※この作品はR-18です。

神技一刀´   作:TETUYA

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十二章・四話:素顔

 ブランコが風で揺れている―――

 

『待たせた』

『・・あ、はい』

 振り返る絆の背後で、ブランコが揺れる音がしている。金属音がこの場の静寂な雰囲気

と合っていない。しかし、その違和感が絆には有り難かった。

 悠也を前にして緊張感を見せる絆は、俯いて落ち込んだ様子を見せる。

『・・・・ごめんなさい・・』

『事実だ。仕方ない・・・・』

 今すぐに自分の正体を明かしたいと欲求が募ってくる。絆を自分はこんなにも落ち込ま

せていると思うだけに、今の絆の姿を見るだけで辛かった。

 

 ―――絆・・

 

『私、ユウさんにお礼も言ってないし・・生意気ばかり・・迷惑も掛けちゃったし・・』

『気にしていない』

『突然だったし、どうしてなんだろう・・・お兄ちゃんみたいに思っちゃう・・』

『・・・・お兄ちゃん・・?』

『・・・各務悠也。私の大事なお兄ちゃん・・』

『・・・(大事な・・)』

 絆からその言葉が聴けた事が嬉しかった。マスクで口元を隠していなければ、今の感情

を絆に見せてしまっていただろう。

『ユウさん。私、相葉君を助けたいんです』

『何故だ?』

『何故って・・・解んないです。自分でも・・けど、助けたいって気持ちだけじゃ駄目で

すか?―――相葉君に・・伝えたい事があるんです!―――だから私!!』

『伝えたい事・・』

『お兄さんの事・・もっと自分を信じて!・・って!!向き合う勇気ってこういう時に必

要なんだって!!』

『・・・絆・・危険だと知りながら、それでも行きたいのか』

 絆が頭を下げるのを、上から髪の毛の揺れる様子を見守る。

 絆が顔を上げた瞬間、悠也と目が合う。悠也の今の感情は知り得ない。それでも見つめ

られた時、悠也という・・・男を感じた。

 異性を意識した瞬間、悠輔が脳裏を過ぎる。

『・・・・・・相葉君のお兄さんって、ユウさん・・ですよね?』

『・・・!?』

 以前の出来事で知った事実を思い出す。その際の動揺の衝撃が心に突き刺さった。

『勝手な事ばっか言ってごめんなさい・・――――私・・頑張りますから。何が出来るか

分からないけど。お兄ちゃんを心配させちゃうけど・・・けど・・私・・!』

『分かった。もう言うな・・・オレも、あいつに・・言わなければならない事がある・・

ならば・・・オレと共に行動しろ』

 一歩、絆へと歩み寄る。絆との間が無くなるほどに二人の心の距離は近付いていく。

『ユウさん・・・』

『絆・・オレに守らせてくれ・・兄の(―――オレの)代わりでもいい・・』

 

 ―――オレ自身として、絆を守り通す・・

 

 自分に言い聞かせる言葉を心の中で繰り返す―――「オレ」と・・。

 絆の顔が間近にある。いつもの兄として視線ではない。一人の男として絆の前に立って

いる事を意識した。自然と増す緊張感の中で絆への想いを考えるに至った。

『・・・ユウさん・・・の、顔・・・が・・・・・・・・・見たい』

 悠也に見つめられて、感情が熱くなってくる。その感情の赴くままが言葉となって出て

いた。言う前も、言った後も後悔はない。何を悠也から言われようとも平気な気がした。

『・・・・・』

『駄目、ですか・・?―――ですよね・・』

『それは・・』

 絆の言葉に悠也は少なからず動揺する。マスクを取るという事は素顔を晒す事であり、

自分の正体(各務悠也)を明かす事になる。

『絆・・・』

 今の絆の言葉を断る事は出来ない気がした。断る事は、今まで育ててきた絆への感情だ

けではなく、兄妹の絆すら断ち切ってしまう・・・そんな感情が心を占めてくるからだ。

『ごめんなさい・・・私、どうかしてます。初対面って感じのユウさんに・・・え、っ?

――――え・・!?』

 絆は急に言葉を止めた。悠也の動作を見て驚く。

 悠也は絆の言葉に従う動作を見せていく。マスクに手を掛けると徐々に下げていった。

『これが・・・オレの正体だ・・』

『あ・・・あ・・』

 マスクを完全に下げて素顔を絆の前に露出させる。夜の闇の中でも月光の明かりで悠也

の素顔が暴かれる。

 絆を真剣と悲しみを篭もらせて見つめる。全てを覚悟しての行動を受けた絆は、ただ驚

くしかないが・・・

『それがユウさんの顔・・・?』

『そうだ・・驚いただろう。今まで騙していてすまなかった・・』

 

 ―――普通に喋るべきだろうか・・普通?・・オレにとっての・・“普通”か・・

 

『絆・・』

『・・・・え?』

『オレは・・・』

 悠也が言葉を発しようとした時、絆は興味深げな顔付きで悠也の顔を覗き込んできた。

その絆の愛らしい仕草や明るい態度に、悠也は思わず言葉を忘れてしまう。

『・・ふぅーん。ふぅ~ん。・・結構、カッコいいんですけどお、お兄ちゃんにはちょっ

と勝てないかなあ~』

 絆の視線は明らかに兄を見るものではなかった。その事が分かる悠也なだけに奇妙で複

雑な動揺を感じてしまう。

『オレが誰なのか・・判らないのか?』

『え・・?―――だって、ユウさんでしょ?』

 絆がニッコリと笑顔で悠也に答える。その笑顔は悠也が知る絆の笑顔の中で一番のもの

であるのは間違いなかった。

 マスクを上げて顔を隠すと、改めて絆を見る。

 

 ―――“オレ”と“各務悠也”が一致出来ない所為か・・・

 

『嬉しいのか、悲しいのか・・・・オレでも判らないな』

『は?』

『いや。何でもない・・・これで吹っ切れた、という意味だ』

 悠也は軽く笑った。その笑いには動揺も不安も全く無い。今まで抱えてきたそれらの感

情が嘘のように消えていた事を、他人事の様に面白いと思っていた。

『ユウさん・・もう一度・・顔みたいな~』

『・・・駄目だ。断る』

 

 ―――サンキューな・・絆

 

『え~~~。やだあ~~見たいぃ~~~』

『断る。見せる理由が無い』

『あるある!!』

『繰り返しても無駄だ。聴く気は無い』

『えぇ~~けちぃ!』

『むっ・・その言葉、受け入れられないな・・オレとしては』

『だったら・・・見たいぃー』

『・・・・・・判った。だったら、目を瞑ってくれ・・脱ぐ』

『・・・・・・はぁい』

 もはや兄妹のやり取りである。それでも絆は悠也の正体が判らない。しかし、それで十

分であると二人共が感じることでもあった。

 絆が悠也の言葉に従って目を瞑る。少しだけ期待感が生まれるのは何故だろうと思いな

がらも、わくわくとする気持ちが離れなかった。

 

 ―――絆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・きずな・・

 

 心の中で思い浮かべる言葉が絆への感情となる。響き渡る自分の声が心を静かに波立た

せる。波は外側へと広がりを見せ、そして、内側へと返ってくる。

 強くなる絆への想い。過去の光景が走馬灯の様に心の波に浮かんでは消えていく。そし

て、複雑な気持ちのまま・・・

 

 そっと・・――――――――

 

『っ!?』

『・・・・・・・』

 目を開けた瞬間、悠也の温もりをまさに身近に感じた。そして、間近で見る悠也の素顔

にゆっくりと見惚れていった。

 抱かれている。その温もりを感じるだけで、心が深く落ち着いていく。

 いきなりの行動への衝撃は少ない。当たり前の感覚として自分が認識してると思ってし

まうほど、そんな自分に驚くほどであるのだ。

 悠也は絆を離した。落ち着いた眼差しを絆の瞳へと向けている。そして、絆へと右手を

差し出してくる。

『あ・・』

『絆。忘れないで欲しい・・オレが傍に居る。その事を』

 

 ―――ずっと守るってンだ・・

 

 悠也の手へと絆は手を差し伸べていく。その手を悠也は自ら右手を動かして握り締めた。

 悠也の熱さが伝わってくる。夏という季節の所為ではない不確かに感じる“熱さ”が。

『あ・・・あ・・』

 何を答えたら良いのか解らずに、ただ涙が零れ落ちた。

 急な展開でありながら、悠也を受け入れようとする気持ち、嬉しいと感じる気持ち相乗

し合い、それが心に淡く恋を奏でてくる事に今はまだ気付かない。

『ユウ・・さん。お兄ちゃんには・・・内緒ですから・・絶対に約束して下さい』

『・・・・・・絆・・―――――いいのか?―――後悔しないな?』

『・・・あ・・・はい・・』

『分かった。誓おう』

 悠也は絆の手を離し、じっと絆の涙溢れて潤む瞳を見つめた。

 

 

 絆と悠也の光景を―――

 

『悠輔サン。すぐに助けに行くってンだ。この先に何があるか、オレには想像もつかねぇ

ことだけどよ・・けど、立ち止まりたくねぇンだ・・・』

 勇真は強い眼差しで公園の静かなる光景を見据えていた。そして、強く息を吐き出して

眼鏡を掛け直した。

 

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