翌朝。
夜更けまで愛の交歓を満喫した二人は、仲良く食堂にやってきて朝食を楽しんでいた。
「夜明けのコーヒーでもどうかな?」
「ふふっ、いただくわ……うーん、カフェインが身に染みる。眠気覚ましにはやっぱりこれね」
朝からイチャイチャ、周囲に甘い空気を発しまくる二人。
服装こそ、ピッチリと折り目正しいが、前夜の余韻を消し切れていない。
男子生徒達は、雫とイチャつくハジメの姿を見て血の涙を流す。
どうして、彼処に居るのが自分じゃないんだ……!
「雫様……」
「ニア?」
そこに、目の下に隈を作り、ゾンビのような状態の侍女がやってきた。
雫と懇意にしている専属侍女のニアである。彼女は、生者を恨むアンデッドのような目つきで。
「ゆうべはお楽しみでしたね、スケコマシに色ボケさん……」
「「げほげほっ!」」
仲良くむせる二人は、どうにかコーヒーを流し込むと、顔を真っ赤にしてしまう。
何故、バレた……!?
厚いと信じていた壁に裏切られ、ハジメはテーブルに突っ伏してしまう。
「信じられません。夜の雫様が、あんな風になってしまうなんて……」
「あうう……」
元の世界では、親友兼恋人仲間である香織と夜の話題は日常茶飯事。より充実した性活を送るために情報交換しているが、ここは異世界で、しかも聞かれた相手は新しい友人である。
雫はもう、恥ずかしさのあまり、頭から湯気が出そうだった。
「はぁ……ヤリチンは、本当にヤリチンなのね」
「困ったことだ……実にヤリチンであるな」
「恥ずかしいが、やはり、ヤリチンじゃのう……」
会話を聞いていた問題児3人が、呆れたような顔をして言い放つ。
その隣では、いつものお盆を取り出した優花が、それをミシリと音がしそうな力で握り締める。
「ギルティ!」
「うぎゃーーーーー!!!」
清々しい朝の空気に、パコーン! と、とてもいい音が響き渡る。
問題児4人に攻撃を通すほどの筋力を持たない優花だが、彼女の持つお盆は、神々にも必ず一定のダメージを与える権能を持つ、神代の頃に森の神が作り上げた神器である。
無論、その権能は問題児達も例外ではなく、彼等四人すらも震え上がる威力を秘めている。
「あのスケコマシにダメージを……!? もしやあなたは聖なるネメドの森の……!」
「あら? そう言うあんたは……もしかして、レノアさん?」
「今はニアと申します。優花様。また皆様とお会いできるとは思いませんでした」
お盆で本人確認できる元エルフ族の王女様とは、などと思うところがないわけではないが、比較的常識人の枠に入る人材の追加に、ニアは内心で安堵の息を漏らす。
そして、テーブルに沈み込んだハジメに視線を戻すと、今度は現実で「はあっ」とため息をついてから話を本題に戻した。
「話は逸れてしまいましたが……兎に角、お二人が仲良しなのは、よーく理解できました。貴方が以前にも勝るスケコマシ野郎なのも、とてもよく分かりました。破廉恥です。スケベです……!」
人の情事を盗み聞きしたあなたも破廉恥でむっつりスケベではないかしら、などと冷静に言い返すことができるほど、雫は図太い性格をしていない。ただ、羞恥に顔を俯けることしか彼女にはできなかった。
「午後の時間は何をしようかしら?」
その日のお昼、恵里はそんなことを言い出した。
他の生徒達は午後も訓練をするが、問題児四人組は午後の訓練を免除されている。
と言うのも。
ドガンッ!!!
と、恵里が遠くから拳を振るうだけで、訓練用の藁人形を粉砕するばかりか、その背後の壁にバカでかい風穴を空けてしまうのだ。それも騎士団の訓練用に堅牢に造られた訓練場の壁をである。
他の三人も五十歩百歩であり、彼等の訓練していた場所は戦場跡地のような有り様だ。
このままでは、訓練施設が穴だらけにされてしまう……! これ以上、王都の訓練施設でこの連中を暴れさせる訳にはいかない! というのが、4人の訓練を担当した教官達の総意であった。
「ふむ。余達はこの世界に来たばかり……この国の何処に酒場があるかも知らぬ。ならば、王都観光と洒落込むのはどうだ?」
「わしも、康介の意見に賛成じゃのう。久しぶりに美味いエールが飲みたいわい」
エール……! エールは全てに優先されるもの……!
たとえ酒場で淫魔神と遭遇したとしても、エールを飲むほうが優先されるべきなのだ!
未成年の筈なのに、康介と龍太郎の脳内はエールで満たされていた。
「じゃあ早速、酒場を探しに行きましょう!」
「待った! その前に、俺達には行かないといけない場所がある」
同じくエールで頭の中を満たした恵里の発言に、意味有りげな表情で待ったをかけるハジメ。
「なに? 酒場よりも先に行かなければならぬ場所があるというのか?」
「異世界に来たら、まずはあそこに行くのがセオリーだろ?」
「「「あそこ?」」」
「冒険者ギルドだよ! この世界にもあるみたいだしさ!」
というわけで、王都の中心地より少し東側に存在する冒険者ギルドにやってきた問題児達。
そこは、歴史を感じさせる木材建築の気品と重厚感溢れる二階建ての建物だ。
正面の入口には大きな両開きの扉があり、4人は何の躊躇もなくその扉を押し開く。
「へー、ここがこの世界の冒険者ギルド。なかなか雰囲気のある場所じゃない」
「ふむ、確かに趣のある建物だな。居心地も良さそうだ。悪くない」
「うむ。やはり冒険者ギルドには色んな人間がいて面白いのう」
「だろ? ふふふっ、やっぱり異世界に来たら冒険者ギルドは欠かせないよなー!」
黒ずくめのローブに身を包み、怪しげな笑い方をする長身の男。
ほけほけした表情をしており、熊の如き大柄な体格をした男性。
子供みたいに落ち着きがなく、キョロキョロ辺りを見回す青年。
最後に、紅一点。メガネを掛け、ナチュラルボブにした黒髪の美人。
突然、冒険者ギルドにやってきた怪しげな集団。
あまりにも怪しいので、冒険者モノでテンプレのイベント、「おい坊主、ここは遊びで来る場所じゃねえんだよ」「おっと肩がぶつかっちまった」も発生しなかった。
誰だって不審者には絡みたくない。
「で、来たはいいけど。ここも前世と同じなのかしら?」
「うーん、詳しくは調べてないからなー。ま、受付で聞けば、教えてくれるはず」
「それもそうね。じゃあさっさと受付に並びましょう」
「よーし! それなら、受付カウンターに……」
受付カウンターに視線を向けたハジメは、そこに立つ受付嬢の姿を見て動きを止めた。
目と目が遭う。ピンク色の髪をした受付嬢が、驚愕の表情でこちらを見ていた。
「ちょっとヤリチン、さっさとカウンターの方に進みなさいよ」
言いながら、受付カウンターに視線を向けた恵里も驚愕に目を見開いた。
そこに立つ受付嬢の容姿が、非常に見覚えのあるものだったのだ。
「……って、ソニア!?」
「むむっ!? 確かにあれはソニアではないか!」
恵里と康介が名前を口にしたソニアとは、前世の彼等4人の受付を担当していた冒険者ギルドの受付嬢である。尚且つ、前世のハジメが結婚した女性の一人でもある。
彼女の様子からして他人の空似ということはないだろう。つまり、あの受付カウンターに立っている女性は、彼等四人の知るソニアで間違いない。
ハジメは、どこかぼーっとした表情で受付嬢の立つカウンターに歩みを進める。
「あ、あの、すみません。俺達、冒険者登録しに来たんですけど」
「は、はい……では、ステータスプレートの提出をお願いします」
四人はステータスプレートを差し出した。そこに表記されていたステータスに、受付嬢は一瞬「ん?」という表情をしたものの、直ぐに納得したように何らかの処理をする。
そして、四人の下に戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。
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南雲ハジメ / ユーリ 17歳 男 レベル:ERROR
天職:救性主 職業:冒険者 ランク:青
筋力:ERROR
体力:ERROR
耐性:ERROR
敏捷:ERROR
魔力:ERROR
魔耐:ERROR
技能:ERROR
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遠藤康介 / ルキウス 17歳 男 レベル:ERROR
天職:魔王 職業:冒険者 ランク:青
筋力:ERROR
体力:ERROR
耐性:ERROR
敏捷:ERROR
魔力:ERROR
魔耐:ERROR
技能:ERROR
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中村恵里 / エレミア 17歳 女 レベル:ERROR
天職:不死女王 職業:冒険者 ランク:青
筋力:ERROR
体力:ERROR
耐性:ERROR
敏捷:ERROR
魔力:ERROR
魔耐:ERROR
技能:ERROR
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坂上龍太郎 / アガメムノン 17歳 男 レベル:ERROR
天職:竜王 職業:冒険者 ランク:青
筋力:ERROR
体力:ERROR
耐性:ERROR
敏捷:ERROR
魔力:ERROR
魔耐:ERROR
技能:ERROR
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天職欄の隣に職業欄が出来ており、そこに”冒険者”と表記されている。
更に、その隣には青色の点が付いている。この青色の点が、四人の冒険者ランクである。
この世界では、英数字ではなく色で冒険者ランクを決めている。
冒険者ランクの最低値が青であり、上昇するにつれ赤、黄、緑、白、黒、銀、金と変化する。
因みに、この冒険者ランクの色の変化は通貨の価値を示す色と同じである。
この世界トータスの北大陸共通通貨の名称はルタ。ザガルタ鉱石という他の鉱石を混ぜることで色が変化する鉱石に、特殊な方法で刻印したものが使用されている。
貨幣価値は青から順に一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万となっている。
つまり、青色の冒険者とは「お前は1ルタの価値しかねぇんだよ、ぺっ」と言われているのと一緒ということだ。きっと、この制度を作った初代ギルドマスターの性格は捻くれ者に違いない。
もっとも、そんなことを知らない問題児達は「おおっ」と喜びの声を上げていたが。
「それで、皆さんはパーティー名は決めているのですか?」
普段は、新入りの冒険者に聞くことのない質問だ。
命懸けの職業である冒険者はいつ何処で命を落とすかもわからない。その上、新人冒険者がパーティー名を名乗ったところで、熟練冒険者のように使命依頼が来るわけでもない。
それでも、受付嬢がパーティー名を尋ねたのは彼等4人の正体に確信を持つためだった。
「勿論! 俺達、四人揃って……」
「「「「トラブルメーカーズ!!」」」」
息をぴったり、パーティー名を叫んでポーズを取る4人。
そんな彼等の姿に苦笑を浮かべつつ、どこか嬉しそうな声音で受付嬢は告げた。
「お久しぶりです、トラブルメーカーズの皆さん。……また、よろしくお願いしますね?」