散歩は考えを纏めるのに良いと誰もが言うが、結局悩みの内容次第だ。
鳶一折紙は雲一つ無い秋晴れの下、散策していた。
気温も和らぎ大分過ごしやすくなったが、日差しはまだ強い。
一方で風が意外なほど強く、日陰では肌寒さを感じた。
カーディガンでも持ってくるべきだったか
そんなことを考えた折紙は傍らを見やる。
変装 (それと恐らく日焼け対策)だろう、デニムのジャケットとバスクシャツ、スキニーと言う組み合わせは、折紙よりだいぶ背が高い彼女の容姿と相まってシンプルだが魅力的だ。
ただ、大ぶりのサングラスと不釣り合いなほど大きいバケットハットは、マスクと相まっていたく泥を塗っている気がする。
その雑な変装をする不審人物―――誘宵美九が口を開く。
「少し経つ間に随分すごしやすくなったと思いませんか? 絶好のデート日和ですねー」
「美九、あなたとデートしに来たわけではない」
後から「あーん、折紙さんのいけずぅー」と聞こえるのを無視して、折紙は歩を進める。
とはいえ、別に目的があるわけではない。ただ、あの件で体験を共にした目撃者同士、話すことがあるかもしれないと何となく思っただけだ。
「そもそも私がデートしたい相手は決まっている」
「私もですよー……当分無理そうですねぇ……」
思えば折紙自身丸くなったものだ。昔なら是が非でも自分の欲求を叶えるように事を進めただろう、それこそ美九と手を組んでも。
―――鳶一折紙が他の女と士道が結ばれるのを、曲がりなりにも祝福する―――
考えてみれば自分でもあり得ない話だと思う。
ただその相手が十香でもなく、琴里でもなく、狂三でもなく、夕弦と言うのは不思議と腑に落ちた。
―――もっとも
「私はまだ、耶倶矢のことに納得はいっていない」
「そうですねー、でもあの場では折紙さん、引きましたよね? 正直少し意外でしたー」
「引いたわけではない。あの場では新郎新婦の顔を立てただけ」
「……うーん、折紙さんおかしな物でも食べましたか……? それともまた人格交換? あーん、でも丸くなった折紙さんも、これはこれで素敵ですぅ!」
どうやら、美九はツッコミ待ちのようだが当然折紙は無視をする。
折紙自身、驚いているのだ。
あの時耶倶矢の自分が士道と耶倶矢のモノである、と言う発言とその時の夕弦と耶倶矢の表情、何よりそれに何も言わなかった自分に。
「まさか、この私が耶倶矢に意表を突かれるとは思わなかった」
「あんな、女の子の顔をした耶俱矢さんが見られるなんて、流石だーりん! ああ、眼福ですぅ!……少しだけ悔しいですねー」
「それは同意する」
「もう、だーりんと呼ぶのも失礼になってしまうんでしょうかね……寂しい話で…うん?」
美九が十字路の向こうを見ながら、訝し気な声を上げる。
折紙も視線をそこに向けると2ブロック程先に一組の男女が腕を組み連れ立って歩いていた。
「あれは……」
一人は今まさに話していた渦中の人、我が人生最愛にして唯一の人、五河士道。そしてその隣には―――
「え……どうして……」
橙色の長く美しい髪、ちょっと見ないレベルの豊満な胸―――すらりとしたモデルの様な長身、楽し気に笑う凛々しい顔。
折紙達はこの人物に一度だけ会ったことがある。
「風待八舞……?」
それは世界のどこにも存在しないはずの人物
他でもない、夕弦と耶倶矢が分かれる前の姿
死んだわけですらない文字通り消滅した少女
その風待八舞が士道の手を取り、快晴の秋空の下、デートするというあり得ざる状況。
どこか現実感に乏しい、それでいて違和感のない光景、すでに美九は手を振りながら名前を呼び駆け出している。
全く、最近の八舞一族には驚かされてばかりだ。
小さくなっていく美九を見ながら、折紙は知らず知らず、負けを認めるかのように心の中でぼやき後を追った。
「そもそも魂とは何だろうか」
お茶会に誘われた最中、そんな質問を受けた鞠奈と鞠亜は顔を見合わせて、それからまた顔をテーブルの対面に向ける。
質問者―――カップを持つ澪はそんな様子を気にした様も無く、回答を待つ。
澪に誘われるという、若干不思議な展開を訝しんだ二人だったが、仮に「ご苦労だった。君たちは用済みだ」と言われても勝ち目がないので開き直ることにした……流石にそんなことは無いとは思うが。
いざとなったら狭了を笑って消えてやると悲壮な覚悟を抱いて澪の前に立つ二人をよそに、終始和やかな雰囲気で終わるかと思われたお茶会。
さてこのスピリチュアルな疑問は果たしてどう返すのが正解だろうか。
「わかりかねますが……ご興味が?」
「魂が実在するとすれば、それは個人の情報一切合切を記録した何か、と言うことになる……生物学的には不合理なものだが、実際私たちがこうしている以上、その何かは存在するということになる」
「何よ、いきなり。いまさら生き返りたいとか言う訳?」
「そこまで業深い訳ではないさ、私の一番欲しいものは今やここにある……もし、同じ魂が同時に複数あればどうなるのだろうと思ってね」
ここまで来てようやく話が見えてきた鞠亜が話を引き継ぐ。
「それは、八舞と夕弦、耶倶矢のことを言っているのですね」
「そう。他所から来たとは言え彼女達は全く同一の魂と言うことになる。それらは同時に存在できるのだろうか……できるとしてそれらは無関係なのだろうか」
「……それが夢とやらの正体?」
「あくまで可能性の話ではあるのだけれど。睡眠が鍵になると言うのが気になってね……夢と言うのは眠っている間に脳が記憶の定着を行うことによって生じる副産物と言う仮説がある。これが夢ではなく夢によく似た何かと言うなら、それは魂と言う本来一つの情報が複数あることで脳の睡眠時に使う機能をハックすることで起こる現象ではないか……私はそう考えた」
ああ、そういえばこの人科学者だった。
だんだん表情が曇ってきた二人だが、まさか投げる訳にもいかない。
「正直良くわかりませんが、それは何か問題が生じるのでしょうか……?」
「残念ながらわからないとしかいう事が出来ないね……ただ現状向こうの二人に記憶が悪影響を被ったなどは無いようだ。そもそもこの夢を毎回見ているわけでも無いらしい。脳が必要とする睡眠と記憶の関係の実験などから推測すると……」
まだまだ話が長くなりそうなことを察した二人は再びお互いの顔を見やる。
話題を変えることを視線に察し、軽く頷き合う。
「とりあえず影響は無さそうってことなの? それなら速く八舞達に伝えてあげた方が良いんじゃないの?」
「それには及ばない……八舞と士道は手が離せない」
「一体何を?」
「ここからが本題になるね……悪いが少し付き合って欲しい」
まじかーと言う表情を何と隠した鞠奈と、既に諦めた鞠亜、それとカップに口をつける澪。
いずれも無表情と言う何とも言えないお茶会である。
「魂が体を通してこちら側とあちら側の間が夢を通して介在できるなら、夢と言う中途半端な形ではなく意識を全て持ってくることも可能ではないかと考えた……人間の意識はどこまでいっても脳の活動によるもの、この魂が文字通りの意味で魂ならばニューロンの発火を当然網羅しているのではないか、とね」
「はあ、それで結局何が起こる訳? 結論だけ言ってよ」
とうとう隠す気がなくなった鞠奈に対して、澪は再びカップに口を付け、ゆっくりソーサーに戻すととうとうと語りだす。
「私が介入することで、向こうの人間とこちらの人間を入れ替えることができるかもしれない……勿論同じ魂を持つ者同士になるけれど」
――――まるで昨日の天気を振り返るが如く、ごく普通の様に、ありえざることを
「……は?」
「それはつまり……」
「八舞と夕弦・耶倶矢、あるいは士道同士で意識を交換できる可能性がある……つまりここで『私たちの』士道に会える」
あまりに唐突で突拍子もない内容。
自分が士道と会う? スマホのデータではなく? この姿で?
鞠亜が表情は変わらす、内面は大変異に見舞われている中、傍らの鞠奈は口元に手を当て悪戯気に笑う。
「まあ、良いんじゃない? 誠意は伝わるんじゃないの、多分。大変ねーお母さん?」
「――――そうか」
表情はあまり変わらず、ただ雰囲気は少し和らいだような澪のどこか安堵したような声。
鞠亜も此処へ来て自分たちが澪に呼ばれた理由を察した。
「……そうですね、もう一度士道と会えるならあなたの娘達も喜ぶでしょう、少なくとも怒ったりはしないです……無論一番手のかかる彼女も」
「君達にそういってもらえるのは助かる……私の娘達に良い友人たちがいてくれたことに感謝するよ」
「なーに言ってんのよ、このムッツリ人工知能も大概でしょうに。案外あんたが一番期待してるんじゃないの?」
「聞き捨てなりません。士道に対するツンデレを絵に描いたような鞠奈に言われる筋合いはありません」
売り言葉に買い言葉、鞠亜と鞠奈が言い争いを始める。
その様はあるいは本当の双子の姉妹の様で、澪は思わずここに来て初めての笑みを浮かべた。
告白。ええ、今だから正直に言いましょう。夕弦は士道と結ばれると確信を持っていたわけではありません。
何せ士道と来たら、夕弦というものがありながら今ですら随分他の女の子と距離が近いですし
……いえ、愚痴ではありません、断じて。ただ、当時はもっと周囲が積極的だったというだけの話です。
確信。勿論、誰と比べても夕弦が見劣りするなどありませんし、言わせません。ただ、ライバルは多く、そして彼女達と夕弦は友人であるというだけのことです。
必定。それ故、夕弦と士道の関係は、ある程度以上から中々進みませんでした。士道は当時から肝心な所でダメダメです。
そう、あの時までは……
「だからさー、処女はどうやったってめんどくさいんだって」
先ほどまでほとんど喋らなかった酒が入った男の飲み屋での一言に、内心辟易していた士道はぎょっとした。
大学生ともなるとお酒というものは生活に自然顔を出すようになるが、今回もそう。
先輩の飲みに付き合わされる士道もそういう事に耐性を持つようになったが、今回のそれはある意味、未知であり、何より興味が沸いてしまった。
「……何がですか?」
「絶対楽しい結果にはならん。大体痛がるわ、そしたら萎えるわ、だから気を遣うわ……何よりその後がめんどい」
「と言うと?」
「重いんだよ、多少はそれで懐いてくれるかもしれんがそれ以上にしがらみになる……正直一生面倒見るようなノリで来られることがザラ。お前も気を付けた方が良いぞ? ……割とマジで」
ああ、この場に夕弦がいなくて良かった、と士道は改めて思う……勿論いないからこんな話をしているのだろうが。
先ほど夕弦に電話をかけてきてまだ話している耶倶矢に感謝だな、とここにいない相方に礼を言う士道。
管を巻く先輩をなだめすかして、夕弦が戻ってくる前に話題を変えさせた士道だったが、しかしその言葉だけは嫌に印象深く記憶に残った。
風もないじとりとした夜に、真っ白い月が夜空に真円を描いていたことだけは良く憶えている。
「失態。鍵を失くしてしまいました……今日は耶倶矢もいません。申し訳ありませんが士道、明日まで夕弦を泊めてもらえませんか……?」
「まじか……そりゃ良いけど……っておい」
そんな声が背中からかかる。酔って歩けないという申告の夕弦だ。
時刻は夜11時。この時はまだ夕弦は精霊マンションに住んでいた。つまり、他の住人を当てにしても良いのである。
振り返る士道と見つめる夕弦。
頬を赤らめた夕弦がとろんとした目で微笑みかける。
士道に抱き着く力が強くなり、柔らかい感触が意識させられる。
――――つまりそういう事だ。
「夕弦、俺は……」
「質問。面倒な女は嫌いですか?」
ああ、やっぱりそうか。
―――まあ、そう言うところが面倒とは決して言えないが
「……嫌いなわけはないが、こう、酒の余勢でと言うのは」
「告白。夕弦は思いの外傷つきました、士道ときたら否定してくれないのですから」
「そんなこと少しも思ってねーよ」
「不信。言葉ではどうとでも言えます……是非態度で示してください」
実際の所断る理由は無いのだ。
あるとすれば他の面々との未練―――女々しいとは思う―――だろう。
それに、と続く夕弦は少しだけ悪戯っぽく笑う。
「回想。大きい胸の方が良いと言って夕弦を選んだこと、まだ忘れてませんよ」
「それは時効にしてくれ……痛い痛い、耳を噛むなよ……」
どこか弛緩した、それでいて決して不真面目ではない空気。
どうやらこれ以上何を言ってもどうしようもないようだ。
士道は自分の完全敗北を悟る。
軽く息を吐きながら、士道は少しだけ悔し紛れに夕弦に同意の返答をする。
「一つだけ言っておくが、俺はどんな状況でも好みでもない人を抱くつもりはないからな」
「確信。大丈夫ですよ、士道はこれからもっと夕弦のことを好きになりますから」
だから、と夕弦は地面に下りながら言う。
「請願。夕弦のことを全部知って、士道のことを全部教えてください」
「ああ、そうだな……俺もそうしたいよ」
どちらからともなく笑い合い、額をくっつける。
久しぶりの夕弦とのキスは仄かに甘い酒精の気がした。
少しだけ、風が吹いたような気がする。
口付けながら士道は、夕弦の長い髪を撫でつつそんなことを思った。
取るに足らないきっかけの、これは恐らくそれだけの話。
この時から長きにわたる連れ合いとなるであろう二人の平凡でありふれた、それでいて不可逆で柔らかい関係の始まり。
「……提案。電気を消してもらえませんか?」
「……ああ、そうだな……」
恥ずかしそうな夕弦の声に、やはり恥ずかしそうな士道の声。
既に夕弦も士道もシャワーを浴びた後で、全裸でベットの上にいる。
電気を深夜灯にして夕弦に向き合う。
薄暗い光の中でもわかる傷のない白い肌。
大きな胸を手で隠す夕弦の姿はいつもより恥ずかしそうで実にそそる。
弱い光の下でも夕弦の頬が赤いのは明らかにわかる。
「きれいだ、夕弦……」
「……感謝。ありがとうございます」
てっきりいつも通り胸を張りながらふふーん、などと言う所を想像したが、随分としおらしい姿だ。とてつもなく可愛い。気が付けば思わず夕弦を抱きしめていた。
「……あっ……」
「可愛いぞ、夕弦」
体を一瞬びくりとさせたものの、すぐに落ち着いた夕弦は大人しく抱きしめられる。
優しく髪や体を撫でると、夕弦は気持ちよさそうに目を閉じて成すがままにされる。
どれ程そうしていたか、結果的に二人とも落ち着く時間を得ることができた。心に余裕ができた士道はもう一度腕の中の夕弦に目を向ける。
夕弦は安心しきったような表情で士道に体を預けている。夕弦の体が柔らかく温かい。
何というか満足感が半端ない。まだ始まってもいないが事後とはこんな感じなのだろうか。
……このまま今日は終わっても良いかな
士道がそんな童貞丸出しのヘタレな考えを抱いていると夕弦が顔を上げ見つめてくる。
「……問掛。……士道? そろそろ始めませんか?」
「お、おう、そうだな……夕弦の抱き心地が良くてな、つい」
「喜色。……うれしいです、では士道、もっと気持ち良くなりましょう」
ああ、と答えた士道は、これ以上夕弦に駄目だしされないためにも腹をくくり、夕弦を見つめなおすと口づける。
「ちゅ……んっ士道、ふふふっ……摩擦。手でさすります。どうですか?」
「んっ……意外と力加減が難しいかも……でも、ありがとう」
夕弦が士道のモノを手こきする。慣れていないのか少しぎこちないが、それでも柔らかい手の感覚により士道の股間はガチガチに固くなっていた。
「それじゃあ、俺もお返しだな」
「……辞退。夕弦は結構です、ひゃ……!」
「うーん、濡れてるけど流石にきついな」
「し、士道……もうっ……」
夕弦のあそこを指で愛撫する。秘所はしっかり濡れ切っていたが、あそこは指が一本しか入らないほどきつい。
それでも指でいじっていると、あそこからの愛液は十分でできた。夕弦の顔を見ると反応も悪くないようだ。
自分の手で夕弦が感じていることに内心喜んでいると、負けじと夕弦も士道のモノを刺激し続ける……正直あまり気持ち良くはないが、嬉しくはあるし何より興奮する。
「う……くぅ、し、士道……羞恥。あまり勢いよく出し入れしないで下さい……」
「あ、ああ……すまん、夕弦の反応が可愛くてな」
「……赤面。恥ずかしいことを言わないで下さい……ですがありがとうございます」
夕弦の顔は真っ赤だが、相好が崩れている。お互い初めてで気持ち良く、とはなかなかいかないようだが、それでも雰囲気としては悪くなさそうだ。
「さてと、それじゃあ夕弦、そろそろ抱いていいか……?」
「……肯定。ここまで来て今更何もなしでは夕弦は明日から士道に会えません……悲しくて呪ってしまいます」
「おう、そりゃ怖いな……夕弦、痛かったら言うんだぞ」
「謝辞。お気遣いありがとうございます。ですがあまり気にしないで下さい。何なら先に口でしますが」
「まあ、色々するのはこの先の楽しみにしとこう。今は何より夕弦を抱きたい」
「理解。ふふふ、わかりました。さあ、士道……夕弦で気持ち良くなってください……♡」
首肯し夕弦に軽くキスすると、士道は夕弦の股間にゴムを付けた自分のモノをあてがい、若干戸惑いながらもさしぬいた。
「……っく……」
「夕弦、大丈夫か?」
「平気。……思ったほどは痛くはありません、慣れていないだけですから、それよりも士道は動いてください」
「ああ、わかった……辛いなら言えよ?」
「提案。それなら……夕弦の手を握ってください」
了解した士道は夕弦の手を握りなおすと、抽挿をゆっくり始める。
夕弦の膣はきつくてとても温かかった。ゴムごしなのが残念だが、流石に今はしょうがない。
夕弦は目を閉じ固く士道の右手を握ると、士道の腰の動きに合わせて息を吐く。
喘ぐというより我慢するというのがしっくりくる様。やはり、少しきつそうだと感じた士道だが、いつの間にか開かれた夕弦の目が士道に動くように訴える。
いじらしくそして愛おしく感じた士道は動き続ける―――正直あまり我慢できそうにない―――代わりに夕弦の頭をもう片方の手でかき抱く。
「すまん夕弦、もう……」
「確認。士道いきそうなのですね、良いですよ夕弦の膣でいってください、夕弦で気持ち良くなってください……」
「夕弦、ああっ……!」
士道は夕弦の膣でゴムの中に射精する。意外なほど射精が止まらない。士道は自分が思ったよりも興奮していたことに今更気が付いた。
夕弦の顔を伺う。顔が赤い夕弦が息も荒く、白い肩を震わせている。ただ、気持ちよさそうと言うよりは達成感と疲労感が強そうだと士道は判断する。
―――残念ながら上手くいったとはお世辞にもいかなかったようだ。内心赤面しながら、次はもう少しうまくやろうと士道は誓う。
「夕弦……ありがとうな」
「返答。こちらこそ」
夕弦の頭に手を伸ばして撫でながら、はにかむ様に微笑む夕弦の表情を、疲労する士道は今までに無い幸せな気持ちで眺め続けた。
目を閉じる夕弦にキスをしながら思う。ああ、これは一生ものだな、と。
「―――と、言うのが士道との初めての体験です。まあ、若干後から士道から聞き出した情報も入っていますが。懐古。今思い出してもあの時の士道はとてつもなく可愛かったです」
「いや……聞いといて何だけど長くない?」
「省略。これでも色々かいつまんでいます。あれから士道も夕弦も随分色々上達しました。それもあの時のことが無ければあり得なかったのですから」
「まあ、良いけどね……どうせ暇だし」
耶倶矢は自分と夕弦の姿を見る。
全裸の体を縛られているのはいつも通りだが、それが鎖と言うのは中々普通ではない。椅子に座らされた状態で手足や体も固定されているが、椅子に空いた隙間からアナルにフック、ヴァギナに張り方が入る様になっているのはご愛敬か。
首には革の鍵付き首輪まで付けられ自分たちが奴隷であることを否が応でも認識させる。
最初はこの状況に酷くびくびくし、そして興奮もしたが、今はただただ士道の帰還を待ち焦がれる――――アソコがドロドロでひくついているのは見ないことにする。
周囲の状況はそれに輪をかけて異常だ―――何せ何もない、文字通り虚空そのもの(耶倶矢の脳内ではかっこよくヴォイドと呼んでいる)。
それはそうだろう、ここは死後の世界とでも言うべきものなのだから。
「今頃士道はよろしくやってるんだろうね……夕弦も不満なら言えばよかったのに。こんな遠回しな方法で訴えるんじゃなくてさ」
「論外。それでは夕弦が酷く面倒な女ではないですか。流石にあの説明を聞いたらいくら夕弦でも少しくらいは許してあげます」
夢で一方的に見るだけだった八舞が夢の中で自分達に接触する。のみならず士道も含めてこちらと死後の世界を行き来する、と言うどんな冗談かと言う説明。
興味はわいたものの流石に警戒していたが、彼女が話した説明は三人が忘れていた今はいなくなった彼女達の記憶を呼び覚まさせ、その中の特に不憫な娘に少しだけ良い目を合わさせる計画を聞き今こうしてここに来た。
もっとも、全てに納得してという訳ではないが。
「心配しなくても、あんたは十分面倒な女だってば……いくら士道に他の女抱かせるからって、何もその間こんな格好で待ってなくてもいいじゃんか……ってか自分でこうしろって言う、普通? 奴隷根性なの?」
「訂正。誰が面倒な女ですか……いえ、認めましょう。夕弦は面倒な女です。その面倒な女に付き合う耶倶矢は一体何なのですか」
「そんなの決まってんじゃん。私は夕弦と士道の奴隷で、夕弦の次に士道に愛される女だって」
「……同意。ええ、ええそうでしたね」
「耶倶矢も大概です」と言う夕弦の戯言を聞き飛ばしながら、ふと耶倶矢は先の夕弦の説明に出てきた先輩の話を思い出す。
(まあ、大体あってるよね。ただ一つだけ訂正するなら……)
処女が面倒なのではない、女と言うものが面倒なのだ、少なくとも男と同程度には。
耶倶矢は視界の端に連れ合いを待ち焦がれる自分の半身を入れながら、先ほどの士道の申し訳なさそうな、それでいて譲りそうにもないいつもの表情を思いだし、果てしなく広がる無の空間に溜息をついた。
今回の展開はある方にアイデアを頂いたものを参考にしました。ここで使う予定の物ではありませんでしたが、これは本編で記載した方が良いと判断し、採用しました。この場を借りて感謝します。