也は右手を水平に伸ばし、壁の突起に触れた。すると照明が点く。

 闇が薄れて周囲が明るくなる。しかし、静寂な空気の流れは変わらない。

『急ぐか・・』

 屋根裏部屋は、悠也の部屋と違って整然と整頓がされている。壁に幾つもの忍道具が掛

けられ、それは棚にも仕舞われている。

 数々の書物が棚に置かれてあるのは、兄・各務征司や父親・各務雄司が集めたもので、

格闘技書・戦闘書やら忍に関するものだけでなく政治学まで幅広い。

 そして、IFAOとして活動する為の忍装束と星辰剣もこの部屋に保管されている。

 裸になる悠也は、黒地の水着の様な薄布地を穿き、そして、シノビ・ギアを着用した。

 シノビ・ギアは悠也の肉体にフィットして、筋肉の引き締まりを映えさせる。着用感を

確認し、軽く右肩を回して肌に馴染ませる。

 シノビ・ギアの上に忍装束を纏い星辰剣を背負い、最後にマスクを上げて口元を隠した。

 キッと強い視線を成すと、屋根上へと続く天窓より外に出た。

 外に出ると、やや強い風が吹いてくる。その風が悠也の黒髪を乱す。

『絆は・・・あそこか・・』

 絆の足取りを追う―――正確に言えば、勇真の呪力を探知すればそれで済む。距離感と

方角からして、どうやら甚大中央公園に向かった様だ。

 行き先を明確にした瞬間、各務家の屋根より別の家の屋根に静に飛翔して移動した。そ

して、また次の屋根へと飛び乗り、静かなる闇の中を駆けた。

 

 

 大樹が見守る甚大中央公園―――

 

 夜の風が、枝や葉を重ね揺らす音を奏でている。静寂な月の光が降り立ってくる中に、

勇真と絆は居た。

『綺麗・・』

『そうか・・?』

 深夜の公園は、昼間や夕方とはまた違った趣を見せている。絆の素直な感情に対し、夜

の闇に慣れている勇真としては率直に返してしまう。

 絆は夜の空を眺める。星のほとんどは見られないが、月の輝きが空を淡く照らして綺麗

な様子に見惚れた。

『絆サン・・オレが怖くないのか?』

 空を見上げていた絆の背中に、勇真は慎重さを含めて問い掛ける。自分から誘った勇真

自身でも思うが、絆の行動は安直すぎる。

 絆の考えている事が理解出来ない。もっと用心しろとまるで兄になった気分で不安にも

なってくる。

 眼鏡を外し、ややぼやける視界の中に絆を入れて見守った。

 勇真の問い掛けに、絆は振り返って軽く顔を右に傾ける。やや下を向いて勇真の足元を

見つめると、

『何だか・・お兄ちゃんみたい。―――いちいち心配するところがそっくり』

『・・・?』

 風が二人の間と互いの背後へと分かれて吹き付けてくる。勇真と絆の髪が同時に戦ぐ。

 絆は顔をゆっくりと上げて、勇真の顔をじっと見つめた。

『なら私の方の質問です!―――目が悪いんですか?・・その眼鏡』

『・・?』

『最初の質問に答えて貰ってないです。答えてくれたら話そうかなあ』

 絆にからかわれている気分だった。それでも悪い気がしない。むしろ、表情を綻ばせる

ほどの温かい感情が込み上げてくる。

 夜の闇、月の光に包まれる絆の姿を、眼鏡を掛けて見つめた。

『・・・・それもあるけどよ。それに、絆サンの兄貴と区別してぇしな』

『ふーん。そうなんだ』

『別に眼鏡を外しても行動に支障はねぇンだ。けど、気に入ってるってンだ』

『ふふ、その喋り方ってお兄ちゃんみたい』

『そうかよ?』

『似てる、似てる。ふふっ』

 絆が笑う。それに釣られて勇真も照れながら笑い、そして、その笑いを納めて真剣な表

情を作ると、絆をじっと見つめる。

『オレの質問・・』

『・・お兄ちゃんって、凄く心配性で―――きっと何処かで見てます・・』

 絆が真剣な表情で告げながら、両手を後ろで組み、上半身を少しだけ前に傾けて勇真の

顔を覗き込む姿勢をする。

『な!?―――マジかよ!?』

 

 大樹の枝が揺れて音を重ね合わせる―――

 

『ふふっ。驚く顔とかそっくり』

『ば、馬鹿ヤロ!・・驚かせンな!(―――気配は感じてねぇ。居る訳ねぇってンだ)』

 驚きながらも内心では冷静さで公園内を把握するのを忘れない。しかし、この絆は何処

までも掴めない部分がある。それが動揺の正体でもあるといっても過言ではない。

 絆は姿勢を直して背筋を正すと、笑顔を消し去った表情を勇真に向けた。

『きっと・・―――お兄ちゃんなら分かってくれる。いざとなれば助けてくれるって信じ

てるから・・・かな』

『は?』

『それが答えって言ってもいいですか?』

『それが答えかよ・・マジかよ―――』

 周囲を見渡す勇真は、悠也が間近でこの様子を監視しているのではないかと急に不安に

駆られた。

 

 大樹の枝が風で大きく揺れる―――

 

 勇真は、大きく息を吐き出すと、改めて絆を観察した。可愛らしく自分の好みだと思い

ながら、何処か安心できる自分が存在しているとも理解する。

 そして、この絆になら話せると判断すると、絆の顔を見ながら強く頷いた。

『あ、あの・・勇真さん?』

『絆サン。聴いて欲しい事があって・・・って、わりぃ。オレの話を聞いてくれるか?』

『・・・え、はい。初めからそのつもりですけど・・』

 ごく自然に「当たり前だ」という表情をする絆は、きょとんとして勇真を見る。

 勇真は絆の視線を受けて照れてしまい、右手で髪を掻き乱した。そして、絆を申し訳無

さそうに見ながら、

『・・・・・・・・・悠輔サンを助けたいンだ・・・』

『悠輔・・さん。相葉君を?』

『ああ。そうってンだ・・・あの後、涼兄・・あ、いや・・オレの仲間を助けに悠輔サン

が向かったンだ。けどな、帰って来なくてよ。それで飛鳥が・・もう一人のオレの仲間が

向かったンだが・・やっぱ帰って来ねぇ。オレは体調があン時から優れなかったって事も

あって、一緒に行動が出来なかったンだ・・』

『はい・・』

『敵は恐らく―――霧生以外の奴等だ・・あ、いや、霧生って事は別に良いンだ、気にし

ないでくれってンだ。それで、呪術者(忍)以外の敵にオレは慣れてねぇ』

『それで私を?』

『ああ。一般人の絆サンを巻き込む訳にはいかねぇってのは重々承知ってンだ・・・けど

な。悠輔サンを助けてくれたあの力を・・・貸して欲しいンだ・・・』

『あの時の・・・ちから・・』

『ああ。頼む・・オレと一緒に来てくれねぇか・・・』

 勇真は絆の瞳を見つめ、頭を素早い動作で下げた。そして、下げた頭を上げ様とせず、

その姿勢を保ち続けた。

 必死な勇真の気持ちを察する絆であるが、力と言ってもどうすれば良いのか分からない

様子である。

 迷いながらも口を開こうとしたその時だった。大樹の枝が急に激しく揺れ、吹き付ける

風により一斉に音を出した。

 

『いい加減にしろ――――――彼女を巻き込むな』

 

『―――!?』

『え!?』

 勇真の声に良く似た声が、大樹より聞こえてきた。激しく風で枝が揺らされる中、姿勢

を起こした勇真はようやく悠也の気配を悟った。

 絆の背後に闇が降り立つ。驚愕の表情をする勇真を見て絆は、背後に立つ忍装束姿の悠

也の存在に気付いた。

『あ!?―――あ!!!』

『・・・・・・・』

『あんた・・・いつの間に・・』

 後ろを振り向いて驚く絆に悠也は思い切った行動を取る。絆の手を掴んで自分の方へと

引き寄せると、背後へと無理矢理移動させて勇真の前に自ら壁となった。

『あ・・あ!?』

『お前は・・獣牙三忍衆の一人―――だな?』

『若サン・・(すげぇ・・これが若サンかよ)』

 ただ驚くしかない。

 対峙し合う勇真と悠也。各々に吹き付ける風の勢いに違いが感じられるほど、感情の度

合の開きがあった。

 鋭く勇真を見据える悠也は、絆を背中に隠す。

 驚愕の勇真は、目の前に立ちはだかる悠也に対し、大きな壁を感じざるを得なかった。

『彼女を巻き込むな。それ以上“踏み込めば”―――オレが許さん』

 悠也が背負う星辰剣の柄を握る。鞘より僅かだけ引き抜いてみせる。それと共に殺気が

勇真へと襲い掛かる。

『くっ・・待ってくれってンだ。オレは!!!』

 強く向けられてくる殺気に勇真は動揺し、右足を下がらせる。

『問答無用―――・・』

 ゆっくりと鞘より星辰剣を引き抜いていく悠也は・・・

 そして、勇真は・・・

 

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