如月は、月の輝きと夜の闇を悦ぶ―――
「清々しい夜だ。これほどの高揚感は無かった・・・そして、今宵はボクの為にある」
建物内部に響き渡る声は、歓喜に満ちるほどの感情が籠められていた。
如月の声は、壁に繋がれた三人へと向けられる。
「獣牙三忍衆は二人まで捕らえ、そして、次期神技継承者の一人さえボクの手の内に・・
ある。そして、残りの駒もすぐに揃う」
『そこまでにして貰いましょう。ワタシ達を解放しなさい。如月京史郎!』
『そうだよ!!―――兄貴の力を舐めるなよ!!』
『・・・・・・・・・』
涼真と飛鳥が呪力の鎖に繋がれた状態で叫ぶ。その叫びが響き渡るが、如月は平然とし
て二人を眺め返した。そして、悠輔を見る。
悠輔は、如月の呪力の影響を最も受け、くすんだ瞳で真正面を呆然と見ていた。
「それでは・・役立ちはしませんか?―――くくっ・・」
『・・・・・・・』
『悠輔様』
『・・・輔様・・』
如月の厭らしい笑い声がする中、悠輔の呪力の鎖が外される。
鎖に支えられていた悠輔の身体は、コンクリート床に倒れる。うつ伏せで顔は左横を向
いて、弱々しく呼吸する様が虚しくある。
「獣鬼以外に高める術が在ったとは・・・この力は凄く役に立ちました。君達の溢れんば
かりの精気と呪力、そして、神技の呪力は・・・特に美味でしょう」
悠輔の傍に無数の光の蛍火が浮かぶ。その珠が悠輔の肌に付着する。
『悠輔様に何をするつもりですか?―――止めなさい!』
『輔様っぁ!!しっかりっぃ!!!』
『・・・・・・・・・・』
涼真と飛鳥の声は悠輔には届いていない。如月が得た力によって身体の自由と心を縛ら
れている所為だった。
「無駄です。霧生の里で「餌」以外の何者でもない“価値”の無い相葉悠輔殿が、この状
況で立ち上がれるはずも無い。だからこそボクの力が及んでいるという事ですが」
『・・・くっ・・・(このままでは悠輔様が・・)』
『(あにきっぃ・・早く。早く・・・)』
悠輔の肌に群がる蛍火が、精気を吸い上げ始める。
ぴくんっ・・と反応する悠輔は、快感である言わんばかりである。事実、肉棒が元気を
取り戻し始め、粘着力が薄れた白濁液が零れ出していた。
悠輔の抵抗は既に奪われている。瞳はくすんだ状態より回復せず、また、表情も悲しみ
に翳ったままである。
悠輔の精気を吸い、そして、再び涼真と飛鳥の精気を吸い始める。
二人の声が部屋内に響き渡るのを、悠輔は呆然とした様子で聞いた。
「精気は美味です。この上なくボクの快感を高めてくれる・・・っ?―――!?」
喜びに満ちた声を響かせる如月であるが、その声に雑音が生じた。暫く無言となり、蛍
火の浸食も停止する。
快感より解放された涼真と飛鳥は、窓の外を見る。そして、お互いの顔を見て微笑を交
し合う。
『遅かったよぉ・・兄貴ィー』
『全くです』
確かに感じる勇真の呪力。そして、もう一つの呪力も。
照明が突然に消え、そして、外の照明が一斉に点く光景が窓の外景色に映った。
明るく光を放つ景色が、夜の闇を祓う様で、それが二人には希望に見え、悠輔はその輝
きを呆然と眼にしていた。
敷地内、明るさが夜の闇を遠ざける―――
茂みに隠れる絆に見守られている事は、背中にひしひしと感じている二人だった。それ
が二人を冷静にさせ、心には勇気を沸々と燃え上がらせる。
二人を取り囲む・・人の形を成す者達―――亡者達。
『こいつら・・何だってンだよ!!うぜぇって!!!』
『死者を操る・・・行くぞ。お前ッ!!』
―――神技ッ・・
地面に転がっている小さな石を拾い上げる。その石に呪力を籠める―――途中で、一体
が襲い掛かって来る。
悠也が襲いかかる人の影を鋭く見据える。右手に握る小石に宿す呪力の充填は完全では
ないが、それでも神技を放とうと、
『そうはさせねぇってンだっぁ!!!!―――――――火炎戟ッ!!!』
『―――ッ!?』
真紅の一線が、一瞬、照明の光を引き裂いたかに見えた。
悠也の目の前に勇真が立つ。炎を燃え上がらせる槍を勇壮に振り回して身構える。炎が
―――勇真の呪力が周囲に帯状となって棚引いている。
『さあ。来いよッ!!!―――――――若サンは一撃必殺だろ!!だったら、それまでの
間、オレが何とかしてやらぁ!!!!行くぜッ!!!!!』
『・・・こいつ・・―――――――――――――――解った』
―――神技・・・我が呪力、雷と化せ。在るべき導を取り戻せ・・・
姿勢を落とし、右手に握り締める小石ごと地面に触れる。地面に呪力を放つ。
三体同時に勇真に襲い掛かる。強烈な雄叫びを上げて迫り来るが、その亡者に対して勇
真は勇ましく駆け出した。
『オレは特攻派ってンだよ!!!―――――黙って防ぐってのはオレらしくねぇな!!』
急な勇真の特攻に驚く三体が防御体勢を作るが、その防御すら簡単に槍の一閃で打ち砕
かれ、身体には火が点く。
燃え上がる火が照明の光に含まれる。勇真がその場所より飛び退き、槍を頭上で振り回
して身構える。
『やるな』
真正面で身構える勇真に告げる悠也の声も勇ましくもあり、頼もしくも聞こえた。その
声に勇真は顔を振り向かせて「おう!」と応える。
そして、悠也が更に呪力を集中する。
肉体表面に淡い発光現象が起こる。小石という“素材”を通じて、地面に無数に転がっ
ている“小石”へと呪力が通じ合うのを待った。
勇真が亡者に対して攻撃を仕掛けるが、その攻撃は利いている様に思えるが、実は肉体
を完全に破壊するには至らず、燃え上がる部位を切り落とし、又は、分断されても尚、攻
撃意思を失わずに勇真に仕掛けてくる。
『って!!――――――本気(マジ)でうぜぇってンだよ!!!』
攻撃すればするほどに亡者の数は増して行く錯覚に苛まれる。事実、悠也と勇真を取り
囲む亡者はまるで壁となるほどの群れと化していた。
まだ悠也は動かない。その時だった。勇真に向かって叫ぶ声が、
『勇真さん!!――――――左斜め前方だよ!!!!あの亡者を鎮めて!!!!!』
『絆サンか!?――――ッ、よし!!』『絆ッ!?』
勇真と悠也が同時に驚き、勇真が絆の声に応じた。
勇真は絆の言う通りに動き、左斜め前方に立っていた亡者に躍り掛かった。
亡者が火に包まれる。全身が焼け爛れて膝を地面に落とした瞬間、周囲の亡者が一斉に
不気味に蠢き始めた。
『そうか、司令塔か!?―――こいつらを操っている本体が居るという事か?』
―――それを絆が見抜いた・・?
『やっりっ!!!絆サン!!!』
勇真が燃え上がる炎を背に、槍を大きく構え上げて絆に向かって叫ぶ。
絆が茂みより立ち上がった所為で、亡者達は絆を発見する。絆の方へと一斉に視線を向
けていった。
『やだ!?・・・く、来る・・来ちゃうかも!?』
『絆サン!!!!!!!――――――若サンッ、早く!!!!!!!!!!!!!』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・焦るな。間に合う』
悠也の身体に宿る淡い輝きが、地面に伝わり切る。波紋を描き、地面の小石を震わせて
いく。次第に小石の動きが活発化する。
絆に迫ろうとする亡者達であるが、勇真の動揺と不安を他所に悠也は冷静を鋭く保って
いた。そして、軽く息を吐き出すと、右腕に力を込めて地面を強く押し付ける。
『我が力、雷となる!!!―――神技ッ、武甕槌ッ!!!』
言下、神技が発動する。
無数の小石より発生する雷の力がそれぞれ結び合い、まるで周囲に結界を形作らせる。
勇真が走り出す。右手に持つ槍を構え直し、悠也に向かって飛ぶ。
絆へと向かい始める亡者達が、雷の結界に囲まれて身動きを封じられる。
『でりゃっぁぁぁ!!!!!!!!!!火翼陣ッ!』
飛翔して降下。その勢いを槍に籠めて地面に突き刺した。槍が持つ炎が地面に円を描き
ながら広がり、また、悠也の神技の影響もあり、大きく膨れ上がった。
燃え盛る炎が身動きの取れない亡者を焼き尽くす。
炎の陣と雷の結界の二重の攻撃を受けた亡者達は、一体、また一体と倒れていった。
炎という流れの中に流れる雷が、一種の電気分解を発生させる。亡者の肉体が空中に炎
に焦がれながら分解されていく光景はまさに圧巻だった。
勇真が槍を振り上げて大きく構えると、悠也に力強い眼差しを向けた。その勇真の視線
に悠也は悠然とした眼差しで応えた。
「強いですね・・・・」
照明の中より発生する声が聞こえた。その如月の声を悠也と勇真は堂々と聞き、絆は怯
えながら聞いた。
照明が一つ、又一つと消えていく中、声は再び敷地内に響き渡ってくる。
「さあ。来なさい・・・ボク自らが相手をして上げます。そして、必ず勝つとこの場で宣
言しましょう」
勇真と悠也が鋭い視線を建物に向かって投げ掛けた時、敷地内に灯されていた照明は完
全に消えた。
辺りは焦げ臭い匂いに包まれ、それ以外は静けさを取り戻していた。
絆が、闇の中を慎重な足取りで歩いて来る。悠也の傍に寄り、忍装束の端を弱く掴む。
悠也は絆の感情を知り、振り返ると、
『オレはお前を守る為にここに居る。お前の不安はオレが貰う・・・勇気を。絆』
『ユウ、さん・・』
『そうだぜ。オレ達は強ぇンだ!!』
絆の傍で勇真は勇敢に笑う。静かに頼りがいのある瞳を向けてくる悠也と勇真を交互に
見ながら、絆はゆっくりと笑みを作って微笑で二人に返した。