唸れっ!俺のDEX!!
「よーい、始めっ!」
カチャカチャ……
カチカチカチ……
講師のかけ声と共に、室内の皆が一斉に道具を手に作業を始める。
誰もが目の前に置かれた錠前を見つめて、一心不乱に手を動かす。
「ほぉ~……なるほどなるほど……」
そんな全体の様子が見渡せる見学者スペースとやらに案内された俺は、『見学者』とデカデカと書かれた札を首からぶら下げ、全くピンと来てないのを悟られないようにソレっぽく頷いていた。えっ、もう解錠した人おるん?速すぎでは?
次々に鍵開けを終えた受講者が手を止め、道具を置いて待ちの姿勢になる。三分もしないうちに手を動かす者も居なくなり、講師が見渡して確認した後にまた新な鍵の機構についての座学に戻る。
ここに居るのは斥候・盗賊・狩人ギルド組合に所属する、簡単に言えば『手先とかが器用な人達』の集まりだ。
この組合という枠組みは、技術や能力の共通点が多い職を一纏めの形で管理し、新人の教育から仕事の斡旋まで多岐に渡る役割を担っているらしい。
「さ、参考にならねぇ……」
女神と閉じ込められたとある事件を経験した俺は、今後も同じ轍を踏まぬように対策を練り『鍵とか……開けれるようになればいいよね?』という名案を思い立って早々に、この組合を訪ねて鍵開けの技術を取得しに来たのだった。もう挫折気味だが。
「ふふふ、そうだろう?素人さんに簡単に身に付けられてはウチも商売あがったりだからねぇ」
案内役として側に立っていた組合のお兄さんがニコニコ顔で話しかけてくる。聞けば今やっている鍵は中級以上のギルドメンバーなら秒で解錠するような簡単な構造らしい。全然そうは見えないほどゴツいのだが……
「組合のトップやってる盗賊ギルドのマスターなら睨んだだけで開けますよきっと」
「ぱ、ぱねぇ……」
俺には分かる、彼の言葉が絶対に嘘だとは言い切れない事を……。そんな"凄み"を彼の言葉から感じ取れる。盗賊ギルド……恐ろしいところだぜ。
「……まあ、嘘ですけどね」
「……ふふっ」
なかなか癖の強い方の様だ、仲良くなれそうな気がしてきたぜ!……まあ、絶対に御免だがな!
「ですがご安心ください、ギルマスまでとは行かなくともこの秘伝書をご購入頂ければ、読んだ翌日には──」
「自分の不勉強を自覚できました。もっと
どこからか取り出した秘伝書のセールストークに突入したので早々に撤退をする。
「あ──っ!ちょっ、待って!」
誰もが姿を見失うほどの
あばよぉ~とっつぁん~!
──ー
──
ー
「う~ん、やっぱり何かスキルで応用した方が手っ取り早そうだよな~」
自分のステータスウィンドウを眺めながら歩く。ガチャ玉からスキルを得る事のできる俺は、数多くのスキルを取得している稀有な存在だと言える。
……のだが、いかんせんそのスキルラインナップは無秩序と呼べるほどに多岐に渡るため自分でも把握できていないという問題も抱えていた。
「うわ、『手加減』と『峰打ち』って効果ダブってないか?こっちの『雛の見切り(雄雌)』ってただ性別判るだけだろ絶対!同じ列に『メダカの見切り(雄雌)』まであるしっ!!こっちの『ストリングプレイスパイダーベイビー』って何をどうすれば発動できるんだよ……」
バラエティーに富んだラインナップに突っ込みを入れつつ、用途がわからないものや使うことの無さそうなモノは発動をOFFにしておく。何となくだが、女神が産んだガチャから出たスキルが多い気がするのは気のせいでは無いはずだ。あの多芸の女神め、ネタを詰め込み過ぎである。
……ドン
「あいたっ!」
歩きステータスをしていたせいか注意が散漫になり、道行く人にぶつかってしまった。いかんな、流石に人が歩いているところでよそ見をするのは良くなかったか?というか、前からは誰も歩いてきてなかったはずだが……
「──前見て歩きなよ、おっさん!」
声の主はこちらに文句を浴びせたと思えば、さっさと俺を追い越して、背を向けたまま通の人混みへと消えてしまう。去るその背を見つめながら、ステータスウィンドウを閉じて前に向き直る。
ふむ、なかなかプリティな尻だったな。
遅れて鼻をくすぐる花の残り香が、まだ記憶に新しい接触者の後ろ姿と結びつけられる。
「若そうな女だったし、それからしたら俺もおっさんか……」
ちょいと感傷というか、心にチクリときた。俺だってまだまだ若い!脳年齢だってバリバリの二十代前半をキープしてるだろうし、三日前に食った晩飯のメニューだって……
…………なんだったっけ?
先ずは1敗、なかなかやるじゃないか見知らぬ誰かよ。
「く、飯の記憶は部が悪いか?なら瞬間記憶力だ、さっき見た奴の風貌と特徴は……」
引くに引けなくなった俺は、無駄に必死になって先程のぶつかった人物の風貌を思い出す。
フードを被っていたが背格好からして背の低めの女、丈の短いマントを羽織り、僅かに見えた腰骨の筋。太腿を惜しげもなくさらすショートパンツと、膝下を覆う長めのブーツ。
特に目を引いたのは、腰ベルトに下げられたナイフと、尻ポッケにねじ込まれた俺の財布だろうか。ナイフを帯刀しているということは、やはり斥候か盗賊職の……
「ん?俺の財布?」
途中おかしな物が見えたため記憶の再生をストップ。待て待て落ち着け、だがあの形は間違いなく俺の……?不安をおさめるべく、体をペタペタと確認。そしてやはり財布が無いことに気がつく。
「あんにゃろう、スリじゃねぇかっ!!」
俺の財布をスルとは大したヤツだ。こうなっては仕方がない、今こそ幸運の女神の使徒として秘めたる力を解放しようではないか!!
気合いと共に駆け出す俺、このガチャで高めたDEX(そもそも高ければ盗まれない)が唸るぜっ!
──ー
──
ー
「まあ、見つかるわけ無いんですけどね……」
人混みに突撃したはいいが、結局空振りという結果に終わった盗人追走劇。女の尻を追いかけるのは結構自信があった俺だが、日も暮れだすような時間まで駆けずり回って手がかり1つ掴めない事に、もはや諦めの境地へと到着していた。
唯一の慰めになることといえば、金銭は収納スキルに入れているから財布の中身はほぼ空で、金額的にノーダメージだということ位のだろうか。
「でもあの財布結構気に入ってたんだよな~」
とぼとぼと悲しみを背負って家路につく足取りは重たい。
街を出るにはここの角を曲がって……
……ドンッ
「「あっ!」」
ちょうど角を曲がった所で、反対側から来ていた人にぶつかってしまう。体格に差もあり、ぶつかった相手が跳ね飛ばされて行く。自慢の
「っと、大丈夫か嬢ちゃん、すまなかったな……」
「イタタッ……、痛てぇーだろ、前見て歩きなよおっさん!」
中々パンチの聞いたお嬢さんである、というかなんか聞いたことのあるセリフの様な……
「「……あっ」」
ぶつかった相手と目が合う。
キッと吊り上げられていた眉が形を変えると、勝気で睨みの聞いた瞳は驚きに見開かれ固まる。
顔は知らず初めて確認したが、服装や背格好がさんざん探し回ったお財布泥棒その人である。
「お前っ!!」
「やばっ!!」
一瞬で俺の支えを振りほどき反転、脱兎のごとく駆けだそうとするが──―
「逃がさんっ!『見えざる手』」
「きゃっ!?」
ベチーン!!
駆けだす一歩目を掴まれたことにより、ヘッドスライディングが如く前のめりにぶっ倒れる泥棒娘。
足を取られるとは思わなかったのか、咄嗟に両手を伸ばすもうまく受け身を取れずちょっとおまぬけさんなすっころびポーズ。痛そうとか……、乙女の顔に傷が……、とか色々心苦しいが一先ず確保!!!
きゅー……
「……、おっ!やっぱり俺の財布だ!」
気絶した泥棒娘の所持品を確認したところ、俺の財布をまだ所持していることが判明。
現行犯逮捕として憲兵に突き出すか、それとも……?
「ん~、なんか手先も器用そうだし?ちょっと色々教えて貰おうかな」
ピッキングの先生確保~♪
確保した先生が起きる前に、取り合えず拘束して担いで俵運びにする。
近場の連れ込み宿はどこだったかなと前へと進む足取りは、さっきとは違って大そう軽くなっていた。
[女神メモ]
実は組合所員のお兄さんが言っていたことは本当で、盗賊ギルドのマスターは鍵を外す魔眼を持つ熟練のシーフだゾ☆
その魔眼で組合の女性所員のブラのホックを外しまくり、チューブトップブラを着ざるを得ない状況に仕立て上げたという伝説を持ち、一部女性所員からは目の敵にされているんだって!アホだねっ☆