「~~ッ!!! 決闘だ!! 貴様に我一族の誇りを掛けた決闘を申し込む!!」
「……はぁぁぁぁあ!?」
頭に血が上った狼女はあろうことか決闘を申し込んで来やがった。
「お前を力のあるものと見込んでこの私が便宜を図ろうとしてやったというのに、差し出した手に砂をかけよって!!」
「見込んだ? 便宜をかけてやった? 何言ってやがんだこの畜生が!?」
「わ、私を畜生だとっ!? うぅぅ! もう勘弁ならんっ!! 今すぐ貴様の礼儀を躾なおしてやるぅぅ!」
叫ぶよりも手を出すが早いか、腰元に手を回して抜刀の構え。
(くっ!? マジの殺気!! こいつ剣まで抜いて殺る気か!?)
対して俺も迎撃の構えを取るっ!!
──スカッ!
そして空を切ったアホ狼女の手。
「──ーッ!? そうだ、今日は剣を付けておらんのだったぁぁ!?」
狼耳ペタん……
シッポしょぼん……
「──ーッ、勝機っ!!!」
アホ狼が隙を晒しまくっていたので一足飛びに立ち回り背後を取る!
そのまま『見えざる手』を多重発動しながら手足を拘束、さらに自前の二本の腕で奴の首をキメるッッッ!!
「ハッ! しまっ──ー!?」
ようやく事態に気がついた彼女が動こうとするが、そんなのもう遅いっ!!
ガッ!! ギギギギ……!!
複数の手を用いて動きを封じ込め、種族的体格差や筋力差を補った無手の絞め技……名付けて!! 『使徒式・
ぶっちゃけ同じ人型種族で体格差も無い相手なので過剰拘束な所もあるが、これで……!
バタバタ! じたばた!
ああ、尻尾がバタバタとうるさいっ!
ギギギギギッ……
「ぐっ……くぅ…………!?」
なんとか拘束から逃れようと女はもがくが、その抵抗も二秒と続かない。
「……きゅぅ~」
シッポぺたり……
あっという間に絞め落とす。
フッ、これぞ究極の武道!
カンカンカ──ン
脳内で勝利のゴングが響き渡る。
「…………ふん、他愛ない」
……ショロッ、ショロロロロロロ───
「ってうおっ!? こいつ落とされて失禁しやがったか!?」
完璧かつスマートに決まった余韻に酔いしれる間もなく、ズボンに越しに広がる生暖かい感触、そして足元の水溜まり。
……人助けしただけなのにアホ狼が決闘を吹っ掛けてきて、強行されて、僅か数秒足らずで決着が付き、その見返りが狼女にオシッコを引っ掛けられる……?
「……や、厄日だ、マジで信じらんねぇ……」
パタリ、ベチョリ……
水溜まりに沈む負け濡れ犬女。……いや、負け狼女。
「……はあ、やってらんねぇ。もう帰ろ……」
帰りの足取りは、泥沼に足を取られたかのように重たかった。
───
──
─
ー数週間後ー
王都であった嫌な思などはすっかり忘れ、俺はいつもの拠点にて優雅な午後を過ごしていた。
「む~、やはりこの芳醇な味わいは連合国産のウィスキーならではの……」
「旦那様、そちら陽山列島群産のものになります。あとウィスキーではなくラム酒です」
「ぐむっ!?」
冷たくオリビアに指摘され、ぐぅの音が出てきた俺。
「……利き酒をしたいとの事でしたので、やはり正当率は重要かと。因みに本日で14連続不正解です」
「……なんだよいいだろ! 酒なんて細かいことわかんねぇよ! 雰囲気だよ雰囲気!!」
「左様でございますか」
「左様ですぅぅ!」
あえて重ねて言おう、優雅な午後を過ごしていた。
……のだが
「おーい、使徒君~? なんだかお客さんみたいだよ~!」
「んお?」
「……リーリヤ様のお声ですね。丁度お外で日光浴されていた見たいですのでお客人と
「そうみたいだな。おう──! わかったー今オリビアを向かわせる~! ……って訳だ、頼むな?」
どうやら客人という事なので、オリビアには客人の案内に向かってもらう。
「かしこまりました、応接室にお通し致しますのでそのままお待ち下さい」
一礼してそのまま退室するオリビア。
はてさて、誰が来たのやら……
……待つこと数分、オリビアは直ぐに戻ってきた。
「お客様は
「は? 王国の将軍? へ? なんで? はっ? 本物?」
「……ご本人かと」
なんでそんなVIPがウチの拠点に来てんの?
そしてなんで何の事でもないようにお通ししてるの?
「え、そっくりさんとか、魔法で姿を変えてイタズラしてる妖精とかじゃなくて?」
まだ信じられないので再度メイドに確認する。
「その可能性を考慮しまして狼人族の尻尾を触らせて頂きましたが、間違いありませんでした。ゴワゴワ寄りのモフモフです」
「なに失礼な確認してるの!?!? 将軍の尻尾掴んじゃったのウチのメイドさん!? 嘘でしょ!?」
「『がはは! 尻尾を触りたいなんて家のかあちゃんみたいなこと言うじゃねぇか!? イイゼ、触って確認しな!!』と、豪快に快諾してくださいました。リーリヤ様も一緒に確認しました」
「将軍がめっちゃ気さくぅ!?!? そしてウチのメイドと嫁さんが怖いもの知らずぅぅ!? ええぇぇぇ!?」
「……こちらです。今扉をお開けします」
驚いているうちにいつの間にか応接室の前まで来てしまっていた。
想定していた数倍の予想外さで心の準備が出来ていないのに!?
ガチャリ……
ほぁぁぁああ! 何か大柄で強者感漂う狼人族が座っとるぅぅ!?
「旦那様、どうぞこちらへ」
「んぇぇ? お、おう……」
なんかもうごく自然に対面のソファーに促され、流されるままに目の前に来てしまったが……えぇ……?
「……よ、ようこそいらっしゃいました? 初めまして、ブラウ将軍……」
「おぅ…………」
めっちゃ見られてるぅぅぅ!?
「……」
「…………」
そんでほぼ返事もなく、メッチャ無言っっっ!?
重苦しい空気のまま男同士見つめあう。
ってコラ! 後ろで欠伸を噛み殺してるのわかるぞオリビア! 止めなさいっ!!
「ぐ……」
「ぐ?」
そして無言ままの十数秒、ついに奴の口から耐えきれないと音が漏れた。
「ぐわはははははは!! がははははは!!」
「……」
なんか爆笑している将軍。……なんなんコイツ?
「あーははは……、いやすまねぇ! 一体どんな奴かと思えばそうか! 神憑きの男か!」
「……はい?」
ひとしきり笑ったかと思えば、何やら一人で勝手に納得して頷くブラウ将軍。
なんだろう、このこちらを無視して突っ走ってる感じ……すごく似た体験を最近したような……。
「一体なんなんです?」
若干イラッとしながらも対応する。
「おお、すまねぇすまねぇ! そうだな、まだ何も話せてねぇじゃねえか……」
将軍は今気がついたと狼耳をポリポリ。
そうしてようやく来訪の目的を話し出す。
「ああ、いやな! 今日お前さんに会いに来たのは謝罪の為だったんが、出てきた奴が予想外の男だったんで驚いちまった!」
「……謝罪?」
「おうよ! 謝りに来たのさ! 男一匹、子の親としてなぁ!」
パシンと膝を叩き頷く将軍。
「お前さん、最近王都で人拐いをシバいただろう? そんでソコに居合わせた蒼狼族の女が、まあぁぁぁー迷惑をかけたろう!」
「……まさか」
今の将軍の話、それに思いたる人物はまだ記憶に新しい。
そういえばアイツ名乗っていたよな?
たしか……ブ、ブ、
「おう! ありゃ俺の娘だ!! いやぁ! 色々とすまなかったな!!」
「うぇぇぇぇ!?」
シバいた狼女の親が来て豪快に『娘が迷惑かけたね、メンゴ☆』って言ってきやがった!? そしてまだこの豪快将軍の言葉が続く。
「すまないついでに、アレを嫁に持ってってくれ!! 任せたぞ義息子よ!!」
「はぁぁああああああ!?!?」
俺の優雅な午後は、厄付の青い狼人族にぶっ壊されたのである。
───
──
─
豪快馬鹿将軍のぶっ飛び訪問の理由をまとめるとこうだ。
ー
・失礼アホ失禁狼セレステ・ブラウはあの日、意識を取り戻した後、負け犬らしくそのままに家へと戻り帰った。
・将軍はその日の夕食にて、娘が『蒼狼一族の誇りを掛けた決闘』を申し込み、そして敗れ帰って来た事を知る。
・頭はアレだが剣の腕は確かな娘が、無手とはいえ傷一つ負わされずに敗れた事にまずビックリ! そして娘が決闘を申し込んだ理由、その前に俺にした諸々の対応について知り更にビックリ!!
・腹の虫が治まらんのか俺を見つけ出そうと息巻きまがら飯をかっ食らう娘を
・数日かけてもなかなか行方を掴めず、参ったなと困り果てていた所、信奉する戦の神から『その男は◯◯って所にいるらしいよ? これ、幸運の女神からの伝言ね~』という信託を夢見に受け超ビックリ!!!
・俺の居場所がわかったので、問題の娘に『パパも一緒に謝ってあげるから行くぞ』と誘った所、何を血迷ったか娘がコレを断固拒否権。
・二度目の
ー
……とのこと、なるほど?
「……ブラウ将軍、貴方言ってることおかしいですよっっ!?!?」
偽りならざる心からの叫び。
誰だってそうする、間違いなくこう叫ぶ。
しかし俺の言葉を聞いた本人はというと。
「んあ? ……ん~~?」
何故だろう……いまいちピンときてないリアクションを取っている。
「おお! 確かにお前さんの言う通りだ! チョイとおかしかったな!」
しばらく悩んでから合点がいったぜ! と膝を打つブラウ将軍。そうそう、いきなり嫁だとかそんな話が──ー
「娘を嫁に持ってってくれじゃねぇな! ここまで
「いやそうじゃねぇぇぇぇぇ!?!?」
ま、間違いねぇ……
この話を全く聞かない所、こっちの事情を考慮しない振る舞い……!
娘の不手際の謝罪だとか、初めはまともかとも思ったが、根幹が同じ!
これ完全に悪いところが遺伝してる
「なんでぇ……何が不満なんだ? 父親の俺が言うのもなんだがセレステの奴ぁ、顔は綺麗だし毛並みも艶々、胸も案外デケェし剣の腕も立つぞ? まぁ、頭はあんまり良かねぇが……」
かなりの子煩悩を発揮してくれる将軍。最後に小声で言ってるのも聞こえてるぞ!? むしろソコが致命的に評価を落としてるんだぞ!?
「俺もアイツを可愛がり過ぎたせいか、中々にお転婆に育っちまってな! そろそろ嫁の貰い手を見繕ってやるかと思ってたら『蒼狼族の決闘』を申し込んで負けたときやがった! こいつぁもう戦の神のお導きだと確信したね俺ぁ!」
「はい? なんだかもう何から何までわからない事だらけなんですけど。それに決闘に負けたから? 戦の神の導き?」
盛り上がってる将軍に置いてけぼりを食らう、参った! 本当にこの状況には参った! 誰か助けてくれぇ……
「……旦那様」
「おおっ、オリビア……!」
ここで困り果てた俺を見かねたのか、オリビアさんが耳打ちをしてくる。
いいぞ、流石は有能な出来るメイド! 頼むっ俺に助言をっ!!!
「ブラウ様のおっしゃっている『蒼狼族の決闘』の事なのですが……」
「うんうん……」
「彼の一族……特に狼獣人族は、相応の願いを叶えようとして相手に断られた際、“決闘を申し込んで勝てば自身の無理を通して叶える”という慣習があります」
「うんうん……うん?」
「当然、我を通し力ずくで願いを叶えるという性質上、本人は決闘に負けた場合に相応の
「……また何とも傍迷惑な、……それで?」
「おう、続きは俺が説明したらぁ!!」
耳打ち話もガッツリ横入しながら説明をかって出る将軍。
「セレステはな『決闘で負ける事があればそいつの嫁に行く、所詮私に敵う男など居ないだろうがな!! はっはっは!!』って言って結構な我儘を今まで通してきたのさぁ! 騎士団に入ったのもそう、そのまま騎士長まで上り詰めたのもそう! 俺譲りの剣の腕で男をはっ倒し、欲しいものを戦って手に入れてきた。勿論、負け無しでな」
「うわぁ……」
「そんで遂に決闘で負けたんだ! 誇り高き蒼狼族は月と戦の神に誓った約束は絶対!! なんでセレステには負かした男であるお前の元に嫁に送る!返品不可ってやつだ!!!」
「……ということらしいです、おめでとうございます旦那様」
「傍迷惑にも程があんぞ蒼狼族ぅぅぅぅ!!!!!」
俺は天に向かって大声で叫んだ。
狼は月に吠えたくなるって言うけど、もしかしたらこういう感情をいうのかもな……
応接室の外にて聞き耳を立てている女性陣、お嫁さんが増えるというらしいと歓迎会を計画中。
…あれ、使徒さん詰んでない?