雨音、起動音、そして―――
悠也は、刀を喉下に当てられて動けない。それ以上に少女達によって身体は身動きを封
じられている。
身包みが剥ぎ取られていく。無理矢理に脱がされる忍装束の上衣と袴。その場に打ち捨
てられる。
黒薄地のスーツが肉体を包むだけの姿となる。その姿を少女達に見られる。
『くっ・・』
『クスッ・・』
理奈が、悠也の背中の引き締まりの見事さを見て小気味良い笑みを浮かべる。それに合
わせて少女達が、悠也の鍛え上げた肉体を手で擦り出す。
凄みのある鋭利さを思わせる肉体が、少女達の手によって柔らかく解されていく。そん
な感覚に陥ろうとするのを、悠也は歯を食い縛って耐えた。
お尻の双丘を少女の一人が手で伝う。まさに薄地のスーツ―――シノビ・ギアは、耐衝
撃性に驚くほどに優れるが、忍としての機動力を最重要視して布地の薄さを追及した為に、
肉体に強烈な密着感を齎している。
筋肉の凄み、そして、お尻の形まで知られてしまう今の状況下では、シノビ・ギアも役
に立ちそうも無い。
『ぐっあ!?』
更に少女達が圧し掛かってくる。悠也の胸を圧迫してきた。呼吸が困難になるのを防げ
ず、息苦しさに耐えるしかない。
『クスッ』
刀を持つ理奈が笑みを続けながら、喉下に当ててくる刀の先を軽く上に動かした。する
とマスクが縦に裂けて、悠也は素顔を暴かれる。
精悍で漢らしい表情の悠也の顔を、少女達は我先にと覗き込んで見る。その集まってく
る視線に対して悠也は顔を右に向けて逸らす。
『くっ・・(何処だ―――、何処に居る・・・)』
敵の姿を―――藤島家で「水鏡」を使って見た敵の正体―――華奢な青年を探す。しか
し、この研究室の何処にも見付けられない。隠れている様子も無いが、気配は確実にこの
部屋内に蔓延している。
照明やパソコンが勝手に点くとは思えない。間違いなく敵は“この場”に居るはずだっ
た。その何処かに身を隠して潜んでいるのだ。
緻密に状況を把握していくしかない。しかし、気を錬ろうと集中するが、高めようとす
る度に少女達が邪魔してくる。
霧生の術の一つ・操術で操られた少女達からは、悪意すら感じられる。皆、同じ様な笑
みを浮かべるのが悠也には不気味に見えた。
敵の正体が暴けない以上、少女達も傷付けられない。悠也は屈辱感より目を瞑った。
『クスッ』『クススッ』
悠也をからかうように少女達は笑う。そして、抵抗しなくなった悠也の身体を起こす。
床に座らせて、少女達は一斉に群がって侍った。
『くっ・・』
目を瞑りながら、少女の肉の感触を肉体に得ていく。18歳という若い肉体には、たと
え忍であろうとも酷であるのは間違いなかった。
性欲が体内で強制的に呼び起こされていく。それでも悠也は目を硬く瞑り続けた。
『クスッ』『クスッ』
二人の少女が首筋を舐めてくる。既にシノビ・ギアの一部を刀で引き裂かれている為に、
鎖骨付近まで肌が露出している。
少女の舌使い―――頚動脈の脈動を確かめる様は、相当の柔らかい温もりを伴う。厭ら
しい音を立てて刺激していく。
『やめ、ろ・・・』
硬く表情に皺を寄せ、その中で掠れた声を出す。そこに少女達は漢の魅力を感じている
様子で、更に声を聞きたいと切に願うほどに肢体を摺り寄せてきた。
肢体の柔らかさが生み出す肉の感触は、悠也の漢を刺激する。また、女性の象徴部分へ
は、目を閉じていても意識してしまう。
そして、理奈が刀を捨てて悠也へと抱き付いてくる。更には!?
『なっ!?―――くっ、そこは・・』
『クスッぅ・・クススッ』
カッと目を見開く悠也であり、頬を急に赤く染まらせる。下腹部に感触を得た瞬間、更
にその下の“モノ”が鷲掴みされる。
別の少女が、背中を舌で伝い、更に別の少女が強靭に鍛え上げられた証拠とも言える胸
部へと頬を摺り寄せてきた。
『くっ・・・』
―――このままでは、彼女等が・・・
身体に及ぼされていく刺激を止められない。人質の様に鷲掴みされている股間へと更な
る刺激を灯されてしまう。
激しく欲情してしまう自分を恥じる。その中でも操術によって操られた少女たちの身を
案じ続けた。
再び目を瞑る。視界が暗く灯される中では、触覚が異様に発達する。少女達から齎され
る肉の感触に溺れ掛かった。
『き、ず・・な・・―――――――――――――――』
―――絆・・
今は縋る様に思い浮かべる。妹の事を。守ると誓った大切な存在の事を、強く思い浮か
べる事で悠也は屈辱に耐えた。
股間―――肉棒が勃起させられる。熱く滾ってくる中でも、悠也は耐え続ける。
胸に、背中に、お尻に触れてくる手の数々、そして、首筋を舐められる感触という名の
濁流さえも耐え抜く。
『オレは・・・』
自分という欲望と戦いながら眼を開く。視界に映る彼女等を見据えた。
『クスッ』『クスッ・・・』『クススッ』『クスッ』
『クスッぅ』『クスッ、クスッ』『クスッ』
七人全員が笑っている様で、実は違っているのが今まさに分かった。自分に及ぼされる
感覚に耐える事だけを考えて、悠也は少女達の苦しみを理解出来なかったのだ。
笑う表情を見せながら、両目いっぱいに溜まる涙を頬に伝わせ続ける少女達。まさに悠
也に助けを求めているのが、今は一目瞭然に理解出来た。
『待っていろ・・・今、助ける』
少女達が操術によって操られる中で、快感が肉体を刺激する中で、霧生一族への怒りの
感情が昂る。
肉体が鋭く引き締まる。強く息を吐き出し、己の欲望を追い出す。少女達を睨むほどの
視線で見つめた。
少女達の悲しみが、今は妹が流す涙へと繋がる絆となる。深い怒りに包まれていく悠也
は、己の鼓動を―――生きる証を深く意識した。
その時!?
『なっ・・・』
何処からか声が聞こえた。明らかにこの研究室から響く声だ。動揺している様子に、悠
也は深い怒りを笑みの中に湛えた。
少女達の動きが一斉に制止している。涙が零れ落ちるだけが、今の少女達に出来る動き
だった。
悠也は、抱きついたまま動かない少女達を優しく退けると、床にゆっくりと倒させる。
そして、立ち上がり、静かに周囲を見渡した。
『敗因を宣告してやる・・・オレを甘く見たな』
静かなる怒りを含む声を出す。それを静かに相手は聴き続けているのか。
倒れている少女達を順に見つめて行く。そして、最後に理奈を見ると、
『オレには守りたい人が居る。彼女がもしもオレの大切な人ならば、オレは迷わず身を預
けていたかもしれない。だが、そうじゃない―――だが、彼女等の気持ちも、心も利用し
たお前を・・・オレは許さん!』
『・・・・・そうか。貴様、操術で逆に、子猫ちゃん達を・・・』
『言ったはずだ。オレを甘く見たのが敗因だと。―――呪力はオレの方が上だ!』
悠也が叫び、その瞬間、肉体全体より発せられる呪力が研究室内を支配した。
悠也の呪力に即発されて、パソコン画面が一斉に乱れる。
『くあ!?貴様・・・霧生一族の―――!?』
男の声が乱れる。それはまさに雑音の様に響いた。
『オレが誰であるか知れ!!だが、後悔しても遅い!!――――神技ッ、』
―――我が身を通じ、雷とせよ。敵を滅ぼせッ!!
悠也が身体を捻る。右拳に力を集めて強く引く。そして「神技」の名の下に、一台のパ
ソコン画面目掛けて右拳を突き出した。
『―――――――武甕槌ッ!!!』
右拳がパソコン画面にめり込んだ瞬間、画面に発火現象が起こる。物体に雷が宿る神技
「武甕槌(たけみかづち)」が発動する。そして、発動して否や、繋がっている配線を通
じて全パソコンへと雷が巡って破壊していった。
『ぎゃぁぁっぁ!!!』『ぎゃぁぁっぁ!!!』
爆発音が順に起こる。そして、悲鳴も同時に鳴り響き、そして、別の場所からも―――
下の階からも同様の男の声が重なって鳴り響いた。
『意識を電気と繋げる術か―――オレの知らない霧生の術の様だな。だが、オレに勝てる
と思うな。敗北を知れ―――霧生!!』
『ぎゃぁぁぁぁ!!!!!』
一斉にパソコンがブラックアウトする。機械が焼ける不快な匂いが立ちこめる中、悠也
は拳をパソコン画面より引き抜く。
右拳は多少の火傷が見られる。皮膚表面が焼ける様に痛い。
『オレは未熟だ・・・これで奴等の(霧生一族)の目的が分からなくなった。それでも、
オレは―――』
下の階で聞こえ続けていた敵の悲鳴が消え去る。右拳を見る。そして、倒れている少女
達の無事を確認し、ホッと安堵の息を吐き出した。
その時だった。遠くでサイレンが鳴るのを聞いた。どうやら、照明やパソコンの電源が
入った事で侵入警報が作動した様だった。
パトカーのサイレンが次第に近付いてくる。それを聞きながら、悠也は再び倒れている
七人の少女を順に見て、
『オレが助けるよりも・・・無事に帰れる』
優しく声を掛けると、打ち捨てられていた忍装束と刀を拾い上げた。
そして、窓を開き、そこに足を掛けると、ここが三階であるのをまるで忘れているかの
様な悠然さで外へと飛び出した。
外に飛び出した悠也は、壁面を蹴り付ける事で勢いを落とし、地面に楽々と着地する。
そして、今まで居た三階の研究室を見上げた。
『忍務を・・――――――――完了する』
言下、その姿は闇に消え失せ、変わって出現するのは、無数のパトカーが放つ真紅の光
だった。
朝―――
各務家はごく普通の朝を迎える。
各務絆は、朝御飯やその他の家事をする作る為に早く起きる。外に出て、久しぶりの快
晴な感じの空に両腕を伸ばす。
ポストに入っている新聞を取る。その新聞の片隅に掲載されている少女七人の失踪事件
など絆は知る由も無い。また、それに悠也が関わっているなど。
明るく元気な絆は、早速、兄を起こそうと張り切りながら家へ戻って行った。
忍務「完了」