空になった鍋を端に寄せると、腹も心も満たされたウルヴァは飼い猫が家主の布団に潜り込むが如く、再び眠りに着こうとしている使徒の顎下にお邪魔していた。
「うにゅん……あるじ、ちゃんと寝ないとだめだよ……?」
布団からちょみんと顔だけ出して使徒に告げるウルヴァ。
「ふふふっ……あいよ、わかりました……」
使徒も同じく満ち足りた食事を終え、こうして可愛い小動物じみた小悪魔の忠告を微笑みを浮かべながら受け入れると、ゆるりと襲ってくる眠気に従いそっと瞼を閉じる。
「……我がちゃんと……見てる……から、……ね? ……くぅ……」
寝耳へと届いたそんな言葉に笑みを深めながらも、寝付きの大変よろしい監視者ちゃんを布団の中で優しく抱え、『どれ、それならしっかり寝るか!』と、深く、ゆっくりと呼吸を繰り返すのであった。
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今日、私は友達のウルさんと約束していた育乳トレーニングの為に師匠と使徒のお兄さんがいるお屋敷を訪ねました。
こちらには何度も遊びにお邪魔して、使徒のお兄さんにもウルさんとの特訓に付き合ってもらったりと……来る度に楽しく過ごさせて貰っています。
その事を家でママやお姉ちゃん達に話すと『リントにも良い人が出来たみたいでよかった』だなんて言われたりしながら、乳魔族に伝わる秘技や秘薬の使い方も習ったり……と、それは今関係ないですね!
ともかく、ウルさんの居るお家に遊びに来たわけですが、……でもちょっといつもとはお屋敷の雰囲気が違うかな? なんて思ったんです。
「──お邪魔します~! リントで~す!」
私はお屋敷の玄関を開けて呼び掛けます。
いつもであれば、メイドのお姉さんのオリビアさんが迎え入れてくれるんですけれど、今日は違う方が出迎えにきてくれました。
「むむ、……おお! リント殿でありますな! ようこそであります!」
気配は無かったのに、上から声がします。
声につられて見上げそうになった所で、間をおかずに目の前に
「ひゃぁ……!?」
「おっと、失敬であります! 驚かせてしまったでありますか?」
そう謝りながら現れたのは、私やウルさんよりも背は小さい……でも立派な年上のお姉さん、マラプシアさんです。
「マラプシアさん、こんにちは。……あの、今日は私、ウルさんと約束をしてまして……彼女、どちらに居るか知ってますか?」
「むぅぅ、リント殿……。ウル殿との約束はまた今度となるやもしれません。……実は昨日、御屋形様が風邪に倒れられ──ー」
マラプシアさんが申し訳なさそうに教えてくれますが、私はそれを聞いて最後まで待てずに聞き返してしまいます。
「えっ!? お兄さんが風邪で倒れたんですか!? だ、大丈夫なんですか?」
「わぷぷっ……!? リ、リント殿……! 肩をガクガクされてはボクも話ずらいであります……! ぷふっ、あぷっ……!」
「ああっ……ご、ごめんなさい……」
慌てた私は彼女に詳細を聞き出そうとしてしまい、ついつい肩を掴んで揺すってしまいました。私のおっぱいの間に埋まりかけたマラプシアさんを放しながら頭を下げて謝ります。
「いえいえ、御屋形様を心配してくださり有難いであります。なに、心配は入りませんとも! 今朝方に粥を持っていったオリビアによれば、熱も大分下がり顔色も悪くないとのこと」
「そ、そうなんですか……それはよかった……」
それを聞いて私は少し安心しました。そして、続くマラプシアさんの言葉である事を思い付きます。
「ウル殿も御屋形様を看病するのだと奮起しておりましてな? きっと、このまま側を離れないでありましょう……」
「……あ! それなら私、お兄さんをお見舞いしてもいいですか? ウルさんの看病にも、何か手伝える事が有るとと思うんです!」
そう、そのある事とはズバリお兄さんのお見舞いです!
お世話になっているお兄さんに、少しでも早く元気になって貰いたい。
そして私も看病を手伝って、日ごろの恩返しにもなるのなら素晴らしいじゃないか、迷うことなんて無いよね! と思ったんです。
「ほほう……! それは名案でありますな! ウル殿もボクたちの制止を聞かず付きっ切りの看病でお疲れでしょうし、お友達のリント殿が助太刀下さるのであれば心強い……! ぜひともお願いしたいであります」
「……はい! ありがとうございます!」
「いえ、お礼を言うのはボクの方でありますとも。御屋形様を思っての申し出、感謝するであります!」
そう言って優しく微笑んでくれたマラプシアさん。彼女とも知り合ってからは日が浅いですけれど、なんだかより身近に感じられるようになっちゃいました。
このお屋敷に居る女性の人たちとは、知り合う繋がりがみんなお兄さん切っ掛けですけど、みんないい人ばかりです。
そう実感していると『ではさっそく行きましょう!』と、振り返って案内役として駆け出したマラプシアさん、私も後を追いかけます。小走りに先を駆けるマラプシアさんですが、歩幅が小さいので走るのが遅い私でも何とか…
「はっ……はっ……はっ…………ふう……」
(もう少し早く走れるようにならないとダメかなぁ……? 後でウルさんにも相談してみよう……)
シュタタタタタ──ー
テッテッテッテッテー
そんなことを考えながら廊下を進んだ私。
そのまま長い廊下を進んだ先のある扉の前で、急停止したマラプシアさん。ここがお兄さんのいる部屋なのかな?
そのまま扉を開けたマラプシアさんが、部屋の中に向かって叫びます。
「御屋形様! ご友人のリント殿をご案内しましたであります! 御屋形様のお見舞いにお越しくださりました!!」
ワ、ワイルドです……!!
もしかしたらお兄さんが寝ているかもしれないところを豪快に入室、元気に報告するマラプシアさん。
で、でも流石に違うんじゃないかな? と思った私は、マラプシアさんの袖を引き呼びかけます。
「マラプシアさんっ……あんまり大きい声をだすとお兄さんが……」
「……ハッ!? しまったであります~!?」
あわわ……! と、大声をあげてしまった事に慌てるマラプシアさん。
しかしそんなタイミングで、部屋の奥にあった大きなベットの上からお兄さんの声が聞こえてきました。
「……大丈夫、起きてたからね……」
小さく盛り上がったシーツがもそりと動くのが見えます。
「……御屋形様っ!!」
マラプシアさんがお兄さんに駆け寄ります。
つられて私も駆け寄ると、ベットの上にはいつもより少しだけ元気のないお兄さんの顔が見えました。
「……くかぁ~~~……くぅ……くぅ」
モソモソと動いていたお兄さんですが、布団の端から赤い頭が見えました。どうやらウルさんがお兄さんに抱き着いて寝ているみたい、風邪で弱っている所なのに無理して起きてはダメですよね? ウルさん、寝ているというのにファインプレーです!
「お兄さん! 起きなくていいのでそのままで居てください」
「そうであります! どうかご安静に!!」
ともかく、女の子一人を抱えたまま体を起こそうと無理するお兄さんを止めないとですね!
「ふふ、それじゃあお言葉に甘えて寝たままで」
やわりと笑ったお兄さんがそう言うと、体を起こそうとするのを止めてくれます。
「しかしリントちゃん、わざわざお見舞いに来てくれてありがとうね……マラプシアも、案内ありがとう……」
そうして寝たままの姿勢でこちらにお礼を言うお兄さん。うぐ……! な、なんでしょうか……お兄さんのあの表情、何時もと違った……色気? みたいなのを感じます……♥️
「もも、もったいないお言葉でありますっ!!」
「……い、いえ、良いんですよ! お兄さんにはいつもお世話になってますし。それに、早く元気になって欲しいですから……」
マラプシアさんの大声でハッと我に返った私。
へ、変ですね……なんだか“弱っている”お兄さんを見ると……私……
「なに、軽い風邪だからすぐに良くな……こほ、こほっ……! ん゛っ、んん……!」
「御屋形様っ! 大丈夫でありますか……!?」
(……あっ♥️)
苦しそうに咳き込むお兄さん……
いつもの頼れるお兄さんしか知らなかった私ですが、こうした違った一面を見せられたことで、何か胸の奥できゅん♥️とスイッチが入っちゃいました。
もしかしたら……これがママの言っていた……母性でしょうか……?
ジュンジュン……♥️と胸の奥から滲み出てくる熱が、体の中を迸る感覚。乳魔族に産まれた女の本能が、弱っている想い人に栄養を与えようと……しているのかもしれません。
……いえ、これはもう体が準備しちゃっていますね! ならやるべき事は決まっています!
咳き込むお兄さんと、それを心配そうに詰め寄るマラプシアさん。二人を見てあることを決心した私は、もしもの為に持ち歩いている乳魔の秘薬を取り出してこう話しかけます。
「お兄さん……! 軽い風邪だと甘く見てはダメですよ? ……汗もかきだして少し水分が足りてないみたいですね。でも丁度よかった……お見舞いに乳魔族に伝わる風邪の特効薬を持ってきたので、これで元気になってください♪」
お見舞い用に……というのは本当は違うんですが、ママに『いつ必要になってもいいように常に持っていなさい!』と渡されていたモノが役に立ちそうです。
乳魔の隠しポケットから取り出した欲望を片手に、私は決意を固めました。
……このままお兄さんには、おっぱいで元気になってもらいます!!!
「おおっ! リント殿! もしやそれは、噂に聞くあの秘薬でありますか……!?」
クルリと振り返った大きなおっぱいさん……じゃなくて、マラプシアさんがこのお薬に注目しています。
「こほっ……ん゛っ……ごほんっ……」
(マラプシアさんも私の持つ薬包の中身を知っている……? ならば丁度いいかもしれません)
誰もが一発で理解できるマラプシアさんの顕在能力。これを活用しない手はありませんね!
「ご存じなんですか? それでしたらもう一つ予備がありますので、よろしければマラプシアさんがこちらをお使いください。二人がかりならきっとお兄さんの風邪にも効果覿面です♪」
「ハハァ……! ボクが御屋形様のお役にたてるのであれば喜んでであります!! 謹んで、頂戴するであります!」
マラプシアさんも私のやりたいことには察しがついているみたいで乗り気です! 一人よりも二人、2つよりも4つでより多く……これは心強いです。
「こほっ……ん? 二人とも、なんて?」
マラプシアさんにも手渡し、二人で秘薬を飲みます。
「……んっ、意外と甘いであります……! ……んっ? おおっ……♡」
「……こくんっ、ふぅ、ふっ♡……さあ、お兄さん、水分補給の時間ですよ~♡」
効果は直ぐに実感できました。高鳴る鼓動にあわせて胸の内にじんわりと貯まるソレ。
ここから、私達二人でお兄さんの看病……がんばりますっ♥️!!
次回、水分補給…!