静寂の建物内―――
絆はあまりの静けさの為に緊張している。息を殺し、周囲をきょろきょろと見渡してい
る。その傍に勇真が付き従い、先を悠也が歩いている。
この雪白共同教育研究施設の建物は、長方形の建物で廊下が異様に長く感じる。夜にな
ればその長さは倍に感じられる。
『やな感じ・・凄く・・』
『だな。妙に静かだな。っていうか、静か過ぎるってンだ・・・』
絆が勇真を見る。勇真が兄と同じ顔をしていると思うだけで安堵出来る気がする。そん
な絆の視線を受けて勇真は勇ましく笑う。
先に歩いていた悠也が突然に止まる。真正面を見定めた後、左右へと緩やかに見渡す行
動を取る。その行動に対して勇真は絆を止めて見守った。
『おい・・』
『はぁ・・・「おい」とか「お前」とか「こいつ」とか。いい加減にしろって。俺は勇真
だ。牙崎勇真って名前があンだよ』
『黙れ。お前がその喋り方を止めれば、いくらでも名前で呼んでやる・・・それよりも気
付いたか?』
普段と同じ喋り方をする勇真を悠也は気にしている様子だった。その様子が理解出来な
い絆は不思議そうな顔をして二人の事を見守っている。
『変に静かってのも、罠、だよな?―――けどな・・・』
『ああ・・罠がまるで無い。敵の―――呪力は確かに感じるが・・』
『だな。肌にぴりぴりくるンだけどな』
自分の身体に違和感を覚える勇真は、右腕を左手で擦る。
「・・・・くく・・」
『――――ッ!?』
この時、絆が身体を大きく震わせた。急に辺りを見渡し不安そうな顔をする。その絆の
異変に気付いた悠也が振り返り、
『大丈夫か?――――発作か?』
『え・・?―――ううん。違うんですけど・・・あの、・・どうして私の事を?』
悠也が言葉にした「発作」が気になった。それを知っているのは「各務悠也」であり、
今となっては、他には「各務征司」くらいであろう。
絆の問い掛けに悠也は内心で焦りを覚えた。両眼を僅かに細め、外見に感情が出ない様
に務める。
『それよりも大丈夫か?――――何があった?』
『え、あ・・・えっと・・何か見られてる様な視線を感じる気がして・・・』
『見られている?―――監視か?』
『ううん。違う気が・・・けど、なんだろ。この感じ・・』
言いながら不安そうに周囲を見渡す。
「ふふ・・・・・・・・・・・」
ビクッ!?
『うあ!?』
『何だ?』
『・・・え?』
勇真が突然に素っ頓狂な声を上げた。身体を縦に震わせて驚く表情をしている。その後
は軽く手を上げて、
『わ、わりぃ・・・なんだか悪寒かな・・』
『そうか。静かにしていろ』
『勇真さん。へーき?』
『あ、あ?・・・え、えっと・・・解らねぇ』
勇真が急に不安げな顔をして周囲を見渡している。それから間を置かずして、
「ふふ・・・先ずは君だよ・・・悠様は邪魔なスーツを着ているからね」
ビクビクッ!?
『うああ!!!!!』
お尻を急に突き上げる動作をする勇真は、爪先立ちとなり更に素っ頓狂な声を出した。
『おい!・・・いい加減に』
『勇真さん?―――ユウさん、勇真さんの様子が・・・』
『ハァ。ハァ・・』
お尻がむず痒い。何故か、何故かと何度も自問自答するが、答えは見出せない。
身体に電気が走った様な痺れがある程度で、何の外的変化は見受けられない。
勇真は近くの壁に背を付けると、額に右手を当てて顔を伏せた。
呼吸が次第に荒くなり、全身にむず痒さを覚えていた。
「ふふ・・・尻が敏感か?」
『うあ・・・ハァ、はぁ・・』
お尻を再び突き上げる動作をする勇真は、壁に完全に身体を預けてしまう。呼吸が乱れ
て顔を赤く染め上げていく。
『大丈夫か。何が起こった?』
『勇真さん』
『や、やべぇよ・・・なンだ。これ・・・気持ちわりぃ・・・・』
急に身体に及ぶ倦怠感。壁をずり落ちてその場に座り込んでしまう。額を右手で強く押
さえ、荒い息を何度も吐き出す。
「気持ち良くして上げよう・・君も・・・」
『え・・・?―――あ、ア・・』
『絆?』
勇真の傍に近寄ろうとした絆が急に淡い声を上げた。その場に立ち尽くし、勇真と似た
症状となる。
『絆?』
『は、はい・・ハァ、ハァ・・やだ・・・変な感じが・・身体に・・・』
『身体に?』
「やはり・・・効かないな。悠様には・・・」
絆よりも症状が悪化している勇真は、辛うじて悠也の言葉に頷く程度だった。
勇真は身体の火照りを感じて、その場に倒れ込むと、急に乱れる声を出す。そして、絆
も同じく身体の火照りを抑え切れずにその場に座り込む。
『何が・・・いや待てよ。如月京史郎と以前戦った時・・・奴は電気の中に潜む術を心得
ていた・・・その性質を今も残しているとすれば・・・まさか!?』
二人の症状が自分に及ばない理由の説明が付く。
悠也は「IFAO」が開発したスーツ・シノビギアを身に付けている。この全身のスー
ツが空気中に漂う電気の微粒子を遮断しているのだ。
『若、サ・・―――――お、オレ・・・・ヤローは・・ハァ。ハァ・・・くそ・・こんな
屈辱ってない、ってン、だ・・・・・尻に・・・くあぁぁ』
『やだ・・・いやっぁ・・ハァ。ハァ』
床にうつ伏せる勇真は、お尻を両手で押さえる。そして、屈辱的な悔しさの篭もる声を
出しながら、その時折で甘く切ない声で鳴いた。
『き、絆・・!?』
絆が悠也の胸に顔を埋めてくる。甘く切ない息を悠也の胸へと吐き出し付けてくる。
絆の急な行動に悠也は戸惑いながらも、絆をしっかりと抱き締める。
『ハァ。ハァ・・・ユ、ウ・・さ・・・』
『き、きず・・・・』
今の絆は色っぽい。間近で絆を見れば見るほど、絆の息遣いを聞けば聞くほど悠也の動
揺は酷くなった。
勇真は身体をビク付かせている。明らかに症状の進行が見られる。大きく口を開き、頬
は真っ赤に燃え上がるように染まっている。身体を動かして仰向けになると、
どくぅ・・どくぅ・・・どくぅ・・――――――――――ジワァァ・・
『はうぅあ・・!?―――くっ・・』
腰を浮かし、その状態を暫く保った後、ゆっくりと腰を床に下ろした。
勇真の股間部が濡れ始めるのを悠也は気付くが、何も出来ず、手の施しようが無いまま
更に勇真は責められていく。
『こ、こんなのって・・・あり、か・・よ・・・イキた、くねぇ・・・の、に・・くあ』
『お、おい・・』
『ハァ、ハァ・・はうぅん・・――――――あぁ・・』
『き、絆!?』
悠也の上衣の右部分の襟を掴むと、荒っぽく引っ張り下ろしてくる。まるで誰かに操ら
れるかの様な動きで悠也の上衣は中途半端に半分だけずり落ちて脱げる。
シノビギアが肌に吸い付いて筋肉をはっきりと映し出す。それを絆が色っぽく見つめて
くる。胸の少しだけ突起する部分へと指を這わす。
『き、絆・・やめろ・・』
『ゆ、ウ・・』
絆が攻めてくる。その行動を制止出来ず、ましてや突き放す事も出来ない。
悠也は、絆によって強引に座らされる。そこに突然に起き上がった勇真が背後から擦り
寄ってきた。
『わ、若サ・・ン・・わ、りぃ・・・・・・・・奴の術チュ・・に・・』
『ふ、二人共・・何を・・・する・・』
「脱がしてやる・・・悠様を支配するのはボクだ・・」
勇真が強引に上衣を脱がす。完全に上半身はシノビギアのみにされた。
絆が悠也の手首を擦り始める。そのまま筋肉を感じ入る様子で腕を伝い上がって行く。
『くっ・・』
勇真が背後から抱き締めてくる。艶やかなシノビギアの質感を楽しむかの様な手付きで
胸を擦り出す。
布地が擦れる音、撫ぜられて肌に吸い付く音が微弱に周囲に木霊する中、悠也は戸惑い
の真っ只中に陥っていた。
『やめろ・・・絆。オレは・・』
勇真はともかく、絆はどうしても強引に振り払えない。
絆を大切に思うあまりの心が、今は裏目に出ていたといっても過言ではなかった。
そして、勇真の右手が悠也の首筋を撫ぜる。首を覆うシノビギアの端となる箇所に指を
入れてくる。そして、もう片方の手がシノビギアを捲り上げていった。
『何を・・』
「ふふ・・」
ガラリと音を立てて、近くの扉が開いた。
逃げ場は勇真によって奪われている。その状態で、絆が強引に引っ張って来る。開いた
扉の中へと誘われる。
絆に対しての行動が取れない悠也は、無理矢理部屋へと入れられてしまう。
勇真が首のシノビギア部分を引っ張ってくる。多少の息苦しさが、悠也の体温を次第に
上昇させていた。
そして、一時間後・・・
黒板がある部屋。
四方に寄せられた机の一つに、シノビギアが脱ぎ捨てられていた・・・